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「GTC Asia 2011」基調講演レポート。2019年には100Wクラスのゲームコンソールが10TFLOPSを実現する!?
NVIDIAによれば,1500人以上の事前登録があり,24の国と地域からプレゼンターを含む参加者が集まっているとのことだ。
このイベントは,GPUコンピューティングをテーマに,70以上のテクニカルセッションが設けられており,セッションの多くはHPC関係――たとえば量子化学のシミュレーション――といったものが中心だったりする。
そんなわけで,どちらかといえば学術色が強いものになっているが,開催初日の14日に同社CEOのJen-Hsun Huang(ジェンスン・フアン)氏が行った基調講演では,ゲームの話題と共にGPUコンピューティングの展望が語られていたので,ゲーム絡みの話題を中心にお届けしてみたい。
ゲームと共に歩んできたGPU
Huang氏によれば,GPUコンピューティングは,5年前にNVIDIAが始めたCUDAからスタートし,これまでに年間平均で166%の成長を続けているとのこと。GPUコンピューティング市場は,45億ドルというGPU全体の市場規模からすると,ほんの一握りに思えるかもしれないが「長期的に見れば,非常に大きなインパクトを持っている」と氏は語る。
ここでHuang氏は,「国によって用途は異なるが,GPUコンピューティングを用いたインパクトのあるアプリケーションが登場している」として,中国の敦煌石窟を疑似体験できる3Dドームシアターや,GPUを用いたシカゴのプラネタリウムなど,いくつかの事例を紹介した。
スライドに映っているのは,中国にある敦煌石窟を疑似体験できる3Dドームシアターだという。1.4Gpixelのカメラで撮影された敦煌石窟を再現できるものになっており,GPUによる高ピクセルレートが生かされているとのこと |
シカゴのプラネタリウムの例。GPUを利用することで,銀河や超新星爆発を高解像度でシミュレートして観客に見せることができるという |
このように高い応用力を持つGPUなのだが,GPUを手がけるNVIDIAはどう始まったのだろうか。
これに対してHuang氏は,「NVIDIAには3Dグラフィックスをコンシューマの手が届く価格で作り出す」というビジョンがあったと語る。GPUを安く大量生産することにより普及が進み,それによって得た利益で技術が発展するというのが,Huang氏の考えの主軸になっているようだ。
ゲームクリエイターである鈴木 裕氏の名前を挙げながら,「これが我々にとってのスタートポイントだった」とHuang氏は「バーチャファイター」を紹介する |
バーチャファイターの10年後である2004年にリリースされた「DOOM 3」。GPUのプログラマブルシェーディングを可能にした統合型ライティング&統合型シャドウシステムによって,モンスターの陰影やマッドなエフェクトが実装されたという |
当時としては画期的だった統合型ライティング&統合型シャドウというシステムが実装されたDOOM 3は,陰影表現を用いたモンスターのリアルな描写が評判となったタイトルだ。
そのDOOM 3の登場から7年後の2011年にリリースされたのが,日本でも大いに話題となっている「バトルフィールド 3」である。
これらのタイトルを提示し,Huang氏は,「グラフィックスは,驚くべき進化をし,多くのゲーマーがそれを体験してきた」と語る。また,バトルフィールド 3においては,Electronic Artsが大きな成功を収めたことを例に挙げ,「ゲームは,エンターテイメント産業のなかで,大きな成長を遂げている」と言う。
そんな状況のなか,Huang氏は,さまざまな新技術を採用したゲームタイトルが登場しているとし,中国でリリースされている「全球使命」を新世代のゲームとして紹介した。
そしてDOOM 3の7年後にリリースされたのが,バトルフィールド 3である。ラジオシティを応用したグローバルイルミネーションやテッセレーションなど今日(こんにち)のGPUをフル活用しているゲームであることはご存じのとおりだ |
Huang氏が紹介した「全球使命」はTPSのように見える。PhysXを利用した物理シミュレーションが特徴で,「すべてのものが動き,すべてが生きている」とのこと |
ラジオシティを使ったグローバルイルミネーションの解説をするHuang氏 |
爆発シーンのシミュレーションの様子。物理シミュレーションは,科学と同じ技術が利用できるため,シミュレーションとその映像化が次の開拓地になるだろうとHuang氏は語っている |
全球使命やバトルフィールド 3などのゲームタイトルで利用されている技術は,シミュレーションがベースとなっているため,「まったく同じ技術を科学技術計算に利用できる」とHuang氏は説明する。
そのためHuang氏は。「リアルタイムのシミュレーションとその映像化は,科学者にインスピレーションを与え,シミュレーションとその映像化がゲームにおける次の開拓地になるはずだ」と述べた。
GPUの演算性能はエクサフロップスへ
と,ここまではゲームを例に出しつつ,GPUの成長を示したHuang氏だったが,ここからは「デザインの進化」に話を切り替えた。
現在は,CUDAにより,レイトレーシングを活用して「物理的に正確」なグラフィックスをデザインできるようになっているとアピールする。
Maximusワークステーションは,NVIDIAのQuadro製品とTesla製品を搭載したPCで,Quadroが表示を担当し,Teslaがシミュレーションなどの演算を担当する仕組みだという。
ワークステーションの誕生から約20年の時を経て,スーパーコンピュータとワークステーションを融合させることに成功したのだとHuang氏はアピール。これにより「デザインとシミュレーションという2つの作業を閉じたループにできる」と述べている。
Huang氏は,そのMaximusワークステーションを利用し,デザインとビジュアル制作という2つのデモを披露して会場を沸かせていた。
Maximusワークステーションを使ったデザインのデモ。バイクの色などを変えると,レイトレーシングによる写実的な画像がリアルタイムで表示される |
ビルの上にある人形がトム・クルーズ,監督はジェームズ・キャメロンという設定で,映像制作の例をHuang氏は紹介。リアルタイム流体シミュレーションを用いてステージ上に水を流してみせた |
1秒間に10の18乗回の浮動小数点演算を行うEFLOPSは,現在のHPC業界における,最大の目標である。その目標に対する最大関門が消費電力なのは,多くのHPC関連企業が認めるところだ。
Huang氏は,HPCが従来と同じ比率で性能向上を遂げていくためには,4年間の間に電力効率が8倍になる必要があるいう。しかし,CPUの電力効率は鈍化しており,4倍程度に留まるという予想をしている。
さらにHuang氏は,2019年には100Wクラスのゲームコンソールで10TFLOPSを達成すると述べており,これはCrayが2003年に発表したスーパーコンピュータ「Red Storm」と同じ能力だという。
では,我々ゲーマーが利用するGPUは2019年にどうなっているのだろうか。そんな疑問に対し,Huang氏は,Ubisoft Entertainmentの「Assassin's Creed: Revelations」のデモムービーをまず見てほしいと語る。
披露されたデモムービーは「E3 2011」の開催直前に公開されたものだが,髪の毛を始めとする多数の物理シミュレーションや,グローバルイルミネーション,パーティクルシミュレーションなどが駆使されているとのこと。スーパーコンピュータを用いて1フレーム当たり1時間かけてレンダリングしたものだとHuang氏はいう。
そして「2019年には,この描画がリアルタイムにGPUで行えるようになる」と豪語する。つまり,このAssassin's Creed: Revelationsのデモを見れば,2019年のGPUがどの程度の性能を備えているか分かるというわけだ。
EFLOPSと言われても,ゲーマーにとっては無関係のように思えるかもしれないが,こうしたデモを見せられると,EFLOPSへのチャレンジが,ダイレクトにゲーマーの世界に繋がっているが実感できるのではないだろうか。GPUの進歩とともに,リアルで面白いゲームが登場することに期待したいところだ。
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