レビュー
独裁者になって地上の楽園を築きたい? どうぞ,このゲームで実現してください!
トロピコ4 日本語版
ラッセルから2012年1月26日に発売されたXbox 360用ソフト「トロピコ4 日本語版」は,人民に愛される大統領を目指したはずが,なぜか秘密警察で人民を抑圧するような独裁者になってしまうという,リアリティある政権運営“も”楽しめる,味わい深い箱庭シミュレーションゲームだ。本作ではボイスのフルローカライズが行なわれ,すべてを日本語で楽しめるようになった。なお,同名のPC版はズーから2012年2月24日に発売される。
プレイヤーは1950年代の冷戦構造の世界で,南国の楽園“トロピコ”にさまざまな施設を建設して国を運営し,理想の国家に育て上げていく。ラテン系の明るい音楽と,あふれる日差し,美しい島の風景と,パラダイスを予感させる楽しげな雰囲気。だが,その楽しげな雰囲気にカモフラージュされた非情な政権運営こそが,本作の魅力なのだ。
このレビューでは,キャンペーンモードのプレイを通じて,筆者が冷酷非情な独裁者になるまでの過程と,その過程から見えてくるトロピコ 4の魅力をお伝えしたい。
「トロピコ4 日本語版」公式サイト
冷戦時代のカリブでプレジデンテとなって島を統治する
プレイヤーが大統領(プレジデンテ)となるカリブの島国“トロピコ”,そこはエメラルドグリーンの海に囲まれ,ヤシの生い茂る,絵に描いたような楽園だ。しかしスタートしてすぐの1950年代には,これといった産業もなく,小学校も出ていない島民がトウモロコシを作って細々と暮らしている。
新米プレジデンテは,まず「チュートリアル」で本作のさまざまな要素を勉強しよう。トロピコ 4のチュートリアルはかなり親切で,移動方法など基本的な操作から,政権運営のコツまで懇切丁寧に教えてくれる。一通りクリアすることで,ゲームをプレイしていて“次に何が必要なのか”おぼろげに見えてくるようになるはず。そうなったら,いよいよキャンペーンに挑戦だ。
キャンペーンには,さまざまな勝利条件が設定された20のシナリオが用意されている。「トロピコ 3」ではマップの中からシナリオを選ぶ仕組みだったが,「4」ではストーリー仕立てで,シナリオが順番に出てくるようになった。キャンペーンにはメインとサブの「クエスト」があり,メインクエストを達成すれば次の島に進めるようになるというのも「4」の特徴だ。
農業振興と資源開発で脱・貧乏国家
国の礎は国民,というわけで,まずは住民の乏しい食糧事情を改善する必要がある。島の住民は食料がないとどんどん餓死してしまうので,農場を造ってトウモロコシやパパイヤ,パイナップルなどを育てる。農場ではほかにも砂糖やタバコ,コーヒーを作れるが,これらは輸出用であり,島民の食料にはならない。農場のほかには漁業のための漁港や,畜産をする牧場を造れる。
てっとり早くお金を稼ぐために,鉱物資源を採掘するのも有効だ。島には油田や金,鉄,ボーキサイトの鉱脈があるので,そこに施設を建てれば資源を輸出できるようになる。伐採所を作って木材を輸出してもいい。とにかく,まずは売れるものをなんでも売って外貨を稼ぐのだ。
外国からは何かと圧力がかかってくる。アメリカ,ソ連,EU,中国,中東が何かにつけて輸出入の要求をしたり,あれやこれやと口出しをしてくる。ある程度は産業育成の指針になるが,まったく育てていない産業についてもうるさく言ってくる場合は,無視しても構わない。
産業振興で一皮むけた工業国を目指す
しかし原材料の輸出だけでは,なかなかお金が儲からない。鉱物資源はお金になるが埋蔵量に限りがあるため,巨大鉱山街を構えて調子に乗って掘りまくったりすると,あっという間に枯渇してしまう。その前に次の手を打たなければ国家破綻へまっしぐらだ。そうならないために重要なのが,よくニュースなどで耳にする「産業振興」である。
農場や採掘所で採れたものを,工場で二次加工するのは重要だ。例えば砂糖をそのまま輸出するよりも,ラム酒にしたほうが儲けが大きくなる。缶詰工場や葉巻工場,金を加工する宝飾品工場などもある。
原産地の近くに工場を作ると,今度は工場で働く人達のための住居が必要になってくる。人口が増えると病院や警察,インフラ整備のための建設会社,住民に娯楽を提供するレストランなどのサービス施設,宗教的な安らぎを提供する教会など,次々と施設が必要になる。中央政府がある“首都”との交流が盛んになってくると,今度は車を供給するガレージや,運送会社の需要が高まっていく。こうして最初はサトウキビ畑しかなかったような場所が,地方都市として発展していくのだ。
工場を作る際に1つ注意しなければならないのが,(当たり前だが)原材料のない工場を作っても操業できないということだ。ラム酒の蒸留所をたくさん作っても,十分な材料がなければすべてを動すことはできない。動かなくても従業員を雇っていれば管理費がかかるので,その工場は赤字になってしまう。雇用の需給バランスを見つつ,リストラしたり雇用したりして,労働人口をいかに効率よく活用できるかが重要なポイントになる。
内需拡大は,やっぱり大事だった
公務員給与削減問題ではないが,雇用問題はトロピコ 4でも常に,政権の根幹を揺るがす要因になる。島民達も最初は5ドル程度の賃金で文句も言わずに働いているが,島全体の平均所得が上がって所得格差がつくと,次第に賃金が安い場所では働かなくなってくる。
労働者が0になると,その施設の機能はストップしてしまうし,逆に給料を上げすぎると,収入よりも人件費のほうが多くなる。かといって全員の給料を下げることで平均化しようとすると,政権への不満が高まり“反逆者”が増えていく。反逆者はクーデターを起こしたり,プレジデンテに暗殺者を送り込んできたりする,たいへん危険な存在だ。
気をつけねばならないのは反逆者だけではない。多くの箱庭ゲーでは,“住民の反感を買う=発展がストップするだけ”だが,トロピコはそう甘くない。住民の支持を集め,定期的に実施される「大統領選挙」で勝利することが絶対に必要であり,選挙に負けたら即ゲームオーバーなのだ。
住民の所得は,島の内需にも大きく関わってくる。低賃金の住民は家賃のいらない掘っ立て小屋に住んで,ゴミを漁って生活するため,サービス業が育たないし治安も悪化する。逆に住民の所得が上がれば,高級レストランや遊園地,美術館のような娯楽施設にお金を落としてくれるようになり,家賃の高いマンションも賑わうようになる。
国民の給与はすべて国庫から出す必要があるので,プレジデンテが目指すべきは“総中流”だ。いかに生産効率を上げて,国庫への負担を少なくしながら所得を上げ,内需を拡大していくか。為政者として最大の腕の見せどころだ。
「人材は国の宝」と誰かが言っていた
トロピコ 4では,産業の育成に2つの方向がある。1つは“工業輸出国”,そしてもう1つは観光インフラを整備する“観光立国”だ。観光立国にも,エコロジーを売りにするか,高級客を狙うのか,歓楽街にするかといった選択肢がある。
産業振興のためには人材の育成が欠かせない。高度な工場の稼働は,小学校しか(も?)出ていない島民には手に余るため,例えば「高卒以上」という条件がある工場は,高卒の労働者がいないと稼働できない。油田などの稼働には大卒の労働者が必要だ。
島にそういった人材がいないなら外から雇うしかないのだが,外国人を雇うと給料が高くつく。島民が1ドルで働いている職場で何百ドルもの給料を要求してくるものだから,あまり雇いすぎるとトロピコの国粋主義者達がうるさく文句を言ってくる。為政者としては「いないんだから仕方ねーだろ」と思うわけだが,民衆はそんな苦悩など分かってくれない。
そこで俵百票の心意気で,小学校,高校,大学を建造し,技術者の“育成”を図らねばならないわけだ。教育が未来のトロピコを作るのである。……かなり政治家っぽくなってきた。
頑張ろう,災害に負けない街づくり
ここで新要素についても見ていこう。トロピコ 4では,竜巻,火山噴火,地震といった自然災害が突発的に発生するようになった。また「消防署」など20種類の新たな建築物も追加されている。筆者は消防署の建設を怠っており,いざ災害が起きたとき,あわてて大金を払ってスピード建設したのだが,結局は雇用が間に合わず,大切な生産施設が灰燼に帰してしまった。壊れてしまったインフラは作り直すことになるが,転ばぬ先の杖として,平時のうちに消防署や気象庁を建設しておくことは重要だ。
火山の大噴火 |
複数の竜巻が同時に襲来 |
インフラを作る場所も重要だ。筆者がキャンペーンで遊んだ島は,火山にミステリアスな遺跡が隣接していた。さっそくこの観光資源を活かし,周囲にホテルやレストランを建ててせっせと育てていたのだが,火山の噴火で大きな被害を出してしまった。新聞記事風に言うと,防災意識を無視した安易な開発が引き起こした人災,と言ったところだろうか。
大干ばつ |
災害で発生した火災を放置すると,建物は崩壊する。消防署を作って予防しよう |
政治には有能な部下が欠かせない
トロピコ 4ではほかにも新要素があり,その中でも大きいものが「大臣」の任命だ。「トロピコ」シリーズにはプレジデンテが自分の政治方針を打ち出す「布告」という要素がある。「3」までの布告は,リストの中から選んで決定ボタンを押すだけだったが,「4」では島に議会所を作って防衛大臣や経済大臣など5人の大臣を任命し,その大臣を通じて告知するという形になった。
大臣は一定の条件をクリアしている住民の中から選べる。条件にあった人材がいるときに大臣アイコンを押すとリストが表示される。一度,ずっと空白だった防衛大臣を任命するために,3人の候補者の中から一番出来の良さそうな人物を選んだのだが,任命した瞬間に心筋梗塞で亡くなってしまった。任命されたのがそんなにショックだったのだろうか……。
さて,大臣を任命しての布告というシステムだが,選べる人材には知性,勇気,統率力の3つにそれぞれ「非常に優秀」「優秀」「平均以上」「平均以下」「乏しい」という5段階の能力がある。これを見て,なるべく能力の高そうな,やる気のありそうな人材を任命するのだ。この人材の能力が,「布告」に大きくかかわってくるのかどうかというと,少なくとも序盤のキャンペーンではほとんど関係ないというのが正直な感想だ。大臣といっても,普通にアパートで暮らしていたりするので,どうせなら大臣官邸も作らせてくれたらいいのになと思う。
ここまでやってダメなら,あとは独裁だ!
ここまでは主に“表”の政権運営について説明してきたが,政治には“裏”がある。ここからは,裏の政権運営に関するお話だ。
トロピコ 4には国粋主義者,共産主義者,軍国主義者,宗教派閥,知識人,環境保護論者といった派閥が存在している。彼らは派閥クエストという形で,要求を突き付けてくることもある。対立する派閥をなだめたりすかしたりしながら支持を集め,選挙に勝ち続けて政権を維持していくことが,トロピコというゲームの目的だ。
しかし難度の高いシナリオでは,不満を言われても「どうにもならない」という状況に直面することになる。例えば国庫がマイナスで,世界銀行からお金を借りているときに災害が起こり,食糧事情が一気に悪化する。住民からは文句の嵐だが,お金がないからどうすることもできない。
放っておくと反逆者が発生してしまうぞ,さてどうする? ……ここで,国民を多少弾圧して黙らせたとしても,治安維持の観点からは仕方がないといえるだろう。秘密警察を使って反乱分子を逮捕し,一生出られない監獄に入ってもらうのも,安全保障のためには仕方のない話だ。だって暗殺されると,即ゲームオーバーなのだから。
「民主的な選挙をしろ」とうるさく言ってくる場合は,裏金で買収工作をするか,あるいはいっそ選挙そのものを停止してしまうという方法もある。強引なことをやっていると島を去ろうとする人間も出てくるが,入国管理局のモードを「出国禁止」にすれば,労働力不足におびえる心配はなくなる。重要施設を襲撃されないように監視所を作るのも忘れてはならない。
あとはプレジデンテへの尊敬を集めるために,街のあちこちにプレジデンテの像を建てたり,プレジデンテ幼年期資料館(入場料はプレジデンテのポケットに入る)を建てたりして,住民にプレジデンテの素晴らしさを教え込めばいい。もちろん新聞社やテレビ局などは作らない。余計な情報を与えなければ,住民達は知らなくていいことを知らずに済むのだ。
……このようにして「独裁者」が誕生する。独裁者プレイはトロピコシリーズの醍醐味の一つである。
島国の国民だから,島国の発展が誰よりも嬉しい
キャンペーンのミッションを達成すると,次の島にいくか,そのままゲームを続けるかを選べる。やり残したことが多いなら,そのまま行き着くところまで行ってみるのも楽しい。さまざまなシチュエーションの多彩なシナリオが用意されており,宗教家,独裁者,資本主義者,共産主義者と,いろいろな政権運営をシミュレートできるのが本作のいいところだ。
さて最後に,見た感じはかなり近いものがある「3」との違いについて言及したい。正直に感想を言うと「3」と「4」とで,ゲーム内容にそれほど大きな違いはない。大臣任命のような新しい要素も,一度任命してしまえば死ぬまでは放置しておけるので,人材がいない序盤に布告が出しにくいという程度の差しかない。
このタイプの箱庭ゲームは,開発できるところを一通り開発して,ある程度煮詰まってくると,単調に感じる瞬間がやってくるのは避けられない。その点,クエストがあったり,施設の種類が多かったりする分,「4」のほうが1ゲームを長く楽しめるようになっている。大きな変化がない代わりに,少しずつ便利になってやれることが増えている。今後の追加ダウンロードコンテンツも含めれば,やはり筆者としてはせっかくなら「4」をやろうよ,と言いたい。
海と山に囲まれた,わずかな平野を発展させていく様子は,日本人としてシンパシーを感じずにはいられない。イラストはキューバあたりをイメージしているのだろうが,開発コンセプトの中には日本も入っているのではないだろうか。
赤字に怯えつつ国家財政安定のためにひたすら苦労する序盤。せっかく整えたインフラが災害によって大打撃を受け呆然とする中盤。そんな苦労を乗り越えて,あるとき気が付くと国庫は黒字に。住民視点で混み合う街を眺めたときの満足感は,おそらくこのゲームでしか味わえないのではないだろうか。
プレイヤーには,ぜひ災害に負けず,文句を言いまくる国民にも,無理ばかりいってくるアメリカや中国,EUにも負けず,世界に誇れる強大な独立国家を作り上げてほしい。
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