インタビュー
「TERA」が基本プレイ無料化に踏み切った経緯と今後の展開について,日本運営プロデューサー鈴木貴宏氏にインタビュー
2011年8月に鳴り物入りで登場した本作は,当時のMMORPGとしてはトップクラスの美麗なグラフィックスや,アクション性の高いフリーターゲティングバトルなど,刺激的な要素をウリにして話題を独占。プロモーションの一環で秋葉原をジャックしたり,オープンβテストで同時接続者数約5万人を記録したりと,ゲーム内容以外の部分でも,多くのMMORPGファンの耳目を集めた。
そんなTERAが,ここに来て基本プレイ無料+アイテム課金制のビジネスモデルへシフトすることになったわけだが,そこにはどんな事情があったのか。今回4Gamerは,NHN JapanでTERAの日本運営プロデューサーを務める鈴木貴宏氏に,基本プレイ無料化の理由と狙いについてインタビューした。
関連記事:「TERA」が2013年2月中旬に基本プレイ無料(アイテム課金制)へ移行。本日からサーバーを無料開放
「TERA The Exiled Realm of Arborea」公式サイト
予想以上の苦戦を強いられた1年
4Gamer:
本日はよろしく願いします。
2013年2月中旬のアップデートと共に,「TERA」の基本プレイ料金が無料になるということですが,まずは,現在に至るまでのTERAの状況についてお聞かせください。
2011年8月に正式サービスを開始したTERAですが,残念ながら,2012年1月末にサーバー統合を行いました。これは,アクティブプレイヤー数が減少してしまったことによるネガティブな施策で,プレイヤーの皆さまには大変申し訳なく思っています。
4Gamer:
ちなみに,サーバー統合に至ってしまった要因は,どのあたりにあるとお考えですか?
鈴木氏:
アップデートサイクルが長い,エンドコンテンツが薄いなど,さまざまな要素が絡んでのことだと認識しています。それに加えて,やはり3000円という高額な月額料金が離脱率を高め,新規ユーザーの参入を阻んでいたのは間違いありません。
4Gamer:
3000円というのは,日本のMMORPGにおける月額料金の最高値でもありますし,昨今の時流を考えてみても,確かに高すぎるかな……と思えてしまいますね。
鈴木氏:
はい。しかし,ビジネスモデルは簡単に変えられるものではないので,とくにプレイヤーの不満が目立っていた,アップデート頻度,イベント実施に関する議論を重ねました。TERAの開発を担当する韓国Bluehole Studioは,大型アップデートの作業で手一杯であることが多かったので,日本運営チームで動かせるイベントを,まずは展開していったんです。
4Gamer:
いわゆるGMイベントやログインキャンペーン,スゴロク,ジャンケンなどの,大がかりなアップデートを必要としないイベント類ですね。
鈴木氏:
はい。しかし,そういった施策でプレイヤーをつなぎ止めるのにも限界があります。また,大規模なアップデートを行い,復帰/新規プレイヤーが一時的に増加しても,コンテンツの寿命は長くて1か月半というところでした。
4Gamer:
TERAは比較的レベリングが容易なゲームですし,レベルMaxのキャラクターをいくつも持っているプレイヤーさんからしたら,待ってましたとばかりに熱心にプレイしますもんね……。
鈴木氏:
そこでBluehole Studioも,長く遊べる循環系のコンテンツを導入しようと動いたのですが,当初の構想より小規模化してしまう,コンテンツ自体が楽しくないなどの問題がありました。また,対人/協力要素がメインのコンテンツは,アクティブプレイヤーが多くなければうまく機能しないため,成功とは言えませんでした。
4Gamer:
人が少ない状況が,さらに人を少なくするという負のスパイラルに陥ってしまったというわけですか。
残念ながら,そのとおりです。月額課金制のゲームですので,プレイヤーの減少が,ビジネス的な部分にも露骨に悪影響を及ぼします。TERAは日本以外の国でも運営されていますので,当時は開発会社もビジネス的にうまく回っている地域を優先し,リソースを割くようになるかもしれないとの大きな懸念がありました。
その流れを断ち切るために行った最初の施策が,2012年5月の「アルゴンの女王 PART.1」の実装タイミングで採用した,ハイブリッドモデル化です。
4Gamer:
ハイブリッド課金になったタイミングで,各種アバターが投入されましたね。
鈴木氏:
実は開発側は,アバターの投入に対して積極的ではありませんでした。韓国ではあまり人気が出ないだろうと考えていたようで,アバターに注力していなかったんです。しかし,日本ではアバターの反応が非常に良かったので,「今後はアバターにも注力しよう」という流れができました。
これにより,体操服やメイド服といった日本向けのアバターを制作するなど,開発会社の日本への感心が高まり,無料化においても積極的な対応を行ってくれました。
4Gamer:
ちなみに,アバターの制作にはどれくらいの日数がかかるものなんでしょう。
鈴木氏:
かつては6か月ほどかかっていたのですが,最近では開発チームの体制が整い,大きな動きのない簡単なものであれば,1か月半程度でリリースできるようになりました。
4Gamer:
複雑なもの……たとえば着物や浴衣のようなアバターだと,話が変わってくると。
鈴木氏:
はい。着物や浴衣に関する要望があるのは分かっているのですが,そういった衣装は,足を大きく開く「走る」モーションなどとの相性が悪いんですね。TERAのグラフィックスクオリティを満たしたうえで,それを作り込むとなると……半年以上の時間が必要になるため,制作自体が決定していない状況なんです。
基本プレイ無料化の計画は2012年の初頭からスタート
4Gamer:
そもそも,TERAの基本プレイ料金無料化に関する話は,いつ頃から検討されていたのでしょうか。2012年5月にハイブリッド課金を採用していますし,それよりも前だとは思うのですが。
はい,2012年初頭には計画が立っていました。ただ,TERAは月額課金制のゲームとして制作されたものなので,計画が立ったからといって,すぐに無料化を実施できるわけではありません。ですので,計画が本格化する前に,月額料金の引き下げや,無料体験サーバーの設置に関する調整を行いました。
4Gamer:
無料の体験サーバーは韓国で好評で,プレイヤーの声に押される形で常設化しましたよね。
鈴木氏:
そうですね。日本でも無料体験サーバーの実施に向けて進行していましたが,その間に無料化の話が具体化し,無料体験サーバーをオープンしても,すぐに無料化の発表をする可能性が高くなったため,無料化に注力する方向に切り替えました。月額料金の引き下げに関しては,例えば価格を半分にしたら利用者が2倍になる,2倍の期間プレイしてもらえる……というわけではありません。
4Gamer:
月額料金を払うことに抵抗を感じない人にとって,値段そのものはそれほど関係ないという話は,インタビューなどでもよく耳にします。そして多くのオンラインゲーマーが,「月額制」というビジネスモデルそのものに抵抗を抱いていることも,現在の市場を見れば明らかですよね。
鈴木氏:
そうなんですよ。月額制への抵抗感は,ここ数年とくに高まっている印象を受けます。楽観的に考えたとして,月額料金を半額にしたら,アクティブプレイヤーが2倍になるかもしれない。ただ,「かもしれない」だけでは,会社を説得することはできません。期間限定で半額利用券を販売するキャンペーンを実施して,説得根拠を集めましたが,リスクを払拭する明確な根拠とはなりませんでした。
幸いだったのは,先ほどもお話したハイブリッドモデルのアイテム販売部分の反応が良かったため,日本においても無料サーバーの効果が認められた点です。それをきっかけに基本プレイ無料化を推し進めました。
4Gamer:
なるほど。それにしても,NHN Japanで運営中の月額課金制タイトルを,簡単に無料化できるものではないと思います。無料化を後押ししたような理由が,ほかにもあるのでしょうか。
鈴木氏:
やはり,競合タイトルの動向は無視できませんね。他社さんのタイトルで大きな動きがあることは,もちろん意識していました。
ただ,TERAの無料化自体はそれ以前から検討され,実施は決定していたので,直接的に影響したというわけではないんです。
いずれにしても,無料化に向けた開発会社の体制が整ってきた今,間口を広げて新規プレイヤーを獲得することは,これまでTERAを支えてくれた方々にも,最終的に良い形になると考えています。
4Gamer:
ちなみに鈴木さん個人としては,今回の無料化についてどのようにお考えですか?
う〜ん,難しいですね……。個人的に月額課金制のゲームは好きなのですが,それに期待されるアップデート頻度,コンテンツ量に達していなかったのは,認めないわけにはいきません。そういう意味では,3000円という料金設定は,少なくとも適切でなかったと考えています。
4Gamer:
しかし,月額制から基本プレイ無料+アイテム課金制に転換すると,収益のバランスも相当変わってきそうですが,ハイブリッド課金の部分は,もともと好調だったんですか?
鈴木氏:
詳しくは説明できませんが,会社に無料化を了承してもらうだけの,説得力のある数値が出ていました。今までTERAを支えてくれたプレイヤーさんのおかげですので,深く感謝しています。
4Gamer:
新規ユーザーに対する施策なども,当然予定されていますよね。
鈴木氏:
12月26日のメンテナンス終了後からですが,完全無料化まで待てないという方のために,「無料化記念決定キャンペーン」を実施し,既存プレイヤーも新規プレイヤーも,利用券なしでプレイできる無料開放を行います。
また,新規プレイヤーとして完全無料化後に遊び始める場合,キャラクター作成数の上限が減少するなど,一部仕様が変更となります。キャンペーン期間中に始めれば,現在の仕様のままプレイできるという,新規プレイヤー向けキャンペーンも実施します。あわせて,レベルが一定以上に達したらゲーム内アイテムがもらえる「新兵歓迎キャンペーン」も展開します。
4Gamer:
つまり,TERAに興味がある人は,この年末年始に遊び始めるのが吉,ということですね。一方,現役プレイヤーや,復帰プレイヤーに対する施策はありますか?
鈴木氏:
これまでTERAを支えてくれたプレイヤーの皆さんには,無料化後のメリットとして,月額制時代のプレイ期間に応じた特典をご用意しております。もちろん,既存プレイヤーの皆さんが,極力これまでと同様の感覚でプレイできるよう,我々も開発会社も尽力します。
4Gamer:
既存プレイヤーは無料化後も,仕様変更の一部を受けない状態でTERAをプレイでき,別途既存プレイヤー特典を受けられるというわけですね。特典の内容は,どのようなものになるんでしょうか。
鈴木氏:
内容についてはギリギリまで検討させていただきますが,無料化後にはプレミアムサービスという,ゲーム内メリットのある有料商品を販売いたします。この内容の一部を調整して,これまでTERAをプレイしてくださった期間に応じてプレゼントいたします。
4Gamer:
順調にいけば,相当数の新規/復帰プレイヤーがTERAを遊ぶことになりますが,サーバーの増設なども検討しているんでしょうか。
鈴木氏:
11月28日から実施している新規&カムバックキャンペーンの影響もあり,おかげさまで非常に良い状態が続いていますが,サーバーのキャパシティ的には問題はありません。このため,無料化と同時にサーバーを追加する予定はありませんが,いつでもサーバーを追加できる準備はしています。
無料化と同時に「解放」アップデート実施
2013年春には「所属勢力」を生かしたコンテンツを投入
4Gamer:
基本プレイ無料化以降の,TERAのアップデート計画についても,可能な範囲でお聞かせください。
エンドコンテンツを拡充するために,そちらに関しては継続的にリソースを割いていきます。無料化と同時にインスタンスダンジョンの追加と,リニューアルした「闘志の戦場」を追加する予定ですが,それと並行する形で,もっと小さなサイクルで,プレイヤーのニーズにあったアップデートを行っていくつもりです。
その第一歩として,既存プレイヤーから要望の多かった,フレンドリストの拡張やペットの実装を行います。開発会社も,もっと日本に力を入れて行くことを約束してくれていて,無料化後となりますが,日本独自ペットの制作も決定しています。
4Gamer:
アクティブプレイヤーが増えると,コンテンツの消費パターンや,対人戦周りのプレイフィールも変わってくると思うのですが,そちらについてはどうお考えでしょうか。
鈴木氏:
TERAはMMORPGですので,むしろアクティブプレイヤーが増えてくれないと,適切なゲームバランスが発揮できないところがあります。無料化後は,パーティが組みやすくなったり,ギルドが活性化したりと,基本的には良いスパイラルが生まれると思います。
ただ,これはオンラインゲームの宿命でもありますが,BOTやRMTに関する問題は,残念ながら増えることになると考えています。月額課金制時代,BOTやRMTに関する発言が多くのプレイヤーの目に触れていたので,そこには徹底的に対応するつもりです。
セキュリティ上詳しくは語れませんが,TERAには表からは見えない部分に,BOTやRMT行為を検知できるシステムを組み込んでいます。これらに加えて,不正対策についてはさらなる対応策を導入しますので,ご安心いただければと思います。
4Gamer:
ちなみに,PKに関してはいかがでしょうか。
鈴木氏:
TERAにもPKはありますが,コミュニティ的な盛り上がりもなく,正直あまり楽しくはないんですよ(笑)。PK可能なサーバーは,日本では1サーバーのみなので,あまり力は入れていない状態です。PvPが好きなプレイヤー達は,決闘,グループ決闘,戦場といったコンテンツをプレイしている印象です。
4Gamer:
いずれにしても,MMORPGにおける対人戦要素は,エンドコンテンツとしても機能しますし,プレイヤー数の増加による影響を真っ先に受ける部分かもしれませんね。
鈴木氏:
おっしゃるとおりです。先ほどちょっとだけ紹介した「闘志の戦場」のリニューアル版ですが,これは3vs.3の対人戦コンテンツなんです。1vs.1は緊張するし,名誉の戦場では活躍した手応えが感じにくい。そんなプレイヤーには,このコンテンツがオススメだと思いますよ。
4Gamer:
確かに3vs.3だと,適度な緊張感……というか責任感が生じますし,なかなか熱そうですね。
ほかには何かありますか?
無料化後の予定で開発中の内容となりますが,2013年の春頃に,「連盟」というコンテンツを追加します。プレイヤーが3つの勢力のいずれかに所属し,他の勢力と対立/協力しながら,ギルド単位で遊んでいただけるコンテンツになる予定です。
4Gamer:
やはり,基本的にはコアプレイヤー向けのコンテンツになるんですか?
鈴木氏:
TERAはレベル上げがそれほど苦痛に感じない仕様になっていて,初心者の方もレベルアップが早いという特徴がありますので,十分楽しめると思いますよ。今後追加されていくコンテンツはレベル60とか,若干高いものが多いのですが,レベルアップに関しては今から初めても十分に追いつける感じです。
4Gamer:
おお,それはいいですね。低レベル,中レベル帯のコンテンツはいかがでしょう。
鈴木氏:
レベルキャップに達しているキャラクターの割合が増え,低レベル帯のキャラクターが減少していくのはMMORPGの宿命とも言えます。TERAでも,それによってパーティが組みにくくなり,低〜中レベル帯のコンテンツを攻略しにくくなるという悪影響が出ていました。
ですが,これまでのアップデートで,メインミッションの部分はソロでも攻略可能なバランスになっていますので,プレイヤー数の増加が見込める無料化後,新規/復帰プレイヤーのレベリングは,以前よりもかなり快適になるはずです。さらに,初心者エリアのレベルデザイン改善や,ソロでも倒せる中型モンスターの追加など,新規プレイヤーを意識した調整を行います。
4Gamer:
分かりました。楽しみにしています。それでは最後に,4Gamer読者に向けてメッセージをお願いします。
鈴木氏:
月額課金制のMMORPGということで敬遠されていた方や,ゲーム内コンテンツが物足りないという理由で引退した方は少なくないと思います。TERAは2013年2月に,基本プレイ無料のMMORPGとしてリスタートします。まだやるべきことは山積しているものの,ゲーム内コンテンツも徐々に充実してきています。
事実上の基本プレイ無料サービスはすでに行われていますので,ぜひTERAの世界に飛び込んでみてください。
4Gamer:
ありがとうございました。
「TERA The Exiled Realm of Arborea」公式サイト
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