レビュー
ASUS+Sennheiserのコラボレーションは何を生んだか
Xonar Xense
2010年8月5日に国内発売されたASUSTeK Computer(以下,ASUS)の「Xonar Xense」(ソナー センス)という製品は,Sennheiserブランドのハイクラスモデル「PC 350」をベースにしたヘッドセットと,同ヘッドセットとの接続に最適化されたと謳われるASUS製サウンドカードからなる製品だ。「Premium Gaming Audio Set」(高品質なゲーム用サウンド製品セット)と位置づけられている。
停滞の目立つPCサウンドカード市場で存在感を増すASUSが,一流のヘッドフォン&ヘッドセットブランドと組んで世に送りだしてきた新製品だけに,性能次第ではゲーマー向けサウンドカードの決定版となり得るが,果たして実力はいかほどか。今回もねちねちと掘り下げてみることにしよう。
ヘッドセット特化型の設計ながら
マルチチャネル出力にも対応するカード部
カードは,アナログ段を覆う銀色のファンカバーを採用しており,音楽鑑賞用サウンドカードとして市場投入されている「Xonar Essence STX」と似た外観だ。4ピン電源コネクタが用意され,給電しなければ動作しないというのは,Xonarブランドを冠した従来製品と同様である。
ペリフェラル用の4ピンコネクタを搭載する |
カード背面は比較的すっきりした印象 |
「あくまでもPC 350XEによるヘッドセット利用が前提で,サラウンドは基本的にデジタル対応。どうしてもという人のために,アナログ7.1ch出力もおまけでサポートしておきましたよ」的な,気持ちいいほどの割り切りが感じられる。
なお,ASUSのサウンドチップというと,Dolby Laboratoriesだけでなく,DTSのライセンスも受け,「DTS Connect」(DTS Interactive&DTS Neo: PC)もサポートした「AV200」が存在する。実勢価格だけならXonar史上最も高額なXonar Xenseだが,機能面でのフラグシップはあくまでも「Xonar HDAV 1.3 Deluxe」のほうで,Xonar Xenseはゲーマー向けの最上位コラボモデルという理解としておくのが正解だ。
マイク入力用のA/Dコンバータは,Cirrus Logic製の「CS5381」。マイクプリアンプとして,ASUS刻印入りのAC’97 CODEC「DJ100」を搭載するのは,Xonarシリーズの伝統である。
ヘッドセットは通常版とほぼ同じ作りだが
高級品らしい配慮がそこかしこに感じられる
全体的な作りは非常にしっかりしており,さすがはヘッドセットで実績豊富なSennheiser Communications製といったところ。こう言ってはなんだが,“昨日今日出てきた”メーカーの製品とは完成度の次元が異なる。闇雲に頑丈なのではなく,軽量ながら可動部のムダな遊びが少ない,カチっとした作りなのだ。
ちなみにプラスチックベースとなる本体の重量はインラインリモコン付きのケーブル付きで約324g。ケーブルを重量計からどかした参考値で266g前後だった。
エンクロージャーは後ろ方向に90°回転可能なのだが,接合部分はしっかりした作りで,回転もスムーズ。ヘッドバンドの長さ調整部分はコチコチとクリック感のあるタイプで,こちらは普通の硬さと言っていいように思う。ヘッドバンド部は若干のしなりがある硬質プラスチック素材製だ。
エンクロージャー部はご覧のように90°回転可能。両方とも回転するので,開いてぺたんと置くこともできる |
エンクロージャー部とヘッドバンド部の間も150°程度開閉するようになっている |
特筆すべきはイヤーパッドの品質。高級ヘッドフォンによくある,皺のたくさん入った薄手の合皮は,クッションもほどほどに柔らかく,装着時にそっと耳を包んでくれるうえ,しっかりとホールドもしてくれる優れものだ。
頭頂部のクッション部にも同じ素材が惜しみなく使われており,こちらも感触は良好。大きなエンクロージャーとしっかりした作り,優れたイヤーパッドの相乗効果で,ストレスのない装着感が得られる。
付け加えるなら,可動部がラバー加工されている以外,ブームは光沢加工がなされており,取って付けたような,ヘッドフォン部とマッチしていない印象になってしまっている。通常版PC 350ならエンクロージャー部が光沢加工されているので違和感もなかったのだろうが,PC 350XEでエンクロージャー部をカスタマイズしたことがマイナスに作用してしまったのだろう。マッチングの詰めが甘いのは少々残念だ。
ケーブル長は3mで,ヘッドセット本体の左耳用エンクロージャから約0.7mのところにインラインリモコンが用意されている。リモコンはマイクのオン/オフスライドスイッチと,ヘッドフォン用のボリュームノブが用意された,とくに何の変哲もないタイプである。
コンパネは基本的に従来製品を踏襲
一部に解せないプリセットも
序盤で述べたとおり,Xense OneサウンドカードはAV100を搭載するので,利用可能な技術は基本的にDolbyがらみのもの。C-Mediaのソフトウェアエンジン「Xear 3D」を土台にして,Dolby関連の機能が利用可能になっているというイメージでいいだろう。
Xonar Xenseでは,バーチャルヘッドフォン機能「Dolby Headphone」のほか,バーチャルスピーカー機能「Dolby Virtual Speaker」,ステレオソースのサラウンド化機能「Dolby Pro Logic IIx」,そして,AVアンプとマルチチャネルスピーカーシステムに向け,マルチチャネル出力をリアルタイムエンコードしてデジタルビットストリームとして送出できる「Dolby Digital Live」がサポートされている。
選択できるプリセットは「DH-1: Reference Room」「DH-2: Livelier Room」「DH-3: Larger Room」の3つで,数字が大きくなるほどサラウンドの残響感が強くなるが,ゲームではDH-1が断然のお勧め。残響が強くなりすぎると,「定位」と呼ばれる音源の位置情報が曖昧になり,情報としての音を把握しづらくなるので,DH-2&DH-3は映画用と理解しておくべきだろう。
ちなみに,Xonar Xense Audio Centerにはこのほかにも,「Smart Volume Normalizer」や「FlexBass」「Environment Effects」といった機能が用意されている。
Dolbyの技術ともども,下記,どんなものか簡単に紹介してみたい。
●Dolby Virtual Speaker
2chステレオスピーカーでマルチチャネルサラウンドを仮想的に実現すると謳われる機能。これが完全に動作するならマルチチャネルスピーカーシステムは不要なわけだが,Dolbyの技術もそこまでには達していない。左右スピーカーユニットの中央に頭を持ってこないと適切に聞こえないのがネック。
●Dolby Pro Logic IIx
いわゆるステレオ・トゥ・サラウンドで,音楽や2chステレオのゲームBGMなどをマルチチャネルスピーカーシステムすべてを使って強制的に再生する機能。マルチチャネルサラウンド対応ゲームに対しても適用はできるが,基本的には2chソースのためのものだ。
ただ,Xense One+PC 350XEでDolby Headphoneも絡めて本機能を有効化すると,なぜか音が左に寄って定位してしまった。今回はテスト用の個体を2つ用意したが,いずれもそうだったので,PC 350XEを使う場合にはお勧めしない。
●Smart Volume Normalizer
ボリュームノブの左下にある[SVN]ボタンをクリックすると有効になる機能で,効果を確認する限り,いわゆるAGC(Auto Gain Control)。有効化すると平均音圧レベルが上がり,小さかった音が大きくなったりする。好き嫌いは分かれるが,普段なら聞き逃してしまうような小さい音を大きくできるので,音情報をしっかり拾うことはできるようになるはずだ。ただその代わり,距離感は感じにくくなるので,実際に試してみて,オン/オフを決めるのが正解だと思う。
●FlexBass
低周波を強調するプロセッサー。ただ,PC 350XEを組み合わせたときの有効性はほぼ皆無に等しい。PC用の安価なスピーカーや,もっと安価なヘッドフォン/ヘッドセットを組み合わせたときに有効化すべきものだろう。
●7.1 Virtual Speaker Shifter
「アナログ出力」を「スピーカー」にすると選択できる項目で,バーチャルかリアルかを問わず,スピーカーの設置ポジションを変更できる。簡単に言うと,スピーカーのアイコンをドラッグすると,中央にあるリスナーアイコンからの距離に応じて当該チャネルの音量が増減する。
ただ,具体的な数値がないため,左右で等距離に設定するのが極めて難しいなど,実用性は乏しい。
●Environment Effects&10-Band Equalizer
10-Band Equalizerは,10か所の特定周波数を中心にブースト/カット(増加・減衰)を行う。一般のユーザーが自在に扱えるものではないので,その下に用意された計12個のプリセットから選択するのが現実的だろう。
なお,メインメニュー右下にある5つの丸アイコンは,「GX」と書かれたもの以外,Environment Effectsの10-Band Equalizerを組み合わせた,ASUSによるプリセット。プリセットについては後述する。
●GX Mode
Creative Technologyの独自拡張サウンド機能である「EAX ADVANCED HD 5.0」は,本来,Sound Blasterファミリーの上位モデルでしかサポートされないが,その一部をCPUエミュレーションによって実現するとされる機能。「DS3D GX」と呼ばれていた頃は,128音の同時再生とか,一部エフェクト処理の対応が謳われていたが,現在どうなっているのかははっきりしない。また,そもそもEAX ADVANCED HD 5.0タイトルはほとんどなく,さらに,有効化するとゲームプレイ中に音飛びなどが発生したりすることもあるので,利用は勧めない。
よくも悪くもフラットなPC 350XE
Xense Oneのプリセット選択次第で心地よく聞ける
ハードウェアとソフトウェアの説明が長くなったが,ここからは,表に示したテスト環境で検証を進めていきたい。上で触れたように,ドライバは製品ボックスに付属のものを用いる。
テスト方法は基本的に筆者のヘッドセットレビューと同じ。出力は,アナログ&デジタルの波形をチェックしつつ,「iTunes」から2chステレオ音楽再生を行ったときと,マルチチャネル出力で「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,CoD4)のリプレイを再生したとき,双方の試聴で評価を行っていく。
出力波形のテストには,テストシステムにセットアップしたSony Creative Software製の波形編集ソフト「Sound Forge Pro 10」を利用。出力するオーディオ信号は,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)ものになる。カードから出力させず,ソフトウェア上で完結させたデータを「リファレンス」として,出力した波形がどれだけリファレンスと近い形状を示せるかチェックしていくわけだ。
出力した波形は,RME製4chプリアンプ「Quad Pre」に入力し,レベルマッチングを行ってから,筆者が音楽制作においてメインに使っているAvid「Pro Tools|HD」用インタフェースで,業務用の「192 I/O」に入力。Pro Tools|HDのコントロールソフト「Pro Tools|HD Software 8.0.1」上にアサインされたWaves Audio製のソフトウェアアナライザ「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)で表示させるといった流れになる。
一方のマイク時は,筆者の音楽制作用システムに接続してあるスピーカー(ADAM製「S3A」)をマイクの正面前方50mmのところへ置いてユーザーの口の代わりとし,スピーカーから出力したスイープ波形をPC 350XEへ入力。入力したデータはテストシステム上にセットアップしたPAZで表示させる。
その初期値は「Normal Gain(0dB fo <64ohms)」。これを「Sennheiser PC 350“Xense”Edition」に変更すると,PC 350XEに最適化した初期設定になるのだ。そのため,今回のテストはこちらで行う。音圧レベルが足りない(≒音が小さい)と感じた場合は残る3設定を選んでもかまわないが,その場合,どうしてもノイズが増えるので,基本的には「Sennheiser PC 350“Xense”Edition」設定を選ぶべきだろう。というか,なぜこれが初期値でないのか少々理解に苦しむ。
……というわけで,ようやくヘッドフォン出力のテスト結果である。Xonar Xense Audio Center側のボリューム設定は,85以上だと位相ズレが始まるため,80に設定している。
下に示したのは音楽やビデオの出力を想定したWDMの周波数特性(上段)と位相特性(下段)。周波数特性はリファレンスに近ければ近いほど良好,位相特性はグラフ下部中央の半円からまっすぐ上に伸びていれば良好と考えてほしいが,これまでのXonar製品にも見られた高域の極端な落ち込みは今回も確認された。
ヘッドフォンアンプ経由なので,どうしても周波数特性はリファレンスから遠くなりがちだが,その割に乖離は80Hz付近の谷と700Hz〜1.8kHz付近で,高域を除けばリファレンスに近い波形といえる。
お次はDirectSound。グラフ上の統一性を持たせるため,WDMと同じ出力になるようレベル調整しているのだが,この操作を行う前は意外なことにDirectSound出力はWDM比で10dB程度低かった。なぜ低いのかは正直分からない。
それをさておくと,高周波数帯域の落ち込みは若干弱まっているのが目を引く。80Hz付近が下がり気味なのはWDMと同様だが,その下の帯域も全体的に低めになっている。また,250Hz付近の大きな落ち込みを中心に,180Hz〜1.8kHzあたりの乖離もやや気になる。
Xense OneとPC 350XEを接続したXonar Xenseの試聴印象は,WDM,DirectSoundに共通して,「よくも悪くもフラット」といったところ。中域が強く聞こえ,低域と高域は相対的に弱く聞こえる。スペック上,10Hz〜26kHzをサポートするPC 350XEだが,重低域は意外なくらいしっかり存在しているので,かなり低い音まで再生する能力があるようだ。
気になったのは,重低域が存在しないとき,中域に集まったような音に聞こえること。また,クッションが厚めで,スピーカードライバーと耳との物理的な距離がややあるのと,ローインピーダンス設計の影響もあるのか,いわゆる「耳に張り付いた」音ではなく,少し遠くからゆったり聞こえる。抽象的に言えば若干「ぬるい」音質傾向だ。
もちろん,低域と高域が強すぎたりはしないので,「疲れにくい,柔らかい音質」と感じる人もいる人もいるはず。非常に完成度が高いなかで中域が強めという話であり,安価な製品にあるような,変なピークのあるイヤな音というわけではない。
「Effect」メニューを開いて[S-Rock]ボタンを押すだけでS-Rockプリセットを選択できる |
これが筆者の推奨設定 |
ヘッドフォンの仕組みに詳しい人のなかには,歪みを気にする向きがあるかもしれないが,ローインピーダンスで十二分のヘッドルームを持つPC 350XEは,低域を多少ブーストしたくらいではびくともしないので,その点はご安心を。
もう少し突っ込んで,さらに筆者オススメのイコライザープリセットも用意してみたので,これは右の画像を参照してもらえれば幸いだ。
なお,Xonar Xense Audio Centerで右下にある5つの丸ボタン中4つがASUSによるプリセットだというのは上で述べたとおり。うち,銃のアイコンが付いたものは「FPS」,ハンドルのマークが付いたのは「Racing」と名付けられ,それぞれ当該ジャンルに向くとされているのだが,どちらもまったくオススメできない。とくにFPS Modeはシャリ(高域)が強すぎて,耳を痛める危険すらありそうなほどである。
さて,CoD4で7.1chのマルチチャネル出力を行い,Dolby HeadphoneをDH-1モードで有効にする以外はデフォルトのまま聞いてみると,やはり音は「ややぬるい」印象。Dolby Headphoneは一般に,左右の広がりが良好な代わり,前後の定位はそれほどでもないのだが,Xonar Xenseの場合,後方の定位も良好だ。唯一前方だけは多少弱いが,これは競合のDolby Headphone採用製品でも見られる症状なので,現状,多くを望めないということなのだろう。
一方,イコライザープリセットをS-Rockにすると,当然ながら低域と高域がしっかり出てくる。とくに高域が強調されるためか,後方の音源定位や移動がはっきり分かるようになる。やはりバーチャルサラウンドヘッドフォンのキモは高域の再生能力にあるようだ。
なお,Dolby HeadphoneはDH-1設定しても,残響感がけっこう多い。もう少しドライな質感だともっとゲームに向くのだろうが,おそらく,映画の音をより心地よく聞かせようというプリセットがなされているのだろう。
ブレイクアウトケーブルは“オマケ”という認識が正解
デジタル出力でも高域は落ち込む
Xonar Xenseの立ち位置からして,ブレイクアウトケーブルによるアナログマルチチャネルサラウンド出力に期待している人はそれほどいないと思われるが,テストはきっちり行っておきたい。
今回,音楽やビデオ鑑賞を想定した2chテストにはWDM出力を用い,ゲームを想定した5.1chテストにはDirectSoundを利用。Xonar Xense Audio Center上のシステムボリュームは60に設定している。ヘッドフォン出力と異なるのは,70以上に設定すると位相がじわじわとズレ始めるためだ。また,マルチチャネルのテストが7.1chでなく5.1chなのは,テストに用いている再生ソフト,Sound Forge Pro 10側の制限による。この点はご了承いただきたい。
さて,まずはヘッドフォン出力とD/Aコンバータを共用するフロント2chからだが,WDM,DirectSoundのテスト結果は下に示したとおり。WDMでは16kHzを超えたあたりから音圧レベルが一気に落ち込んでいく。それと,40Hz以下の低域が全体的に低めなのを除けばリファレンスに近い波形なだけに,高域の落ち込みはインパクトが大きい。
続いてDirectSoundだと,位相がズレている(※システムボリュームを下げてもこのズレは解消しない)。これが一番気になるポイントだ。ヘッドフォン出力に特化した仕様ゆえ,ひょっとしたら好感度過ぎて位相がズレやすくなったのかもしれないが,いただけない結果なのは確かである。ちなみに,2つの個体はいずれもブレイクアウトケーブルの差し直しによって位相波形が悪化したり改善したりするので,ブレイクアウトケーブルかとDVI端子との接触に問題があるのではないかと推測される。
なお,周波数波形は,中低域と低域でやや乖離があるものの,高域の落ち込みはかなり改善されている。
Xense Oneのアナログミニピンフロント出力(WDM) |
Xense Oneのアナログミニピンフロント出力(DirectSound) |
次にリアと,センター/サブウーファ出力端子の出力結果を示す。
結論から先にいうと,リアの波形が最もきちんとしており,一方,センター/サブウーファのそれが最も破綻している。
順に見ていくと,リアは20Hz以下と20kHz以上で落ち込むのと,40〜150Hz付近がやや乖離しているものの,それ以外は概ね相似形。優秀な結果と言っていいと思う。
で,センター/サブウーファのほうだが,これはちょっとあり得ないほど位相がズレている。これまで必要がないので説明もしてこなかったが,アンチフェーズ(※逆位相のこと。左右チャネルが,本来なら同じタイミングで「++,−−」と振幅するべきところを,「+−,−+」といった具合に,オーディオ信号振幅が逆転している状態)すら発生しているので,普通に考えればこれは問題である
だが,幸いなのは,センターとサブウーファなので,異なるスピーカーにそれぞれモノラル出力されるということ。その意味で,左右でステレオ音場を実現するフロントやリアほど深刻ではない。気持ち悪いのは確かだが……。(※単にブレイクアウトケーブルの問題なのか,実は多チャンネルのサブ成分がXense Oneでミキシング出力されていて,それゆえ位相がズレているのかもしれない)
ちなみに周波数特性は,共通のD/Aコンバータを採用するためか,リアとそっくりである。
Xense Oneのアナログミニピンリア出力(DirectSound) |
Xense Oneのアナログミニピンセンター/サブウーファ出力(DirectSound) |
出力波形テストの最後はS/PDIFを利用したWDM経由のデジタル出力。今回はユーザーが多そうな光角形端子を用いる。
結果は下に示したとおりで,位相はデジタルなのできちんとしているが,WDMだと16kHz超えの周波数帯域からで落ち込み始めるのは相変わらず。サウンドチップか,ドライバソフトウェアに原因があるのかもしれない。
試聴テストにはADAM製のパワードモニタースピーカー「S3A」を用いたが,フロントチャネルをのみを用いた2chステレオだと割と良好ながら,WDMで16kHz超,DirectSoundで20kHz超にある落ち込みが割と効いており,全体として少しくすんだ印象になっている。ライドシンバルが,「シャーン」と聞こえてほしいところ,「コーン」といった感じで,上の音がなくなるのだ。高域にフィルターが入ったような音ともいえるが,ブレイクアウトケーブルを用いたミニピン出力を考えれば十分良好な部類に入るといえるだろう。10-Band Equalizerをデフォルトにしたときの音は,むしろ素直でクセのない音である。
CoD4を,Dolby Virtual Speakerでバーチャルサラウンド化してみると,高域までしっかり再生できる大型スピーカーと組み合わせていることもあって,音は後方まで回り込んだ。ただ,音楽制作関係者以外でこのクラスのスピーカーを使う人はまずいないだろうということと,長時間聞いていると耳が疲れるということもあって,あまりオススメできない。バーチャルサラウンドはPC 350XEとDolby Headphoneに頼るべきだろう。
S3Aに加え,リアおよびセンター用にDynaudio Acoustics製パワードモニタースピーカー「BM 6A」を3台,同社のサブウーファ「BM 10S」を1台用意して,リアルサラウンドでCoD4を聞いてみると,予想どおりというか,センターはそもそも無線ボイスがほとんどだから分からなかっただけかもしれないというか,センター/サブウーファ出力の位相問題はとくに感じられなかった。品質の高いスピーカーさえ用意できれば,リアルサラウンドがゲーム用途で最高なのは間違いない。
マイク入力品質は非常に良好
ただ,若干ながらレイテンシが存在
カタログスペック上の周波数特性が50Hz〜16kHzとなっているPC 350XEのマイクを使ったマイク入力の結果もチェックしよう。
テスト結果は下に示したとおりで,下は60Hzあたり,上は13kHzあたりから大きく落ち込んでおり,ほぼスペックどおりの結果になっていることが分かる。なお,1.4kHz付近の落ち込みは,ヘッドセットレビューで繰り返してきているとおり,スピーカードライバーのクロスオーバーポイントだろう。
実際に声を収録してみると,中域〜中高域の高い周波数特性に沿った,非常に存在感のある,クリアな音を入力できる。音質傾向は,どちらかというと一般PCユーザー向けというより,音楽制作で用いるプロ用マイクに近い。実際のところノイズも少なく良好な音質である。だてに大きいだけではない,高品質マイクだ。入力レベルは初期値の100にしておいてまったく問題ない。
カタログスペックにはノイズキャンセリング機能に関する言及があるのだが,この記載があるのは「Pick-up pattern」(ピックアップパターン)」のところなので,おそらく指向性マイクだと言いたいのではなかろうか。
なお一点だけ気になったのは,Xense Oneの仕様か,アナログ入力の割にはレイテンシが大きめであること。気にならない人がほとんどであろうと思われる程度ではあるものの,事実として念のため記しておきたい。
ASUS側の最適化不足が目立ち,必然性は「?」ながら
「Xonar Xense」としてのポテンシャルは高い
また,テスト結果の段落でも触れたように,致命傷ではないうえ,そもそも期待している人が少ないと思われるので大きな問題ではないのだが,ミニピンのマルチチャネル出力で位相がズレることがあるのは,憶えておいたほうがいいだろう。
ただ,これらASUS側の諸問題は,非常に完成度の高いPC 350XEによって相当に救われている。PC 350XE側にある懸念らしい懸念は,初期設定だとぬるめの音質傾向に感じられることと,ブームマイクが大きすぎて視界に入りやすいことくらい。しかも,音質傾向のほうは,「Dolby Headphone有効,10-Band EqualizerでS-Rock(もしくは筆者推奨設定)」に調整して,ほかを無効化してやるだけで,実力を十二分に堪能できるようになる。
2製品のコンビネーションなので,どうしても細かな設定の追い込みは必要になってしまうが,ゲームプレイだけでなく,そういった詰めの作業も楽しいと感じられる,あるいは苦にならない人にとっては,コストに見合っており,長く付き合える,非常に面白い製品だ。2製品を組み合わせたXonar Xenseとしてのポテンシャルは高いので,ぜひいろいろ試してほしい。
- 関連タイトル:
Xonar
- この記事のURL: