レビュー
全長173mm。リファレンスより約70mm短いGTX 670カードを動かしてみる
ZOTAC GeForce GTX 670 2GB TWINCOOLER
GTX 670のリファレンスデザインだと,基板長は実測173mm(※突起部除く)なのだが,リファレンスクーラーはその後方へ同69mmもはみ出しており,せっかくの短さを活かせない。それでいて冷却能力が高いわけでも,静音性に優れるわけでもないのだから,見かけ倒しとしか言いようがなかったのである。
その意味でGTX 670を採用するカードメーカー各社には,基板長を活かした小型クーラーを採用するモデルや,基板長を長くして,電源回路やクーラーを強化するモデルの投入が期待されるところだが,前者に対する“回答”として真っ先に登場してきたのが,ZOTAC International(以下,ZOTAC)の「ZOTAC GeForce GTX 670 2GB TWINCOOLER」(以下,GTX 670 TWINCOOLER)だ。
小型クーラーの搭載によって,GTX 670カードの使い勝手はどう変わるのか。ZOTACの販売代理店であるアスクから実機を借りられたので,今回はそのあたりをチェックしてみたいと思う。
カード長は基板長と同じ173mm
基板はリファレンスデザイン準拠
ちなみにGTX 670 TWINCOOLERの基板自体はリファレンスデザインと同じもの。リファレンス基板をそのまま採用しつつ,十分な冷却能力を持った小型クーラーを組み合わせてきたものという理解でよさそうである。
GPUクーラーは2スロット仕様で,80mm角相当のファンを2基備える。全体として「箱」というか,直方体のような形状になっているのはなかなか印象的だ。PCI Express補助電源コネクタは6ピン×2の横並びで,このあたりはリファレンスデザインから変わっていない。
2スロット仕様のクーラーを斜めから覗き込むと,放熱フィンと基板を覆うような設計だと分かる |
6ピン電源コネクタは差したとき,マザーボードと平行になる形で2基並んでいる |
電源部は見る限り4+2フェーズ構成。専用のヒートシンクが装着されていた |
GPUクーラーを分解してみた。ファンはカバー側に取り付けられている |
なお,メモリチップはSK Hynix製のGDDR5「H5GQ2H24AFR-R0C」(6Gbps品)で,これもリファレンスカードと同じである。
動作クロックは定格よりも高め
クーラーの冷却能力は上々だが,動作音はやや残念
リファレンスデザインよりもはるかに小型なカードとなっているGTX 670 TWINCOOLERだが,実のところ,ベースクロックは954MHz,ブーストクロックは1033MHz,メモリクロックは6208MHz相当(実クロック1552MHz)と,いずれもリファレンスクロックから引き上げられている。
このあたりの詳細は,GTX 680ともども表1にまとめてみたので参考にしてほしい。
念のため確認しておくと,ブーストクロックというのは,Power Target(電力ターゲット)の枠内で自動的にGPUコアクロックを高める機能「GPU Boost」における,平均的な到達クロックとして示されるスペック値だ。挙動の詳細はGTX 680のレビュー後編を参照してもらえればと思うが,後述するテスト環境で実際にベンチマークテストを行ったとき,Power Target設定がデフォルトとなる100%の状態で動作クロックは1123MHzに達することを確認できている。
そのほかテスト環境は表2のとおり。GTX 680カードは,4Gamerで独自に用意したInnoVISION Multimedia製品である。
テストに用いたCPU「Core i7-3960X Extreme Edition/3.3GHz」の自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,テスト時の状況によっての効果に違いが生じる可能性を否定できないため,同機能をマザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化した。
なお,用いたドライバは「GeForce 304.48 Driver Beta」だ。北米時間2012年7月3日に,より新しい「GeForce 304.79 Driver Beta」もリリースされているが,テストスケジュールの都合上,最新のものになっていない点はご了承を。
……と,いつもならここで3Dベンチマークの実施方法を説明するところだが,今回は最も気になるクーラー周り話から話を始めたい。
リファレンスより小型だが,2連ファンを採用するクーラーの冷却能力はどの程度なのか。今回は,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,「3DMark 11」(Version 1.0.3)の30分連続実行時を「高負荷時」として,各時点の温度を「GPU-Z」(Version 0.6.2)から計測することにした。
テスト時の室温は24℃。システムは,PCケースに組み込まず,いわゆるバラック状態に置いている。
その結果がグラフ1だ。アイドル時のGPU温度に大きな違いはないが,高負荷時はGTX 670 TWINCOOLERがGTX 670よりも12℃低いという結果になった。
なお,アスクはGTX 670 TWINCOOLERが搭載するGPUクーラーについて「ピーク時にリファレンスデザインよりも4dBA低い」と謳っているが,筆者の主観であることを断って続けるなら,動作音はリファレンスクーラーとほとんど変わらない印象だ。
EVGA製のGPUオーバークロックツール「Precision X」(Version 3.0.3)などであれば,ファン回転数の細かな制御が行えるので,そこから調整するというのもアリだろうが,工場出荷時点でもう少し回転数を落としてもよかったのではないかと思う。
GTX 670より概ね3%高い3D性能
GTX 680との差は埋まらず
ここからは3D性能検証に入ろう。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション12.2準拠。ただし,時間的な都合もあって,今回は「Sid Meier's Civilization V」と「DiRT 3」を省略している。解像度はGTX 670のレビュー記事と揃えるべく,1920×1080ドットおよび2560×1600ドットの2つを選択した次第だ。
というわけでグラフ2は,3DMark 11の「Performance」と「Extreme」,両プリセットの総合スコアをまとめたものになる。GTX 670 TWINCOOLERはGTX 670比で1〜2%高く,GTX 680比で8〜9%低いスコアにまとまっている。定格より高いコア&ブーストクロックの効果は確認できるものの,さすがにGTX 680のレベルまでは届いていないわけだ。
続いてグラフ3〜6は,「S.T.A.L.K.E.R.:Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)の公式ベンチマークテストから,「Day」と「SunShafts」の2つのシークエンスにおけるテスト結果である。
まず,4つあるテストシークエンス中,最も描画負荷の低いDayシークエンスから見ていくと,GTX 670 TWINCOOLERとGTX 670のスコア差はやはり1〜2%程度(グラフ3,4)。GTX 680とのスコア差は5〜8%と若干縮んでいるが,基本的には3DMark 11と同じ傾向と見ていいだろう。
4シークエンス中,最も描画負荷の高いSunShaftsでも,全体的な傾向は変わらない(グラフ5,6)。GTX 670 TWINCOOLERとGTX 670のスコア差が2〜3%程度と多少開き気味になった程度である。
グラフ7,8は「Battlefield 3」(以下,BF3)の結果だが,GTX 670 TWINCOOLERはGTX 670に2〜3%程度の差を付け,一方,GTX 680からは2〜5%程度離されている。ここまでと概ね同じ結果だ。
描画負荷が極めて低い「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)でも,全体的な傾向にそう大きな違いは生じなかった(グラフ9,10)。GTX 670 TWINCOOLERとGTX 670のスコア差は1〜3%程度,GTX 670 TWINCOOLERとGTX 680のスコア差は6〜9%程度である。
「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)のテスト結果がグラフ11,12だが,ここではUltra設定の2560×1600ドットでGTX 670 TWINCOOLERがGTX 680のスコアを上回った点に注目しておきたい。Skyrimのテストにあたって高解像度テクスチャパックを導入し,いきおいメモリ性能がスコアを左右しやすくなっているため,メモリクロックが引き上げられ,帯域幅でGTX 680を上回るGTX 670 TWINCOOLERが順当なスコアを示したというわけだ。
最後に,毎度おなじみ,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を比較してみたい。
テストにあたっては,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点をタイトルごとの実行時とし,アイドル時ともども,各時点のスコアをまとめることとしている。
その結果はグラフ13のとおりで,全体的にはGTX 670 TWINCOOLERのほうがGTX 670より低いスコアにまとまった。基板デザインが変わらず,GPU Boostによる最大クロックも変わらず,また,GPU-ZからGPUコア電圧を追って見るといずれも0.987〜1.175Vの範囲で変動するという点でも変わらずだったので,正直,この違いが何によるものなのかは分からない。
個体差と見るのが妥当な気もするので,むしろここは「GTX 670 TWINCOOLERとGTX 670リファレンス仕様との間に消費電力面の違いはほとんどない」と見るのが妥当なのではなかろうか。
最大の魅力はやはりカードサイズ
ファン回転数調整が快適な運用のカギか
メーカーレベルのクロックアップ設定はオマケといった印象を拭えなかったり,GPUクーラーの動作音は謳い文句に反していたりするのはやや残念であるものの,少なくとも後者はユーザー側で自己責任を覚悟のうえ調整すればいいという話でもあるので,致命的な問題にはならないだろう。
実勢価格は4万2000〜4万7000円程度(※2012年7月7日現在)。ブランドを問わなければ3万円台後半から購入できるケースも珍しくなくなってきたリファレンスデザイン版GTX 670と比べるとさすがに割高ではある。ただそれでも,性能が高く,それでいてコンパクトな筐体に無理なく搭載できるカードを探している人にとっては,かなり魅力的が製品な登場してきたとはまとめられそうだ。
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アスクのGTX 670 TWINCOOLER製品情報ページ
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