レビュー
オリジナルスタッフの手によって再構築された傑作シミュレーションRPG「タクティクスオウガ 運命の輪」をレビュー。“再構築”で何がどう変わったか確認してみよう
「タクティクスオウガ 運命の輪」の開発版ROMを入手! 早速,ゲーム序盤を丸ごと収録したプレイムービーを作成してみた
名作「タクティクスオウガ」の“再構築”っぷりが凄い。「タクティクスオウガ 運命の輪」の詳細をムービーでまとめてみた
「タクティクスオウガ 運命の輪」公式サイト
4Gamerの比較的若い読者に向けて軽く説明しておくと,タクティクスオウガは,15年前のゲームシーンを知る多くのゲーマーに,強烈なインパクトを与えたシミュレーションRPGの傑作だったのである。現在,国内で人気が高いシミュレーションRPGというジャンルの礎は,本作と任天堂から発売された「ファイアーエムブレム」シリーズによって築き上げられたといっても過言ではないだろう。
個人的には,「コンシューマゲームで心に残る作品は?」と聞かれれば,トップ10に入る。そんな作品だったのだ。
では,タクティクスオウガのどこが凄かったのか。端的にまとめると,ゲームシステム,シナリオ,グラフィックス,BGMなどといった各要素がいずれも非常に高いクオリティで,しかも,それらのコンセプトが一貫していたところが素晴らしかった。当時の筆者としては,もう何から何まで全部が凄かったという印象だったのである。
先に述べたように,「タクティクスオウガ 運命の輪」の再構築は,オリジナル版のスタッフが中心となって行われたものだ。このアレンジによって,システムやバランスが再調整され,プレイヤーの間口が広がっただけではなく,やりこみ要素なども追加されている。一方で,ゲームコンセプトは当時のものからまったくぶれていない。そのため,再構築されたタクティクスオウガは,当時の経験者だけではなく若い人も含めて,多くのゲーマーの心に届く作品へと仕上がっている。
なお,筆者は原稿執筆時点で60時間ほどプレイしているが,最初に結論から述べると,本作もまた,紛れもない傑作である。
リアリティかつ骨太なバトルシステム
本作のストーリーは,覇権を巡って民族紛争の絶えない“ヴァレリア島”を舞台に繰り広げられる。プレイヤーは少数民族ウォルスタ人の若者“デニム・パウエル”の視点で,時代に翻弄されながらも,ヴァレリア島の争いへと介入していくことになる。
そしてやがては,島の人々の命運を左右し,さらには支配階級層と被支配階級層の違いなどといった,人間の奥底にある闇の部分にも鋭く迫っていくのである。
プレイヤーが扮する主人公のデニムと,彼を溺愛する姉のカチュア。マルチシナリオの選択によって,2人の関係は大きく変わっていく |
デニムの幼馴染のヴァイスは,少数民族ウォルスタ人として虐げられる中,彼なりに時代に対して抗っていく。彼はデニムと対照的な人物として描かれていく |
本作の基本システムは,自分の騎士団を編成し,シナリオに沿う形でワールドマップ内を進軍。その要所要所で発生するイベントを経て,バトルへと突入する。これを繰り返していくというものだ。
まずはシミュレーションRPGとしての核となる,バトルの特徴を見ていきたい。シミュレーションRPGと聞くと,ユニットあるいは自軍/敵軍の単位による,ターン制のゲームシステムを思い描く人が多いかもしれない。しかし,本作におけるユニットの行動システムは独特で,「敵味方を含め,準備が出来たユニットから順に」行動していくというものだ。この概念は,ユニットごとに用意された“ウェイトターン”(WT)という値によって可視化されている。
例えば重装備に身を包んだユニットは,高い戦闘力を発揮する一方で,なかなか次の行動が回ってこない(=WTが長い)。また,各ユニットは移動/攻撃/呪文/スキル/必殺技/アイテムなどの幅広い選択肢の中から行動を選べるが,その分だけ次のターンまでの時間が先へ伸びる。逆に何も行動をしないと,小休止程度でほどなく次のターンが訪れるという仕組みだ。
WTによるユニットの行動順は,画面下部で常に確認できる。これにより,例えば「MPが溜まった敵ユニットの順番が迫っているから,その前に攻撃魔法の対策をしないと……」といった戦略の立て方が重要になってくる。
バトルの地形や敵の種類によって,出撃するユニットのクラスやスキル,ときには装備品まで調整していく |
画面下部に並んでいるキャラクターが,ウェイトターンの順番を示している。しかもキャラクターの行動によって,この順番が随時入れ替わっていくのだ |
もう一つ,本作のバトルを奥深くさせているのは,地形の高低差など,マップが立体的に作用していることだ。弓矢の軌道は放物線を描くため,高所から使うと実質的な射程距離は大きく伸びる。逆に,低い所から弓で狙っても全然届かず,攻城戦のようなケースでは苦戦を強いられてしまう。それではと,ボウガンのように直線的に飛ぶ武器に持ち替えることで対処できるのだが,今度は敵との間に別ユニットや障害物が存在すると目的の相手に攻撃が届かなくなるので,位置取りなどの戦術を考える必要が出てくる。
もちろん弓以外の武器や魔法,そしてスキルなどにもさまざまな戦い方が存在している。
こうしたシステムを前提にバトルが繰り広げられていくのだが,フィールド上は,多いときには敵味方を合わせて30体のユニットが登場することもある。その中でプレイヤーは,1マス単位でのユニットの動きに頭を悩ませ,より効率的に敵を攻撃するなど,高度な戦略を追求していくわけだ。
そういった,緻密な戦略を考えるプロセスこそが,シミュレーションRPGとしての本作の醍醐味であり,15年前にタクティクスオウガが絶大な支持を受けた大きな要因となっていたのである。
“もしあの時……”を実現する
「運命の輪 C.H.A.R.I.O.T.」「運命の輪 W.O.R.L.D.」システム
上記で説明したバトルは,コアゲーマーにお勧めできる奥深いものだ。しかし一方で,いまのライトゲーマーにとって,その奥深さは,一転して“ハードルの高さ”にすり替わってしまうものだ。そんな懸念が開発側にはあったのかもしれない。
続いて紹介する,3システムの追加/変更は,そうしたゲームの難度に大きく影響を及ぼす要素となっている。どのようなものなのか,詳細を確認していこう。
タクティクスオウガの経験者にとって最大の変更点といえるのが,「運命の輪 C.H.A.R.I.O.T.」システムの導入だろう。本作ではバトルにおける行動が,過去50手分まで常時記録されている。そしてプレイヤーは,いつでも好きな所からやり直すことができるのだ。
例えば味方ユニットが戦闘不能になった場合は,その少し前のターンに遡れば回避できる。極端な話,攻撃をミスしたら1手遡って違う行動を取る,といったことも可能なのだ。このC.H.A.R.I.O.T.の導入により,いわゆる“リセット技”は不要となったわけだ。
C.H.A.R.I.O.T.がバトル内の任意のポイントからやり直せるのに対し,続いて紹介する「運命の輪 W.O.R.L.D.」は,シナリオ全体を通して,特定のポイントからやり直せるシステムだ。
本作はマルチシナリオも大きな見どころの一つだが,「もしもあの時,別の選択を行っていたら……?」という思いを,手軽に実現できるわけだ。ちなみにW.O.R.L.D.のメニューはゲーム中の一定条件を満たすことでアンロックされるようになっている。
本作のハードルを下げるもう一つの要素として,ユニットを失う条件がオリジナル版から変更されていることが挙げられる。戦闘中に味方ユニットのHPが0になると,まず“戦闘不能”の状態となる。オリジナル版ではHPが0になった時点でユニットは死亡扱いになり失われてしまったが,本作ではHPが0になると死亡ではなく,戦闘不能となる。戦闘不能になると頭上に数字が出現し,その数字が0になると「死亡」となる。
しかし本作では,ユニットは初期段階で3個の“ライフ”を所有しており,戦闘不能状態で頭上の数字が0になると,そのバトルから退場となるのは変わらないが,このライフが1個消費されるだけで,次のバトルにも参加できるのだ。しかし,ライフが0になった時点,つまり3回目の退場でそのユニットは本当の“死”を迎えてしまう。
また,戦闘不能から死亡までの間に蘇生魔法で回復したり,あるいは退場する前に勝利してバトルを終えれば,ライフを失わずに済む。実際のプレイ中はC.H.A.R.I.O.T.もあるわけで,プレイヤーが意図しない限りは,ユニットを失うことはまずないだろう。
ただし,一部のバトルではNPCを救出するミッションがあり,この際のNPCの戦闘不能=即ユニットを失うことになる。しかもこのようなバトルの場合,NPCはAIによる行動なので,プレイ中は思わず「なんでそこで突っ込むのよ!?」と叫びたくなることもあったが,こういう場面こそ「運命の輪 C.H.A.R.I.O.T.」を活用すべきだろう。
死に対する制約が緩いのも大きな特徴だ。頭を抱えながらリセットボタンを押すことはもうない |
画面中央上部にハートマークが3個ある。このライフ値がゼロにならない限りは,ユニットを失わない仕様だ |
C.H.A.R.I.O.T.の導入や死亡システムの変更は,主にシミュレーションRPGの初心者にとって,リスクを恐れずにさまざまな戦術を楽しみやすいシステムといえるだろう。また,W.O.R.L.D.によりシナリオを一からやり直すことなく,さまざまなストーリー展開を手軽に追えることも,多くのプレイヤーに歓迎されるのではないだろうか。
人によって評価の分かれる部分だと思うが,仮に物足りなさを感じるのであれば,自分の実力に応じて使わないという縛りプレイを考えてみれば良いだろう。C.H.A.R.I.O.T.を使うのも,リセットボタンを押すのも,結局のところプレイヤーの選択である。
キャラクターと“騎士団”を同時に育成していく
RPG部分のキモとなるキャラクターの育成システムに関しても,変更が加えられている。ここは少々分かりにくい部分なので,詳しく説明しよう。
バトルを生き延びたユニットは,戦果に応じた量の“スキルポイント”を獲得する。それらのキャラクターは,このポイントと引き換えに,さまざまなスキルが習得できる。
スキルの全体数は(プレイ範囲では)まだ把握できていないが,少なくとも100種類以上はありそうだ。一人のユニットにセットできるスキル数をある程度増やすことはできるが,スキルの種類は多彩なため。どんなに上限が増えても足りるということはない。敵の構成や地形に応じて,随時セッティングを調整していくことになるだろう。
クラス固有のスキルには有用なものが多い。習得後に別のクラスへ引き継げるスキルもある |
クラスによる武器の使用条件は比較的緩め。それぞれの武器を使うスキルを習得&セットするだけだ |
続いての“クラス”の考え方は,ほかのシミュレーションRPGではあまり見られない,独特なものとなっている。バトル終了後において,参加したユニットがスキルポイントを獲得すると同時に,参加したユニットの「クラス」が経験を積み,レベルアップしていくのだ。例えば,“ナイトA”がバトルに参加したとしよう。その場合,バトルに参加しなかったナイトBやナイトCも含め,「ナイトというクラス」全体が経験値を獲得し,レベルアップするのだ。
このクラスシステムが,プレイスタイルに若干の影響を与えている。
新たにユニットが加入した場合は,既存の(高レベルの)クラスに転職させることで,即戦力として活躍させやすく,またそうすることで,比較的楽にスキルポイントも稼げるだろう。
逆に,シナリオを進めることで新たに転職できるようになったクラスに関しては,実戦投入させるのに少々手間が掛かる。誰かが一度,レベル1から育成しなければならず,その最中は足手まといになりがちなのだ。
既存の手の内の中では応用が効く一方で,新たな手を広げるには多少手がかかるシステムと言えるかもしれない。
既存のクラス内で転職を行えば,即戦力として活躍しやすい。しかし新たに登場したクラスは,しばらくの間は足手まといになりがち。ワールドマップ上でランダムで発生する,エキストラバトルで育成しよう |
シナリオ上重要そうなキャラクターが,新たなクラスとして仲間になったときが悩ましい。素直にクラスチェンジさせても良いのだが…… |
ちなみに,ゲームの序盤に登場するクラスだけでも結構な種類がある。これらのクラスだけでやりくりしていっても,少なくともメインシナリオを終盤まで進めた限りでは,支障はほとんどなかった。とはいえ,中盤以降に登場する個性的なクラスや,ドラゴンなどのモンスター系ユニットを使いたくなることもあるだろう。このクラスシステムの良し悪しの評価を行うには,まだまだプレイが必要になりそうだ。
シミュレーションRPGファンが
本作をプレイしない理由はどこにも見当たらない
今作では,バトル中のマップ画面は視点を2段階に切り替えることができ,クォータービュー視点のほかに,頭上からマスを正方形に見下ろす視点も選べる。さらにPSPの本体にデータインストールが可能で,ゲームの起動後はほとんどロードなしで快適にプレイできる。UIも全体的にサクサクだ。その様子は,「こちら」や「こちら」のムービー記事で紹介しているので,あわせて確認してほしい。
PSPということでもう一つ特筆すべきなのは,新曲も含め,新たなアレンジが加えられた素晴らしい楽曲の数々だろう。本作の楽曲を提供したのは,15年前と同様に,崎元仁氏や岩田匡治氏らが率いるベイシスケイプである。筆者は,スーパーファミコン版のサウンドトラックCDを今でも聞いているくらい惚れ込んでいるのだが,新たにアレンジされた楽曲が登場するたびに,しばらくの間プレイの手を止め,しみじみと聴き入ってしまった。プレイ中は少なくともヘッドフォン,もし可能ならオーディオに接続することをお勧めしたい。
昨今のリメイク作品では,例えばムービーや声優ボイスの追加,3Dモデル化など,見た目をゴージャスにさせるといったケースが多く見受けられる。しかし,少なくとも「タクティクスオウガ」という作品は,できるだけオリジナル版の雰囲気のままで,再構築することこそが正解だったのだと,プレイしていて感じられたのである。
繰り返すが,「タクティクスオウガ 運命の輪」は,どの角度から見ても非の打ち所がない傑作である。PSP本体を持っていて,シミュレーションRPGやRPGが好きな人であれば,本作をプレイしないという理由は,どこにも見当たらない出来だ。筆者にとっては,レビュアーである以前に一人のゲーマーとして,これからも記憶に残り続ける作品となるだろう。
そして,松野泰己氏が描く次の“オウガバトルサーガ”の登場を,何年でも良いので,待ち続けたいと思う。
「タクティクスオウガ 運命の輪」の開発版ROMを入手! 早速,ゲーム序盤を丸ごと収録したプレイムービーを作成してみた
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