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「放課後ライトノベル」第69回で紹介する『Tとパンツとイイ話』は,なんというか,すごく……“T”です
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印刷2011/11/26 10:00

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「放課後ライトノベル」第69回で紹介する『Tとパンツとイイ話』は,なんというか,すごく……“T”です



 抱き枕というものをご存じだろうか。通常,頭の下に敷く枕の代わりに,抱きかかえるようにして寝るための寝具である。一度手に取ってみてもらえれば分かると思うのだが,この抱き枕というものは実にいいものである。本体には弾力性があり,手で押すと程よい力で押し返してきて,抱くと非常にリラックスできる。材質にもよるがカバーも概して手触りがよく,すべすべの人肌を撫でているような感触を味わえる。

 その魅力はひとたび味わったが最後やみつきになるほどであり,実際,筆者も愛用している。決して表面に女の子のあられもない姿が描かれているからとか,それを抱きしめているとなんか……こう……テンションが上がってくる(婉曲表現)からとか,そういうことはまったくない。ないったらないのである。

 だが,それだけ抱き枕に魅力を感じている筆者でも「抱き枕と四六時中くっついていられるようにしてやる」と言われたら「ノーサンキュー」と答えざるを得ない。夏とか暑いし。しかしもし,そんな拷問のような(人によってはもしかすると至福の)状況に突然置かれてしまったとしたら……?

 そういうわけで今回の「放課後ライトノベル」では,「主人公が抱き枕とくっついてしまった!」という,前代未聞の導入から始まる『Tとパンツとイイ話』をご紹介。抱き枕とTにどんな関係が? むしろパンツのほうが近いのでは? などなど,いろいろと思う向きはあるだろうが,答えは以下で。

画像集#001のサムネイル/「放課後ライトノベル」第69回で紹介する『Tとパンツとイイ話』は,なんというか,すごく……“T”です
『Tとパンツとイイ話』

著者:本村大志
イラストレーター:前田理想
出版社/レーベル:メディアファクトリー/MF文庫J
価格:609円(税込)
ISBN:978-4-8401-4264-9

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●目覚めて鏡をのぞくと,そこには「T」がいた


 高校1年生の日渡陽太(ひわたりようた)には,真上影時(まがみかげとき)という友人がいた。長身で男前な外見とは裏腹に,重度のオタクで厨二病患者である彼は,実家に帰ってきた姉(弟への嫌がらせが趣味)の魔の手から守るため,愛用の抱き枕を預かってほしいと陽太に頼みこむ。友人の頼みならと,陽太はその抱き枕(通称ジョゼ子)を預かってやることに。だが,それが悲劇の始まりだった。
 翌朝,陽太が目覚めると,彼の体にジョゼ子がぴったりとくっついていたのである。しかも,後頭部に。

 頭から真横に抱き枕を生やしたシルエットは,誰がどう見ても「T」。そう,それこそがタイトルの「T」の意味なのである! しかし,笑ってばかりもいられない。陽太がどう頑張っても,ジョゼ子は頭から離れてくれないのだ。それもそのはず,陽太は神経レベルでジョゼ子とくっついていた。そうこうしてるうちに,しまいにはジョゼ子から髪まで生えてくる始末。

 やむなく「とんでもなく奇抜な髪型の高校生」として学校に通うことになった陽太だったが,悲劇はそれだけにとどまらない。登校中の出来事によって,陽太はジョゼ子のみならず,幼なじみの宇月光里(うづきひかり)や,影時ともくっついてしまったのである! どうする陽太! このまま彼は,Tとして生きていくしかないのだろうか!?


●「パンツ」をめぐって異能バトル!? 戦いは意外と本格派


 ……と前段で書いたのが,第一話「Tの悲劇」のあらすじ。話が進むと,それが「思念糸」なるものによって引き起こされたことが判明するのだが,この思念糸をめぐるドタバタを描いているのが本作,『Tとパンツとイイ話』である。

 第二話「パンツ天国」では,思念糸によって学校中の女子生徒のパンツが次々と脱がされていくという事件が勃発。そして「イイ話」に該当する第三話「母性本能が強く子どもが好きな女性はきっと子どもを作る過程も好きでつまり性欲が強いのではないかと考えてちょっとドキドキしていたら大変なことになりました」は,迷子の少女に懐かれた光里が,陽太と共に少女の親代わりになって……というお話。章タイトルからは想像もつかない,家族愛にあふれた「イイ話」となっている。

 Tにしろパンツにしろイイ話にしろ,全体的には思わず「アホな話だなあ」とつぶやいてしまうコメディなのだが,それだけではないのが本作の面白いところ。使い方次第で大変な事態を引き起こしてしまうほどの力を秘めた思念糸。それによって起こるトラブルをめぐり,作中ではしばしば思念糸の使い手(「適合者」と呼ばれる)同士の戦いが描かれるのだが,これがなかなかどうして,本格的な異能バトルとなっているのだ。

 適合者はいずれも「もの同士を融合させる」「身に着けているものを瞬間移動させる」といった単一の力しか持たないのだが,それらをうまく組み合わせることで,陽太たちは強敵と渡り合う。その使い方の妙たるや,ガチの異能バトルものにも決して見劣りしない。能力そのものにも独特なものがあり,たとえば陽太たちに思念糸のことを教えた同級生の天川星也(あまかわせいや)の能力は「金銭を,その金額に応じた力に変化させる」というもの。必然的に彼は常に高額の紙幣を持ち歩き,いざ戦いとなるとそれをばらまきながら戦うことになる。

 「ギャグ満載のコメディだと思ったら異能バトルが始まっていた」何を言ってるのかわからねーと思うが,とりあえず斬新かつ,興味深い展開であるのは間違いない。


●「イイ話」の中でも忘れない,ラブ&ギャグ


 かといってコメディの部分がいまいちかというと,そんなことはまったくない。「T」や「パンツ」にあるようなバカバカしいアイデアに,キャラクター同士の軽妙な掛け合い。陽太のツッコミも冴えわたり,数ページに一度は笑える場面が用意されている。

 キャラクター自体も魅力的だ。影時は先に書いたように基本的にはどうしようもないオタクで変態なのだが,一方で友人のためなら大事にしていた抱き枕をためらいなく壊そうとするような男気も持ちあわせている。そんな彼の男気と,オタクとしての矜持,そして何より変態的なスキルが事態を解決に導く第二話は必見だ。

 ヒロインの光里も,パッと見は普通の「可愛いものに目がない美少女」なのだが,その可愛いもの好きが少々度を過ぎており,可愛いものに限れば影時に迫る勢いのアレっぷりだ。そんな彼女の性格は,事件の原因になることもあれば,それを解決するカギになることもある。慌てると逆再生でしゃべるといったエキセントリックな一面や,各話で必ず下着姿を披露しているというポイントも見逃せない。

 ギャグとバトルの合間には,陽太と光里の初々しくももどかしい恋愛模様も描かれ,ラブコメ好きならニヤリとできるはず。終盤では,何やら新たな展開も予感させる『Tとパンツとイイ話』。次巻のタイトルはどうなるのか? 『Uとスパッツとイイ話』とかなのか? といった意味でも注目していきたい1作だ。

■第7回MF文庫Jライトノベル新人賞受賞作をまとめてチェック

『正捕手の篠原さん』(著者:千羽カモメ,イラスト:八重樫南/MF文庫J)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/「放課後ライトノベル」第69回で紹介する『Tとパンツとイイ話』は,なんというか,すごく……“T”です
 今回紹介した『Tとパンツとイイ話』は第7回MF文庫Jライトノベル新人賞の優秀賞受賞作。過去に『かのこん』『まよチキ!』といった人気作品を輩出してきた同賞から,今回新たに5つの作品が世に出されることになった。
 審査員特別賞『正捕手の篠原さん』(千羽カモメ)は野球部を舞台とする青春ラブコメ。それだけならさほど珍しい話でもないが,ポイントは,基本2ページ1話のショートショート形式で話が進んでいくということ。短いからこそのテンポの良さが魅力だ。野球といってもスポ根ものではないので,苦手な人でも安心。
 佳作を受賞した『キミはぼっちじゃない!』(小岩井蓮二)は,高校生の男女が突然,小さな女の子を育てることになり……というお話。ジャンルでいえば子育てものになるだろうか。主人公たちが育てることになった幼女リリィの愛くるしさに和まされる1作だ。ところで家族ができる話なのになぜぼっち? 答えはその本文で。
 ほか,12月には最優秀賞『豚は飛んでもただの豚?』(涼木行),もう1つの佳作『オーバーイメージ』(遊佐真弘)の刊行が予定されている。こちらも要注目だ。

■■宇佐見尚也(ライター/平常心)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。「NEWラブプラス」の発売延期に,多くの彼氏彼女が嘆きの声を上げているのを尻目に「悩みつつも予約を見送っていた僕には何のダメージもないぜ!」と胸を張る宇佐見氏。そんな宇佐見氏のクリスマスの予定は,「モンスターハンター3(トライ)G」でひとり寂しく狩りをすることだそうです。つまり,いつもどおりということですね。分かります。
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