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ハーツ オブ アイアンIII 連載 / 第9回:欧州でやり甲斐のある枢軸といえば「ハンガリー」
この連載は,第二次世界大戦およびその前後の歴史に関わった,いかなる国や民族,集団,個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものですので,あらかじめご了承ください。
第二次世界大戦のヨーロッパ戦線は,簡単にまとめてしまえば「ドイツが勝つか負けるか」の戦争である。プレイヤーとしては,ドイツがフランスを踏みつぶすまでは既成の事実で,対ソ戦がどう展開するか,第二戦線の構築がどうなるのかといったあたりが関心の焦点といって,さほど間違いではないだろう。えっ,アフリカですか……?
しかしながら1.4パッチからこのかた,AIドイツの電撃戦は基本的にフランス戦で頓挫する。難易度「普通」だと,頓挫の安定感が半端ではない。ドイツおよび枢軸は西部戦線において,ほぼ疑いなく第一次世界大戦の焼き直しを演じ,東部戦線においてナポレオン戦争の焼き直しを演じることになる。つまるところ,破滅である。
もちろん,人間プレイヤーがドイツをプレイするぶんには,これくらいチャレンジしがいがある難度のほうが面白いだろう。さまざまな作戦が考えられるし,可能な限り小さな損害で西部戦線を勝てなかったら,東部戦線が破綻すること請けあいだ。結果的に,この連載で示したような「ポーランドに先制攻撃」という方針も,さまざまなアレンジを加えて織り込むことができるだろう。
だが,ドイツでプレイして面白くならなかったとしたら,それは第二次世界大戦のゲームとして根本的に問題がある。かといって,枢軸必敗のバランスで連合軍側の小国(かつ合理的な範囲にある国家,例えばベルギーやオランダ)をプレイしても,面白みに欠ける。
というわけで,今回はヨーロッパにおけるドイツの重要なパートナーの一人,ハンガリーを選んでみたい。「イタリアじゃないの? もしかしてイタリアを蔑視してる?」とか言われそうだが,そうではない。簡単に言えば「イタリアほどの大国で堅実にプレイすれば,枢軸が負ける可能性は極めて低い」のだ。勝ちが決まったゲームなんて,つまらないのですよ。
さて,ではハンガリーがHoI3でどこまで頑張れるか,試してみよう。
ハンガリーの国家としてのスペックは,おおむね標準的な中小国といったところ。海がない国家なので海軍は一切の研究が成されていないが,その状態でも輸送船は作れるので,基本的に困りはしない。というか,こんなサイズの国家でまともな海軍が動かせるはずがない。
人的資源には比較的余裕があって,わりと無理な動員も行えそうだ。とはいえ湯水のように浪費できる余地はまったくないので,できれば戦力の基幹は装甲に置きたい。航空機にも夢はあるが,戦車か航空機か,どちらかの選択にならざるを得ないので,今回は装甲ということにしよう。
HoI3におけるハンガリー最大の特徴は,政治的に枢軸に極めて近いというところだろう。速度でいえば,日本やイタリアの次くらいに枢軸入りが果たせる(場合によっては最速のことすらある)。今回はドイツを支援してヨーロッパに覇を唱えるのが目的なので,迷わず枢軸入りを目指す。
戦略的な指針としては,おおむね2種類が考えられる。
(1)普通に陸軍を編成してドイツを支援する
(2)序盤から侵略戦争で領土を拡大し,オプションを増やす
HoI3では他国を占領して併合しても,劇的に何かが改善されるわけではないので,(2)にはあまり意味がないように思えるかもしれないが,今回はあえて(2)を選ぶものとする。
ただしこれは,トルコを早期に叩いてバルバロッサ作戦をバクー方面から支援,という構図ではない。なぜならドイツにとって最も必要な支援は,西部戦線であるからだ。西部戦線を支援するために叩くべきは,当然ながら別の国となるのだ。
まずは基礎的な研究をしながら中立度を下げ,自由な宣戦ができる体制を作る。枢軸に入ると中立度がガクンと下がるので,1937年には周辺国家への宣戦が可能だ。
戦争すべき相手は,ユーゴスラビアである。本当はルーマニアのほうが望ましいのだが,国力的にハンガリーでは厳しい。枢軸全員で殴りかかれば確実だが,そのためにはオーストリアがドイツに併合されている必要がある。今回は,そこまで時間をかけたくはない。
ユーゴスラビアは,国土の広さの割には,そうたいした軍隊を持っていない。山岳部で若干の苦戦をするが,基本的には負けのない戦争だ。降伏したユーゴスラビアは併合し,これによってハンガリーは海を得る。これがユーゴ攻略の,真の目的である――海にさえ面していれば,例えばアメリカなどの大国との海上貿易が可能になるのだ。これでもたらされる経済的な自由度は計り知れない。
ユーゴスラビアを併合したら,いったん平時に戻るが,このあたりからドイツの戦車のライセンス生産を開始する。物資をアメリカに売って得た資金で,ドイツへのライセンス料金を払うのだ。あわせて電撃戦系のドクトリンを研究し,国産の戦車はまるで駄目だが,ドイツ製戦車の運用なら胸を張れるという軍隊を作り上げていく。車はドイツ車に限るってやつですよ。
当然だが,歩兵関係の研究も怠らない。戦車は強力だが,戦線の根幹を支えるのは歩兵である。ハンガリーは小国だが,歩兵の装備と戦車のドクトリンだけに絞り込めば,ある程度まではなんとかなる。工業関係はズタボロになるが,やむを得ないだろう。
そうこうするうちに,1939年が到来した。ドイツは電撃的にポーランド侵攻を開始する。長い戦争の始まりである。
ハンガリー軍は南部からポーランド領内に侵攻,抵抗らしい抵抗もなくポーランドは陥落した。これに伴い,ほんのちょっとだけハンガリー領が拡大する。
ここからが本番である。ハンガリー軍を西に転換,すでにベルギー正面あたりで膠着し始めた戦線へと投入する。ぜひともAIコントロールで頑張りたいところなのだが,AIはどうしても西部戦線を「戦うべき場所」として把握してくれなかったので,覚悟を決めてハイスタック勝負に出ることにする。
敵が最も分厚い戦線で攻勢を仕掛けるなど愚の骨頂だが,イタリア軍と一緒にフランス軍と戦うというプランは,制海権の問題からいろいろと無理があったのだ――マルセイユを強襲して篭城する予定だったのに。
さてベルギー正面だが,とりあえず,作戦も何もあったものではない。変なポケットを作られないようにするため,海岸線に全軍を集めて,せーので敵のハイスタックに,こちらのハイスタックをぶつける。現状の膠着状態は,「今の敵戦力では突破できない」から発生しているのであって,ハンガリー軍が敵前線を後退させられなくとも,消耗した敵軍にドイツ軍が追い打ちをかける可能性は非常に高い。
驚くべきことに,ハンガリー軍は困難な戦いに勝利。強引にパリへの道をこじ開けていく。ベルギー北端が崩れたことにより,ドイツ軍もその隙間から流入を開始,戦線は徐々にパリへと向けて進み始めた。
が,このとき,何を思ったかイタリアがギリシャを挑発。ギリシャはイタリアに宣戦布告する。ええっと,いまハンガリー・ギリシャ国境は無人ですが……?
青ざめるが,いまこの軍隊を引き抜くわけにはいかない。というか,そんな時間をかけてはいられない。幸い,ドイツ軍とイタリア軍が合同でギリシャ軍を撃退しはじめ,やがてギリシャはハンガリーに併合された。
失われた時間を思うと気が遠くなるが,愚痴は言っていられない。気合と根性でフランス北方でのゴリ押しを続ける。そのうち,ギリシャ派遣軍が戦線に戻り,そうして突然フランス・イタリア国境が決壊した。北方における強引な突破の連続に対応するために連合軍が南方から部隊を引き抜いたところに,ギリシャ派遣軍が戻ってきたためだ。
フランスは南部から崩壊を開始,やがて北と南の枢軸軍が手をつないだ。ヴィシーフランスが成立し,枢軸は連合軍を大陸から駆逐することに成功する。第一段階は,勝利である。そして時はまだ1941年2月,バルバロッサまでにはわずかとはいえ余裕もある。
これは……いけるんじゃないの!?
そうして1941年の春,いよいよバルバロッサ作戦が始動された。赤軍の戦線は分厚いが,枢軸軍は順調に突破を果たしていく。そしていつものように,赤軍の南方戦線が決壊,ハンガリー軍の前に敵影がなくなった。
とはいえ,ここでスターリングラードを目指して走ったところで,ドイツ軍を支援することにはならない。確かにソビエトが守るべき戦線正面は広くなるが,こちらが維持すべき攻勢正面も広くなるのだから,最終的には数に劣り質も自慢するほどではないハンガリー軍正面が破綻するのは,言うまでもない。
そこで,今回は南方正面が消えたところで,あらためて攻撃目標をモスクワにセット。遠大な包囲網を構想してみた。史実の逆である。赤軍最前線はまだまだ頑張っており,それなりに戦力を誘出しないと膠着しかねない。
しかし,それにしても,なんだか赤軍の数が多い。おかしいな……日本は枢軸に入ってるんだから,もう勝ち戦のはずなのに。と,思ったら,日本の領土は大陸から消滅していた。おいおい,日本軍なにやってんの……? これ,ヤバイかもだ。
ハンガリー軍は善戦を続け,またドイツからの派遣軍も多数送られてきたため,戦線を固めつつ拡張することに成功した(ちなみに派遣軍はでくの坊のようにつっ立っているだけなので,かたっぱしから指揮系統に放り込むという恐ろしい作業である。でも勝ち戦なんだから気にならない)。ざっと見て,あと1年くらいでソビエトは決定的に崩壊するだろう。今は1942年の春。いける。これはいける。
ドイツとハンガリーの共同作業は,今まさにその最終的な帰結を見ようとしていた。
いたんですが。
最初に抱いた違和感は,「デンマークが云々」という窓。デンマーク? ええと,何が起こったので……?
地獄の東部戦線から画面を西部戦線に向けようとすると,そこにはアメリカ軍にほとんど飲み込まれかけたドイツの姿が。なにこれ。ドイツはヨーロッパ要塞をお守りだったんじゃないんですか。てっきり私めはそういうものだと思って,東部戦線に集中してたんですが。というか1942年にアメリカ軍がヨーロッパ上陸って,いくらなんでも気が早く……ああそうか,日本はもう終わっちゃってるんでしたね。
以上,1942年春,先手枢軸軍の詰みです。
かくしてドイツはアメリカ軍に降伏,ドイツ全土が米軍の手に落ちた。東西分割されずに済んだとは,史実と比べて幸せな負け方といえるだろう。
ドイツ軍を失った東部戦線は,もはや戦線でもなんでもなく,ハンガリー軍および派遣ドイツ軍はつぎつぎにソビエト軍の餌食になっていく。場合によってはソビエト軍とアメリカ軍のタッグとか。なにそれ。
……いや待て。こうなったからには,負け方を考えなくては。絶対に避けるべきは,ソビエトに国土を占領されることだ。ドイツ全土をアメリカが占領した世界において,「東側」に組み込まれるなんて絶対に御免だ。
けれど,赤軍の足は早く,米軍は補給に苦しんでいる。このままだとブダペストは赤軍の手に落ちる。何か手はないか……? 何か?
あった。
ハンガリー政府は,中立を維持していたルーマニアに宣戦布告。ルーマニアは連合国入りしてハンガリーを攻撃し始めた。怒涛のように押し寄せるルーマニア軍! だが君たちは赤軍ではない!
ついでに,ユーゴスラビアを再独立させておく。戦後を鑑みるに,あんな火薬庫を国内に抱え込んでしまうわけにはいかない。民族自決の精神でよろしくお願いします。米ソ相手に頑張ってください。
かくして,ハンガリーはルーマニアによって制圧され,ハンガリー政府はアテネを臨時首都として抗戦を試みるも,そこで降伏勧告を受諾することとなった。うん,もうちょっといろんな歯車が噛み合えば,勝てたんじゃないかな……でも負け方としては,そこまで悪くない負けだったはず。
反省点は,いくつかある。
まず,ユーゴスラビア戦は,枢軸全体で戦争すべきだった。これによってドイツが戦時動員体制に入れるので,ドイツの人的資源を底上げできたはずだ。微々たる差でしかないといわれれば,そうかもしれないけれど。
また,ユーゴを陥落させたら,無理を押してスペイン戦に打って出るべきだったかもしれない。勝てるかどうか極めて怪しい戦いだが,はっきりいえば「勝てなくていい」のだ。大事なのは,バレンシアあたりの軍港と,それと連結した戦線としてフランス国境を有していること。これによって連合軍は3正面を作らざるをえなくなる。ここまでやれば,自然にドイツ軍の突破は可能……になってくれると,いいのだが。まぁ,普通に輸送船団が連合国海軍にズタボロにされて詰むだけのような気もする。
結果的に割とあっさりした展開にはなったが,ゲームとしてはかなり面白かった。ライセンス生産した戦車を先頭にした陸軍は,小国とは思えない機動力と突破力を誇る。戦争全体のデザインも含めて,「こうしたら,もしかして?」と思わせてくれる選択肢も多い。
ちなみにチェコスロバキアで同じことを試みた際のスクリーンショットも,付録としてつけておこう。なんだこれは……。
さて,次回はいよいよ最終回。一部の方のご想像通り,ポーランドである。個人的には無限の可能性を秘めた国だと思うので,いろいろ頑張ってみたい。やっぱりなんともならないかもしれないけれど。
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