レビュー
LlanoことA-Series APUを搭載したノートPCプラットフォームを試す
A8-3500M/1.5GHz
(Sabineプラットフォーム評価機)
Fusion APUの第1弾となった「AMD E-Series」「AMD C-Series」は,最大2基のCPUコアと,160基のGPUコアを統合し,低消費電力にフォーカスした製品だった。これに対しA-Seriesでは,最大4基のCPUコアと,最大400基のGPUコアとが統合されており,エントリー〜ミドルクラス市場を狙うものとなっているのが大きな特徴だ。
AMD,Fusion APU「A-Series」のノートPC向けモデルを正式発表。アブダビで開催された説明会の内容を基に,特徴を整理してみる
今回4Gamerでは,そんなA-Seriesを搭載するノートPC向けプラットフォーム「Sabine」(サビーネ)の評価機を入手したので,さっそくその性能――とくに3Dゲームを前にしたときの性能に迫ってみたいと思う。
なお,同評価機においては,内部構造の撮影はおろか,裏蓋の取り外しすら許可されていない。そのため,CPUパッケージなどは分からないままである。この点はあらかじめご了承のほどを。
HD 5600/5500相当のGPUコアを統合したA-Series
単体GPUとの協調動作ではGPU名も“ブースト”
CPUとGPUとを統合したFusion APUとしてのA-Seriesに関しては,本間 文氏が詳しく解説しているので,そちらをぜひチェックしてほしいと思うが,A-SeriesのラインナップはA8,A6,A4の3種類。その主なスペックは下記のとおりだ。
- A8:クアッドコアCPU+400 GPUコア
- A6:クアッドコアCPU+320 GPUコア
- A4:クアッドコアCPU+240 GPUコア
動作クロックが妙に低いと思ったかもしれないが,A-Seriesは新しくなった「AMD Turbo CORE Technology」(以下,Turbo CORE)により,負荷状況に応じて動作クロックがブーストするようになっており,最大では2.4GHzに達する。
メモリコントローラはデュアルチャネルDDR3-1600もしくはDDR3L-1333対応だ。
一方,搭載するGPUコアは,開発コードネーム「Sumo」(スモ)と呼ばれるもので,公開されたブロックダイアグラムを見ると,A-Seriesでは,4+1基の「Radeon Core」が,分岐ユニットや汎用レジスタとセットになって1基の「Thread Processor」(以下,TP)を構成しているのが分かる。単体GPUで「Streaming Processing Unit」(以下,SP)と呼ばれるところがRadeon Coreと書かれているのを除けば,VLIW5(VLIW:Very Long Instruction Words)アーキテクチャそのものだ。
VLIW5アーキテクチャであるため,TPは16基で「SIMD Engine」を構成。それがクロックあたり4テクセルスループットのテクスチャユニットとセットになる。
A8だとGPUコアを400基搭載するというのは上で述べたが,その内訳は,
であり,いきおい,テクスチャユニット数は5基×4テクセルスループットで20基相当ということになるわけである。
なお,ROPユニット(Render Back-End)数は2基で,1クロックたり4ピクセル出力が可能なため,総数は8基相当だ。
……と,ここまで説明すればピンときた人がいるかもしれない。そう,A8-3500Mが搭載するGPUコアは,「Redwood」コアを採用した「ATI Radeon HD 5670」(以下,HD 5670)の内部構造とまったく同じなのである。
だが,「ほぼ現行世代のエントリークラスGPUコアが統合されている」のも間違いなく,これは大きな飛躍といえるだろう。
AMD Dual Graphicsの概要 |
「DiRT 3」を用いたデモより。ここでは1:3のAFRで動作しているようだった |
AMD Dual Graphicsでは,APU側の統合型GPUと,Radeon HD 6000シリーズ搭載のグラフィックスカード(もしくはRadeon HD 6000Mシリーズの単体GPU)とを協調動作させたり,消費電力を優先して前者だけ利用したりといったことを,場面に合わせて切り替えられる。
協調動作のイメージは,下のデモムービーを見てもらったほうが分かりやすいだろう。AMD Dual Graphicsでは,APU側の統合型GPUと単体GPUとがAFR(Alternate Frame Rendering)を変則的に受け持つようになっており,例えば連続した5フレームがあったとして,最初と最後をAPU側,間の3フレームを単体GPU側で処理(して,それをAPU側のグラフィックスメモリ領域へ転送)することにより,性能の引き上げを図る。
AMDによれば,APU側で何フレーム,GPU側で何フレームそれぞれ処理するかは,「Catalyst Application Profile」(以下,CAP)で自動的に設定されるとのことだ。
A8-3500Mの統合型GPUには「Radeon HD 6620G」(以下,HD 6620G)というモデルナンバーが与えられている。ノートPC向けA-Seriesの統合型GPUは「G」で区別できるのだが,これをノートPC向けの単体GPU「Radeon HD 6630M」と組み合わせたときの名前は,“HD 6620G+HD 6630M”ではなく,「Radeon HD 6690G2」(以下,HD 6690G2)なのだ。
店頭で見たとき,果たしてこれが分かりやすいのかというと,大きな疑問符が付くのだが,スイッチャブルグラフィックスを積極的に訴求しようという意気込みは買いたい。
なお,グラフィックスメモリはシステムメモリの一部を利用するUMA(Unified Memory Architecture)。従来のチップセット統合型グラフィックス機能よりは,システムメモリとの物理的な距離は近くなっているので,その点ではメリットがあると思われるが,「AMD 890GX」チップセットで採用された「SidePort Memory」のようなキャッシュ技術はアナウンスされていないため,ここがボトルネックになる可能性はある。
単体&AMD Dual Graphicsでのテストを実施
比較対象にはHD 6450やi7-2600Kなどを用意
テスト環境に話を移そう。
ここまで述べてきたとおり,評価機は,A8-3500MとHD 6300Mを搭載しており,AMD Dual Graphicsに対応している。そのため今回は,
- A8-3500Mに統合されたHD 6620Gのみを使った場合
- A8-3500MをCPUとして使い,単体GPUとしてHD 6300Mを組み合わせた場合
- AMD Dual GraphicsによるHD 6690G2とした場合
搭載するシステムドライブは日立グローバルストレージテクノロジーズ製HDD「Travelstar 7K500」(HTS725025A9A364,容量250GB,回転数7200rpm)で,グラフィックスドライバはプリインストールされていた「8.834-110412a-117913E」だ。「8.834」というバージョンからするに,おそらく「Catalyst 11.3」ベースということになるだろう。
正直に述べると,テストが佳境の6月10日夜になって,「AMD Dual Graphicsの動作を改善した」というドライバが届いたのだが,テストし直す時間はないという理由から,導入は見送っている。
比較対象として用意したのは,「Radeon HD 6570」(以下,HD 6570)と,「Radeon HD 6450」(以下,HD 6450),そして「Core i7-2600K/3.40GHz」。Radeon HD 6000系のデスクトップ市場向けGPU,下から2つと,競合から最もグラフィクス性能の高いCPUを用意した次第だ。各製品の主なスペックは表1のとおりとなる。
比較対象のGPUを組み合わせたのは,「Phenom II X4 975 Black Edition/3.6GHz」のクロックを2.5GHzまで落とし,“Phenom II X4 905e」相当にしたものを搭載するシステムだ。A8-3500MのTurbo CORE適用時における最大クロックに近づけたわけである。
しかしこの場合,負荷に応じて自動的にクロックを下げる省電力機能「AMD Cool’n’Quiet Technology」(以下,CnQ)も有効になっていないことになるのだが,後ほど紹介するシステムの消費電力値を見る限り,CnQが有効になっていない(≒表示されている動作クロックが正しい)というのはちょっと考えにくい。AMD System Monitorの表示が正常に行われているのかには疑問が残る。
とりあえず今回は現状のままテストを行い,いずれ登場するであろうデスクトップPC向けLlanoが登場したとき,再度テストしてみたいと思う。
このほか,比較対象として用意したシステムのテスト環境は表2のとおりだ。
ちなみに,最近ではアスペクト比16:9のディスプレイが一般的になってきていることから,今回は評価機のパネル解像度に合わせて,16:9アスペクトである1366×768&1280×720ドットの2解像度でテストを行うことにした。また,A8-3500M(HD 6620G)の位置づけを考慮して「高負荷設定」は省略し,「標準設定」「低負荷設定」のみでテストを実施する。
HD 6450と同等以上のスコアを示すHD 6620G
ドライバ次第だが,HD 6690G2にも期待はできる
以下,グラフでは,「主役」たるA8-3500M(=HD 6620G)のスコアを一番上にはあえて置かず,ほぼモデルナンバー順としていることをお断りしつつ,テスト結果の考察に入ろう。グラフ1は「3DMark 11」(Version 1.0.2)の結果である。
A8-3500Mに統合されたHD 6620Gのスコアは,ノートPC向け単体GPUたるHD 6630M比で85〜89%ほど。モデルナンバーどおりの位置に納まったといえるが,むしろここで注目したいのは,HD 6450に対して10〜11%高いスコアを示していることのほうだ。
HD 6450は確かにローエンド市場向けGPUだが,しかしデスクトップPC向け。そのスコアを,ノートPCの“オンボードグラフィックス”が上回っているのだからインパクトは大きい。
また,HD 6620GとHD 6630MによるAMD Dual Graphics協調動作となるHD 6690G2は,HD 6620G比で51〜67%高いスコアを示しており,このソリューションに意味があることを証明している。
ところで,3DMark 11以下,いくつかのテスト対象でi7-2600KのスコアがN/Aなのは,i7-2600Kの統合型グラフィックス機能である「Intel HD Graphics 3000」がDirectX 11に対応していないためだ。
続いてグラフ2,3は「S.T.A.L.K.E.R.:Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)の結果となる。
まず,よりGPU負荷の低い「Day」シークエンスの結果から見ていくが,ここでHD 6620GのスコアはHD 6630M比で79〜80%程度(グラフ2)。HD 6450に対して,若干ながら確実に高いスコアを示している点や,HD 6690G2で1366×768ドット時に36.1fpsというフレームレートを示している点も見逃せない。
ただ,グラフ3,STALKER CoPのテストシークエンス中,最も負荷の高い「SunShafts」の結果を見ると,エントリー&ローエンドクラスGPUの限界らしきものも見えている。
グラフ4は「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)の結果である。ここでは,そもそもBFBC2がDirectX 10ベースのタイトルであることと,i7-2600Kとの比較を行う目的から,DirectX 11ではなくDirectX 10モードでテストしている。
というわけでスコアを見てみると,HD 6620Gは,i7-2600Kを若干上回る一方,これまでとは異なり,HD 6450より低いスコアに落ち着いた。HD 6630Mからに16〜17%置いて行かれるという位置づけはSTALKER CoPとそう変わらないので,何かがボトルネックになったと考えるのが妥当だろう。
HD 6690G2のスコアはHD 6620Gを54〜63%上回っている。
一方,AMD Dual Graphicsに向けたドライバの練り込み不足を感じれられたのが,グラフ5に示した「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)である。HD 6690G2のスコアは,HD 6630Mとまったく同じであり,こういう事態が生じるため,AMDはリリース直前でレビュワー向けドライバを更新したりしたのだろう。
もっとも,HD 6620Gが単体で1280×720ドット時に60fpsを上回る平均フレームレートを出せているので,Call of Duty 4クラスのゲームをプレイするなら問題のない性能を出せているともいえる。「1280×720ドットかそれ以下の解像度で,アンチエイリアシングを適用したりしなければ,DirectX 9世代の3Dオンラインゲームをほぼ問題なく動作させられるだけのGPUポテンシャルを持っている」とも換言できそうだ。
「Just Cause 2」でも,HD 6690G2のスコアは伸びず,むしろ1280×720ドットではHD 6620Gのスコアを下回った(グラフ6)。HD 6620GとHD 6450の力関係は,BFBC2と似た印象を受ける。
グラフ7は,「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)の平均フレームレートをまとめたもの。ここではi7-2600Kとの比較を行うべくDirectX 10モードに固定してテストしているが,スコアは総じて3DMark 11と近い傾向を示した。
HD 6690G2は60fps前後のスコアを示しており,Civ 5を快適にプレイできるポテンシャルがあると言えよう。
グラフ8にまとめたのが,「DiRT 3」の結果である。DiRT 3はRadeonに最適化されたタイトルなのだが,評価機にプリインストールされていたドライバではHD 6690G2のスコアが上がらなかった。このあたりは「Catalyst 11.6」以降に期待といったところか。
全体的にスコアは低調だが,そのなかでHD 6620GのスコアがHD 6450より24〜25%も高いあたりは,HD 6450と比べて2.5倍という,400基ものRadeon Coreを搭載する効果だろうか。
評価機の消費電力は高負荷時に60W程度
アイドル時には20W前後に
ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を計測してみた。ここでは,OSの起動後,30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
比較対象の単体GPUやi7-2600Kはデスクトップ機上で動いているため,横並びの比較にはあまり適さない。そこで評価機メインで見てみると,まず,アイドル時には20W前後にまで下がっており,(AMD System Monitorでうまくデータを取得できないだけで)CnQは有効であるように見える。
アプリケーション実行時は,HD 6690G2,HD 6630M,HD 6620Gとも,おおむね60W程度に収まった。ただ,3DMark 11だけHD 6690G2とHD 6630M搭載時に90Wへ迫るなど不可解な部分もあり,GPUのクロック制御がまだ十全ではない可能性はありそうだ。
HD 6620Gのスコアから透けて見える
A-Seriesが持つメモリ周りの弱点
さて,以上のスコアから,A8-3500M(=HD 6620G)は,DirectX 11世代のタイトルをどちらかといえば得意にしており,DirectX 10モードで実行したBFBC2ではHD 6450の後塵を拝するなど,DirectX 9〜10世代のタイトルをやや苦手とする傾向が見て取れる。Redwoodコアを採用することを考えると,このスコアはいささか不自然だが,なぜこういうことになっているのか。
その理由の1つとして挙げられそうなのが,キャッシュやメモリ周りの性能である。
グラフ10は,Microsoftが用意している「Internet Explorer 9」のデモサイト「Internet Explorer Test Drive」から,「FishBowl Benchmark」というベンチマークを利用した結果だ。ここで魚の数は1000匹に設定してある。
FishBowl Benchmarkは,HD 6450と「GeForce GT 520」のテスト時に一度使っているので,「FishBowl Benchmarkとは何か」については両GPUのレビュー記事を参照してほしいが,端的に述べると,メモリ周りの性能がスコアを左右しやすい本テストで,A8-3500M(=HD 6620G)がi7-2600Kの80〜82%のフレームレートしか示せていないのである。
コアあたりのL2キャッシュ容量では1MB対256KBでA8-3500Mがi7-2600Kを大きく上回る以上,L3キャッシュ(≒Last Level Cache)を持たないこと,もしくはメモリコントローラの性能がボトルネックになっていると見るべきだろう。
それは,グラフ11に結果を示した,「Sandra 2011」(Version 17.60)のグラフィックスメモリのバス帯域幅を測るテスト「Video Memory Benchmark」からも裏付けられる。とくに総合スコアといえる「Aggregate Memory Performance」でi7-2600K比55%というのは看過できまい。
A-Seriesが,システムメモリの一部をUMA方式で利用するというのは先に述べたとおりだが,同じくSandra 2011より,CPU側から見たメモリバス帯域幅を見る「Cache and Memory」や,メモリアクセスのレイテンシを見る「Memory Latency」でも,メモリアクセス性能の低さやレイテンシの大きさは確認できる(グラフ12,13)。
A-Seriesでは,デュアルチャネルDDR3-1600メモリコントローラを搭載し,帯域幅を確保しようとしているわけだが,残念ながら,それがうまく行っているとは言い難い。DirectX 9〜10世代のゲームアプリケーションでは,テクスチャやメモリへのアクセス性能が問われることが多く,だからこそグラフ1〜9で示したような結果にまとまったのだと思われる。
ただし,本稿の中盤で指摘したとおり,HD 6620Gの動作クロックは,Turbo CORE無効時のものである可能性がある。その点はくれぐれもご注意を。
ノートPCの“オンボードグラフィックス”が変わる
大幅な底上げは,Intelにとって脅威か
Turbo CORE,そしてグラフィックスドライバという懸念材料はあれど,長らくLlanoと呼ばれてきたFusion APUがどういうプロセッサであるのかは,おおざっぱながら把握できたと思う。少なくとも,400基のRadeon Coreを搭載するA8シリーズを搭載したノートPCなら,ATI Radeon HD 5000時代と比べて大きく3D性能を向上させてきた最新世代のデスクトップPC向けローエンドGPUと同等か,アプリケーションによってそれ以上の性能を発揮できるのは間違いない。
CPU側の統合型グラフィックス機能ではDirectX 10.1までのサポートに留まる第2世代Core iプロセッサに対して,こと3D周りの優位性は明らかであり,AMDが“オンボードグラフィックス”を大幅に底上げしてきたのはIntelにとって脅威となりそうだ。
ただ,HD 6690G2がHD 6570にまったく歯が立たなかったあたりからすると,デスクトップPCにおいては「そんなことするくらいならより高性能の単体グラフィックスカードを買ったほうがいいのでは」という気もする。
そのあたりやTurbo COREの挙動,メモリ周りといった部分は,デスクトップPC向けLlanoが登場したタイミングであらためて検証したいと思う。
AMD公式Webサイト
- 関連タイトル:
AMD A-Series(Llano)
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