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AMDのBob Grim氏に聞くFusion出荷計画。「Zacate」は年内に正式発表され,2011年初頭にも搭載製品が登場か
今回は,AMDのAPU戦略について,AMDでクライアント向けCPUのマーケティングを統括するBob Grim(ボブ・グリム)氏に,Fusion APUに関する最新情報を聞くことができたので,まとめてお伝えしたい。
→AMD,IDF期間中にFusion APU「Zacate」の動作デモを披露
年内に量産出荷予定となるZacate
PCベンダーからの評価も良好
Zacateは,AMDが省電力PC向けに開発した新アーキテクチャの
プロセッサコア「Bobcat」(ボブキャット,開発コードネーム)を採用し,DirectX 11対応のGPUコアを統合したAPUだ。以前よりロードマップ上で名前が挙がっていたBobcat採用APU「Ontario」(オンタリオ,開発コードネーム)の派生モデルにあたる。
両者の違いはTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)で,Zacateが18Wなのに対し,Ontarioが9Wであること。OntarioがNetbookや省スペースPCをターゲットにしているのに対し,Zacateはそれより上の市場を狙うとされる。
ZacateとOntarioはいずれも,CPUとして2基のBobcatコアを統合し,さらにGPUコアにあたる「SIMD Engine Array」を高速なバスインタフェースで接続する。この構造により,シームレスな異種混合コンピューティング処理を可能にするというのが,AMDの主張だ。
Bob Grim氏は「2003年のAthlon 64発表以来,われわれはCPU内部の高速バスやノースブリッジ機能のブラッシュアップに取り組んできた。それが今回,CPUとGPUを低レイテンシで結ぶメモリコントローラの開発にも役立った」と説明する。
APUでは,シングルダイにGPUとGPUを統合することで,より効率的かつ高速なメインメモリへのアクセスが可能になったという。またGrim氏は,「GPUとCPUをシングルダイに統合したことで,包括的な電力管理を行える。これにより発熱を抑えることも可能になった」とも述べている。
AMDは同CPUを第4四半期中に正式発表&量産出荷する予定で,「2011年初頭にはZacateを搭載したモデルが各社から発表されるだろう」(Grim氏)と,順調な開発状況をアピールする。また同社はZacateを低価格ノートPCのみならず,デスクトップ製品にも展開しようと考えているようだ。
Zacateの出荷前倒しに対する主要PCベンダーからのフィードバックは,Grim氏によると「非常にポジティブだ。とくにDirectX 11をサポートする点や,UVD3の搭載でBlu-ray 3Dへの対応が可能になった点により,低価格ノートPCの付加価値を大きく引き上げられることがパートナーに高く評価されている」という。
Zacateの心臓部Bobcatは
ユニークな設計の数々を搭載
現時点でAMDは,ZacateやOntarioの詳細技術情報を明らかにしていない。しかし,その中核となるBobcatアーキテクチャについては,去る8月に米Stanford大学で開催された「Hot Chips 22」で詳細なアーキテクチャを公開している。Bobcatの特徴についても紹介しておこう。
AMDはBobcatの開発にあたり,なによりも省電力性と小さなダイサイズを目指した。このため,同社の高性能CPU向け新アーキテクチャ「Bulldozer」(ブルドーザー,開発コードネーム)とは,まったく異なる設計になっている。
Bobcatは,1クロックあたり最大2つのx86命令発行に対応したアウト・オブ・オーダー型のスーパースカラCPUコアだ。同コアに統合される浮動小数点演算パイプラインは,加算と乗算の2パイプ構成による64bit幅のSIMDエンジンで,単精度32bitの浮動小数点データであれば1クロックで2個ずつ処理できる。
そのキャッシュ構成は,命令用が32KB,データ用が32KB,L2が512KBという構成だが,L2キャッシュの動作クロックがCPUコアクロックの半分になっているのが特徴だ。これは,省電力性を高めるためだという。デコーダ部は,同時に2個のx86命令がデコード可能だ。
さらにBobcatは,1クロックあたり2つの分岐予測が可能な高性能分岐予測ユニットとアウト・オブ・オーダー型のロード・ストアユニットを搭載。とくに後者では,投機的なロードとストアをサポートすることで,依存関係がある命令を予測したロード・ストア処理が可能になる。
こうした効率的な処理を可能にする技術により,Bobcatはパフォーマンスを高めつつも,省電力性とのバランスも高いレベルで実現しているようだ。
一方,2011年前半に市場投入が計画されている,メインストリーム(※ここでは,エントリ〜ミドルクラスくらいの意)市場向けAPU「Llano」(ラノ,開発コードネーム)についても,Grim氏は「開発は順調だ」と説明する。
同APUは,現行CPUのアーキテクチャを踏襲し,最大4つのコアを統合。グラフィックスコアには,「単体グラフィックス相当」とされるSIMD Engine Arrayを内蔵する計画だ。AMD関係者によれば,同社はLlanoの量産出荷を2011年第2四半期に開始する計画で,搭載製品や対応マザーボードも,2011年前半には市場へ登場する見込みとなっている。
AMDは,これらのAPUが,HDコンテンツや3Dステレオなど,より人間の感性に近いコンピュータ体験を可能にする“第3世代のPC”を支える基幹要素だと位置づけている。
Grim氏は「iPhoneやiPadなどの携帯端末が台頭している現在,PC市場を活性化させるためには,より快適なPC体験をもたらす必要がある」とし,「そのためには,より強力なグラフィックス機能と,省電力性を安価に提供しなければならない」と見る。その切り札となるのが,ZacateやBobcat,そしてLlanoだというわけだ。「汎用コンピューティング性能に優れるSIMD Engine Arrayを統合し,DirectComputeやOpenCLをサポートしたことで,マルチタッチや顔認識,ジェスチャー認識といったナチュラルユーザーインタフェースの実装も可能になるはずだ」(Grim氏)
こうした重要性を打ち出すためか,AMDは最近,APUの意味を変更したようだ。OEM関係者によれば,従来「Accelerated Processing Unit」の略であったAPUが,最近は「Advanced Processor Unit」の略へと変わっているという。
このことからもAMDは,自らが呼ぶところの第3世代PCにおいて,APUのアドバンテージをより明確に主張しようとしているように見える。
なおFusion APUに関しては,今後も情報が入り次第お伝えしたい。
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