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ダウンロード販売の流れを変えるか? ハイクオリティで何度も遊べる800円タイトル「マリシアス」開発者インタビュー
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印刷2010/10/27 02:47

インタビュー

ダウンロード販売の流れを変えるか? ハイクオリティで何度も遊べる800円タイトル「マリシアス」開発者インタビュー

まるで「西洋の絵画」のような美しいビジュアル
不思議な世界観だけど,くどくど説明はナシ


4Gamer:
 ビジュアルについてですが,個性的な見た目ですよね。

平木氏:
 絵作りに関しては,もう最初から目指す方向性が決まっていました。3Dのゲームはリアル路線で美しいものが多いですが,せっかく新しく挑戦するのであれば,「これってマリシアスだよね」と誰からも認知されるビジュアルを作りたかったんです。その方向性については企画当初から最後までブレていません。

画像集#013のサムネイル/ダウンロード販売の流れを変えるか? ハイクオリティで何度も遊べる800円タイトル「マリシアス」開発者インタビュー

4Gamer:
 グラフィックスの色使いなどは,まるで「西洋の絵画」のような印象を受けました。

平木氏:
 ええ,まったくブレることなく“ここ”を目指しました。普通のセルシェーダーでアニメ調に仕上げているゲームはたくさんあるのですが,もうちょっと個性のある物を作っていこうという話になりまして。こういう手描き調のほうがビジュアルのクセが出せますし,私自身こういう世界観が好きなので。おかげさまで,ティザームービーなどを公開したときに見た目が好評でしたので,それは成功した部分なのかなと思っています。

4Gamer:
 タイトルについても気になります。「マリシアス」という単語は,辞書を引くと「悪意のある」「意地の悪い」という意味だと書いてあったんですが,これを選んだ理由はありますか?

平木氏:
 世界観の中で語られる部分なんですが,「マリシアス」とは,この世界で悪意が溜まると出現する“災厄”なんです。ちなみに,シーンセレクトの画面にいるおじいさんがガイド役なんですが,バックグラウンドの押し付けはしたくなかったので,「気になる方はぜひ話を聞いてみてください」くらいの感覚でご用意しました。

画像集#020のサムネイル/ダウンロード販売の流れを変えるか? ハイクオリティで何度も遊べる800円タイトル「マリシアス」開発者インタビュー

4Gamer:
 もう一つ,本作はマントの形を武器や盾などに切り替えて戦っていますが,このマントはいったいなんなのですか? どういう設定なんでしょう?

平木氏:
 プレイヤーをマリシアスの世界に呼び出した「預言者」の秘術によって生み出されたマントで,破壊したものに宿る力を吸収して性質や形状を変化させる,という設定です。ゲーム中では「灰の外套」と呼んでいますが,ボスを倒すごとにその力を吸収して,マントのアクションは増えていきます。レベルアップの概念はありませんが,マントのアクションが増えていくことが,レベルアップのようなものと考えてもらうといいかもしれません。
 本作では純粋にアクションを楽しんでいただきたいので,難しい設定などはほとんど語らず,むしろ世界の土台だけを用意しました。軽い説明はありますが,実際には皆さんで世界の雰囲気を感じながら戦ってもらえるといいかなと思います。

画像集#014のサムネイル/ダウンロード販売の流れを変えるか? ハイクオリティで何度も遊べる800円タイトル「マリシアス」開発者インタビュー



ただの“安くて良くできたゲーム”ではない
「マリシアス」に込められた哲学とは


4Gamer:
 話は戻りますけど,マリシアスって,昔のアーケードゲームっぽいところがありますよね。

平木氏:
 はい。昔のアーケードゲームでは長いストーリーの説明などがなく,「ゲームそのものを遊ぶ」という作りでしたよね。

4Gamer:
 パッケージソフトでは「ボリュームをいかに確保するか」という命題があるので,アクションゲームであっても,それなりの(場合によってはかなりの)やり込み要素を入れたりしなければなりませんよね。その点でマリシアスは,そういう部分を一切省いて,ゲームのコアな部分にのみに注力している印象を受けます。

平木氏:
画像集#012のサムネイル/ダウンロード販売の流れを変えるか? ハイクオリティで何度も遊べる800円タイトル「マリシアス」開発者インタビュー
 とにかくボリュームがあって,遊びこむためのゲームというのは,今ではたくさんありますね。でも一方で,本作みたいな「割り切って遊ぶゲーム」って少ないんじゃないでしょうか。
 昔,私がアグレッシブにゲームを遊んでいた頃は,もっと気軽にゲームを遊んでいました。でも最近は「今日はこのアイテムをコンプリートするぞ」とか,そういう遊び方ばかりに寄ってきていることに不安があったんです。
 なので,これは社内でも本当にいろいろな意見があったんですが,マリシアスはあえてボリュームを絞ることにしました。

4Gamer:
 コンプリート要素が膨大に用意された大作とか,たしかに疲れることがありますね。

平木氏:
 一回のプレイに時間のかかるタイプのゲームは,一度クリアしたら二度目はなかなかやらないと思うんですよ。

4Gamer:
 シューティングゲームはジャンルとしてニッチになったけど,一日一回通しで遊んでみるとか,そういう感じですよね。

平木氏:
 そうですね。何かしようかなって思ったとき,「あれなら気軽にできるし,一周するのも時間かからないから,今日もやってみようかな」と思われるタイトルを目指しています。

4Gamer:
 つまりマリシアスの目指すところは,原点回帰という方向ですか?

平木氏:
 そうですね。「ゲームってもっと,さっくり遊んでいたよね」というところを目指しています。

画像集#019のサムネイル/ダウンロード販売の流れを変えるか? ハイクオリティで何度も遊べる800円タイトル「マリシアス」開発者インタビュー

4Gamer:
 遊んでみて思いましたが,クリアしていかないと面白くならないわけではなく,勝つか負けるかは分からないけど,さわっていて面白いゲームでした。

平木氏:
 そう言っていただけると,作った甲斐があります(笑)

4Gamer:
 ボスに勝って能力が増えて,やれることが増えていくってのは,アクションゲームの醍醐味ですよね。アクションが増えてから別のシーンに挑んでみたり,プレイを重ねることで実力も上がったりとか,そういうところは,すごく楽しめそうだなと感じました。

平木氏:
 そういうところを目指して作りましたので,皆さんにもそう感じていただけると嬉しいです。



ゲーム開発歴15年のデベロッパが
パブリッシャ業務に打って出た背景


4Gamer:
 ここからは会社のことについて聞いていきたいと思います。
 アルヴィオンさんがパブリッシング業務にも進出したのは,どういった理由からでしょうか?

平木氏:
「プーペガールDS」
画像集#024のサムネイル/ダウンロード販売の流れを変えるか? ハイクオリティで何度も遊べる800円タイトル「マリシアス」開発者インタビュー
 アルヴィオンとしては,パブリッシングもしていかないと,今後ゲーム業界で生き残るのは難しいと思うんです。弊社で販売しているタイトルに「プーペガール」がありますが,ああいうラインも含めて,幅広い層に訴求できるようなものを用意しています。
 じつはアルヴィオンはそれなりに歴史がある会社でして,今年で15年ほどになります。ずっとゲームを作ってきたノウハウを生かしつつ,挑戦的で面白いゲームを作っていこうと考えています。

4Gamer:
 デベロッパさんの中には,パブリッシャを目指して頑張っているところもあれば,割り切って開発を続けているところもあります。打って出ざるを得ない状況というのもよく聞きますが,自社でパブリッシング業務に打って出た背景を教えてもらえますか?

平木氏:
 やはり受注だけだと,この先どんどん細っていくと思うんです。自分達でいばら道を歩いてでも,仕事の幅を広げていかないと厳しいと感じていることが正直あります。マリシアスというタイトル自体はコンパクトですが,アルヴィオンの知名度を上げるための役割は果たせるのではないかと,いま頑張っているところですね。



新生アルヴィオンはここから始まる


4Gamer:
 それにしても,「マリシアス」というタイトルは,企画当初からダウンロード販売を想定していたのですか?

平木氏:
 はい,当初からダウンロード販売を想定していました。

画像集#028のサムネイル/ダウンロード販売の流れを変えるか? ハイクオリティで何度も遊べる800円タイトル「マリシアス」開発者インタビュー

4Gamer:
 確かにダウンロードコンテンツという手法は,いま伸びている感触があって,PS3やPSPなら割と売れる土壌,下地ができていると感じています。しかし平木さんご自身としては,どうしてそこまでダウンロード販売についてのこだわりをお持ちなんでしょう?

平木氏:
 私自身が,フルプライスのゲームを見て,すごくいいタイトルはたくさんあるし,やってみたいんだけど,「自分がその値段分,遊べるかな」と思って躊躇してしまうので。でもダウンロードゲームって値段が1000円以下のものが多くて,ボリューム感も自分に合っている。そういうゲームは今でも気軽に買っているんですよ。こういった感覚のユーザーさんも多いのではないかな? と思っているんです。

4Gamer:
 しかし,思いついたことをすべて盛り込むのは,この価格ではリスクが大きいですよね。マリシアスの開発中,とくに取捨選択した部分などはありましたか?

平木氏:
 割り切った部分は「ボリューム」ですね。開発中はもっと多くのシーンのイメージがあったんですが,それを全部入れると膨大になってしまいます。コンセプトは「手軽に楽しんでもらえる」ってところなので,ボリュームは直結しないだろうと考えました。
 でもそのぶん,クオリティには手を抜きませんでした。手描きのタッチにとことんこだわったり,エンジンを一から作ったりもしました。

画像集#025のサムネイル/ダウンロード販売の流れを変えるか? ハイクオリティで何度も遊べる800円タイトル「マリシアス」開発者インタビュー

4Gamer:
 世間の反応は直接届いてきますか? 公式サイトにアクセスや問い合わせがあるとか。

平木氏:
 公式でTwitterを立ち上げたり,検索エンジンで「マリシアス」と検索して見たりしているのですが,私たちが思っていた以上の反響をいただき,正直驚いています。

4Gamer:
 ネットで情報収集をしているゲームファンに関しては,「全体的にボリューミーです」というゲームよりも,「何か光るもの」を求めている傾向がありますね。マリシアスに対して,そのあたりの何かを感じ取っているのかもしれません。

平木氏:
画像集#009のサムネイル/ダウンロード販売の流れを変えるか? ハイクオリティで何度も遊べる800円タイトル「マリシアス」開発者インタビュー
 あと,グラフィックスの部分に反応してくださっている方はとても多いですね。ムービーで動きなどを見て,スピーディな部分を評価していただいているという印象です。

4Gamer:
 それでは最後に読者に向けてのメッセージをお願いします。

平木氏:
 価格やボリューム,家にいながらダウンロード購入できる手軽さなど,「手に取りやすいゲーム」となっています。触れてもらえれば,ゲームが好きな人はきっと楽しんでもらえる内容だと思います。ぜひよろしくお願いいたします。

4Gamer:
 本日はどうもありがとうございました。


 インタビュー中にあるように,昨今のゲームはクリアするのに10時間以上かかることが珍しくない。そんななか,あえてボリュームを少なくし,その代わりアクションの気持ち良さという部分に注力しつつ,繰り返し遊べる作品を生み出す。それがアルヴィオンの挑戦だった。
 昔のアーケードゲームのように,ストーリーやらムービーやらではなく,遊ぶこと自体が楽しいゲームを。またダウンロード専用タイトルにありがちな,「シンプルだけどハマるよ!」的なミニゲームではなく,作り自体はパッケージゲームに負けないしっかりとしたゲームを。いくつもの理想のもと,一つの貴重なゲームが完成した。

画像集#023のサムネイル/ダウンロード販売の流れを変えるか? ハイクオリティで何度も遊べる800円タイトル「マリシアス」開発者インタビュー
 今回,短い時間ながら実際にプレイできたが,プレイヤーの操作スキルがそのままゲーム内のキャラクターの動作に直結しているようで,遊べば遊ぶほどいい味が出てきそうに感じられた。発売日ギリギリまで調整が続けられていたようで,細かいバグなどを丁寧に潰し,完璧に近いものに仕上がっているそうだ。
 ダウンロード専用,800円という格安で配信されることもあり,そういった話題に目が行きがちだが,しっかり作りこまれており,ちゃんと遊べるアクションゲームとなっている。ムービーやスクリーンショットを見て興味を持ったなら,ぜひプレイしてほしい。個人的にももっと遊んでみたいタイトルだ。

「マリシアス」公式サイト




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