連載
男色ディーノのゲイムヒヒョー ゼロ / 第105回:「嘘とロマンとバックドロップ」
著者近影
相手の体を後ろから掴み,そのままブリッジすることによって相手の後頭部を打ちつけ,フォールの体制に入るジャーマンスープレックス。それに比べ,相手を落とす角度を調節できるバックドロップは,危険にも安全にもなる,というのが一般論である。確か,ニュースで放送されていたはず。
……ええ,もちろん嘘よ。なんでそんな嘘をついたのか自分でも分からない。嘘をつきたい年頃なんでしょうね。でも,嘘をすぐに嘘だっていえる私は,勇気があると思う。一番タチが悪いのは,嘘をさも本当のことのようにつくこと。そして,いつしか自分のついたその嘘を,自分でも本当だと思い込んでしまうこと。それに比べたら私がついた嘘なんて,嘘のうちに入らないと思う。だから私は嘘つきじゃないわ。
さて,嘘つきじゃない私はさっき嘘をついたんだけども,嘘とはいえニュースで放送されたことが嘘なだけであって,バックドロップが危険な技であるというのは本当のことよ。
実際,一昔前はバックドロップといったら一撃必殺の技だった。でも,今はどちらかというとつなぎ技になっている感がある。その理由には,昔と比べてリングに安全対策が施されて柔らかくなったこともあるだろうし,受け身の技術が昔と比べて進化していることもあるわ。
少なくともプロレスは,バックドロップが出たら終わり,という時代じゃなくなったことは確か。だけど,私は何度でも声を大にしていいたい。バックドロップの破壊力は尋常ではない,ということを。
思い起こせば中学時代,「ファイヤープロレスリング」に夢中になっていた頃から私の感覚はマヒしていたわ。ファイプロってゲイムだから,危険な技を好んでいっぱい出していた。でも,プロレスをヤるようになって,それはあくまでファイプロ内の出来事だってことに気付いたのよ。実際に食らうバックドロップの衝撃たるや……。
ところで,プロレスの摩訶不思議なところとして,なぜ相手の技を受けなければいけないのか,という点があるわ。プロレスがほかの格闘技と違うとされている点がまさにそれで,プロレス以外だと基本的には相手の技を受けないものなのよ。でも,プロレスは相手の技を受ける。なぜか。
……あれ? ……なぜなんだろう? 一応私もプロレスラーの端くれとして,今までたくさんの技を受けてきたけど,なんで受けてたの? 分かんないわマジで。今まで誰かから技を受けろって命令された覚えも,ましてや脅された覚えもないのになぜか受けている。
理由はよく分からないんだけど,たぶん私はこれからも受け続けるんでしょうね。なぜなら私がプロレスラーだから。強いていえば,ロマンがあるから。私にとっての「なぜ技を受けるのか?」って質問は,「なんで不毛だって分かっていてもゲイムをプレイし続けるのか?」という問いに似てなくもない。そう,答えは「ロマンがあるから」。
たとえどれだけ頑張っても,現実で良いことなんざ無いってことを知っていながら,電脳世界のレベルを上げる。これもロマン。相手の出す技をなるべく避けずに受ける。これもロマン。
さて,ここまで延々とロマンの話をしてきたわけだけれども。結局これがいいたかったわけです「NO MORE HEROES 2 DESPERATE STRUGGLE」が相当面白い,と。で,出だしからバックドロップの話をしたわけ。残念ながら,ほぼ脱線するという目も当てられない結果に終わってしまったけど。
脱線はともかく,なぜバックドロップの話かというと,このゲイムは話が進めば進むほど覚えるバックドロップの種類が増えていくのよ。無意味に。正直,プロレス技がゲーム的に必要か? っていうと,そうでもないはずなのに,ホント無駄にバックドロップにこだわっているのね。捻り式バックドロップを覚えたり,抱え式バックドロップを覚えたり。
そういえば,前作「NO MORE HEROES」でも7色のスープレックスが出せたらしいわね。そして,プロレスのマスクを拾うと,プロレス技を覚えられたらしい。さらに,マスクを脱いだあとには超世代軍としてエース越えを果たすらしいの。
……正直にいうと前作はヤってないから全部聞いた話なんだけどね。だから,中には嘘が混じってるので注意してね。
ともかく! バックドロップにこだわっているという,ただそれだけで,このゲイムが面白いってことが伝わるでしょ?
ま,この作品の総監督が須田剛一さんでね,須田さんといえばファイプロを作った経験を持つ人で。しかも,もの凄い前田日明選手贔屓で。したがって,バックドロップにこだわりを持つ気持ちも分かるわけ。本来は前田好きであれば,スープレックスなんだろうけど,それは前回やったみたいで。だから今度はバックドロップ。
私はプロレスをヤっているからバックドロップへのこだわりが分かったんだけど,きっとこのゲイムは私が気付かないだけで,映画やアニメなどのほかのジャンルからもさまざまなこだわりを持ちこんでると思うのよ。だから面白い。
知らない私がこれだけ面白いと思うんだから,知ってる人がヤったらとてつもなく面白いはず。そういう作家性が嫌みになっていなくてすごく楽しいわ。こういうゲイムこそ売れてほしいわね,ホントに。
もちろん,仮にメーカーに嘘をつかれていて実は須田さんが一切関与していなかったとしても! 普通にゲイムとしても面白いわよ。Wiiのゲイムでは今年一番面白いかも。
私,今までこの連載でもことあるごとに書いてきたんだけど,ゲイムもエンターテイメントである以上,いかにリアルなものが題材でもどこかで嘘をつかなきゃいけないと思うのよ。その嘘のつき方でゲイムの面白さが変わってくるわ。
で,今回取り上げたNO MORE HEROES 2は,はなから嘘をつく気で作られてる。もっというと,嘘をつくこと自体を楽しんでる。それがしっかりと伝わってくるのね。だから,面白い。
ぶっちゃけ私,普段はのほほんとゲイムをヤってることが多いんだけど,NO MORE HEROES 2をプレイして,ちょいと表現者として刺激を受けるものがあったわ。たまにこういう刺激があるから,ゲイムを卒業できないんでしょうね。いうなれば宝物を見つけた感じ。これをロマンといわずしてなんというのか。
やっぱりプロレスにもゲイムにも,ロマンが必要ってことですよ。私はここに宣言するわ! 私は一生ロマンたっぷりのプロレスもゲイムも続けていくことを! ……まあ,もちろん嘘だけど。
あ,バックドロップはホント危険だから真似しないようにね。これはホント。
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