レビュー
GeForce 200シリーズ初のミドルクラスGPU,その素性を探る
ZOTAC GeForce GTS 250 AMP! Edition
» GeForce 200シリーズ初のミドルクラスGPUにして,GeForce 9世代のハイエンド製品,「GeForce 9800 GTX+」のリネーム版に当たるGPUのレビューをお届けしたい。G92bコアを採用した“新製品”のポイントはどこにあるだろうか。
Streaming Processor数216基版「GeForce GTX 260」の下に位置づけられたこのGTS 250は,いったいどのような素性のGPUなのか。今回は,ZOTAC Internationalから直接入手したクロックアップ版グラフィックスカード「ZOTAC GeForce GTS 250 AMP! Edition」(型番:ZT-20102-10P)のテストを通じて,明らかにしてみたい。
GTS 250のスペックは9800 GTX+そのもの
カードデザインも(新型)9800 GTX+とほぼ同じ
さて,今回はスペックから見てみることにするが,表1で明らかなとおり,GTS 250のそれは,「GeForce 9800 GTX+」(以下,9800 GTX+)とまったく同じ。つまり,GTS 250は,9800 GTX+の型番を,最新の製品命名ルールに従って変更したもの――俗にリネーム版,あるいはリブランド版と呼ばれるもの――に過ぎない。
2008年7月30日の記事でお伝えしているように,NVIDIAは先に「GeForce 8800 GT」を「GeForce 9800 GT」へと“改名”したことがあったが,今回,それと同じことが9800 GTX+でも行われたというわけだ。
製品名だけぱっと見ると,開発コードネーム「GT200」と呼ばれるGPUコアを採用したGeForce GTX 200シリーズと同じGPU世代の新製品と錯覚してしまいそうになるが,実際は「G92b」コアをベースとするGPUの単なる型番変更。GeForce GTS 250のGPUアーキテクチャはあくまでもGeForce 9/8世代のものとなる。
以上を踏まえつつ,ZOTAC GeForce GTS 250 AMP! Editionをチェックしていきたい。
本製品は,グラフィックスメモリ容量が1GBとなる,GTS 250の上位モデル。さらに,動作クロックはコア750MHz,シェーダ1890MHz,メモリ2300MHz相当(実クロック1150MHz)へと,メーカーレベルのクロックアップがなされている。補助電源コネクタは,初期の9800 GTX+搭載カードだと6ピン2系統だったが,NVIDIAのリファレンスデザインを採用したと思われるZOTAC GeForce GTS 250 AMP! Editionでは同1系統となった。
多少,搭載部品に違いは見られるものの,メモリチップの配置やVRM(≒電源周り)の構成に違いはほぼなし。先ほど筆者は,GTS 250が9800 GTX+の製品名変更版であると述べたが,より正確を期せば,「補助電源コネクタ1系統版9800 GTX+搭載カードの型番変更版」ということになりそうだ。
さて,今回のテスト環境は表2のとおり。前述したようにZOTAC GeForce GTS 250 AMP! Editionはクロックアップモデルなので,今回は「NVIDIA System Tools with ESA Support」(Version 6.03)から,動作クロックを定格にまで落とした状態でも検証を行う。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション6.0準拠。ただし,スケジュールの都合により,「Crysis Warhead」と「Unreal Tournament 3」,「デビル メイ クライ4」は省略した。
なお以下,本文,グラフ中とも,グラフィックスカード名ではなくGPU名で表記し,さらにZOTAC GeForce GTS 250 AMP! Editionの標準クロックとなるクロックアップ状態については「GTS 250[OC]」と表記して区別する。
当たり前だが9800 GTX+並みの性能
クロックアップ効果は大きくない
さっそくそのパフォーマンスを確認していこう。
グラフ1,2は「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の結果である。当たり前といえば当たり前だが,GTS 250と9800 GTX+のパフォーマンスはほぼ同じ。また,3DMark06において,GTS 250[OC]のクロックアップ効果はそれほど大きくない。
続いてはFPS,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)の結果だが,グラフ3,4では,9800 GTX+のほうがGTS 250よりも気持ちスコアが高めである。先ほど示したGPU-Z実行結果にもあるとおり,9800 GTX+のほうがコアクロックは2MHz高いのだが,いくらなんでもこの違いが影響したとは考えにくい。GPUコアのバージョンが異なること,あるいは,カードの構成部品の違いなど,そういった部分が影響した結果ではないだろうか。
なお,ここでもGTS 250[OC]のメリットはあまり感じられない。
グラフ5,6はRTS,「Company of Heroes」の結果,グラフ7,8はレース,「Race Driver: GRID」(以下,GRID)の結果をそれぞれまとめたものだが,ざっくり前者は3DMark06,後者はCall of Duty 4と似たような傾向になっている。
CUDAのGPUアクセラレーション性能も変わりなし
「消費電力が下がった」その理由は?
今回,NVIDIAが全世界のレビュワーに向けて配布したレビュワーズガイドでは,GTS 250におけるCUDAアクセラレーションの有効性を見るものとして,「ArcSoft製ソフトウェアビデオプレイヤー,『TotalMedia Theatre』を用いて,ビデオのリアルタイムアップスケーリング検証を行うように」という指示があった。
もちろん,ゲームプレイとは直接関係しないが,ゲーマーでもトレイラームービーなど,PCでビデオを見る機会は少なくないだろう,ということで,今回は簡単に,CUDAの有効/無効時で,解像度720×480ドットのDVD-Videoを1920×1080ドットのフルHDへとリアルタイムアップスケールするときのCPU使用率をチェックしてみた。その結果がグラフ9だ。
CPU使用率の取得にはOS標準のパフォーマンスモニタを利用し,DVD-Videoを30分間再生し続けて,平均使用率をスコアとしているが,CPUだけで処理すると90%程度に跳ね上がるCPU使用率が,CUDAを利用してGPUアクセラレーションを行うと,17%前後にまで低下する。しかも,今回のテストで用いた「Core 2 Duo E8500/3.16GHz」によるCPU処理だと,負荷率が高まるだけでなくビデオがコマ送りになってしまったりもしたので,CUDAの意義はあると述べるべきだろう。
なお,このアップスケーリングのテストにおいても,GTS 250と9800 GTX+の間に違いがまったくないことは付記しておきたい。
ところで,上の表1でも示しているように,NVIDIAの示す最大消費電力は,GTS 250が150W,9800 GTX+が122W(グラフィックスメモリ512MB版)/141W(同1GB版)と異なっているため,消費電力周りには何らかの変化が生じている可能性がある。というわけで,ログを取得できるワットチェッカー,「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力をいつものように計測してみることにした。
OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時とし,結果をまとめたのがグラフ10だ。スペースの都合で,Call of Duty 4は「CoD4」,Company of Heroesは「CoH」と表記しているが,全体として,アプリケーション実行時はGTS 250のほうが9800 GTX+よりスコアが低いのを見て取れる。
ただ,それだけが理由にしては下がりすぎのような気もする。いくらなんでもリビジョンチェンジしていないGPUがシュリンクしたと考えるのは楽観的ということも踏まえるに,上の写真で示した,VRM周りの部品の違いなどが,メモリ電圧ともども影響したと見るべきではなかろうか。少々歯切れが悪くて恐縮だが,少なくともこの結果を基に,「GTS 250への製品名変更で消費電力が下がった」と断じるのは早計だといえる。
最後に,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,アイドル時ともども,GPUの温度を測定したものがグラフ11である。
これは,室温19℃の部屋で,PCケースに組み込まないバラック状態にあるテスト環境におけるGPU温度をGPU-Zから計測した結果だが,ご覧のとおり,アイドル時,高負荷時とも変わらないレベルである。高負荷時のファン回転数設定をチェックしてみると,GTS 250は37%,9800 GTX+は46%だったのだが,ファンの動作音は体感であまり差が感じられなかったので,このあたりはメーカー各社のVBIOS(※グラフィックスカードのBIOS)設定次第,といったところだろうか。
型番変更を伴った実質的なプライスダウンで
唯一最大のメリットはコストパフォーマンス
ZOTAC GeForce GTS 250 AMP! Editionの製品ボックス |
改名するにしても,“GeForce GTX 180”とか,そんな感じにして“GT200ぽさ”を消しておけば,まだ混乱は少なかったと思うのだが…… |
3月3日時点における9800 GTX+搭載カードの実勢価格は,最も安価な製品でも1万6000円程度。標準的なラインはおおよそ2万円弱といったところである。しかも,補助電源コネクタが6ピン1系統のモデルは,今回取り上げたエルザジャパン製品を除くと,Leadtek Research,GIGABYTE TECHNOLOGY製品など,ごくごく一部に限られ,さらにいずれも若干のプレミアムが乗っている。
その意味において,グラフィックスメモリ512MB版GTS 250の想定売価が129ドルとされたことは,大いに意味がありそうだ。もっとはっきり言い換えると,グラフィックスメモリ512MB版のカードが店頭売価で1万5000円を切るのであれば,扱いやすく,コストパフォーマンスの高くなった1万円台前半の選択肢としてGTS 250は浮上することになる。逆にそうならなければ,いたずらにユーザーの誤解を招く可能性がある型番が,販売店をはじめ,それこそユーザーからも批判を浴びることになるだろう。
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GeForce GTS 200
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