レビュー
Fermi世代初のエントリーGPUは4桁円台後半の市場で立ち位置を確保できるか
GeForce GT 430
(ZOTAC GeForce GT 430 1GB DDR3 PCIE 1slot FAN(ZT-40602-10L))
AMDの「ATI Radeon HD 5500」シリーズが幅をきかせるこの市場――4桁円台後半の市場に,ようやくNVIDIAも対抗馬を投入できたことになるわけだが,エントリーGPUを必要とするオンライン3Dゲーマーにとって,この新製品は意味があるものなのかどうか。NVIDIAの発表に先立って,ZOTAC Internationalの販売代理店であるアスクから,搭載製品「ZOTAC GeForce GT 430 1GB DDR3 PCIE 1slot FAN」(型番:ZT-40602-10L,以下 ZOTAC GT 430 1slot)の貸し出しを受けられたので,今回はそのあたりをチェックしてみたい。
基本的には「GTS 450÷2=GT 430」
ただしROP周りには大きな仕様変更が
では,上位モデルたるGF106との違いはどこにあるのかというと,最も大きなものはGPCを構成するSMの数。GF106の場合,4基のSMが集まって1基のGPCとなっていたのに対し,GF108(≒GT 430)では半分の2基でGPCを構成しているのである。
そのため,GF108のCUDA Core数は,48×2で96基。テクスチャユニット数は8×2で16基という計算になる。下に示したのがGF108のブロックダイアグラムだが,GPCのスペックは,GF106のちょうど半分という理解で差し支えない。
「GeForce GTX 480」以降,Fermiアーキテクチャでは一貫して,8基のROP(Rendering Output Pipeline)が1基のROPパーティションを構成してきていた。例えばGF104コアのグラフィックスメモリ1GB版GTX 460なら4 ROPパーティションで32 ROP,フルスペックのGF106からROPパーティションが1基削減されているGTS 450で2 ROPパーティションとなり16 ROPといった具合だ。
そして,64bitメモリコントローラは,グラフィックスメモリ1GB版なら4基,GTS 450なら2基と,ROPパーティション1基ずつと対になる形で用意されてきた。ROPユニットとメモリコントローラが対になる構造だと,データの流れが1方向で済むため,出力段におけるパフォーマンスで有利となるからである。
NVIDIAは,GT 430を,GeForce 200世代のエントリー市場向けGPU「GeForce GT 220」(以下,GT 220)の後継と位置づけているが,GT 220でもROPユニットは8基用意されていたことを考えると,少しでも歩留まりを上げ,コストを抑えたかったのか,96基あるCUDA Coreが効率的に動きすぎると製品ラインナップに破綻をきたす恐れがあったからか,その両方が理由といったところだろうか。
要するに,GPC周りのスペックが半減した以上に,GT 430ではGTS 450からのパフォーマンス低下があるだろうと推測できるわけだ。
表1は,そんなGT 430のスペックを,上位モデルや従来製品,競合製品と比較したものになる。NVIDIAによれば,GT 430は「ATI Radeon HD 5550」(以下,HD 5550)の競合としても位置づけられるという。
約143mmと短いカード長のZOTAC GT 430 1slot
Fermi初の電源コネクタレスを実現
外部出力インタフェースはDVI-I,DisplayPort,HDMI各1。PCI Express補助電源コネクタは用意されていない。Fermi世代のGPUを搭載するグラフィックスカードとして,ようやく補助電源コネクタのない製品が登場することになったのは感慨深いところだ。
なお,GT 430のリファレンスデザインはLow Profile仕様だが,ZOTAC GT 430 1slotは一般的な高さを持っているので,つまりはオリジナルデザインということになる。
ZOTAC GT 430 1slot。PCI Express補助電源コネクタは用意されていない | |
NVIDIAが公開したリファレンスカードのイメージ。Low Profile仕様だ |
いずれにせよ,今回比較に用いたGT 220カードや「ATI Radeon HD 5570」(以下,HD 5570)カードの長さはいずれも168mmだったので,それらより20mm以上短いわけだ。
GPUクーラーを取り外したところ |
GPU-Z実行結果。アプリケーション側が対応していないためか,数値はいろいろおかしいが,動作クロックがリファレンスどおりだとは確認できる |
クーラーを取り外して確認してみると,搭載するメモリはSamsung Electronics製DDR3「K4W1G1646E-HC11」(1.1ns品)で,これを片面に8枚搭載することでメモリ容量1GBを実現している。
動作クロックをTechPowerUp製GPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.4.6)で確認したところ,リファレンスどおりの値になっていたので,メモリチップ側のマージンはほとんど設けられていない計算だ。
GT 430専用の「GeForce Driver 260.77」を利用して
既存のGPU 5製品と比較
GTS 450はNVIDIAから貸し出しを受けたリファレンスカード,GT 240はASUSTeK Computerから貸し出しを受けた「ENGT240/DI/1GD5/WW」を用い,それ以外は4Gamerで独自に用意したカードを使う。また,GT 220カードとして用意した「GV-N220OC-1GI」はメーカーレベルのクロックアップが施されたモデルだったため,テストにあたっては動作クロックをリファレンス相当にまで落としている。
テストに用いたドライバがGT 430とそれ以外のGeForce製品で異なるが,これは,GT 430の検証にあたって,NVIDIAから全世界のレビュワーに配布された「GeForce Driver 260.77」が,GT 430専用版だったからだ。そのため,GTS 450およびGT 240&GT 220のテストには,「GeForce Driver 260.63 Beta」,HD 5570とHD 5550のテストには「ATI Catalyst 10.9」と,それぞれ最新版のドライバを用いることにした。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション10.0準拠。ただし,ZOTAC Internationalが居を構える中国で大型連休があった影響もあり,カードを入手できたのは10月7日で,テスト期間がかなり限られたため,アプリケーションは「3DMark06」(Build 1.2.0)と「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2),「バイオハザード5」の3つに絞ることにした。
また,エントリー市場向けGPUの検証ということで,テスト解像度は1280×1024&1680×1050ドットとし,さらに3DMark06では「標準設定」,BFBC2では「低負荷設定」を選択。バイオハザード5ではエントリーGPUの検証用設定である「エントリー設定」でのみテストを行う。
なお,テストするタイミングなどによってその効き具合が異なることを避けるため,テスト環境のCPUとして採用する「Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz」の自動オーバークロック機能「Intel Turbo Boost Technology」はBIOSから無効に設定した。一方,「Intel Hyper-Threading Technology」は有効化したままなので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
GT 220よりは間違いなく速いが,GT 240には届かず
DX11 GPUとしてはHD 5550とHD 5570のちょうど中間
前置きが長くなったが,まずは3DMark06から見ていこう。
グラフ1は総合スコアをまとめたものだが,GT 430のスコアはHD 5570とほぼ同じで,あえて言えば若干上回るレベルにある。GT 220と比べたとき,NVIDIAの謳う「50%」には届いていないながら,20%ほどの上積みがある点は注目しておきたいが,GT 240との差も20%ほどあり,GTS 450比だとスコアは見事に半分程度である。
グラフ2〜5は,3DMark06のデフォルト設定である解像度1280×1024ドットの標準設定で,「Feature Test」を実行した結果となる。
まずグラフ2の「Fill Rate」(フィルレート)を見ると,序盤で指摘したテクスチャユニットとメモリ周りの弱さが影を落としていることが分かる。とくに,よりテクスチャユニット数の影響が大きいMulti-Texturingで,GT 240比56%のスコアに留まっているのは,テクスチャユニット数がGT 240の32基からGT 430で16基に半減している影響というほかない。
「Pixel Shader」(ピクセルシェーダ)と「Vertex Shader」(頂点シェーダ)の結果がグラフ3,4となる。GT 430のスコアは,どちらのテストでもGT 220やHD 5550とほぼ同じ。むしろ,GT 240やHD 5570との違いが目立つスコアになってしまっている。
「テクスチャ周りの弱さに引っ張られる形で,Fermiアーキテクチャ自慢の頂点演算性能でもスコアが伸びないあたりはいかにもエントリーGPUらしい」とは言えるかもしれないが。
Shader Model 3世代における汎用演算のポテンシャルを見る「Shader Particles」(シェーダパーティクル)と,長いシェーダプログラムを実行したときの性能を見る「Perlin Noise」(パーリンノイズ)のテスト結果がグラフ5,6だ。
前者でGT 430はGT 220の後塵を拝しており,DirectX 9アプリケーションに弱いFermiアーキテクチャらしい結果にまとまっている。
ならば,DirectX 11世代のゲームアプリケーションだと,Fermiアーキテクチャらしい強みを見せられるのか。DirectX 11対応の4製品でBFBC2を実行した結果がグラフ7である。
3DMark06の総合スコアではHD 5570とほぼ同じスコアだったGT 430だが,ここではHD 5570とHD 5550のちょうど中間程度のところに収まった。GTS 450と比べるとスコアは半分以下なので,DirectX 11世代のゲームタイトルを快適にプレイしようと思った場合は,グラフィックス設定を大きく落とす必要がありそうだ。
DirectX 10世代でのパフォーマンス傾向を見るべく実行したバイオハザード5のテスト結果がグラフ8だが,ここでもGT 430のスコアはHD 5570とHD 5550の間。3DMark06の総合スコアと同様,GT 220からは20%程度のスコア向上が得られている一方,GT 240とのギャップは大きい。GTS 450比では半分程度のスコアしか得られていないのも,3DMark06と同様の傾向だ。
GT 220比で消費電力は20W前後の上昇
GT 240と同程度のスコアに
Fermiアーキテクチャを採用しつつ,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)を49Wに抑え,補助電源コネクタも必要としないGT 430だが,実際の消費電力はどの程度なのか。ログが取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を計測し比較してみよう。
テストにあたっては,OSの起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果はグラフ9のとおり。アイドル時はすべて125W前後に収まっており大きな差は見られないが,アプリケーション実行時だと,GT 430は204〜238Wで,GT 240やHD 5570より若干高いところに収まった。GT 220よりは20W前後高い。
ZOTAC GT 430 1slotをはじめ,今回用意したカードはほとんどがオリジナルデザイン採用モデルで,搭載クーラーも異なるため,横並びの比較にはまったく適さないが,参考までにGPU温度のチェック結果も示しておきたい。グラフ10は,3DMark06の30分連続実行時を「高負荷時」として,アイドル時ともどもGPU-ZからGPU温度を計測したものだが,ZOTAC GT 430 1slotは高負荷時に60℃台前半。エントリークラスのグラフィックスカードとして,まったく問題ないレベルである。
指名買いするほどの魅力を欠くGT 430
DX11環境の裾野を広げる存在という認識が正解か
また,ZOTAC GT 430 1slotの販売代理店想定売価は7000円台後半で,他社製品もおおむね7000〜9000円程度になると思われるが,一方でHD 5570やGT 240を搭載したグラフィックスカードの実勢価格は8000〜1万円前後。あっても2000円程度という価格差が問題になるとは考えにくく,GT 430搭載カードを指名買いする人が多いとは思えないのだ。
その意味では,GT 220,そしてGT 220が置き換えたエントリー市場向けGPU「GeForce 9500 GT」がそうだったように,GT 430も,一般的な3Dオンラインゲーム用PCの主力GPUとして採用されるための製品と捉えておくのが正解ではないだろうか。
ATI Radeon HD 5500シリーズが登場した後も,エントリー向けのゲームPCでは長らくGT 220が搭載されていたので,これらに向けたアップグレードパス,そして,そういった形でDirectX 11対応GPUの裾野を広げる存在としては,GT 430にも十分な存在意義があると思われる。
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