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【鈴木謙介】「『魔法』が使える〈ゲーム〉の世界」
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印刷2011/01/15 10:30

連載

【鈴木謙介】「『魔法』が使える〈ゲーム〉の世界」

鈴木謙介 / 社会学者

画像集#001のサムネイル/【鈴木謙介】「『魔法』が使える〈ゲーム〉の世界」

鈴木謙介の「そこ見るんですか?」

ブログ:http://blog.szk.cc/


魔法と必殺技


 魔法とか特殊能力といった要素は,ファンタジー系のゲームには欠かせない要素ですね。その形態もシステムも,あるいはそれらの体系も様々ですが,少なくともゲーム世界だからこそできる仕掛けという点で,「魔法」(および,そのほかの特殊能力を含む)が持つ意味は大きいと思います。

 とくにゲームに登場する魔法の場合に特徴的なのは,それらが決して「必殺技」ではないということです。これが特撮のテレビ番組なんかだと,往々にして,敵に負けそうになる→ヒーローが根性(とか仲間の応援)で立ち上がる→敵キャラ「な,なにいぃ?」→ヒーローが必殺技を繰り出して勝利,というパターンを踏みます。そこでは,「そんな切り札があるんだったら最初から使えよ」という子供の素直なツッコミは無視です。
 大事なのは,ヒーローが使うのは「必殺」技なので,使うと敵が必ずやられてしまうはずだ,ということです。まあ,お話が進むと必殺技が効かない敵が出てきたりして,ヒーローは一度負けてしまったりするのだけど,その後,パワーアップした技を繰り出せるようになったり,新しい武器を手に入れたりして敵は倒されます。めでたしめでたし。パパ,僕も新しい武器が欲しい! というわけで,数週間〜数か月に一回くらいのスパンで新しいおもちゃが店頭に並ぶことになります。
 要するに子供向けテレビ番組の場合,玩具産業とのタイアップという要素があるので,「次の商品」へのニーズを開拓するためにも「新しい必殺技の方が,古い必殺技より強い」ということを証明すべく,一つのモノサシで強さが設定されがちです。もっとも昨今の「仮面ライダーOOO(オーズ)」に代表されるように,敵のタイプに合わせてヒーローのフォルムや必殺技が変わるパターンも見られるのですが。

 ともあれ,こうした特撮番組と比較した場合,ゲームに登場する「魔法」は異なる特徴を持ちます。まず,「必殺」では困るわけです。敵を死に至らしめる魔法というのもありますが,たいていの場合は一定確率でしか成功しません。理由は単純で,「それじゃつまらない」からです。
 さらに,ゲームに登場する魔法や特殊能力は,それらが使えるようになるきっかけや発動のための条件,発揮される能力について,何らかの制限を持ちます。
 それらがどのような〈ゲーム〉の面白さを生み出しているのかが,今回のテーマです。


「ばーりあっ!」のインフレ


 まず,特撮番組式の「必殺技」が〈ゲーム〉に組み込まれると,どんなことが起こるでしょうか。容易に想像が付くのは,敵との戦闘というイベントが無意味になってしまうということです。
 これがRPGなら,戦闘以外にもゲームを盛り上げる要素を入れていくことは可能かもしれませんが,例えば対戦格闘ゲームなんかだと,〈ゲーム〉そのものが崩壊します。まして人間二人が対戦する形式だったりした場合には,目も当てられません。
 子供の頃に経験したことがありませんか。「ばーりあっ!」→「バリア破りっ!」→「絶対破れないばーりあっ!」→「そんなの卑怯だ! 絶対破れないバリア破りっ!」と,最強の盾と最強の矛がぶつかり合うような「必殺技のインフレ」が起きがちなごっこ遊び。
 もちろんこの世のどこかに最強の必殺技はあっても構いません。しかし〈ゲーム〉として考えた場合,「最強の技」は一つのタブーです。
 なぜならば,〈ゲーム〉を可能にしているのは,プレイヤーが対等な条件で参加できるために設けられた,ルールによる制限だからです。相手を必ず倒せる必殺の技は,その使い手がルールの外側に出て行くことを可能にし,彼だけを特別な存在にしてしまうのです。

 では,ルールの中にうまく「魔法」を組み込むには,どのようにすればいいのでしょうか。よく行われているのは,「魔法」に強弱の段階を付け,レベルに応じて強い「魔法」を覚えられるようにすることで,ゲームバランスを調整するというやり方。RPGではお馴染みですね。
 またアクションゲームやシューティングゲームなんかでありがちなのは,特定のアイテムを取得すると「魔法」が使えるようになるが,使用可能時間を超えるなどの一定条件を満たすと,再び使えなくなるというものです。こちらも,「魔法」が使用できる条件やアイテムの出現頻度の設計によってゲームバランスの調整が可能です。
 格闘ゲームだとどうでしょう。まあ格闘なので魔法ではないのかもしれませんが,例えば普通の人間は波動拳など打てないので,こういった技も一種の魔法のようなものなんだと思います。この場合は,強力な技ほど入力を複雑にするとか,タイミングをシビアにするというのが考えられます。リアルタイム性の強い格ゲーの場合,複雑な入力の技はスキを生みやすくなりますから,それだけリスキーで,自然とバランスが生まれることになります。

 とまあ,「魔法」一つとっても,うまく〈ゲーム〉として成立させるためには,色々と気を遣わなければいけないわけです。むろん,そうまでしてでも「魔法」をゲーム内に組み込むのは,人知を超えた能力によってキャラクターのできることが広がったり,世界観が深まったりするからなのだと思うんですが。


原点としてのじゃんけん


画像集#003のサムネイル/【鈴木謙介】「『魔法』が使える〈ゲーム〉の世界」
画像集#002のサムネイル/【鈴木謙介】「『魔法』が使える〈ゲーム〉の世界」
 もう一つ,魔法をうまくゲームに組み込む手法として,RPGでよく見られる「『魔法』に属性を設定する」というものがありますね。炎属性の敵には水属性の「魔法」が有効だが,火属性の「魔法」は火属性の敵の体力を回復してしまう,といったものです。こうした属性は,〈ゲーム〉としてもよくできています。
 一方には強いが他方には弱い能力が複数あって,全体として循環する関係の代表例は「じゃんけん」です。そう,実はグー,チョキ,パーは僕達がもっとも簡単に使える「魔法」の一つなのです。

 〈ゲーム〉における「魔法」には,別に派手なグラフィックスや音効が必要なのではありません。それが「『魔法』だ」というサインがあって,その「魔法」がもたらす効果についてのルールがあって,そのルールに従った出来事が起きさえすればよいのです。そしてそのルールにプレイヤーが従うのは,その「魔法」が,平等な立場で〈ゲーム〉に参加するためのものになっているからです。
 ある人だけが強い「魔法」を使え,ほかの人は弱い「魔法」しか使えないのだとしたら,〈ゲーム〉が成り立たず,プレイヤーは参加することを拒むでしょう。ビデオゲームでいえば,これは,ゲームバランスが悪くてプレイヤーがゲームを放棄する,十分な動機になります。
 そういったわけで,「魔法」には様々な体系が用意されるようになるのですが,これは一方で別の効果をもたらします。つまり,「『魔法』を覚えること」や「『魔法』の体系を整えること」が,一種の〈ゲーム〉になってしまうケースです。

 かつて多くのRPGでは,「魔法」を覚えられるキャラクターは職業(ジョブ,クラス)による制限を受けており,「魔法」は使えるが体力が低く,物理攻撃に弱いといった特徴を持っていました。
 しかし,昨今の複雑なシステムを持つRPGでは,「魔法」を覚えるためにアイテムを用いたり,特殊な装備を身につけたりするという形態を取ることがあります。
 この場合,アイテムや装備の組み合わせによっては,キャラクターはいわばグー,チョキ,パーのすべてを使える強力な存在になり得ます。また,キャラクターの職業が変わっても覚えた「魔法」を引き継げるシステムであれば,転職を繰り返すことで,同様にして「最強キャラ」を育てることが可能です。
 キャラクターが強くなることも魅力ですが,こうした複雑なシステムは「使える『魔法』の組み合わせについて考える」だとか「自分好みのキャラに育てる」といった楽しみももたらします。「空の軌跡」シリーズの「オーブメント」などが,そのいい例でしょう。
 カードバトル系のゲームにおける「最強デッキを考える」なんていうのも,プレイヤーにとって,何かの「魔法」を覚えているのと同じことなのかもしれません。

 〈ゲーム〉の世界では,ルールにしてしまえば,どんなことでもアリになります。文化人類学的に魔法(より専門的には「呪術」)のルーツを探り出すと大変なのですが,少なくとも〈ゲーム〉として考える限り,「魔法」は〈ゲーム〉を面白く,かつ公平なものにするために生み出されたルールの一種だと考えるべきだと思います。
 みんなで鬼ごっこをするとき,足の遅い子だけは鬼に捕まっても三回まではセーフ,なんて特別ルールを設定した経験のある人は多いと思います。そのとき僕らは,その子が「魔法」を使うことを認めたことになるわけです。
 しかしながら,その原点を忘れてしまうと,「魔法」はより複雑で体系化され,覚えるだけで難儀なものになり,全体としてはどんなにバランスが取れていても,多くのプレイヤーにとっては役に立たないものになります。
 一方,シンプルすぎる構成のゲームは,商品としてのほかとの差異化を難しくします。両者のバランスを取りながら「魔法」がうまく組み込まれたゲームを作るためには,やはり“誰もが〈ゲーム〉に参加できるようにするために,「魔法」はある”というポイントを忘れないことが大事なのかもしれません。

■■鈴木謙介(関西学院大学准教授)■■
社会学者として教鞭を執る傍ら,TBSラジオ「文化系トークラジオ Life」やNHK教育テレビ「青春リアル」に出演中。2010年は据え置きハード向けのゲームをほとんどプレイできなかったため,春休みの時期に消化率を上げたいそうですが,あちこちから「そろそろ次の本を!」というオファーが舞い込んでいるとのことで,それも難しそうだとか。「テレビゲームを脳内にインストールできればいいのに」とも言っていましたが,それはさすがに……。
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