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[GDC 2010]最新版では上半身/下半身に別々の設定が施せるように。“自然なアクション”を実現するNaturalMotionのゲームエンジン「morpheme 2.3」
PhysX対応ゲームアニメーションエンジンとして,またテレビCMのアニメーション制作にも利用される同ツールは,キャラクターのアクションをつなげることでアニメーションを実現するもの。基本的なところでは,歩く,ジョギングする,走るという三つの動作を組み合わせて,人が全力疾走に至るまでの動作を,アニメーションネットワークとしてレンダリングすることが可能だ。
スポーツゲームなどの場合,歩いている選手がいきなり全力疾走しはじめたり,急に止まったりという動作が必要となる。しかし,ジョギングしたり,走ったりという動作を自然に見せるためには,徐々にスピードを上げていく要素も組み込んでおく必要があり,同じキャラクターアニメーションを流用すると,歩いている状況から全力疾走に移るまでにタイムラグが生じてしまい,不自然さが出ることがあったのだという。
もう一つ,morpheme 2.3ではアニメーションネットワークを単純化することで,ゲームにかかる負荷を軽減する工夫が盛り込まれている。たとえば,同社が得意とするアメリカンフットボールのプレイヤー表現として,選手が走りながら喜びを表わすといったアニメーションも,“走る”というアニメーションの内部分岐として格納することができ,別のアニメーションを呼び出したり,イベントに応じて大がかりな分岐が必要になったりということがなくなった。
また,PhysX対応開発環境でもあるmorpheme 2.3では,より自然なキャラクターの動きを実現すべく,物理演算イベントにおいて,上半身と下半身に別々の設定をすることができるようになった。具体的には,戦士が藪を掻き分けて歩くとき,ブッシュに身体を持っていかれるといった表現は,物理演算を用いて再現することができる。しかし,身体全体に同じ演算設定を与えていたのでは,本来は多少の抵抗はものともしない足までも,ブッシュの影響を受け,不自然な動きになってしまう。そこで,morpheme 2.3では上半身と下半身で,応力に対する抵抗力を別々に設定することで,より自然な動きを再現できるようにしている。
さらに,morpheme 2.3では,上半身と下半身に別々の設定を施せることを利用して,アクションシューティングのキャラクターアニメーションにおいて,複数の武器をより自然に動かすための工夫が施せる。たとえば,これまでは,両手持ちのアサルトライフルと,片手用のハンドガンを持ったアクションでは,一つのキャラクターアニメーションを併用することができたが,まったく持ち方が異なるガトリングガンやバズーカ砲などの動きは,分岐を多用したり,別々のアニメーションを用意する必要があった。
しかし,morpheme 2.3では,これらすべてを一つアニメーションネットワークに統合し,ゲーマーが武器をセレクトした時点で,上半身の設定を各武器に最適なものに切り替えるだけで,自然なアニメーション表現ができるのだ。このほか,同社が開発を進めている次期バージョンの一部も披露され,地形に応じて下半身,とくに足の接点が自然に動くようなテクニックが盛り込まれるという。
ゲームエンジンとしては,ややマイナーな印象のあるmorphemeだが,自然なキャラクター表現は,キャラクター描写のリアルさが求められる最新ゲーム環境では不可欠なものだ。また,アニメーションネットワークの単純化は,プログラムの負荷を軽減し,その分のハードウェアリソースをゲーム物理などに割り当てられるメリットもある。「実際のところ,どれだけ普及する見込みがあるのか」という期待(もしくは懸念)に対する回答が得られなかったのは不安材料といえるものの,バージョン2.3版morphemeについては,記憶に留めておいても損はなさそうだ。
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