イベント
[GDC 2011]パックマンの父 岩谷 徹氏がゲームデザインを語る。「Classic Game Postmortem - PAC-MAN」講演レポート
この「Classic Games Postmortem」は,12名の業界著名人が,それぞれ出世作品の裏話を披露するというもの。本稿では,岩谷氏が行った,その講演の模様をレポートする。
岩谷氏は自身が考えるパックマンがヒットした要因を,これまでにさまざまな場所で話してきた。これらは普遍的な内容なので,ぜひ活用してほしいと話を続けた。
まずパックマンの開発は,女性向けのゲームを作ろうというアイデアからスタートしたという。当時ゲームセンターは完全に男性の遊び場であり,そこに女性に来てもらって,明るい場所にしたかったのだそうだ。そこで岩谷氏は女性の好きなものについて考えた。「ボーイフレンド」や「ファッション」などといった単語も思い浮かべつつ,氏は「デザート」が好きというところに着目する。そして「食べる」という動詞を中心として,ゲームをデザインしていったそうだ。
岩谷氏はゲームの根幹部分というのは,シンプルで分かりやすいことが非常に重要だと考えている。一目見てやることがすぐに分かり,また操作方法もすぐに分かることが大事なのだ。
初めはとにかくモノを食べるゲーム,ということでアイデアを練ったが,ゲームとして成立させるには,敵が必要だということに思い至ったそうだ。そこで出てきたのがパックマンの敵であるゴースト達だ。もちろんこのゴースト達も女性に可愛いと思ってもらえるように,敵だけれども憎めない,キュートなデザインにした。シンプルであることを心がける一方で,岩谷氏は,最初のプランに固執せず,新しいアイデアを取り入れることも重要だと説いた。
アイデアがまとまったら,次はプログラムやアルゴリズムを練り込んでいく。パックマンの場合は4匹のゴーストに,それぞれ違う性格が設定されている。赤いゴーストは,パックマン目指してまっすぐに追いかけてくる。ピンクのゴーストは,パックマンの進行方向35ドット先を目指して動く。青のゴーストはパックマンの点対称の位置を目指す。オレンジの動きはランダムだ。このようにすることで,ゴーストはパックマンの周囲を,自然な動きで取り囲んでいく。このアルゴリズムが存在せず,ゴーストがただパックマンをまっすぐ追いかけるだけのゲームだったら,あそこまでのヒットにはならなかったはずだ。
次に岩谷氏は,パックマン開発当時の手書きの企画書を公開した。この資料を見せるのは,世界初であるとのことだ。そこにはゴースト達のスピードの変化のしかたが書かれていた。
パックマンでは,プレイ中,ゴーストがふと離れていくこともある。これらはもちろんゲームデザインのうちで,常に追いかけ回されているとプレイヤーはイヤな気持ちになってしまうので,時折解放してあげると良いのだそうだ。またパックマンにはワープトンネルやパワーエサなど,プレイヤーが「逆転」できる要素も盛り込まれている。このように,ゲームを作る際には,プレイヤーにとって気持ちの良いことを常に考えて,それを用意することもまた重要なのだ。岩谷氏は欧米の開発者に対して,このようなことを“Itareri-Tsukuseri(いたれりつくせり)”というのだと説明していた。
そして岩谷氏は,これらのゲーム作りに対する姿勢を「Fun is First !」という言葉にまとめていた。岩谷氏から見ると,今は複雑すぎるゲームも多く,プレイヤーが虐められているような気分になるとのこと。難しさも悪くはないが,原点にかえり,楽しさを一番に考えることが大事なことであると結んだ。
パックマンは,グラフィックスとサウンドも含めた全プログラムのサイズが,たったの24kbなのだそうだ。現在のゲームのデータはもっともっと大きいが,そのほとんどはグラフィックスデータだ。そして核となるプログラム部分のデータは意外と小さい。岩谷氏はこのことからも,冒頭の「ゲームの根幹部分は,実はシンプル」という持論を展開し,普段からそのような視点を持っておくこと――ゲームの要素をどんどん分解し,なぜそのフィーチャーが面白いのか,研究することが大事であると語った。
そして,そうして積み重ねた研究の一つの成果であるとして,「PAC-MAN Championship Edition」(PS3 / Xbox360)を紹介した。この作品はディレクターの井口氏が,パックマンの「面白さの要素とはなにか」を,とことん研究したうえで作り上げた作品だそうだ。
パックマンから得られる面白さを突き詰めていった結果,「PAC-MAN Championship Edition」は,スピーディでスポーツライクなものに仕上がっている。フィールドは左右二つのエリアを連結したような構成になっていて,ゲームの進行によって刻一刻と姿を変える。プレイヤーに課せられた制限も,残機数ではなく時間制限になっており,旧来のパックマンを知っている人にとっては,ちょっと戸惑う部分もあるそうだ。とくに時間制限への変更などは,岩谷氏でも,初めは「えっ」と驚いたそうだ。しかし結果としては,この変更が同作をとてもエキサイティングなものにし,正当進化と呼べる作品になっているとのこと。
講演の最後に,岩谷氏は「実は今,次のパックマンを考えている」と話し,それは“歌うパックマン”であると明かした。会場に「どう思いますか?」と問いかける岩谷氏。オーディエンスは歓声で応え,それに対して岩谷氏がサンキューと礼を述べて,講演は幕となった。
- 関連タイトル:
PAC-MAN Championship Edition DX
- 関連タイトル:
PAC-MAN Championship Edition DX
- この記事のURL:
キーワード
(c) 2010 NAMCO BANDAI Games Inc
(c) 2010 NAMCO BANDAI Games Inc