レビュー
3スロット占有「DirectCU II」クーラーとGTX 580とを組み合わせたカードの実力を見る
ASUS
ENGTX580 DCII/2DIS/1536MD5
今回4Gamerでは,ASUSからこのENGTX580 DCIIを借りられたので,3スロット仕様のGPUクーラーが持つ冷却能力や,それによって期待できるオーバークロック関連の挙動をチェックしてみたいと思う。
3スロットを占有する大型クーラー搭載
その大きなカードサイズはPCケースを選ぶ
リファレンスデザインカードと比較すると,ENGTX580 DCIIの大きさが分かるだろう。ENGTX580 DCIIのカード長は,リファレンスのそれに比べて約25mmほど長い292mmだ |
ENGTX580 DCII(左)は厚さが3スロット分となる。外部出力インタフェースはDVI-I×2,DisplayPort×1,HDMI×1 |
この大型クーラーをスタビライザー的に支えるためか,カードの背面はほぼ一面がヒートスプレッダで覆われている。1か所,GPUの“真裏”にあたる部分に窓のような部分があって,そこからはチップの存在も確認できるが,これはECトーキン製のデカップリングデバイス「プロードライザ」だ。
プロードライザは,高性能が謳われるコンデンサの一種で,低くフラットなインピーダンス特性を持ち,GPUのように電流の振幅が大きなデバイスの,電源ラインに最適とされるものである。わざわざくり抜かれていることからして,ひょっとするとプロードライザの搭載をウリにしたいのかもしれない。
大型クーラーだが,取り外し方はそれほど難しくなく,まず,2連の100mm角ファンが取り付けられたカバー部を外して,次にカード背面側からパッシブクーラーユニットを取り外す。最後に背面のヒートスプレッダと,VRM部のヒートシンクを外すと,基板の表裏を見渡せるようになる。
DirectCUの名を冠することもあり,パッシブクーラーは,5本の銅(Cu)製ヒートパイプがGPU側のヒートスプレッダに直接(Direct)触れる構造だ。ヒートパイプは6mm径で,2本がGPUの真上にあるフィン部,3本がVRM部の上を覆うフィン部へと,それぞれ熱を運ぶ仕様になっている。
また,電源周りでは,PCI Express補助電源コネクタが8ピン×2となっている点にも注目しておきたい。リファレンスデザインでは8ピン+6ピンなので,電源供給能力は75W強化されていることになる。「Super Alloy Power回路と8ピン×2という補助電源コネクタにより,オーバークロック耐性が向上している」というのが,ASUSの主張だ。
続いてGPU周辺に注目すると,GTX 580 GPUの周りに12枚のグラフィックスメモリチップが配置されているのが分かる。このグラフィックスメモリチップは,Samsung Semiconductor製のGDDR5 SDRAM「K4G10325FE-HC04」だ。5Gbps品,つまり5000MHz相当(実クロック1250MHz)が上限で,リファレンスデザインを採用したGTX 580のメモリクロック4008MHz相当(実クロック1002MHz)に対して,かなりのマージンを持っていることになる。
コアクロック940MHzのオーバークロック動作を確認
メモリクロックは4800MHz相当までアップ
というわけで,ENGTX580 CUIIでは,クーラーと電源周りが相当に強化されているわけだが,実のところ動作クロックはコア782MHz,シェーダ1564MHz,メモリ4008MHz相当(実クロック1002MHzで),メーカーレベルのクロックアップはコア10MHz,シェーダ20MHzだけ。メモリクロックにおいてはリファレンスクロックそのままである。
このままでは,せっかくの独自仕様が完全に宝の持ち腐れ。そこで今回は,DirectCU IIクーラーによる空冷を前提としたとき,どの程度までオーバークロックして常用できるのかを探ってみたいと思う。
テストシステムの詳細は後述するが,今回はMSI製のオーバークロックユーティリティ「Afterburner」(Version 2.1.0)を用いてオーバークロックを試みる。ENGTX580 DCIIにも似たようなユーティリティとして「SmartDoctor」は付属するのだが,ログを記録できないなど不便な点があるため,他社製ではあるが定番のツールを使うことにした次第だ。
さて,今回は,まずコアクロックとシェーダクロックとを引き上げ,その上限を見極めたうえで,そこからメモリクロックを引き上げていくという手法を用いた。
オーバークロック状態の挙動確認に用いたのは,4Gamerのベンチマークレギュレーション11.0から,「3DMark 11」(Version 1.0.2)と「S.T.A.L.K.E.R.:Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP),「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)。3DMark 11は「Performance」と「Extreme」両プリセット,STALKER CoPとBFBC2では1680×1050・1920×1200・2560×1440ドットの「標準設定」(および「低負荷設定」)と「高負荷設定」でテストを行い,すべてが完走したことをもって,「安定動作」したと判断することにしている。
このような規定を設けたうえで,コアクロックとシェーダクロックを引き上げつつテストを繰り返していったところ,コア電圧設定をデフォルトの1.005Vに固定したままだと,コアクロック820MHz,シェーダクロック1640MHzが上限であることが分かった。
続いてメモリクロックだが,搭載しているメモリチップは,スペック上5000MHz相当(実クロック1250MHz)が上限になる。だが実際のところ,オーバークロックを試みても標準設定の4008MHz相当(実クロック1002MHz)からはほとんど上げられず。少しでも高いクロックを設定するとエラーが多発したため,メモリクロックの引き上げは断念した。
以上の結果から,今回入手した個体においては,コア940MHz,シェーダ1880MHz,メモリ4800MHz相当が,安定動作の上限と判断することにした。
※注意
GPUのオーバークロックは,GPUやグラフィックスカードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,グラフィックスカードの“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロックを試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者および4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
ENGTX580 DCIIの常用限界が分かったところで,オーバークロックによってどれだけの性能向上が得られるのかを確認してみよう。今回は表の環境を用意し,PCケースにシステムを収めない,いわゆるバラック状態でテストを行う。
リファレンスデザインの比較用として用意したGeForce GTX 580搭載カードは,ASUS製「ENGTX580/2DI/1536MD5」(以下,ENGTX580)。ただし,このENGTX580は,NVIDIAのリファレンスデザインをベースとしつつも,ENGTX580 DCIIと同様,動作クロックがコア10MHz,シェーダ20MHzだけリファレンスより高められているため,Afterburnerからリファレンス相当にまで引き下げてある。
というわけで,3DMark 11とSTALKER CoP,BFBC2のテスト結果をまとめたものがグラフ1〜7だ。ENGTX580 DCII(782MHz)とENGTX580(772MHz)との間にスコアの優位な違いはなく,ENGTX580 DCII(940MHz)は,それらよりも約6〜19%高いスコアを示している。
テスト結果で1つ例外なのがグラフ6。BFBC2の低負荷設定における解像度1680×1050ドットと1920×1200ドットの場合だが,フレームレートにほとんど違いがなくなっている。これは負荷が低すぎるため,フレームレートが頭打ちになっているからだろう。
性能面ではコアクロックに対して順当な結果を示していたが,注目しておきたいのは,それぞれの消費電力である。
ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を測定した結果が下のグラフ8だ。
ここでは,PCの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき最も高い消費電力が示された時点を,アプリケーションごとの実行時としているが,オーバークロック設定を行ったENGTX580 DCII(940MHz)は飛び抜けたスコアを見せているだけあって,その分システム全体の消費電力も100W以上高くなっている。
リファレンスデザインより15℃冷える冷却力
OC時もある程度の水準を維持
ここでは,上記でベンチマークテストを行った3パターンをベースに比較していくが,クーラー自体の冷却性能を見るという意味で,ベンチマークテストでコアクロックを772MHz,シェーダクロックを1544MHzに引き下げていたENGTX580を標準のコアクロック782MHz,シェーダクロック1564MHzに戻してテストを行うことにした。これを以下,「ENGTX580(782MHz)」と記載していく。
室温22℃の環境で3DMark 11のExtremeプリセットを30分連続実行し,その間のGPU温度とファン回転数の推移をAfterburnerのログ機能で取得した結果がグラフ9である。スペースの都合上でグラフ内のみ,ENGTX580 DCII(940MHz),ENGTX580 DCII(782MHz),ENGTX580(782MHz)をそれぞれ順に「DCII(940MHz)」「DCII(782MHz)」「ENGTX580」と記載している点をお断りしておきたい。
さて,テスト中におけるGPU温度の最高値は,ENGTX580 DCII(782MHz)が73℃,ENGTX580(782MHz)が88℃と15℃も違いが出ている。さすがは3スロット占有でデュアルファン仕様といったところか,DirectCU IIクーラーの冷却能力は高い。
とはいえ,さすがにENGTX580 DCII(940MHz)では,GPU温度が最大91℃まで上昇していた。この状態でもベンチマークテストをクリアしているうえ,90℃超というのはあくまでも最大値だが,なかなかインパクトのある数字なのは確かである。
なお,パルスセンサーのログによれば,ファンの回転数はENGTX580(782MHz)で2900rpm前後を推移。一方のENGTX580 DCIIだと,コアクロック782MHz時に同1500rpm,940MHz時に同1700rpmで,オーバークロック設定を行っても200rpm程度しか高くならなかった。なので,GPUの発熱に対しては,
- 動作クロックやコア電圧を多少落とす
- 動作音が多少大きくなるのを覚悟して,ファン回転数を手動で少し高める
ことで対策を図れそうだ。
最後に,動作音も比較しておこう。カードから約15cm離れた場所にマイクを設置し,それぞれのパターンにおける動作音を録音したものを,下に掲載したので聞き比べてほしい。
なお,ENGTX580 DCIIは,オーバークロックした状態においても,アイドル時にコア電圧や動作クロックを自動で制御するため,ENGTX580 DCII(940MHz)とENGTX580 DCII(782MHz)ともにアイドル時のコアクロックが405MHzまで低下している。そのため,動作音にも差がなく,「ENGTX580 DCIIアイドル時の動作音」とひとまとめにさせてもらった。
なお,ENGTX580 DCIIは,手動でオーバークロック設定を行った状態でも,アイドル時には自動的にコアクロックが405MHzまで下げられ,コア電圧もそれと連動するため,ENGTX580 DCII(940MHz)とENGTX580 DCII(782MHz)のアイドル時はいずれも「ENGTX580 DCIIアイドル時の動作音」としてまとめてある。
というわけでその印象だが,ENGTX580 DCIIの動作音はかなり静かだ。もともとの回転数設定が低く,オーバークロック設定を行っても回転数があまり上がらないのは上で紹介したとおりだが,それは「オーバークロック設定時の動作音が定格動作時とほとんど変わらない」といった形で確認できている。
静かに運用できるカードなのは間違いなく
サイズに納得できるなら有力な選択肢に
ただ,その点を納得できる人にとって,本製品は,静かに運用でき,また,冷却能力の高さを活かしてオーバークロックにも挑戦できるポテンシャルを持った,GTX 580カードの有力な選択肢であるともいえるだろう。
しかも,2011年7月8日現在の実勢価格で比較してみると,リファレンスデザインを採用する製品が4万2000〜6万円程度のところ,ENGTX580 DCIIは5万〜5万8000円程度で,“店頭価格の高さに定評ある”ASUS製の割に,プレミアム(≒価格の上乗せ)は現実的なレベルで収まっている。この点も背中を押す材料となりそうだ。
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