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R.O.G.ゲーマー向けディスプレイ新製品まとめ〜業界初の「MiniLED×量子ドット」採用の超高輝度広色域4Kモデル登場など
数が多いのでメーカーやカテゴリで分類して順番にレポートしていきたい。まずは,ASUSTeK Computerのゲーマー向け製品ブランド「Republic of Gamers」(以下,R.O.G.)の製品からだ。
なお,本文中,展示機の色スペクトラムを示しているが,これは楢ノ木技研製の「ezSpectra815V」によるものだ。この色度計についての詳しい情報は,筆者によるAV Watchの記事「大画面マニアの新兵器,スペクトロメーターでディスプレイの“色”表現を計測」を参照いただきたい。
ROG SWIFT XG438Q〜120Hz入力対応のちょうどいい大画面サイズのゲーマー向けディスプレイ
この開発担当者は「ゲーマー向けディスプレイは競技性重視だと20型台中盤が好まれるが,ゲームを大画面で映像コンテンツ的に迫力重視で楽しみたいゲーマーには大画面のものが望まれる」と続ける。
確かにeスポーツ勢は画面が視距離50cmくらいで一望できる画面サイズを好む。画面の表示内容をリアルタイムに知覚認識し判断していくeスポーツ系ゲームは,画面サイズが大きくても小さすぎても遊びにくくなるからだ。ただ,すべてのゲームファンがeスポーツ勢で競技性重視というわけではない。それなりに大きい画面で楽しみたい層も相応に存在する。しかし,ゲーマー向けディスプレイの大画面モデルというとせいぜい30型前後までのモデルしか出ていなかった。そこで大きい画面サイズのゲーマー向けディスプレイを開発しようということになったようだ。
「しかし,某著名GPUメーカーから提案された大画面ゲーマー向けディスプレイはちょっと大きすぎた(笑)。アメリカではあれでいいかもしれないが,アジア圏,欧州圏のファンからは“もう少し小さいのがほしい”という声が多数寄せられた。それに応えたのがこの製品だ」
さて,その「ちょうどよい大画面」というコンセプトで開発されたゲーマー向けディスプレイの製品名は「XG438Q」だ。型番からも分かるように画面サイズは43型の16:9アスペクトだ。解像度は4K(3840×2160ピクセル)で,液晶パネルは応答速度4msのVA型になる。
倍速補間フレーム機能は搭載しないが,高速VA液晶を採用していることもあり120Hz駆動に対応する。色域はDCI-P3色空間を90%カバーし,入力はHDMI2.0およびDisplayPort1.4をサポートしているという。
「この大きさならばテレビでもよいのでは?」という意見もあろうが,前出の担当者は「低遅延が保証されていること」「120Hz入力に対応」「FreeSyncおよびFreeSync2 HDRに対応した美しい可変フレームレート表示が行えること」などが既存のテレビ製品に対する優位点だとアピールしていた。
筆者も40型の東芝4KレグザをPC用ディスプレイとして常用しているが,視距離50cm程度のデスクトップユースではこのくらいの大きさがほどよい大画面が得られる上限という印象である(※左右視野角約83度)。それでいて一望感もありディスプレイユース的な使い方もできて便利なのだ。お勧めである。
ROG SWIFT XG438Qの発売は今夏。北米想定参考価格は1000ドル。日本での発売も予定されている。
NVIDIA提唱のBFGD規格準拠のASUS R.O.G.版「ROG SWIFT PG65UQ」がついに発売に〜65型/4K/144Hz入力対応
前段で触れた「デカすぎるゲーマー向けディスプレイ」とは「NVIDIAが提唱した大画面ゲーマー向けディスプレイ規格」,Big Format Gaming Display(BFGD)のことである。
この規格に賛同したのはAcer,HP,ASUSといった著名なPC関連機器メーカー達だったが,実際に2018年中に製品化されることはなく,結局,実際の発売は「2019年中にやっと」という感じとなった。
BFGDの発表自体は2018年1月のCES 2018のことなので,ASUS製「ROG SWIFT PG65UQ」の詳細スペックを知る人も多いことだろうが,軽くおさらいしてこう。液晶パネルはVA型,解像度は4K(3840×2160ピクセル)となっている。NVIDIA SHIELD TV相当の機能も内蔵しており,PG65UQ単体で映像やゲームのコンテンツを楽しむこともできる(製品情報ページ)。
発売時期は今夏。北米での想定価格は4000ドルと価格もビッグである。現在のところ日本での発売は予定されていない。
ROG SWIFT PG27UQX〜「MiniLEDってなに?」「量子ドットってなに?」ゲーマー向けディスプレイに超高画質モデルがやってきた
液晶パネル自身に続いて重要な液晶ディスプレイ技術はバックライトで,長く主流技術を務めてきた蛍光灯のような冷陰極蛍光管 (CCFL:Cold Cathode Fluorescent Lamp)から白色LEDへと進化した。白色LED自体も光源となる青色LEDに組み合わせる蛍光体のレシピの進化で広色域な白色LEDが登場している。これらには「青色LED+赤蛍光体+緑蛍光体」や「青色LED+マゼンタ蛍光体+緑蛍光体」といったものがある。いずれも広色域液晶ディスプレイやテレビ製品によく使われている。
ここでやっと本題なのだが,昨年あたりから,高画質液晶ディスプレイに新しいバックライト技術の採用がブーム化しつつある。それがMiniLEDと量子ドット(Quantum Dot)の組み合わせだ。
MiniLEDとは,その名のとおり,発光するLEDチップのサイズがμm級という超小型LEDチップのことだ。MiniLEDはチップサイズが小さいので,配線分のスペースを確保してもLEDチップを数mm間隔で配置できるのが最大の特徴だ。従来の直下型LEDバックライトシステムの場合,光源LED密度の高いハイエンド製品でも,LED同士の間隔は1cm以上,ミドルクラス製品ともなれば数cm以上の間隔で配置されるのが普通だった。そう,このMiniLED技術のおかげでLED配置密度を高めることができることから,映像中の輝度分布に応じて発光させるバックライトの明暗を同調させるエリア駆動(ローカルディミング)を高精度に行えるようになるのだ。それと,映像パネルの面積に対して発光させられるLEDの個数を増やせられるので高輝度表現,高コントラスト表現も可能になるわけである。
そしてもう一つが量子ドット技術である。量子ドットは多くの意味で使われるのだが,蛍光体として使うと,ナノサイズの半導体結晶物質に入射してきた光をこの物質に衝突させると別の波長(色)の光に変換することができる。なぜ量子(Quantum)というキーワードが出てくるかというと,光の波長変換を量子力学レベルで行うためだ。
具体的には,光は波と粒子の両性質を持つが,量子ドット素材に光を入射させると,その光は粒子として振る舞い,量子ドット素材内の電子(=量子)がこのエネルギーを吸収して,別のエネルギー量の光子に変換する。光エネルギーは波としての光の波長によって異なるので,エネルギー量が変わると光の波長も変わる。
まあ,量子ドット素材内で起きている現象に着目せず,結果としての光学特性だけに着目すれば,量子ドット素材は光の波長変換をとても高効率に(エネルギー損失を少なく)行える材質として振る舞うのである。
最新のMiniLED×量子ドットを組み合わせた光源技術では,発光素子として白色LEDは用いず,高出力の窒化ガリウム(GaN)青色MiniLEDで青色を発光させ,この光のうち,粒径3nmの量子ドットに衝突した光が緑色に,粒径7nmの量子ドットに衝突した光が赤色に変換される。従来の黄色蛍光体などに青色をぶつける白色LEDでは,スペクトルのピークが黄色付近に出てしまうため,緑と赤の鋭い純色が得にくい。対して青色光源と3nm+7nmの量子ドットの組み合わせはレーザー光(※単波長)に迫る……は言いすぎにしても,かなり「分離感に優れた」「ピークの鋭い」赤緑青の純色が得られるのだ。
そんな先端技術をゲーマー向けディスプレイに採用してしまったのが,今回発表された「ROG SWIFT PG27UQX」なのである。
PG27UQXに採用される液晶パネルはリフレッシュレート144Hzに対応した27型サイズのIPS液晶パネルで解像度は4K(3840×2160ピクセル)である。
バックライトLED総数は2304基。エリア駆動の分割数は576ブロックだそうで,いわゆるハイエンドテレビ製品をも凌ぐバックライト分解能を実現している。計算すると1ブロックあたり4LEDを使っている計算になるが,これは輝度を稼ぐためだという。ちなみに,PG27UQXは画面アスペクトが16:9なので,LEDの縦と横の個数を計算すると横64個,縦36個になる。対角27型の液晶パネルに割り当てるとだいたいLEDピッチは約9mmといったところか。
さて,この画面サイズには過剰なほどのLED個数ということもあって,高輝度表現はかなり眩しい(笑)。ピーク輝度1000cd/m2を要求するVESA DisplayHDR 1000規格にも準拠しているそうだが,一見して「そのようですね」と実感できるほど明るい。
可変フレームレート表示はNVIDIA G-SYNCに対応しているだけでなく,2019年1月に発表になったばかりのプレミアムG-SYNC規格となる「G-SYNC Ultimate」にも対応する。
色域はDCI-P3,AdobeRGBに対応とのことだがカバー率は非公開だ。計測したスペクトラムを見る限り相当に優秀そうである。
量子ドット技術らしい青赤緑の純色ピークのすべてが鋭く出ていて,優れた色再現性が期待できる。おそらく,本機はデザイナーやアーティスト向けの用途にも適合するのではないだろうか。
発売は2019年内を予定。価格は未定とのことだが,間違いなく結構な高額商品となることだろう。
ROG SWIFT XG43VQ〜「また32:9かよ」「いえ32:10です」「縦解像度少しマシマシでございます」
昨年は各社からアスペクト比21:9のシネマスコープサイズを遙かに超える横長ディスプレイである「32:9アスペクト」モデルがちょっとだけ流行した。サムスン製のC49HG90を皮切りに32:9アスペクト比のディスプレイ製品が各社から登場したのだ。
この32:9アスペクトのディスプレイ。シンプルに16:9のディスプレイを2枚つなげて1枚パネルにしてしまった製品だ。サムスンのC49HG90の解像度は3840×1080ピクセルだったので,4K(3840×2160ピクセル)ディスプレイを真横に切断したみたいなもの……という表現でもいいかもしれない。1
そんなわけで「今年もまたその新モデルが出ているんだなー」と思わず見飛ばしてしまいそうになった「ROG SWIFT XG43VQ」だったが,念のためにと思ってスペックを聞いてびっくり。聞いてよかった。このXG43VQ,32:9ではなく,なんと32:10アスペクトだというのだ。
対角43インチで32:10アスペクトなので,これの半分の16:10アスペクト時の対角線は計算すると24型となる。XG43VQは,24型サイズの1920×1200ピクセル解像度のディスプレイを横に並べて1枚化したものというイメージなのだ。
まあ,一般用途からアート/デザイン/映像制作向けであれば,増えた縦解像度を各種ツールやユーティリティソフトのメニュー表示や制御パネル,ナビゲーションバー表示に使えそう……といったことになるわけだが,このXG43VQはゲーマー向けディスプレイなのだ。ASUS ROGは,なんともユニークな製品を作ったものである。
なお,昨年流行した32:9アスペクトのハーフ4K解像度の製品群は画面サイズがすべて49型だったが,今回発表されたXG43VQは43型で,微妙に小振りになっている。視距離50cm程度のデスクトップユースでは40型前半くらいまでが一望できる上限サイズで,昨年の49型は画面の端から端を見るときには首を回さなければならず(※左右視野角95度相当),やや大きすぎた印象もあった。今回のXG43VQは,ギリギリ一望できるサイズ感なので,昨年流行の49型/32:9アスペクトモデルに対して「ちょっと大きすぎる」と感じた人に本機はお勧めかもしれない。
ちなみに,XG43VQはゲーマー向けディスプレイとして開発されたので,そうした用途に向けたスペックも充実している。
液晶パネルはVA型。リフレッシュレートは120Hzで,120fpsまでの映像入力に対応していおり,可変フレームレート表示対応技術としてはFreeSyncに対応だ。
HDR表示に関しては,VESA DisplayHDR規格は取得していないが,AMDの「FreeSync2 HDR」には対応している。おそらくHDR信号の表示には対応しているが,エッジ型のバックライトシステムで,エリア駆動は簡易対応に留まっているのだろう。
下はXG43VQのカラースペクトラムだが,赤緑青のピークはそれなりに出ており,各ピーク感の谷間もしっかりしている。ゲーマー向けディスプレイ製品は緑と赤のピークが重なってしまっている製品が多いので,これはなかなか立派である。なお,色域はDCI-P3カバー率90%,sRGBカバー率125%とのことである。
発売日は今夏以降を予定しており,価格は1000ドル前後と,なかなかよいところを突いてきている。発色も良さそうなので,アート/デザイン/映像制作向け用途にも使えそうだ。
ASUSゲーマー向けディスプレイ製品情報ページ(英語)
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