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Wizardryは,連綿とつながる文化の鎖の1ピース――生みの親,狂王ことRobert Woodhead氏に聞く,その源流と80年代アニメの話
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印刷2016/04/09 00:00

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Wizardryは,連綿とつながる文化の鎖の1ピース――生みの親,狂王ことRobert Woodhead氏に聞く,その源流と80年代アニメの話

Apple II版「Wizardry #1 - Proving Grounds of the Mad Overlord」のパッケージ。ちなみに4Gamerの編集長,Kazuhisaの私物である
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 パーソナルコンピュータ黎明期の1981年春,マサチューセッツ州のボストンで開催されたコンピュータショーApplefestにおいて,「Wizardry: Dungeons of Despair」と題された1本のAppleII用ゲームソフトが話題を集めた。出展者はSirotech Software。そして同年秋に,Sir-Tech Software(Sirotech Softwareが改称)から発売されたのが,「Wizardry #1 - Proving Grounds of the Mad Overlord」(邦題:ウィザードリィI 狂王の試練場)だ。同じくApple II向けに発売されたUltimaシリーズと共に,パソコンRPGのジャンルを切り拓いた,Wizardryシリーズの幕明けである。

 本作の開発者の一人であり,作中に登場する狂王・Trebor(トレボー,Robertの逆さ読み)その人として知られるRobert Woodhead(ロバート・ウッドヘッド)氏は,この伝説的なゲームの作者として,1980年代の当時はもちろん,それ以後も数多くのインタビューに応じ,さまざまな質問に答えてきた。しかし,氏の具体的な証言が得られないまま,いまだ謎につつまれている部分も数多く存在する。

 その氏が東京ビッグサイトで開催される「AnimeJapan 2016」に合わせて来日するという情報を聞きつけた4Gamerは,さっそくコンタクトをとり,イベント会場にて話をうかがうことにした。当時の裏話はもちろん,日本ではあまり語られたことのないここ数年の氏の仕事,そしてアニメ業界人としての氏が愛好する日本のアニメ作品など,あれこれ話を聞いてみたので,ぜひ一読いただきたい。

現在は自ら立ち上げた会社,AnimEigoで日本のアニメや時代劇を北米向けに輸入する仕事をしているRobert Woodhead氏。「うる星やつら」「きまぐれオレンジ☆ロード」「ああっ女神さまっ」といった作品が,氏の会社をとおして北米に紹介されている
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AnimEigo公式サイト(英語)



日本のアニメ,時代劇を世界に


4Gamer:
 今日はお忙しいところ,お時間をいただきありがとうございます。お会いできて大変光栄です。

Woodhead氏:
 ああ,ありがとう(笑)。

4Gamer:
 Wizardryの生みの親の一人として知られるWoodheadさんですが,今はアニメ関連のお仕事をされているとのこと。今回AnimeJapanに来られたのも,その一環とお聞きしています。

Woodhead氏:
 ええ。25年ほど前にAnimEigoという会社を立ち上げ,日本のアニメや時代劇を北米に紹介する仕事をしています。これまでは,アニメでいえば「ライディング・ビーン」「バブルガムクライシス」,それからガイナックスの「おたくのビデオ」といった作品の英語版をVHSやLD,DVDで販売していたんだけど,最近になってちょっと新しいことを始めて。

4Gamer:
 というと?

Woodhead氏:
 クラウドファンディングのKickstarterで出資者を募って,Blu-rayで作品を出すんだ。ファン参加型のプロジェクトとして,パッケージの装丁を投票で選んだり,出資者の名前をクレジットに載せたりとかね。特典なんかもアイデアを募って付けたりとか。先の3タイトルは,それによって目標を大幅に上回る出資額を獲得できたよ。

AnimEigoのKickstarterプロジェクトで実現したBlu-ray特典
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4Gamer:
 ああ,なるほど。

Woodhead氏:
 それで,次は何を出そうかということになって,今回のAnimeJapanにはバイヤーとして参加しに来ました。1980〜90年代のクラシックな,けれども質のいいアニメを探しにね。

4Gamer:
 AnimEigoの公式サイトで公開されている,AnimEigoの沿革についてのページを拝見しました。「Wizardry #4 - The Return of Werdna」(邦題:ワードナの逆襲)が発売された翌年(1988年)から活動されているんですね。Wizardryでシナリオなどを担当したRoe Adams(ロー・アダムス)氏らと共に会社を設立し,VHSビデオに字幕を付ける技術を開発したとか。

Woodhead氏:
 そう。正確には,AnimEigoを設立したのはもう少し前だけど。最初の製品を発売したのが1988年かな。

4Gamer:
 日本のアニメや時代劇は,以前からお好きだったのでしょうか。

Woodhead氏:
 映画が大好きでね。日本のアニメや時代劇は,その中の一つだった。宮崎 駿作品や,「うる星やつら」「AKIRA」……それに「レンズマン」。色々な作品を観たよ。どれも素晴らしく,一つのジャンルとしてこれらの作品を受けとめているんだ。

4Gamer:
 おお,レンズマン! あの作品は原作小説とは大分違いますけど,どう思われました?

Woodhead氏:
 とても興味深く観たよ。でも,できれば原作に沿ったアニメも観てみたかったな。E.E.Smithの「銀河パトロール隊」(レンズマンシリーズの第1作)は,僕が初めて読んだSF小説でね。8歳か9歳の頃だったと思うけど,おばあちゃんがクリスマスにプレゼントしてくれたんだ。その後,6か月も本屋を探し回って次の巻を探した記憶がある。

4Gamer:
 それは,個人的にすごく親近感が湧くお話です。日本語訳された「レンズマン」シリーズに熱中したのも,自分がそれくらいの年齢でしたから(笑)。せっかくなのでお聞きしたいのですが,日本のアニメでWoodheadさんがとくにお好きな作品というと,何になるでしょうか。

Woodhead氏:
 色々あってそれぞれ理由が違うのだけど……敢えて挙げるなら「きまぐれオレンジ☆ロード」かな。優しい恋の物語がゆっくりと育っていく,そういうところが気に入ってる。それと「うる星やつら」。ああいうクレイジーなドラマが続く作品は,たいていピークに達したところでトーンダウンしてしまうものだけど,「うる星やつら」は違ってた。最後まで上り調子で物語が続いていくんだ。

4Gamer:
 では,「うる星やつら」で一番好きなエピソードといえば?

Woodhead氏:
 うーん……銭湯の話かな。男子達が女湯を覗こうとして壁が壊れてしまうんだけど,女の子達はみんな水着を着ているっていう,バカバカしいエピソードで。それで男子達だけが裸なんだけど,黒子が出てきて股間を隠している(笑)。こっちのジョークで,“Teenage Mutant Ninja Sensor”というのがあるんだけど,元ネタはこの黒子達なんだよ。

※アニメ「うる星やつら」第124話「(秘)作戦・女湯をのぞけ!」(脚本:伊藤和典 / 演出:鈴木 行 / コンテ&作監:高橋資祐)

4Gamer:
 名作とされている回ですね(笑)。ところで「うる星やつら」といえば,監督(の一人)である押井 守さんがWizardryの熱狂的なファンとして有名ですが,Woodheadさんは御存知でしたか?

Woodhead氏:
 実は,今日知ったばかりなんだ。この一つ前のインタビューで,同じことを聞かれたよ。

4Gamer:
 ええっ,それは少し意外です。「機動警察パトレイバー2 the Movie」では,「トレボー」「ウィザード」というコールサインが出てきますし,「Avalon」ではマーフィーというキャラクターが登場します。

Woodhead氏:
 どちらも観たはずなんだけど。もしかすると英語に翻訳されたときに,そうした部分は削られてしまったのかもしれない。それにしてもマーフィーとはね。アンディに教えてやらないと!

※Wizardryの開発者の一人,Andrew Greenberg(アンドリュー・グリーンバーグ)氏のこと。なお,Murphy's Ghostの元ネタは,アンディの友人だったPaul Murphy氏から来ているとのこと。

4Gamer:
 押井監督の想いが,20年越しに届きましたね(笑)。ところで,今まで話題に登ったアニメは,いずれも1980年代のものですが,最近のアニメについてはどうでしょうか。

Woodhead氏:
 実は最近の作品は,忙しくてあまり観れてないんだ。どちらかというと,若い人向けに作られてるものが多いようだしね。だけど,「シドニアの騎士」は観たよ。実のところ,僕はファンタジーよりもSFが好きなんだ。

4Gamer:
 なるほど。そう言われてみると,これまで挙がった作品もSFテイストのものが多いですね。Woodheadさんは「スター・ウォーズ」シリーズの大ファンともお聞きしますが,先日公開された「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」も観ました?

Woodhead氏:
 もちろん。僕はスター・ウォーズ作品が公開される度に,初回上映で鑑賞しているくらいだから。フォースの覚醒は,途中平板な展開もあったけど,すごく良かったと思う。シリーズで2番目か3番目には良くできているんじゃないかな。

4Gamer:
 そう言われると,1番目が気になってしまいます(笑)。

Woodhead氏:
 1番は「帝国の逆襲」だね。2番目が今で言う「新たなる希望」だけど,あれが好きなのはオリジンだからで。「フォースの覚醒」はそれに並ぶくらい気に入ったから,自分でもかなり高く評価していると思うよ。

Robert Woodhead氏の年譜


日付 出来事
1959年1月22日 Robert Woodhead氏,英国ケント州ロイヤル・タンブリッジ・ウェルズに生まれる。
1966年 カナダに移住。
1973年 アメリカのニューヨーク州オグデンズバーグに移住。
1975年 父死去。母ジャニスが父の仕事を引き継ぐ。(フレッド・シロテックは母のビジネスパートナーの一人)
1970年代 コーネル大学に入学。その後,いくつかの会社でコンピュータ関係のアルバイトをする。
1974年 ※この年,「Dungeons&Dragons」(オリジナル版)発売。
1975年 ※この年,「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」公開。
1975年頃 ※この年,PLATO用「Moria」稼働。
1977年 ※この年,「スター・ウォーズ」公開。
※この年,Apple II発売。
オグデンスラジオシャックでタンディ・コーポレーションTRS-80を購入。
※この年,PLATO用「Oubliette」稼働。
1979年冬 ノーマン・シロテックと共に「Sirotech Software」を設立。
1980年 コーネル大学を1年間休学。「Paladin」というゲームの開発を始め,「Wizardry」をBASICで開発していたアンドリュー・グリーンバーグと知りあう。
データベースソフト「Info-Tree」,「Galactic Attack」発売。後者が成功を収める。
1981年春 ボストンのApplefestにて,Sirotech Softwareの「Wizardry: Dungeons of Despair」のデモが話題に。
1981年春 Sirotech SoftwareがSir-Tech Softwareに改称。
1981年秋月 「Wizardry #1 - Proving Grounds of the Mad Overlord」発売。
1982年 「Wizardry #2 - The Knight of Diamonds」発売。7月時点でSoftalkのTOP30にランクイン。
1982年 「Star Maze」発売。
1983年 「Wizardry #3 - Legacy of Llylgamyn」発売。
1987年 「Wizardry #4 - The Return of Werdna」発売。翌1988年に日本版発売。
1988年 AnimEigo,ニューヨーク州イサカにて設立(現在はノースカロライナ)。
1988年 「Wizardry #5 - Heart of the Maelstrom」発売。1990年に日本版発売。


Wizardryの誕生と,その源流を辿る


4Gamer:
 ここからは,Wizardryシリーズについて詳しく聞かせてください。同作は,コーネル大学に在学中だったAndrew Greenberg氏が,BASICで開発していたプロトタイプの“Wizardry”を,WoodheadさんがPascalで組みなおしたものがベースになったとのこと。

画像集 No.004のサムネイル画像 / Wizardryは,連綿とつながる文化の鎖の1ピース――生みの親,狂王ことRobert Woodhead氏に聞く,その源流と80年代アニメの話
Woodhead氏:
 ええ,そうです。

4Gamer:
 当時のコーネル大学には,「Dungeons&Dragons」(以下,D&D)のプレイグループ「WARG」(Wizardry Advanced Research Group)があって,彼らがWizardryのシナリオ作りに協力したと聞いていますが,Woodheadさんもこのグループに所属していた?

Woodhead氏:
 いや,D&Dは僕も熱心にプレイしたけど,彼らとは別口だった。WARGはアンディの仲間だったんだ。ちなみに,1974年に発売されたオリジナル版も持っていたんだよ。残念ながら,今は手放してしまったけど。

4Gamer:
 ということは,Wizardryというタイトルは,ひょっとするとこのグループ名にちなんだものだったのでしょうか。

Woodhead氏:
 そのあたりはよく分からない。僕はアンディが考えたものだと思っていたけど……言われてみれば,確かにこのグループ名が先だったのかもしれない。

4Gamer:
 なるほど。WizardryはこのD&Dと,当時稼働してた汎用コンピュータ・PLATO上で動いていた幾つかのゲームタイトル,そして当時のさまざまなサブカルチャーの影響を受けて生まれてきた。Woodheadさんも,以前のインタビュー(ローカス「ウィザードリィコレクション」収録)でそのように答えていましたね。

※イリノイ大学が中心となって構築した汎用コンピュータ支援教育システム。1972年に稼働したPLATO IVでは,世界中の端末をつないだネットワークが構築され,学生達の手によって,さまざまなオンラインゲームが生み出されていった。

Woodhead氏:
 そのとおり。

4Gamer:
 具体的に影響を受けた作品を教えていただけますか。

Woodhead氏:
 PLATO上で動いてたゲームで,間違いなく影響を受けたと言えるのは「Moria」「Oubliette」,それから「Avatar」だね。

「Moria」(1975年)※画像提供:hally
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「Oubliette」(1977年)※画像提供:hally
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「Avatar」(1979年)※画像提供:hally
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4Gamer:
 「Oubliette」にはWizardryと同名で効果の違う呪文が出てきますが,これは意図的なものでしょうか。

Woodhead氏:
 それはまったく意識していなかったな。偶然同じ名前になってしまったんだろう。

4Gamer:
 Murasama BladeやShurikenについては? ニンジャやサムライといった職業は「Oubliette」にも登場していましたが,こうした日本の武具はWizardry独自のもののように思います。

※AppleII用「Wizardry #1」の初期版では,MuramasaではなくMurasamaと表記されていた。

Woodhead氏:
 いや,それはJames Clavell(ジェームズ・クラベル)の「将軍」(1975年刊)の影響だね。Murasama BladeもShurikenも,あの小説に出てくるんだ。

4Gamer:
 では「Wizardry #4 - The Return of Werdna」(邦題:ワードナの逆襲)に登場したARABIC DIARY(TALES OF MADNESS)はどうでしょうか。家庭用ゲーム機版では「ネクロノミコン」という名前になっていましたが,あれはそもそもネクロノミコンなんですか?

Woodhead氏:
 うん,あれはネクロノミコンだよ。#4のシナリオの95%はRoe Adams(ロー・アダムス)が書いたわけだけど,ARABIC DIARYも彼のアイデアだ。ただ,僕自身もH.P.Lovecraft(ラブクラフト)の作品は読んでいたし,ネクロノミコンも知ってはいたけどね。

4Gamer:
 D&Dの影響が大きいのは分かるのですが,J.R.R.Tolkien(トールキン)の影響はいかがでしょう。1977年にはNBCテレビで「ホビットの冒険」のアニメも放映されていたはずです。スタジオジブリの前身である,トップクラフトが制作した作品です。

Woodhead氏:
 そのアニメは知らなかったな。もちろん,Tolkienの小説は読んでいたけど,直接的にはやっぱりD&Dだね。

4Gamer:
 Wizardryシリーズの独特な呪文名は,Tolkien作品の架空言語を意識したのかと思っていたのですが。

Woodhead氏:
 いや,そういうわけではないね(笑)。あれは偽ウェールズ語なんだけど,響きが良いようにこねくり回してあるから。なんで偽ウェールズ語なのかは……忘れてしまったよ(笑)。

4Gamer:
 出典がよく分からないものでいえば,Maelfic(マイルフィック)というモンスターの名前がどこから来たのか気になっています。ファミコン版では魔神パズズをイメージしたグラフィックスになっていましたが……。

Woodhead氏:
 「非常に悪い」ということを意味する英語“malefic(マレフィック)”が元だね。あれは邪悪を具現化した存在なんだ。おとぎ話の「眠れる森の美女」に出てくる魔女の名前がMaleficent(マレフィセント)で,そこから来てるんだよ。

4Gamer:
 1980年代後期,BPSというソフトハウスから発売されていたRPGシリーズとSIR-TECHのWizardryシリーズの間で,プレイヤーキャラクターのデータをコンバートしようという企画があったのを,当時のパソコン雑誌で見た記憶があります。これについて何かご存じですか。

※「ブラックオニキス」「ファイヤークリスタル」など。

Woodhead氏:
 恐らく,僕がMacintosh版のWizardryの開発に関わっていた頃だと思うけど……BPSのHenk Rogers(ヘンク・ロジャース)の名前は覚えているし,そういう話があったのもおぼろげに記憶はしている……ただ,具体的なことまではちょっと思い出せないな。

4Gamer:
 なるほど……。ああすいません,ずっと気になっていたことを一気に聞いてしまいました。

Woodhead氏:
 いやいや。Wizardryはね,言わば連綿とつながった鎖の輪の一つなんだ。多くの作品がそうであるように,Wizardryもまた,先行するゲームや映画といった文化の影響を受けて生まれてきた。そして後に続く作品に,今度はWizardryが影響を及ぼしていく。そういう連鎖の1ピースなんだと思う。

画像集 No.008のサムネイル画像 / Wizardryは,連綿とつながる文化の鎖の1ピース――生みの親,狂王ことRobert Woodhead氏に聞く,その源流と80年代アニメの話

4Gamer:
 ああ,その通りだと思います。Wizardryの存在は,日本においてひときわ大きな“輪”に育ちました。今の日本のゲームやアニメ,そしてライトノベルは,その多くがWizardryの影響下にあるといって過言ではありません。

Woodhead氏:
 光栄だね。でもそれは,ただ単に運が良かっただけなんじゃないかと思ってる。それと,日本語版のローカライズを担当したフォア・チューンやゲームスタジオ,それからアスキーのスタッフ達のお陰かな。とくにファミコン版は,今でも最も完成したWizardryだと思っているよ。なにせ,僕の描いた下手くそな絵が使われてないからね!

(一同苦笑)

4Gamer:
 今改めてApple II版をプレイすると,今名前が挙がったようなさまざまな先行作品から多くの要素が取り入れられて,Wizardryが生まれたということがよく分かります。キャラクターの種族や職業,モンスターの設定もそうですし,画面の構成やちょっとしたテキストメッセージからもそれが感じとれる。その上で,WoodheadさんがWizardryで成し遂げたと感じていること,Wizardryの独自性とは,どんなところだったとお考えですか。

Woodhead氏:
 それは……シナリオの存在だと思う。それまでのコンピュータRPGにははっきりした冒険の目的がなくて,その過程も存在しなかった。そこにパズル的な要素を加えたシナリオという概念を持ち込むことで,Wizardryは先行するタイトルとは一味違う作品になったのだと思う。その方向性をとことん突き詰めたのが,ご存じのとおり#4というわけさ。

4Gamer:
 ネットゲームだった「Oubliette」や,テーブルトークRPGのD&DをApple IIの中で融合させる過程で,シナリオを導入することを思いついた?

Woodhead氏:
 そうだね。あの小さな箱の中に,どうやってそれらを再現すればいいのかをずっと考えていたから。あとそうだ,パズルだらけの#4を開発するにあたって,当時最速のマシンだったPC-9801を使うことができたのも,日本のスタッフ達のお陰なんだよ。彼らがPascalの開発・動作環境を整えてくれたから,PC-9801を「速いApple II」として扱うことができたんだからね。

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Apple II版「Wizardry #1」の説明書に描いてもらったRobert Woodhead氏のサイン
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4Gamer:
 最後にWoodheadさんのこれからの活動についてお聞きしたいのですが,今はアニメ関連のお仕事が中心とのこと。個人的には,新しいゲームにも期待したところなのですが。SF作品がお好きとのことなので,SFモチーフの新しいゲームはいかがでしょうか。

Woodhead氏:
 今はアニメが本業なので難しいけど,実はそういうゲームを構想していた時期もあったんだよ。AnimEigoの仕事を始めてからの6年間は日本に住んでいたんだけど,それには3つの目的があった。一つは女性を追いかけること。二つめが新しいゲームを作ること。三つめがアニメの会社を作ること。

4Gamer:
 女性というのは……。

Woodhead氏:
 今ここにいる妻のことだね。当時も通訳をしてくれていたんだけど,彼女を追いかけて日本に来たんだ(笑)。

4Gamer:
 ああ,それはすばらしい。では一つめは達成されたわけですね。

Woodhead氏:
 うん,一つめと三つめは大成功だった。でも二つめのゲームは結局うまくいかなかったんだ。もし完成していたら,世界初のMMORPGになるかもしれなかったんだけど。

4Gamer:
 ええっ。どんなゲームだったんですか?

Woodhead氏:
 見た目上は中世ヨーロッパ風のファンタジーなんだけど,ゲームを進めていくと,実は核戦争で滅亡を迎えた未来世界だったことが分かるって趣向だった。残念なことに,僕が日本に引っ越したとたんにバブルが弾けてしまって,資金集めができなかったんだ(苦笑)。

4Gamer:
 それは……ぜひ見てみたかった。そういえば,Woodheadさんは1980年代から,コンピュータRPGはオンラインに移行するだろうと繰り返しおっしゃっていましたね。結果的に「Ultima Online」がそれを実現するわけですが,まさにその予想どおりでしたね。

Woodhead氏:
 予想というほどでもないけどね。こうなっていくことは必然だったんだし。

4Gamer:
 しかしその世界設定は,初期のUltimaシリーズを彷彿とさせるものがあります。MMORPGとして最初に大きな成功を収めたのが「Ultima Online」だったというのも,ちょっと皮肉に感じてしまいます。

Woodhead氏:
 しかしまあ,ゲームはうまくいかなかったけど,こうして妻は捕まえられたわけだし。AnimEigoの事業も軌道に乗ったので,自分としてはこれで良かったと思ってるよ(笑)。

4Gamer:
 今後も,日本に来られる予定はあるでしょうか。

Woodhead氏:
 AnimEigoの仕事があるからね。子供も大きくなったことだし,これからはイベントなどに来る機会があると思う。でも今度の大統領選の結果次第では……昔みたいにまた日本で暮すことになるかもしれない(笑)。

4Gamer:
 ああ(苦笑)。その際は,ぜひまたお話を聞かせてください。では日本のファンに向けて,締めの一言をいただけますか。

Woodhead氏:
 そうだな……じゃあ“Thank you for your support!”で。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。

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