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その男,ゲスにつき。「放課後ライトノベル」第60回は『モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(泣)』を紹介しちゃうんだぜ(泣)
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印刷2011/09/24 10:00

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その男,ゲスにつき。「放課後ライトノベル」第60回は『モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(泣)』を紹介しちゃうんだぜ(泣)



 今年も夏が終わった。残暑がようやく和らいできて,暦の上でも9月の終わりが間近。季節的にはもうすっかり秋と言っていいだろう。
 ああ……今年の夏も何一つ胸ときめく出来事はなかったな……。この夏の思い出といったら,遠い有明の地で人波にもまれたり冷たい物を食べ過ぎてお腹壊したりしたことくらいしかないよ……。夏の間に素敵な相手を見つけて「この暑さも,君となら乗り越えられるよ」とか言ってみたかったな……。

 ここは一つ,「ラブプラス」でもプレイして彼氏力を磨くべきだろうか。今度発売される「NEWラブプラス」は画面がめちゃくちゃ綺麗になってたり,360°どこからでもカノジョを撮影できたりと,なにやらえらいことになっている模様。始めれば絶対ドハマりすることが分かりきっているがゆえに,これまで手を出したくとも出せずにいたのだが,もしやついにその封印を解くときが来たのか!?

 とはいえ,彼氏力が高すぎるというのも困りもの。今回の「放課後ライトノベル」で紹介する『モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(泣)』の主人公・望月砕月(もちづきさいげつ)は,女性と見ると誰彼構わず口説いてしまう困り者。ただし,彼自身はそれを望んでおらず,いつどこで口説き始めるか本人自身にもコントロールできないため,二股をかけたりしてはあとでトラブルだけがやってくるという,まさに(泣)な状態なのだ。そんな彼が「世界まで救っちゃう」とは,果たして……?

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『モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(泣)』

著者:谷春慶
イラストレーター:奈月ここ
出版社/レーベル:宝島社/このライトノベルがすごい!文庫
価格:630円(税込)
ISBN:978-4-7966-8627-3

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●誰でも口説いちゃう僕は世界のピンチに巻き込まれちゃったんだぜ(泣)


 物語は,砕月が学校の屋上で2人の女子生徒に振られるところから始まる。学年一の美少女と評判の三淵優沙(みつぶちゆさ)と,大和撫子な美人先輩の深草静流(みくさしずる)。砕月は女性に対峙すると勝手に口説き始めてしまうという困った「ビョーキ」のせいで2人を同時に彼女にし,結果手痛いしっぺ返しを食らったのだった。

 幼なじみの百瀬千夏(ももせちなつ)八瀬宗助(やつせそうすけ)に罵倒されたり心配されたりしつつ,ビョーキを治そうと誓う砕月。そんな矢先,彼は公園で奇妙な出来事に遭遇する。突然空から女の子が落ちてきたと思ったら,やはり突然現れた怪物ハーピーと戦い始めたのだ。

 なんとかハーピーを倒した少女は,砕月にこう告げる。――この世界には,しばしば“バグ”と呼ばれる存在が生まれており,今のハーピーもその一体である。バグは通常人の目には見えないが,放置しているとどんどん力が強くなって現実に干渉するようになり,最悪の場合世界を崩壊させてしまう。自分はバグを退治する役目を負ったウィザードであり,砕月は,人でありながらバグを認識でき,バグに対して切り札となり得る存在“デバッガ”である――と。

 ウィザードの少女ウバタマ――通称タマに懇願され,砕月は彼女と共にバグ退治にいそしむことになる。だがビョーキは相変わらずだし,優沙や静流とも改めてちゃんと話し合いたいし……こんなんで世界を救えるのか!?


●ゲスい僕は自分でも嫌なのに修羅場の種をまいちゃうんだぜ(大泣)


 本作主人公の砕月は,ひと言で言うとゲスである。見た目はさわやかな好青年なのだが,女性と見れば老いも若きも,人も人外も(!)見境なく甘い言葉をかけ,ステディな関係に持ち込もうとする。当然,トラブルも日常茶飯事で,作中では彼への恨みを晴らさんとする連中が「望月狩り」と称して,日々,砕月をつけ狙っているほど。

 かくして彼に与えられた二文字が“ゲス”。実際,千夏や宗助にも事あるごとにゲスと言われているし,本作の章タイトルすら,本来は「第一章」「第二章」などとなるところ「Gess1」「Gess2」と書かれてしまう始末。

 砕月にとって悲惨なのは,その行動が彼自身には制御できないということ。いわば二重人格のようなもので,口で歯の浮くようなことを言っている間,心の中では常に「違うんだあああああああ!」と叫んでいる。こうした文字どおりの「一人ボケツッコミ」的な会話が全編にわたって散りばめられ,脱力感あふれる笑いを読者に起こさせる。

 一方の「ビョーキの砕月」もなかなかすごい。先ほど「女性と見れば老いも若きも,人も人外も」と書いたが,これは冗談でもなんでもなく,実際猫を口説いたりもしている。それどころか,前段で書いたハーピーすら「ハピ子さん」と呼んで愛の言葉を投げかけており,そのスタンスたるや,まさに動かざること山のごとし。これだけ一貫しているのだから,女の子たちがゲスと知りながら砕月に惹かれてしまうのも無理はない……のかもしれない。


●モテモテな僕は今日も恋にバトルに忙しいんだぜ(激泣)


 なにかと主人公の特殊性ばかりに目がいきがちな本作だが,見どころはそこだけではない。脇を固めるキャラクターたちも,それぞれいい味を出している。

 たとえば典型的なツンデレ気質の優沙は,砕月の二股を知って彼を嫌おうとするのだが,どうしても本心を偽ることができず,葛藤する様が実にいじらしい。一方の静流は,一見すると大人しいお嬢さん風なのだが,やはり二股をかけられたと知ってとんでもない行動に出る(そのシーンはある意味ホラー)。千夏は砕月のビョーキへの抵抗力を持つ数少ない女子の一人で,口では辛辣なことを言いつつ砕月を気にかけている様子にニヤリとさせられるし,宗助は宗助でビョーキのことを知ってなお砕月に付き合ってやっている友達甲斐のあるヤツ。砕月LOVEな莉子(りこ,砕月の妹)と香織(かおり,砕月の義母)の熾烈な戦いからも目が離せない。

 そして戦いといえば,タマの目的であるバグ退治の行方も気になるところだ。タマ曰く,バグは主に人の思いから生まれるという。では,街のどこかにいるという巨大なバグの宿主は果たして誰なのか。そしてデバッガである砕月は,ビョーキに負けずバグを倒すことができるのだろうか。

 ラブコメとバトルという,ライトノベルでおなじみの組み合わせを,今までにない形で融合させた『モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(泣)』。砕月の受難っぷりに同情するも良し,魅力的な少女たちに萌えるも良し,バトルに手に汗握るも良し。それぞれの楽しみ方で,本作を堪能してほしい。

■モテモテじゃなくても分かる,第2回「このラノ」大賞受賞作

『美少女を嫌いなこれだけの理由』(著者:遠藤浅蜊,イラスト:黒兎/このライトノベルがすごい!文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/その男,ゲスにつき。「放課後ライトノベル」第60回は『モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(泣)』を紹介しちゃうんだぜ(泣)
 今回紹介した『モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(泣)』は第2回「このライトノベルがすごい!」大賞の大賞受賞作。本連載の第10回で紹介した『ランジーン×コード』に続く大賞受賞作ということになる。今回の「このラノ」大賞からは,昨年(2010年)に続きバラエティに富んだ5作品が刊行(予定)されている。
 特別選考委員の栗山千明さんの名を冠した栗山千明賞に選ばれたのは『美少女を嫌いなこれだけの理由』(遠藤浅蜊)。男も女も,老いも若きも美少女の姿をした種族と人間とが共存する世界で,片田舎の役場における悲喜こもごもを描いた異色作だ(表紙の2人はどちらも可愛らしい少女の姿をしているが実は……)。優秀賞の『僕と姉妹と幽霊(カノジョ)の約束(ルール)』(喜多南)は,幽霊になってしまった少女と幽霊が見える少年とが織りなす,淡く切ない青春恋愛ものだ。
 なお,10月には優秀賞の残り2作,『ドS魔女の×××』(藍上ゆう)と『R.I.P. 天使は鏡と弾丸を抱く』(深沢仁)の刊行が予定されている。

■■宇佐見尚也1ミニット(ライター/能力減退)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライターにして,「放課後ライトノベル」の集中力が1分しか持続しないほう。「TIGER & BUNNY」の最終回に感化され,宇佐見尚也1ミニットに改名した宇佐見氏。「一人くらいカッコ悪いライターがいたっていいだろ?」とワイルドに決めつつ,日付の変わる直前に今回の原稿を送りつけてきました。まあ,ぎりぎり締め切りを守ったと言えなくもない点だけは認めてあげます。
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