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「Core i7-975 Extreme Edition」レビュー掲載。D0ステッピングと3.33GHz動作の意義を確認する
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印刷2009/06/03 13:00

レビュー

D0ステッピングの採用で,Core i7最上位モデルの価値はどう変わるか

Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz

Text by Jo_Kubota

»  COMPUTEX TAIPEI 2009に合わせて発表された,Core i7シリーズの新たな最上位モデルを,Jo_Kubota氏が検証する。言ってしまえば,“基本的なスペックを従来製品から引き継ぎつつ,動作クロックが133MHz引き上げられただけ”のCPUだが,そこに新たな価値は見いだせるだろうか?


入手したi7-975のエンジニアリングサンプル
画像集#002のサムネイル/「Core i7-975 Extreme Edition」レビュー掲載。D0ステッピングと3.33GHz動作の意義を確認する
 日本時間2009年6月3日13:00,Intelは,Core i7シリーズ最上位の座を更新する「Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz」(以下,i7-975)を発表した。従来の最上位モデル,「Core i7-965 Extreme Edition/3.20GHz」(以下,i7-965)がリリースされたのは2008年11月18日のことだったので,半年弱で,新モデルが登場したことになる。
 動作クロックが“0.13GHz”引き上げられた最新製品は,実際のところ,何が変わっているのか,はたまた変わっていないのか。Intelの日本法人であるインテルから借用できたエンジニアリングサンプルを使って,検証してみたい。


基本スペックは同じながらステッピングが変更に

定格電圧&空冷で4コアとも3.8GHz動作を確認


「CPU-Z」(Version 1.51)実行結果。ぱっと見ただけでは,「規定の動作倍率が24倍から25倍に引き上げられたことによって,i7-965から動作クロックが133MHz上がったモデル」といったところだが,よく見ると,「Revision」の欄が「D0」になっている
画像集#003のサムネイル/「Core i7-975 Extreme Edition」レビュー掲載。D0ステッピングと3.33GHz動作の意義を確認する
 i7-975は,45nm High-kプロセスを採用して製造されるクアッドコアCPUで,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)は130W。L2キャッシュ容量がコアあたり256KBで,共有L3キャッシュの容量が8MBとなっている点や,「Intel Hyper-Threading Technology」(以下,Hyper-Threading)により論理8コアCPUとしてWindowsから認識される点,QPIスペックが6.4GT/sである点,いわゆる倍率ロックフリーで,動作倍率を規定より高く設定できるようになっている点などは,i7-965とまったく同じである。

 そんななか目を引くのは,ステッピング(≒CPUダイのバージョン)がi7-965の「C0」から,i7-975では「D0」に切り替わっていることだ。一般に,ステッピングの引き上げは,より高い動作クロックで動作するダイを製造したり,ダイサイズを小さくして製造コストを下げたりする目的で行われるため,i7-975では,クロック引き上げの副産物として,i7-965以上のオーバークロック耐性や,ダイサイズのシュリンクによる消費電力の低減を期待できる。

 そこでまずは,オーバークロック耐性をチェックしてみよう。テスト環境はのとおり。今回は,Thermalright製のCPUクーラー,「Ultra-120 eXtreme 1366 RT」を取り付けた状態で,i7-975のベースクロックを引き上げる手法を試み,4Gamerのベンチマークレギュレーション7.0準拠のテストがすべて完走したことをもって,「安定動作」と判断することにしている。テストスケジュールの都合で,「Prime95」や「OCCT」を用いた,長時間のストレステストにまで踏み込んでいない点は,あらかじめお断りしておきたい。
 テストに用いたMSI製マザーボード「X58 Pro」は,「Intel Turbo Boost Technology」(以下,Turbo Boost)を無効化すると,倍率設定の変更を行えなくなるため,テストはすべてTurbo Boost有効の設定で行っている。

※ENGTX280 OC/HTDP/1Gは,メーカーレベルのクロックアップがなされており,コア625MHz,シェーダ1350MHz,メモリ2.28GHz相当で動作するが,今回のテストに当たってはいずれも,「NVIDIA System Tools with ESA Support」からリファレンス相当に落としている
画像集#020のサムネイル/「Core i7-975 Extreme Edition」レビュー掲載。D0ステッピングと3.33GHz動作の意義を確認する

入手した個体は,4コアとも29倍設定で安定動作した(※サムネイルをクリックすると,別ウインドウで全体を表示します)
画像集#004のサムネイル/「Core i7-975 Extreme Edition」レビュー掲載。D0ステッピングと3.33GHz動作の意義を確認する
 結論から述べると,今回入手したi7-975は,定格電圧設定のまま,4コアとも29倍設定の3.86GHzで安定動作している。この状態でVcoreを1.30Vに指定してみると,4コアとも4GHzでWindowsの起動までは行けたが,安定動作は叶わずだった。
 全部のコアで4GHzを目指さず,いくつかに絞る,あるいは,危険を承知でより高い動作電圧をかけるなどすれば,「空冷4GHz」も夢ではない印象だ。i7-965と比べ,オーバークロック耐性は確実に向上していると述べてよさそうである。

※注意
CPUのオーバークロック動作は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。

 以上を踏まえ,4コアとも3.86GHz動作したときのスコアも含め,レギュレーション7.0準拠のスコアをチェックしていく。ただし,GPU負荷が高く,CPUの性能差が表れにくい「高負荷設定」は省略。テスト時のCPU設定は,いずれもTurbo BoostおよびHyper-Threading有効となる。
 なお以下,i7-975のオーバークロック状態は「i7-975@3.86GHz」と表記する。


クロック向上分の性能向上はわずかだが確実に存在

オーバークロックの効果もまずまず


 グラフ1,2は,「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の総合スコア「3DMark Score」と,3DMark06のデフォルト設定である1280×1024ドット解像度における「CPU Score」を順にまとめたものだ。133MHzというクロックは,約4%の違いということになるが,i7-975とi7-965のスコア差は2〜4%。クロック差分の違いは出ていると述べていいだろう。
 ちなみにi7-975@3.86GHzだと,i7-965比で3〜11%のスコア上昇。動作クロック差が約20%あることを考えると,少々インパクトに欠けるが,確実にスコアが伸びているのは確かだ。

画像集#005のサムネイル/「Core i7-975 Extreme Edition」レビュー掲載。D0ステッピングと3.33GHz動作の意義を確認する
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 グラフ3は,ベンチマークレギュレーション7.0で採用するゲームタイトル中,最も描画負荷が高い「Crysis Warhead」のスコアだが,本タイトルにおいて,133MHz程度のクロック差は,フレームレートをほとんど左右しない。それどころか,3.86GHz動作でもほとんどスコアに変化はなく,描画負荷の高い状況でフレームレートを左右するのが,CPUではなくGPUであることを確認できる。

画像集#007のサムネイル/「Core i7-975 Extreme Edition」レビュー掲載。D0ステッピングと3.33GHz動作の意義を確認する

 続いては,GPU負荷が比較的低めな「Left 4 Dead」のスコアを見るグラフ4。ここでは,i7-975のスコアが,i7-965より2〜8%高く,1680×1050ドット以下ではクロック上昇分を上回っていることに注目したい。もちろん,「1024×768ドットで160fpsが173fpsになったからといって体感できるのか」という議論は別にあるが,それはそれとして,i7-975のTurbo Boostが,i7-965よりも有効に機能している気配は見て取れる。

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 グラフ5は同じく描画負荷が低めの「Call of Duty 4: Modern Warfare」におけるスコアをまとめたものだが,ここでは3Dmark06と同じような結果にまとまっている。

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 Unreal Engine 3を採用する国産RPG,「ラスト レムナント」のスコアをまとめたものがグラフ6。ここでも傾向は3DMark06と似たものになった。

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 「Company of Heroes」の傾向も,やはり同じ(グラフ7)。i7-975は,i7-965と比べて,動作クロック向上分とほぼ同程度のベンチマークスコア向上を果たしている。

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 マルチスレッド処理に最適化されている「Race Driver: GRID」(以下,GRID)の結果がグラフ8だが,全体として,CPUパフォーマンスは必要十分ゆえに,GPUボトルネックが生じてしまっている印象だ。Turbo Boostどころか,i7-975@3.86GHzのメリットも,ここでは確認できない。

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Sandraを使った基礎テストで

D0ステッピングの特性を確認


 ゲームにおけるパフォーマンスを把握できたところで,SiSoftware製のシステム情報ツール兼ベンチマークテストである「Sandra 2009」(SP3c,Version 2009.5.15.99)を使って,定格クロック動作時の基本特性を確認してみたい。本来なら,動作クロックを揃え,Turbo Boost有効/無効を切り替えながら検証したいところなのだが,先述したとおり,マザーボード側の制限から,Turbo Boost有効時の定格クロック同士で比較することになっている点はご注意を。
 さて,まずグラフ9,10は,「Processor Arithmetic」と「Processor Multi-Media」のテスト結果である。前者で,整数演算の古典的なテスト「Dhrystone」,そして浮動小数点演算テスト「Whetstone」の結果はほぼクロックどおりだが,Dhrystoneだと,動作クロックの差である約4%を超える,5%強というスコアの差が出ており,Turbo Boostの動作に違いがある可能性を見て取れる。
 これは,マルチメディア関連の処理性能を見る後者,Processor Multi-Mediaでも同様だ。

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画像集#014のサムネイル/「Core i7-975 Extreme Edition」レビュー掲載。D0ステッピングと3.33GHz動作の意義を確認する

 続いて,メモリバス帯域幅,キャッシュやメインメモリの転送速度やレイテンシをテストした結果をまとめたのが,グラフ11〜13となる。「Cache and Memory」の2kBだけ,i7-975のスコアがi7-965のそれを大きく上回っている理由は分からないが,それ以外だと,「動作クロックが引き上げられた分だけキャッシュ性能は上がっている一方,メモリコントローラには変更がないため,メインメモリ周りのスコアに違いはない」という,至極妥当な結果に落ち着いている。

※グラフ12,13については,グラフ画像をクリックすると,別ウインドウで,より見やすい,大きなサイズのグラフ画像を表示します
画像集#015のサムネイル/「Core i7-975 Extreme Edition」レビュー掲載。D0ステッピングと3.33GHz動作の意義を確認する
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i7-965と同等以下の消費電力

ステッピング変更のメリットは確かにある


 ステッピング変更によって,消費電力にはどのような変化が生じるだろうか。レギュレーションに従い,ログを取得できるワットチェッカー,「Watts up? PRO」を用いて,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,アプリケーションベンチマークを実行し,その間で最も消費電力の高い時点を,それぞれ実行時として,消費電力を計測してみた。省電力機能「Enhanced Intel SpeedStep Technology」(以下,EIST)を有効化した状態でのテスト結果をまとめたのがグラフ14である。

 i7-975とi7-965はEISTによって,アイドル時の動作クロックは1.60GHz(133MHz×12)にまで下がる。そのため,アイドル時の消費電力は変わらないが,一方,注目したいのはアプリケーション実行時だ。3DMark06とLeft 4 Deadではi7-965を上回るものの,それ以外では同等以下の消費電力になっているのである。
 もちろん,測定誤差は考慮すべきなので,このデータを基に「多くのテストでi7-975のほうがi7-965より消費電力は低かった」と騒ぎ立てるつもりはないが,動作クロックが引き上げられたにもかかわらず,i7-965と同等のレベルに収まっている以上,D0ステッピングで,多少なりとも消費電力の低減が進んでいるのは確かなようだ。
 なお,i7-975@3.86GHzは,電圧設定が定格ということもあり,それほど“とんがった”スコアにはなっていない。

画像集#018のサムネイル/「Core i7-975 Extreme Edition」レビュー掲載。D0ステッピングと3.33GHz動作の意義を確認する

 最後に,参考としてCPU温度も計測しておこう。テストに用いたCPUクーラー,Ultra-120 eXtreme 1366 RTの場合,回転数可変の120mm角ファンが付属するが,今回はBIOSから,ファン回転数をフルスピード(=1600rpm)に固定。この状態で,アイドル時と,「Prime95」(Version 25.9 Build4)を用いて,すべてのコアに30分間,100%の負荷をかけ続け,各コアの温度をスコアとしてまとめることにした。テスト時の室温は26℃で,システムは,PCケースに組み込んでいない,いわゆるバラックの状態にある。
 グラフ15がその結果となるが,高負荷時で比較すると,CPU温度はi7-975のほうがi7-965より多少高い。原稿執筆時点では,i7-975の動作温度仕様「Thermal Specification」が公開されていないので,あくまで筆者の推測になるが,Turbo Boostの効き方が微妙に異なることも踏まえると,i7-975のほうが,i7-965より,多少高い動作温度が許容されているか,TDPの枠に対して動作温度に余裕のある可能性はありそうだ。

画像集#019のサムネイル/「Core i7-975 Extreme Edition」レビュー掲載。D0ステッピングと3.33GHz動作の意義を確認する


既存のCore i7システムから買い換える必要性は薄いが

史上最速のクアッドコアCPUなのは間違いない


 定格動作時で比較する限り,やはり133MHzのクロックアップというのはインパクトが小さい。また,確実に10万円を超えてくるだろう店頭売価もハードルは高いため,すでにCore i7ベースのシステムを持っているゲーマーが,フレームレート向上に期待して買い換えるだけの魅力には,残念ながら欠ける印象だ。

 ただし,オーバークロック耐性が向上し,消費電力がわずかに下がったi7-975は,ステッピング変更で期待されるとおりの特性を示しているのも,また確か。これから,予算度外視で最速のクアッドコアマシンを手に入れたいという場合に,i7-975は,疑いなく最良の選択肢であるといえるだろう。
 
  • 関連タイトル:

    Core i7(LGA1366,クアッドコア)

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