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印刷2011/09/03 23:56

イベント

「ICO」での崩れる橋のシーンは,「この先も手を繋いでくださいね」というメッセージ。上田文人氏も登場した「ICO」「ワンダと巨像」プレミアムイベントをレポート

画像集#001のサムネイル/「ICO」での崩れる橋のシーンは,「この先も手を繋いでくださいね」というメッセージ。上田文人氏も登場した「ICO」「ワンダと巨像」プレミアムイベントをレポート
 ソニー・コンピュータエンタテインメントは,2011年9月22日発売予定のPlayStation 3用ソフト「ICO」と「ワンダと巨像」の発売を記念し,8月15日〜10月31日の期間中,同作のスペシャルサイトにて,「Great Scene Sharing」キャンペーンを実施している(関連記事)。
 このキャンペーンは,二作品の好きなシーンをTwitter,Facebook,mixiでシェアすることによって,Web限定のプレミアムグッズが当たるというもの。好きなシーンをシェアするほど当選確率が上がっていくので,「ICO」と「ワンダと巨像」ファンはぜひ参加してみよう。

 そして本日(2011年9月3日),「Great Scene Sharing」キャンペーンの一環として,抽選で選ばれた40名が参加できる「ICO」と「ワンダと巨像」のプレミアムイベントが,品川にあるプレイステーションホールで行われた。イベントでは,「ICO」「ワンダと巨像」のHDリマスター版を先行体験できたほか,その2作および現在制作中のPlayStation3用ソフト「人喰いの大鷲トリコ」を手がけるゲームデザイナー,上田文人氏が登場してトークライブを行った。さっそくその模様をレポートしよう。

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オープニングではPS3版「ICO」と「ワンダと巨像」のトレイラーが公開された
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外山圭一郎氏。「同じ会社でゲームを作ってますけど,仕事で上田さんと直接絡む機会はあまりないんですね。今日は,一人の上田作品ファンとしてこの場にいることができて光栄です」と挨拶
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 オープニングムービーとして,PS3版「ICO」と「ワンダと巨像」の両作品のトレーラーが紹介されたあと,最初にモデレーター(司会者)として,ゲームクリエイターの外山圭一郎氏が登場。
 外山氏は,「SILENT HILL」シリーズや「SIREN」など,名作ホラーゲームを手がけてきた人物として知られており,最近では,PlayStation Vita用ソフト「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動(仮称)」の制作を発表して注目を集めている。
 
上田文人氏。「ICO」「ワンダと巨像」,そして「人喰いの大鷲トリコ」を制作するゲームデザイナー。日本国内より海外でのほうが知名度が高いかも
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 続いて,本日の主役である上田氏が登場し,トークライブがスタート。
 まず,最初のトピックは,「ICO」「ワンダと巨像」のHDリマスター発売についてだ。上田氏によると,PS2の「ICO」は自身が初めてディレクションを手がけた作品ということもあり,「何をしていいのか分からずかなり苦労しました」と当時を振り返る。そして「あの当時に志したものは,今も変わらず評価されると思っているので,PS3版ではそういうところを懐かしんでもらいつつ,新しい部分を発見してもらえたらいいなと思っています」とコメントした。

画像集#011のサムネイル/「ICO」での崩れる橋のシーンは,「この先も手を繋いでくださいね」というメッセージ。上田文人氏も登場した「ICO」「ワンダと巨像」プレミアムイベントをレポート
 続いて氏は,「ICO」を作ったきっかけについて語った。上田氏がSCEに入ってゲームを作る機会を得たときに真っ先に考えたことは,「どれだけ商品価値のあるものを作れるか」や「人とは違ったものを作るにはどうしたらいいか」だったと語る。確かに「ICO」は,その作風や世界観など,他の追随を許さないほど独創的な魅力に満ちた作品ゆえ,上田氏のその考えにも非常に納得のいく人は多いだろう。

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 一方「ワンダと巨像」に関しては,「ICO」では「お城の中で,整合性のとれたギミック作りを四年間くらいやっていた」ことから,次はアクションを主軸とした作品を作りたいと考えたと語る。余談ではあるが,もともと「ワンダと巨像」はオンライン対応のゲームだったらしいのだが,だんだん形が変わって,結局スタンドアロンタイプの作品になっていったという経緯があるそうだ。

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 また,外山氏は,「ワンダと巨像」でボス戦(巨像)しかないことを知ったとき非常にビックリしたらしく,「凄い決断」だと上田氏に言ったとのこと。その一方で上田氏は,大きな敵にしがみついて戦うタイプの作品は主流になると思っていたらしいのだが,実際はあまり流行らなかったと当時を思い起こしていた。


「Great Scene Sharing」について


「崩れる橋」(ICO)を好きなシーンに挙げる外山氏。「廃墟感」という言葉を外山氏が口にすると,すかさず上田氏が「廃墟好きですもんね(笑)」とゆっくりしたトーンで突っ込みを入れ,会場の笑いを誘っていた
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 続いてトークは「ICO」と「ワンダと巨像」の好きなシーンを,Twitter,Facebook,mixiでシェアする「Great Scene Sharing」に関するトークへ。ここではまず,外山氏が「ICO」で好きなシーンとして「崩れる橋」を挙げた。その理由は「実際に肌で感じる廃墟感」「危険な感じのする生々しさが凄く表れてる」とのこと。

 上田氏によると,「ICO」で「崩れる橋」を作った理由は,橋が崩れて落ちそうな状態の少女を,少年が手を掴んで引き上げることで「この先も手を繋いでくださいね」というメッセージを入れたかったのだという。これには,来場者一同,納得している様子だった。

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 また「ICO」制作の際には,一切ロケハンや取材に行っていなかったという上田氏だが,「ワンダと巨像」を作るに当たって,乗馬の取材にだけは行っていたのだそうだ。「ワンダと巨像」では主人公が馬に乗るシーンが多いため,乗ったときの感覚をゲームに落とし込む際に,その取材が参考になったとのこと。馬は車と違ってダイレクトに操作できるわけではないことを学び,ちょっとした微妙なタイミングのズレなどを,いい感じに表現できたとのことだ。

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 続いては外山氏は,「ワンダと巨像」の好きなシーン「最後の一撃はせつない」について,「ゲームで一番褒めてもらえる場面のはずなのに,背徳感を感じた」と語った。上田氏によると,このシーンは,当初,とある映画の物悲しい音楽を仮で入れていたらしいのだが,状況を知らずにプレイした開発スタッフが,なぜかそこで爆笑したのだという。爆笑した理由を聞くと,普通こういうシーンではファンファーレが鳴るはずなので,なにかの間違いではないかと思ったのだそうだ。そのエピソードを鮮明に覚えているという上田氏は「多数決でものを作るということは,良い部分もあるが,危険性もあるんだな」と感じたという。

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 続いては,上田氏自身が選ぶ「ICO」のお気に入りシーン「その手を離さない」に関するトークが行われた。
 上田氏によると,ここは,イコとヨルダの旅を見てきている多くのプレイヤーなら「ジャンプしてくれるんだろう」と思っているけど,その選択をあえてプレイヤー自身に委ねるというシーン。上田氏自身は発売当時,「みんなきっとジャンプしてくれるだろう」と思っていたそうで,実際に発売後のレビューなどを見たら,「迷わずジャンプしました!」というコメントが多くを占めていたという。そのとき上田氏は,「レベルデザインとしては大成功した」と思ったという。

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 ちなみに,トークライブでは,来場者が自分の好きなシーンを上田氏に語る場面もあり,皆,自身の印象深いシーンについて熱心に話していた。
 参考までに,2011年9月1日の時点のGreat Scene Sharingで一番多くシェアされている「ICO」のシーンは,「囚われの少女」だそうで,「このシーンで一気に『ICO』に引き込まれた」「自分の中の遊びの価値観を変えた大好きなシーンです」といった熱いコメントが挙がっていたという。
 一方「ワンダと巨像」で一番シェアされているのは「最後の一撃はせつない」,二番目にシェアされているのは「友とともに大地を揺るがす」とのことだ。


ビジュアルイメージから始める上田氏,ハードの弱点も表現に生かす外山氏


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 続いては「作品を創作するにあたって」というテーマへ移る。これに関して上田氏は,「設定を先に作るのではなく,ビジュアルイメージをもとに,そこから整合性を取りつつ制作を進めていくというスタイルを取っている」と話した。「ICO」であれば,“自分より背の高い女の子と手を繋いでいる男の子”などが,そのイメージの一例だろう。
 一方,外山氏は,「SILENT HILL」の1作目ではハードの性能上,近景しか描けないため,霧でぼかすなどして,ハードの弱点を逆に生かしたゲーム作りをしていたと話していた。

 そして,今後の活動について,上田氏は,「満足のいく形で『トリコ』を完成させなきゃいけないと思っています。お客さんに,『トリコ』がほかのゲームよりも優れたものであると感じてもらわなきゃいけません。仕事としてやっている以上それがまっとうできないこともあるりますが,できるだけ抗っていきたいです」と語った。

イベントの後半では外山氏の新作「GRAVITY DAZE」のトレーラーも披露された
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 イベント終了後には上田氏と外山氏の囲み取材が行われたので,本稿の締めとしてご覧いただきたい。

――イベントを終えての感想を聞かせてください

上田氏:
 普段から一緒にゲームの話をしている外山さんが一緒だったので,あまり緊張することなくできたかなと思います。

外山氏:
 本当は緊張してたんですけど,終わってみると,もっともっと喋り足りないくらい楽しいイベントだったと感じました。

――ファンの方を前にして喋るというのはあまりない経験だと思うのですが,実際にファンの声を聞いた感想はいかがですか?

上田氏:
 最初は「本当に来てくれるのかな?」と不安でしたので,実際に会場に来られてる方を見て安心しました。「ICO」も「ワンダと巨像」も長く愛される作品にしたいと思って作ったタイトルでしたのですごく嬉しかったです。

――お互いの作品の好きなところはどこですか?

上田氏:
 ゲームデザインとして共感する部分が大きいですね,「SIREN」でいうと,「視界ジャック」というアイデアをベースにゲームを組み立てていくと,どうしても難度が上がってしまいますよね。でもそこで,あえて難度を下げないところにシンパシーを感じます。

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外山氏:
 上田さんの作品って,ゲームルールの表現とかじゃなく,実際にゲームに触れたときの気持ちの変化とか,そういう部分をすごく掘り下げてますよね。なかなかそういうのってほかでは見られないので,非常に希有な作り手だなって思います。

――PS3の「ICO」と「ワンダと巨像」は3D立体視にも対応していますが,ぜひ,ここは見てほしいというシーンがありますか?

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上田氏:
 「ワンダと巨像」では2か所あります。一つは馬で草原を走っているシーンですね。3D立体視で見ることによって,奥行きを感じつつスピード感を表現できていますし,馬が石ころを飛ばすシーンなどは,それがいい感じに手前に跳んできたりしますし。あとは巨像戦で,上を見上げた状態で攻撃を受けたときの迫力や臨場感はずいぶん上がっています。「ICO」は高さのある3D立体視を効果的に使っていると思います。

――本日はありがとうございました。

別室に展示されていた上田氏による絵コンテ。集まった来場者は熱心に見いっていた
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トークイベント終了後は,PS3版「ICO」と「ワンダと巨像」の体験コーナーも設けられていた
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