インタビュー
目指したのは“今の時代”の「天外魔境」。「天外魔境 JIPANG7」開発スタッフインタビュー
今のブラウザゲームプレイヤーと,
「天外魔境」ファンの双方に訴求できるポイントを
4Gamer:
4月12日から正式サービスが始まりましたが,βテスト時との変更点を教えてください。
最も大きなところでは有料アイテムの販売開始です。
先ほど説明した,ゲーム序盤の導線も,現状で可能な限り追加しました。最初に英雄の絵札をもらえるようになっていますし,難度のバランスにも調整を加えましたので,より勝ちやすくなっています。
あとは暗黒ランの根を切ったときに,よりアイテムが入手できるよう調整しました。
4Gamer:
根を切る時間や行動力の回復時間などはどうでしょう?
倉田氏:
それよりは,むしろ根が回復する時間に調整をかけています。今はまだ,皆さんがゲームに慣れていないこともあって,一度根を切ったらなかなか回復しませんが,ゲームの進行に伴って徐々に早くなっていきます。
ある意味,暗黒ランの脅威を表現しているわけですが,同時にプレイヤー数も平均レベルも上がっているでしょうから,バランスは取れているんじゃないでしょうか。
4Gamer:
クローズドβテストのときは,根の回復がけっこう早くて難儀した記憶があります。
西氏:
ただ,ある程度の早さで回復してくれないと,プレイヤーの移動を制限するという根の役割が薄くなるんですよね。いつまでも回復しないと,自由に移動できてしまいますから。
倉田氏:
世界観として許容できる範囲と,不便だと感じる範囲の見極めは必要ですよね。
ただ移動方法については,アップデートによる仕様変更や,アイテムに今後追加されていきます。そうなると遠出してみよう,フレンドを作って一緒に遊んでみようという意欲も高まるんじゃないでしょうか。
澤氏:
最初のバージョンでは,一度あばら家に戻らないと火田をいじれない仕様でしたからね。今はどこにいても火田を使えますから,ずいぶん便利にはなっています。
倉田氏:
そういえば,火田も植えっぱなしのままでは枯れてしまうんですよね。金曜日に植えて,週末そのままにしておくと,月曜日にはもう枯れているという。
澤氏:
そこも賛否両論なんですよね。いろんなソーシャルゲームを参考にしているんですが,全部扱いが違っていて。
今回は,「枯れるから,ほかのプレイヤーのあばら家を回って水をあげてほしい」という意図を込めているんですが……。「それより,最初から枯れないようにしてほしい」という意見もあります。
西氏:
僕はずっとコンシューマゲームを作ってきたので,今まさにその感覚を学んでいるんですよ。
よく「アメとムチ」といいますが,ムチのあとにあるからアメが美味しいわけですよね。つまり,苦労してボスを倒したから,いいアイテムがもらえたり,その先に進めたりして嬉しいんです。
ところが基本無料のゲームは,ムチを入れるとその瞬間にプレイヤーが離れていってしまう。だから次々にアメをあげなければならないし,そのアメ自体もどんどん美味しくしていかなければならないんです。
僕の感覚だと「これくらいのムチなら大丈夫だろう」というものでも,澤が「それはダメ」ということが多々あって。
澤氏:
僕も,個人的には「これくらい我慢してもらわないと面白くないんじゃないか?」と思うこともあるんですが……。まあ,僕らは“昭和のゲーマー”なんですよ(笑)。
失敗せずに進んでいって,レベルも上がって……という構造が主流になっているんですよね。もう“作り手の意識改革”とかいってる時点で追いついてないんです。積極的になじんでいかないといけないと思っています。
最近,少しだけ理解できてきたんですが,例えばコンシューマゲームだと,パッケージを5000〜6000円くらいで買うじゃないですか。だからちょっと分かりにくかったり,難しかったりしても買ったことを無駄にしないために,ある程度は時間を割いて遊ぶんですよね。
4Gamer:
せっかく買ったんだからと,けっこう頑張りますよね。
西氏:
だから作る側としても,序盤に少し難しい部分を作っておいて,そのあとに見合ったご褒美を与えるという過程を作れたんです。
でも基本無料のゲームは,ハードルがあった瞬間に,ゲーム自体をやめてしまう人がいますから,そのあとのご褒美まで見てもらえないんです。
4Gamer:
基本無料の場合,ゲーム序盤で諦めてもデメリットが小さいんですよね。しかも一つのゲームの序盤で躓いたら,別のゲームに移ればいいわけですし。
倉田氏:
そうなんですよねぇ。
基本無料のゲームは,ハードルどころか,最初に下り坂を作っておいて,少し押すだけで自動的に進んでいって,その勢いでちょっとした上り坂をクリアさせるようなイメージのほうが,適しているのかもしれません。
西氏:
いい悪いではなく,そういう時代になっているんだから,僕らはそこに合わせていかなければ……。
倉田氏:
実際,プレイヤーの動向にも現れています。
天外魔境シリーズは,もともとプレイヤーを突き放しているタイプで,このアイテムをどこで使うのか,次はどこへ行けばいいのかと悩ませる部分が多かったんです。そういったことを経験してきた人達は,今回も敵に勝つにはどうすればいいかという部分をきちんと考えて遊んでいるんですよ。
しかし,今の大多数のプレイヤーはそうではないですから,それに合わせてアプローチを決めていかなければなりません。
西氏:
本当は,昔からのシリーズのファンにも,今のプレイヤーにも喜んでほしいんですけどね。
倉田氏:
昔からのファンに「天外がヌルくなった」と指摘されるのは悔しいですが,だからといって若い人達に遊んでもらえないのでは本末転倒ですから。
4Gamer:
今や天外魔境ファンのほとんどが30代以上でしょうしね。
どうしても,そういったバランス取りがシビアになってしまうと思います。
倉田氏:
今のプレイヤーに合わせなければならないのは,確実にゲーム性の部分でしょう。なので,シリーズのファンには音楽やイラストの部分で訴求していこうと考えています。
4Gamer:
実際,天外魔境 JIPANG7を遊んでいるシリーズのファンはどのくらいいるんですか?
倉田氏:
まだ正確な数字は把握できていないのですが,βテストからプレイして,意見をくださる方の多くはシリーズファンですね。
澤氏:
Twitterなどで天外魔境 JIPANG7に言及している方は,かなりの確率でシリーズのファンですよ。
倉田氏:
プレイヤー名を見ると分かりますよね。重要な名前はロックをかけて使えないようにしたつもりだったのですが,上手いこと抜け道を見つけている方がたくさんいらっしゃいます(笑)。
そこまで愛してくださっているんだなと,ありがたく思っています。
「天外魔境 JIPANG7」では,
“今の時代の天外らしさ”を描いていく
4Gamer:
ブラウザゲームやオンラインゲームは,コンシューマゲームのように完成したものを売って終わりではなく,サービスとしてずっと続いていきます。
そこで,今後の天外魔境 JIPANG7をどのように展開していくイメージなのかも教えてください。
西氏:
現状は,基本となる遊びの部分を用意してサービスインしました。それを受けて,連休前にいくつか追加機能を実装しようと考えています。とはいえ,その追加も一つのマイルストーンでしかなく,まだまだ実現し切れていないアイデアがたくさんあります。
また,約3か月を1シーズンとしていますが,同じ内容で続けていっても飽きられてしまうでしょうから,早々に次のシーズンをどう組み立てるかということを考えなければなりません。正直,やることが多すぎて泣きそうです(笑)。
澤氏:
もちろん,ずっと続いていく中でベースの部分は変わりません。何でも植えられる火田があって,モノを合成する祠があって,絵札で敵を倒して,いわゆるギルドにあたる「団」があって……。あとは,オープンβテストではオミットしていた「試合」──いわゆるPvPですね──も基本部分として追って実装します。
そういった“戦乱ソーシャルオンライン活劇”に必要な部分はすでに仕込みが終わっているので,あとはストーリーに沿ったボスの登場であったり,誘導部分やインタフェースの改善であったり,素材や絵札を使った新しい要素を提供したりといった形で拡大していきます。
4Gamer:
“戦乱ソーシャルオンライン活劇”のソーシャルたる由縁はどこにあるのでしょう?
今,ベースの部分として挙げたところですよね。それに加えて,ほかのプレイヤーの火田に水をあげられたり,案山子に伝言を残せたり。そういった要素のすべてを,一つのゲームで包みたいんです。
例えば,何かゲーム内でいいものが手に入ったとして,それを外部のSNSに発信するというのは,ちょっとこのゲームに合わないと思うんですよ。そういった部分とは異なるソーシャル性を追求していきたいんです。
4Gamer:
というと,今,一般的に使われている“ソーシャルゲーム”とは,ちょっと意味が異なるということでしょうか。
澤氏:
ええ,もっと本来的な社会性を上手くゲーム上に表現したいと考えています。
西氏:
今の社会情勢なんかを見ても,みんなで力を合わせなければいけない時期にさしかかっていますよね。このゲームでも,みんなで力を合わせて暗黒ランの脅威に立ち向かう必要があります。
そういう意味での“ソーシャル性”という部分は,ちょっと意識していますよ。
澤氏:
その一方では,SNSに提供するときのこと考えて,Facebookに収まる画面サイズにしていたりもするんですけどね。
4Gamer:
まあ,無視はできない存在ですよね。
倉田氏:
我々としては,今後,天外魔境としての部分をより広げていきたいと考えています。
今も物語的な部分は表現されていますが,フィールドを歩いていて,あるいは先のマップを見たときに,“天外っぽさ”を感じてもらえる要素をどんどん増やしたいです。あとは,お話として楽しんでもらえるような広がりをどんどん作っていきたいですね。
また今回,オンラインという事情もあって一度に大きくマップを広げることが難しいんですが,時代設定からいって「根の国」もハッキリした状態で残っているはずですから,今後,きちんとした形で見せていきたいと考えています。
澤氏:
当時のジパングを描くためには,根の国をきちんと表現することも必要です。
西氏:
そういえば,根の国もイメージボードはありますよね。
倉田氏:
ええ。今回は,7本の暗黒ランが7つの国にあって,というところまでを描きましたが,天外魔境としてはもっと出したい部分があるんです。例えば,根の国が侵攻してくる経緯とか。
そういった天外魔境IIにつながる部分もまた,ゲームを展開していく中で,きちんと表現していきたいです。
西氏:
シーズンごとに別の展開も盛り込んでいきたいんですよね。
4Gamer:
では,どこかのシーズンで根の国が登場するようなこともあるかもしれないわけですね。
ところで,天外魔境 JIPANG7の海外展開や,別のプラットフォームでの展開は考えていますか?
倉田氏:
海外展開は,最初から視野に入れています。
弊社はこの4月に中国UltiZen Gamesと資本・業務提携して子会社となりましたが,それとは別に,さまざまな形で検討しています。
4Gamer:
ブラウザゲームの海外市場を見るとかなり苛烈な競争に入っていますが,まだ戦う余地はあるのでしょうか?
例えばブラウザゲーム/ソーシャルゲームに対する指摘として,ヒット作を真似たりアレンジしたりしながらリリースを重ねているだけというものがあります。でもそれは,実のところゲームの歴史の中でさんざん繰り返されてきたことなんです。RPGにしたって,そうやって大流行した時期があったからこそ,今のような多様なスタイルに派生していったわけですし。
天外魔境 JIPANG7も農場系の一つに分類されますが,実はフィールドがあったり,ストーリーが運営期間に応じて展開されていったり,あるいは音楽やオープニングムービーがきちんと付いていたりと,ほかにはないことをやっているんです。
流行の農場系ブラウザゲームだけど,インパクトになりうる余地があると思いますから,そこは今後もきちんと意識して,磨いていきたいですね。
4Gamer:
ただの農場系じゃないぞ,と。
澤氏:
今やモバイルのソーシャルゲームでも「見た目9割」「絵が命」という時代になっていますから,同じようなものを作るにしてもどんどんリッチにしていく必要がありますしね。そこはどうしたって,避けられません。
歴史を振り返れば,映画もアニメもコンシューマゲームもそうでした。自画自賛的にいうなら,僕はこのプロジェクトで次の時代のブラウザゲームを見据え,最初からリッチコンテンツ化を目指していたんです。
アップデートにしてもそうですよね。「植えられる種が増えました」といわれても,「それで?」という反応を示すのが今のプレイヤー層です。そこで,きちんと天外魔境の世界観に沿ったクエストや,ボスモンスターを出していくことで,続けようと思ってもらいたいんです。
4Gamer:
天外魔境という世界観,ストーリーがあるからこそ,プレイヤーにとっての意味が深まるものもあるということですよね。
ちょっと話は変わりますが,ブラウザゲームのリッチコンテンツ化が進んでいった先に,何があると予想していますか?
澤氏:
リッチになってクライアントダウンロード型のオンラインゲームに近付くというよりも,PCからスマートフォンへの移行が進むんじゃないでしょうか。
そこで使われる言語がFlashなのか,JAVA Scriptなのか,HTML5なのかは分かりませんが,数年後,スマートフォンで今のブラウザゲームを遊べる状態になっているのは想像に難くないです。
しかし,そういった移行があったとしても,天外魔境 JIPANG7は十分通用するコンテンツにしていきたいです。
4Gamer:
というと,天外魔境 JIPANG7のスマートフォン版も視野に入れていると?
澤氏:
よく聞かれるんですが,十分な画面解像度があってFlashさえ使える端末なら,動作するようには作っています。
きちんとデータベースを用意していて,そのビューアーとしてブラウザを使っているだけなので,クライアント型に落とし込むこともできますし,今後登場するかもしれないまだ見ぬ新しい端末のアプリケーションにすることも可能でしょう。
4Gamer:
火田の管理をモバイル端末を使ってできるようになると便利ですよね。
澤氏:
もちろん,そういうことも考えています。
ただ,全部ひっくるめて1台できる処理能力を持ったスマートフォンの登場のほうが早いかもしれないなあ(笑)。最新のタブレット端末なら,マウスオーバーが必要な部分を解消できれば今すぐに実現できるかもしれません。
4Gamer:
操作性という部分は工夫が必要かもしれませんね。
それでは最後に一つ教えてください。天外魔境 JIPANG7に対する厳しい意見の中には,従来シリーズと比較して「こんなのは天外魔境じゃない」みたいな内容のものも見受けられます。そういった意見をどう思われますか?
澤氏:
僕はあまり意識していません。
むしろ,ドット絵調のキャラクターにしたり,世界観をつなげたりという部分はきちんと表現しているつもりです。それに,今回重視している“天外らしさ”は,システムよりもストーリーなんですよね。
西氏:
ただそのあたりは,最初の中ボスまでたどり着かないと,見えづらいのも確かなんですよね。
やればやるほど“天外らしさ”を感じられる作りにはしてあるんですが,無料であるがゆえにさくっとやめてしまうプレイヤーもいるであろうことを考えると……ジレンマはありますね。
弊社としても“天外らしさ”とは何かと常々考えているんですが,歴代のシリーズは,その時代のクリエイター達が結集して作り上げてきたものです。
そういった意味では,この天外魔境 JIPANG7も,西さんや澤さんが今の時代に合致したものとして作り上げています。オリジナルクリエイターである広井王子や,辻野寅次郎さん,あるいは田中公平さんが作った世界観を崩すことなく,きちんと“今の時代”の天外魔境になっていると思ってます。
その一方で,天外魔境IIにいい思い出を抱いている方に対して,どういうアプローチを取っていくかは,これからもっと考えなければなりません。ただ,ゲームをきちんと遊んでくだされば,分かっていただけるのではないかと思います。そういった方の期待に応えられるキャラクターやストーリーも,きちんと用意していますから。
そこまで見ていただけたら,本当にありがたいですね。
4Gamer:
だからこそ,導入の部分を分かりやすく……という先ほどのお話に繋がるわけですね。今後のアップデートで,そのあたりがどのように変化していくのかを含め,期待しています。
往年の天外魔境シリーズといえば,世界観やストーリーに加えて,対応ハードの機能を生かした演出が特徴だった。最新作となる天外魔境 JIPANG7がブラウザゲームでリリースされるとアナウンスされたときは,てっきりスピンオフだと思っていたのだが,なんと正式なナンバリングタイトルだという。
それを知ったとき,筆者は「これは一体……?」と考えてしまったのだが,同じような思いを抱いたシリーズのファンも多いのではないだろうか。
とはいえ,インタビューでも言及されている通り,2011年の“今”を代表するゲームのプラットフォームといえば,ブラウザゲームであり,ソーシャルゲームであるのは紛れもない事実である。そうした市場環境のもと,往年のシリーズ同様にさまざまなチャレンジをしているのが,この天外魔境 JIPANG7なのだ。
シリーズのファンは,ぜひ“天外魔境らしさ”がどこにあるのか,実際にプレイしながら探してみてほしい。
「天外魔境 JIPANG7」公式サイト
- 関連タイトル:
天外魔境 JIPANG7
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