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「究極のFF」や「けいおん!!」の話も飛び出した? 音楽活動20周年を迎えたゲームミュージック界の大御所,伊藤賢治氏にインタビュー
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印刷2010/09/22 13:32

インタビュー

「究極のFF」や「けいおん!!」の話も飛び出した? 音楽活動20周年を迎えたゲームミュージック界の大御所,伊藤賢治氏にインタビュー

オリジナルレーベル「gentle echo」の立ち上げ


4Gamer:
 そしてご自身のレーベルであるgentle echoも立ち上げたわけですが,それにはどのようなきっかけがあったのでしょうか。

画像集#013のサムネイル/「究極のFF」や「けいおん!!」の話も飛び出した? 音楽活動20周年を迎えたゲームミュージック界の大御所,伊藤賢治氏にインタビュー
伊藤氏:
 カナダにウィンダム・ヒル・レコードという自然主義者達によって作られたレーベルがありまして。自分自身はそんなにナチュラリストでもないんですが,その考え自体はとても大事だなと思っていたんです。
 子供の頃から安らげる音楽は好きでしたし,そういったものをモデルケースとして,自分なりのレーベルを立ち上げたいという思いがありました。

4Gamer:
 なるほど。

伊藤氏:
 だから音楽じゃなくても良いんですよ。自分は作曲家だから音楽で発信しますが,例えば食べ物であったり,映像であったりしてもいい。子供にとって良い食品や,情操教育になる作品を作るというのもアリですよね。

4Gamer:
 1回目のライブである「gentle echo meeting」が2009年に開催されましたが,レーベルを立ち上げてから初めてのライブということで,感想はいかがでしたか?

伊藤氏:
 ゲストとして桜井政博さんを招いたのですが,あらためて彼と色々話をしていくうちに,彼のゲームに対する想いとか,自分とのギャップが見えてきてすごく楽しかったですね。僕はどちらかというと,ゲームを俯瞰で見ている部分があるんですよ。ゲームミュージックの制作が活動の中心ですけれども,実はそれほど執着があるわけでもない。
 一方で,桜井さんはもう「ゲームがすべて」というところがあるんです。でも,僕も一緒に「スマブラ」を作っていたりするわけじゃないですか。ギャップはあれど,最終的なところで想いは同じなんだなと,そこで再確認できました。

4Gamer:
 イトケンさんと桜井さんの関係だからこそ,できる話というのもありますよね。

伊藤氏:
 そうですね。僕はライターじゃないので,きっとそういった方達とは違う視点で質問できることもあると思うんですよ。
 第1回gentle echo meetingの感想も,ネット上で確認したのですが,「イトケンさんと桜井さんは,どの雑誌にも載っていない話をしてくれた」みたいなことが書いてあったりして,嬉しかったです。


20周年記念ライブに向けた意気込みと,胸に抱く野望


4Gamer:
 いよいよ第2回のライブ,「gentle echo meeting2」が9月23日に開催されますが,こちらに向けた意気込みはいかがでしょうか?

画像集#014のサムネイル/「究極のFF」や「けいおん!!」の話も飛び出した? 音楽活動20周年を迎えたゲームミュージック界の大御所,伊藤賢治氏にインタビュー
伊藤氏:
 もう,色々な想いがありますね。今回のゲストは「宇宙戦艦ヤマト」や「聖闘士星矢」で有名な川島和子さんなのですが,僕はやっぱり「宇宙戦艦ヤマト」で育った世代なんですよ。あのアニメがなければ,こっちの世界に進んでいなかったと思います。

4Gamer:
 そんなに影響が大きいんですか。

伊藤氏:
 はい。宮川 泰さんと羽田健太郎さんの音楽は素晴らしかったし,川島さんのスキャットなんかは子供心に感動しました。まぁ,その頃はそこまで深くは分からなかったんですが,成長してから聴き直したり,見直したりしていくうちに,すごいなぁと。だから宮川さんと羽田さんは目標というか,それを飛び越えて雲の上の人ですね。

4Gamer:
 川島和子さんはイトケンさんの楽曲にも度々関わっていますよね。一体どういったきっかけで知り合ったのでしょう?

伊藤氏:
 元々は単なるファンだったんですけどね。ちょうど「聖剣伝説」のアレンジCDである「想いは調べにのせて」を作るときに,ある曲で,どうしてもコーラス的なものを入れたいと思ったんです。
 それで恐る恐るコーディネーターに「川島さんにお願いしたいです」と言ったら,「全然大丈夫ですよ」という答えが返ってきて,逆にこっちが呆気に取られちゃいました(笑)。そこがスタートですね。

4Gamer:
 ライブでは川島さんとのトークコーナーも予定されていますが,どのようなお話をされる予定なんでしょうか。

伊藤氏:
 川島さんと知り合ったきっかけとか,どういう作品をやられてきたかとか。例えば,昔「JR東海」のCMがあったじゃないですか。あれ,「JR,東海」と言っている女性のほうは,川島さんその人なんですよ。そういうのを探れば,本当に色々出てくるんです。

4Gamer:
 あれ川島さんだったんですか! では,曲に関しては何を演奏する予定なんでしょう?

伊藤氏:
 今発表してるのは「熱情の律動」と,今回初演奏の「邪聖の旋律」。あと「聖剣伝説」だとシャドウナイトとの戦闘曲とか,最近のでは「おおかみかくし」の曲もありますね。
 あと,実はちょっとした仕掛けもあります。それはぜひ楽しみにしていただきたいですね。

4Gamer:
 まだ第2回ライブが始まってもしないのに気が早いとは思いますが,今後も3回,4回と続けて開催していく予定でしょうか。

伊藤氏:
 もちろん。色々と形を変えてやっていきたいですね。例えば,今回は“4ピース+ストリングスカルテット“という,ちょっと変則的で人数が多めな感じなのですが,どこかのタイミングでピアノソロだったり,ピアノとギターとヴァイオリンのサロン的なものだったりもやってみたいです。もしくはちょっとお金をかけて,ピアノとダブルストリングスみたいな。あと,野外ライブにも挑戦してみたですね。

4Gamer:
 野外ですか?

伊藤氏:
 gentle echo meetingに限らず,ゲームミュージックで野外ライブ。それこそ今年,カシオペアの向谷実さんとライブをやったんですけれども,今度は自分で,ああいった一流ミュージシャン達を招いてみたいです。野外で真夏のライブで楽しみたいという欲が出てきました。

4Gamer:
 野外ライブのどういったところに魅力を感じたんでしょうか?

伊藤氏:
 なんかハジケやすいじゃないですか。お客さんも食べたり飲んだりしながら,それぞれの楽しみ方ができるという自由さがいいですよね。クラシックスタイルだと,やっぱり若干の窮屈さもあったりするので,そこをあえて外して,演奏する側もハメを外せるようなライブをやりたいです。

4Gamer:
 そういった希望も含めて,今後どのような活動をしていく予定でしょうか?

伊藤氏:
 今42歳なんですが,目標として3年後,45歳ぐらいにはgentle echoというレーベルをワールドワイドに広めたいという野望があります。

4Gamer:
 おお,燃える野望ですね。

伊藤氏:
 そのためにはゲームに限らず,色々な人と知り合って,一緒に色々なことをやっていきたいですね。お互いの良い部分を出し合えるようなことを。
 そしてそれがビジネスになるんだったら,ただお金を儲けるだけじゃなくて,お金が発生したらまた次に向けてどう活用していくのか考えたり。大きなテーマですが,叶えていきたいですね。


「クリエイターの質が落ちている」

今のゲーム業界に対する厳しい意見


4Gamer:
 ちょっと話は変わりますが,イトケンさんは今のゲーム業界についてどう思われますか?

画像集#017のサムネイル/「究極のFF」や「けいおん!!」の話も飛び出した? 音楽活動20周年を迎えたゲームミュージック界の大御所,伊藤賢治氏にインタビュー
伊藤氏:
 リメイクばかりですよね。新しいものがほとんど売れない。これは個人的な意見なんですが,要因のひとつとして,クリエイターの質が落ちているというのがあると思います。
 これは当時のスクウェアの話なんですが,クリエイターは自分たちの作ったゲームが製品化されたら,それを自分で遊んでいたんですよ。デバッグとかではなく,純粋に楽しんで。つまり,「自分たちが作ったゲームこそ面白い」という精神があったんです。作り手があらためて,プレイヤーとして楽しめるぐらいのクオリティを心がけていたわけです。
 今,スクエニに限らずすべてのクリエイターに,そこまでの情熱や思い入れを持って作品を作っている人がどの程度いるのかと,僕は問いたいです。

4Gamer:
 それに胸を張って「はい!」と言える人は,多くはないかもしれませんね……。まぁ,昔と比べてハード性能も上がりましたし,ゲーム作りのシステムそのものも変化して,開発も色々と難しくなってはいるんでしょうけれども。

伊藤氏:
 そうですね。例えば,昔は良いゲームを作ってお金にしようというスタンスだったと思うんですよ。でも,今はお金にするためにゲームを作るという感じで。

4Gamer:
 開発費も出にくくなっていますからね……。

伊藤氏:
 これは与太話なんですけれども,別件で,今の「FF」のプロデューサーである北瀬佳範さんに会う機会があったんですよ。彼とは同期で,ぶっちゃけた意見も言い合える仲なんです。
 そこで「今の『FF』はつまらん! 当時のオリジナルメンバーを集めて“究極の”『FF』を作ってくれ」と無茶ブリをしたんですよ(笑)。で,彼に苦虫を噛み潰したような顔で「誰がまとめんの?」って言われたから,「北瀬さんで良いんじゃない?」と答えたら,「俺は嫌だよ! 恐れ多すぎる」みたいな感じで。
 そういうところで引かず,「じゃあ俺が!」という肝っ玉の据わったヤツが,ひとりでもふたりでもいれば,多分現状を,ちょっとは改善できるんじゃないかなと思うんですけどね。

4Gamer:
 しれっと凄いことを言いますね(笑)。でも「究極のFF」は確かに見てみたい……。

伊藤氏:
 夢ばかりも語れませんけどね。でも,最近はあまりにも夢のない作品が多すぎる。まだスタミナがある今のうちに,バカバカしくてもいいから何か夢を与えられるものを作ってほしいです。


意外な一面? アニメに対しても研究熱心な伊藤氏


4Gamer:
 真面目な話を終えたところで……かなり脇道にそれるんですが,イトケンさんは最近「けいおん!!」(※1)とか「ストライクウィッチーズ2」(※2)とか,アニメをよく見られていますよね?

※1:女子高の軽音部の日常を描いたコミック原作のアニメ。OPテーマがアニメキャラ名義としては史上初のオリコン1位を獲得するなど,凄まじい盛り上がりを見せている

※2:“ウィッチ”と呼ばれる少女たちが,パンツじゃないから恥ずかしくないズボンを履いて大空を飛び回り,人類を脅かす謎の敵“ネウロイ”と戦うアニメ。色々な意味で斬新な設定が話題となった

画像集#018のサムネイル/「究極のFF」や「けいおん!!」の話も飛び出した? 音楽活動20周年を迎えたゲームミュージック界の大御所,伊藤賢治氏にインタビュー
伊藤氏:
 はい(笑)。小さい頃からテレビアニメや特撮はよく見てて,それが今でも続いているという感じですね。

4Gamer:
 やはり何かこう,音楽的にインスピレーションを受けたりするのでしょうか?

伊藤氏:
 もちろん。最近は勉強の意味もこめて,ギャグ系をよく見るんです。僕自身はギャグ系の曲を作ることは,実は苦手なほうなので,どうすれば人を楽しませたり笑わせたりできる曲を作れるのか,そのへんを中心に見ていますね。

4Gamer:
 じゃあ「けいおん!!」や「ストライクウィッチーズ2」からも,何か学んだりしているんでしょうか?

伊藤氏:
 「ストライクウィッチーズ」は話題性がありましたよね。話題になるからには,何か人を惹きつけるものがパンツ(ズボン)以外にもあるはずだと思って(笑)。でも,よくよく見たらストーリーは真っ当ですよね。そこにオプションとして,ちょっとエロティックなかわいい女の子達が,兵器を持って戦うアンバランスな魅力があって,それを自分なりに研究していました。
 「けいおん!!」は「けいおん!!」で楽器のディティールが凄いなぁとか,そういった部分で楽しんでますね。

4Gamer:
 「けいおん!!」に関しては音楽で大成功した作品ですが,イトケンさんは「けいおん!!」の音楽についてどう思われます?

伊藤氏:
 時代が違うなと思いましたね。この前,それこそ「けいおん!!」で作曲をやっているTom-H@ck君と会ったんですが,もう思いっきりジェネレーションギャップを感じました。完全に洋楽の聴き方や出し方なんですよ。僕らの世代にはちょっとなかった感じで,多少歌いづらくても耳に残るインパクトを重視して,しかも聴いて分かる曲。彼も相当苦労したと思いますよ。僕にはできないと思います。
 僕はやっぱり歌いやすい,聴きやすいというところで勝負なんですけれども,そういった意味で,以前「アラド戦記」というアニメでやった「LEVEL∞」という曲はかなり苦労しました。

4Gamer:
 「アラド戦記」ですか。オンラインゲーム原作のアニメですね。どういった部分で苦労されたんでしょう?

伊藤氏:
 僕なりの解釈ですが,今のアニソンって,Aメロでちょっとしたサビみたいな引っかかりがあって,Bメロにもまたちょっと小さいサビがあって,もう全編サビみたいな感じで耳に引っかかるラインがないとダメみたいなんですよね。
 ノウハウがなかったので「LEVEL∞」では3,4回ボツをくらって,これは元から叩き直さないとダメだなと思いました。あれは本当に勉強になりましたね。

4Gamer:
 そうなると,やはりアニメを見るのも勉強のうち,ということなんですねぇ。

伊藤氏:
 同じ話をだいたい3回は繰り返し見てますからね。まず1回目は楽しんで見て,2回目は音楽の流れるタイミングなどに注意して,3回目は声優さんを通して,別の作品と比べて声の出し方とかイントネーションの違いを研究しています。

4Gamer:
 すげぇ……。予想を遥かに超えた本気ぶりです(笑)。ちなみにイトケンさんが最近見たアニメの中で,「これは素晴らしい!」と思ったような作品ってあります?

伊藤氏:
 「ARIA」(※3)ですね。一度で良いから,ああいう作品を手がけてみたいです。

※3:テラフォーミングされた火星にある“ネオ・ヴェネツィア”という架空の都市を舞台に,ゴンドラ漕ぎを目指す少女たちの生活を描いたコミック原作のアニメ。かなり癒される

4Gamer:
 おお,あれは確かに素晴らしい作品でしたねぇ。イトケンさんのお好きな癒し系でしたし。

伊藤氏:
 ストーリーや登場人物達のバックボーンが非常に良くできていましたし,すべてにおいてバランスが良かったですね。ヒーリングアニメとして完璧にまとまっていました。

4Gamer:
 本当に色々と見ていらっしゃるんですね。また別の機会に,アニメについて語ってもらいたいくらいです(笑)。

伊藤氏:
 ぜひ(笑)。

4Gamer:
 では最後に,ライブや今後の活動を楽しみにしているファンに向けてのメッセージをお願いします。

伊藤氏:
 来年からはまたPiece of WonderやRESONATORの活動も含め,新しいことに挑戦しようと思っているので,今回のライブはひとつの区切りになると思います。「宇宙戦艦ヤマト」が好きだった少年時代から今までを含めての総決算。ぜひ楽しみにしていてください。

4Gamer:
 ありがとうございました。


 音楽活動20周年ということで,あらためて伊藤氏に過去を振り返ってもらった今回のインタビュー。古くからのファンはもちろん,伊藤氏をよく知らない若い世代にとっても,興味深い内容になったと思う。
 9月23日に開催される20周年記念ライブ「gentle echo meeting 2」のチケットには,幸いまだ多少の余裕があるようで,売り切れ次第販売終了となるが,23日15時30分から,当日券の販売も行われる(関連サイト)。興味がある人はぜひとも,伊藤氏が音楽人として過ごしてきた20年の“総決算”を,その目と耳で確かめてほしい。

伊藤賢治オフィシャルサイト


  • 関連タイトル:

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