イベント
[GDC 2010]シド・マイヤー氏による基調講演レポート〜シミュレーションの父の考える「ゲームデザイン心理学」とは?
1982年にMicroproseを設立して以来,「F-15 Strike Eagle」(フライトシム),「Silent Service」(潜水艦シム),「Gunship」(戦闘ヘリシム),「Sid Meier's Pirates!」(海賊アドベンチャー),「Railroad Tycoon」(鉄道経営シム),そして「Sid Meier's Civilization」(国家経営シム)など,独自のデザインで新境地をひらいた,さまざまなタイプのシミュレーションを開発してきたことから,「シミュレーションゲームの父」とも呼ばれる。
そのマイヤー氏は,自ら設立したMicroproseを1996年に退社し,Firaxis Gamesを設立。現在は,Take-Two Interactive傘下の2K Gamesブランドで,開発が発表されたばかりの「Sid Meier's Civilization V」と,Facebook向けの「Civilization Network」を手がけている。
今回の講演は,「ゲームプレイは心理体験の一種だということを認めることで,我々開発者はより良いゲームを作れるはず」という主旨で,なかでも以下の二つの項目がとくに興味深かった。
○ 勝つことのパラドックス
まずマイヤー氏は,「ゲームデザイナーとは,ゲームを通してプレイヤー達にチャレンジを提供する職業だ。一方でプレイヤーは,自分はゲームをクリアできて当然だと考えている」と述べた。
一般にゲームデザイナーは,そのゲームのターゲットとなるプレイヤーを“平均化”してから開発に取り組むという。そのほうが,圧倒的にデザインしやすいからである。
しかしマイヤー氏によると,プレイヤーは誰しも自分の戦略やプレイぶりを「平均以上」であると思い込んでおり,その自分に合った満足感や達成感をゲームに求めているという。彼はこのことを「勝つことのパラドックス」(The Winning Paradox)と呼ぶ。マイヤー氏曰く,プレイヤーは,ゲームで勝利を収めたときには満足するが,敗北すると「難度が高過ぎる」「理不尽でロジックのないゲームプレイだ」などといってゲームを責めるのだ。
マイヤー氏は,「Sid Meier's Civilization IV」に9段階の難度レベルを用意したのは,あらゆる層のゲームファンを満足させるためだったと説明した。
○ 不浄な協定
マイヤー氏は,このアイデアがとても気に入ったので,「不浄な協定」(The Unholy Alliance)という言葉を商標登録したいというジョークで話を切り出した。
ゲームデザイナーは,自分の意図どおりにプレイヤーがゲームを遊ぶと考えがちだし,プレイヤーは,自分のイメージどおりの楽しさをゲームデザイナーが提供し続けてくれると思い込んでいる。不浄な協定とは,そんなゲームデザイナーとプレイヤーとの関係を表現した言葉である。
マイヤー氏は,「プレイヤーは,最初に提供されたゲーム世界を無意識のうちに信じ続けることで,そのゲームに没頭していく。しかし,ゲームの進行ペースや,アートスタイル,サウンドがイメージと異なるものに変化すると,彼らは簡単に信じることを止めてしまう」と説明する。一貫性を欠いたゲームデザインは,プレイヤーがゲームを中断する要因の一つだというのである。
このほかマイヤー氏は,「すべてを説明するのではなく,プレイヤーのイマジネーションを最大限活用する」「AIはゲーム体験をより充実させるもので,単に人間らしくすれば良いわけではない」などと,その多くがゲーム開発者であろうと思われる聴衆に対して,具体的なメッセージを送っていた。
2010年内に登場するSid Meier's Civilization Vや,これまで未公開のCivilization Networkのデモンストレーションが行われなかったのは,やや残念。GDC 2010の基調講演のあと,マイヤー氏のもとに駆け寄り,サインを求めていた“業界内のマイヤーファン”達も,拍子抜けしていたかもしれない。
それでもマイヤー氏は,最後に「今年はCivilizationの1年です!」と宣言し,会場を沸かせていた。
- 関連タイトル:
シドマイヤーズ シヴィライゼーションV 日本語版
- この記事のURL:
(C) 2010 Take-Two Interactive Software and its subsidiaries. All rights reserved. Sid Meier’s Civilization V, Civ, Civilization, 2K Games, the 2K logo, Firaxis Games, the Firaxis Games logo, and Take-Two Interactive Software are all trademarks and/or registered trademarks of Take-Two Interactive Software. All other marks and trademarks are the property of their respective owners. All rights reserved.