レビュー
丁寧な作りと若干コミカルなストーリー展開が魅力のアドベンチャーRPG
つくものがたり
付喪神に成りうるとされる対象は,自然物から人の作り出した道具まで実にさまざま。これは森羅万象に八百万の神が宿るとする,日本独自のアニミズムから生まれた考え方と捉えていいだろう。
この観念は,現代の日本にも残っている。「物を大切にしなさい」と親や教師に説教を受けた記憶は誰にでもあると思うが,この根底には,長い間大事に扱われたモノには良い神が,粗雑に扱われ劣化してしまったモノには悪い神が憑くという古い考え方が,ある程度は影響を及ぼしているはずだ。
そう考えると,普段から手にしているペンや,何気なく通り過ぎている木々花々に,何やら得体の知れないモノが憑いていてもおかしくない気がしてくるではないか。
「つくものがたり」公式サイト
さて,この前置きに何の意味があるのかというと,実は今回紹介する「つくものがたり」は,上述したような日本特有の世界観に焦点を当て,現代風かつ幻想的にアレンジされたアドベンチャーRPGなのだ。
いよいよ本日(2011年1月27日)発売を迎える本作は一体どのような内容なのか。ジャンルがアドベンチャーRPGということなので,本稿ではそれにならって「アドベンチャー」と「RPG」という2つの側面から見た,つくものがたりの印象をお伝えしていこう。
真面目な伝奇物かと思いきや,実態は結構コミカル
「アドベンチャー」としての完成度はかなり高め
つくものがたりのストーリーは,ひょんなことから「妖」(あやかし)と呼ばれる異形のモノが見えるようになってしまった主人公,石神優斗が,古品に身を宿しこの世を守ると言われる「付喪神」(つくもがみ)の力を借りて,大小さまざまな事件を引き起こす妖と戦っていくという内容だ。
ちなみに,ひょんなことをものすごくざっくり説明すると,とある校舎の3階の教室で,妖に憑かれて我を失った女生徒,皆見遙香をなだめようと揉み合っているうちに,一緒に窓からコンクリに向かってダイブすることになった,というのが直接的原因。いわゆるショックで能力に目覚めちゃったタイプである。
この出来事以降,優斗は世のため人のため自分のために,何度も妖と対峙していくことになるのだが,当の優斗は変なモノが見えるだけで戦う力など一切ない,いたって普通で年相応にエッチな高校生である。そんな優斗の心強い助け(?)となるのが,担任であり優斗と同じく妖を見る能力を持った女王様系の生物教師,安倍彩香だ。
ともかく,優斗が渡された携帯には「クタベ」という付喪神が憑いており,彼はこのクタベと二人三脚で妖を退治していくことになる。携帯は妖との戦闘においても重要な役割を担うが,それについては「RPG」部分の紹介で詳しく触れよう。
物語の導入部に続いてアドベンチャーの要素として特筆しておきたいのは,シナリオとキャラクター,そして演出の3点について。
まず,シナリオの進行は細かい章が続き,章ごとに異なる人物にスポットが当てられる形式。アドベンチャーゲームとしては多めの20名近いキャラクターが登場する本作だが,物語を進めていけば,長短はあれどしっかりと一人一人の魅力が描かれていく印象だ。全体的に雰囲気はボケ&ツッコミの会話が交差するコミカルなもので,テンポも非常に良い。
2点目のキャラクターについては,なんと言っても出演キャストが大きな特徴と言える。豪華という言葉では足りないその顔ぶれは,声優ファンならば常にニヤニヤすること請け合いだし,声優にあまり詳しくないという人でも,普段からアニメなどを見ているならば,聞き覚えのある声にピンとくること間違いなしである。
例えば両手に花状態のイベントが進行していると,右からはタマちゃんの声が,左からはレオちゃんの声が聞こえてくるというようなあんばいで,これはもうその幸せを何度も味わうためにセーブ&ロードを繰り返すのも仕方がないというもの。
また,イベントスチルや各キャラの立ち絵,BGMなどをゲーム内のキャンプ画面から直接確認できたり,気に入ったスチルをゲーム内で壁紙に使えたりといった,アドベンチャーゲーム好きには嬉しい仕様が用意されているのもポイントだ。
以上のように,シナリオの読みやすさ,キャラクターの魅力,そしてそれを彩る演出という3つの効果があって,アドベンチャーパートの完成度は総じて高い印象を受けた。ちょっとしたコメディや簡単な読み物を楽しむつもりでプレイできるライトさはPSPとの親和性も高いので,布団に寝転がりながらキャラ同士の会話を楽しむというスタイルを個人的にオススメしたい。
校内探索パートでの下準備が攻略の鍵
「RPG」部分は意外と難しい?
さて,視点を少し変えてRPGとしてつくものがたりを見たときの感想は,「意外とムズい」である。その理由は,戦闘で必要となる「付喪神」を呼び出す準備と,正体不明の敵,「妖」の能力を暴くための情報収集という2つの行動を,プレイヤーは限られた時間の中で同時にこなさなくてはならないからだ。
ゲーム全体の流れは,上述した「アドベンチャーパート」で何らかの事件が起きたのち,戦闘への準備を進める「校内探索パート」を経て,実際に妖と戦う「戦闘パート」へと移る。
アドベンチャーパートを終えると,プレイヤーは主人公を操作して,校内探索パートで学校の敷地内のスポットを歩き回り,付喪神を呼び出すために必要な「憑代」と,呼び出した付喪神を強化するための「言霊」を,制限時間内に集めなくてはならない。
校内探索パートの制限時間は章によってまちまちだが,例えば昼休み(12:30〜13:30)と放課後(15:30〜18:00)の2回行動といったパターンがある。準備時間のあと,妖との戦闘が発生する |
校内探索パートでは,1か所訪れるたびにゲーム内時間が5分経過する。何の収穫がなくても時間は過ぎるので,この点は注意 |
妖と戦うための武器であり盾でもある付喪神を呼び出す媒介となる「憑代」は,校内にある“モノ”を女王彩香様からもらった携帯のカメラで撮影することで獲得できる。もちろん,対象はなんでもいいわけではなく,ちゃんと付喪神が宿ったモノを撮影しなくてはならない。なんとなく古そうなモノを撮ると手に入る場合もあるが,シャッターを1度切るたびにゲーム内時間が5分経過するので,当てずっぽうに撮影を続けることは避けたい。
憑代がどこにあるか分からない場合は,保健室にいる奥原佳人(CV.平川大輔)と情報交換することでヒントがもらえる。奥原は生徒達の間の“噂”を集めている。噂はキャラとの会話中,稀に黄色い文字で表示され,自動でメモされるので,手に入れたら積極的に保健室へと足を運ぼう |
いつ,どこで,どういった言霊が手に入るかは分からないし,必ず獲得できる保証もないため,校内をとにかく歩き回るしかないが,会話の中での出現率は高いので,まったく手に入らないまま妖と戦うような状況にはならないだろう。
これに加えて,プレイヤーはその章の敵となる妖の情報収集も,この校内探索パートで進めておかなければならない。何も分からない状態から妖の名前,耐久力や攻撃力,特徴,属性などを調べていくのだが,これがなかなか手間なのだ。
というのも,妖の情報は特定の場所を訪れたときに発見できる“オカルトメモ”的なものに書かれているのだが,このメモはどこにあるか見当がつかないのである。憑代や言霊を集める作業の中で自然と手に入る場合も多いが,制限時間の中で妖の情報をすべてを開示させるのはかなり困難なので,見つからない場合は諦めて割り切ってしまったほうがいい。
付喪神を呼び出す準備と敵の妖の情報収集をしているうちに行動時間がなくなると,いよいよ妖との戦闘となる。戦闘自体は攻撃フェイズと防御フェイズを繰り返すターン制なので難しくはなく,むしろ戦闘に至るまでにどれだけ準備をできているかが勝敗を分けるポイントとなる。いろいろな場所を訪れ,さまざまなキャラクターとの会話をとおして妖と戦うヒントを見つけていこう。
基本的に,1章につき出てくる妖は1体で,妖との戦闘に勝利すると次の章に移行する。どちらかというと,戦闘は繰り返すことを楽しむというよりは,むしろその章の物語を終え次の章へと進むために与えられる試練,といったイメージで捕えておきたい。校内探索パートも,戦闘に勝利するための情報収集が目的ではあるのだが,キャラクターとの会話を楽しむつもりで進めたほうが,より本作の魅力を深く味わえる。あくまでアドベンチャーが主体であるという意識は持っておいたほうがいい。
なにより,女性キャラはみんな季節の花々のように可憐だし,男性キャラは裸ジャケットの竜岡を筆頭にみんな変な奴らばっかりだ。そんなキャラ達を交えて進んでいく物語は当然ロマンスとハプニングに満ちていて,常に先の展開が気になってしまう。
アドベンチャーゲームということで,ゲームの展開が単調なのではないかと思う人もいるかもしれないが,本作では妖との戦闘などのRPG部分がスパイスになっているので,そういう人でもきっと楽しめるはずだ。
今日からはつくものがたりのプレイをとおして,誰もが一度は夢想するような,てんやわんやで不思議な高校生活を謳歌してはいかがだろう。だがその前に,今一度,手に持っているPSPに何やら変な気配を感じないかも,よく確かめてみてほしい。
「つくものがたり」公式サイト
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