レビュー
Radeon HD 6000とGeForce 500,両シリーズのローエンドGPU動作検証報告
Radeon HD 6450
(Radeon HD 6450リファレンスカード)
GeForce GT 520
(ZOTAC GeForce GT 520(ZT-50601-10L))
というわけで今回は,これまで手つかずだったRadeon HD 6000およびGeForce 500シリーズのローエンド市場向けモデルをまとめて動作検証してみたいと思う。ローエンド市場向けGPUは,必ずしも3Dゲーム用途が想定されたものではないが,実際のところ,どの程度の性能が期待できる,もしくはできないのかを,AMDから貸し出しを受けたHD 6450リファレンスカードと,4Gamerで独自に入手したZOTAC International(以下,ZOTAC)製GT 520カード「ZOTAC GeForce GT 520」(型番:ZT-50601-10L)でチェックしてみたい。
HD 5450からSP数が倍増したHD 6450と
GT 220よりさらにスペックが低いGT 520
テストに先立って,両GPUのスペックを確認しておこう。
HD 6450がHD 5450と決定的に異なるのは,HD6450で上位モデルと同じGPUコア構成が採用されている点だ。HD 5450は,ATI Radeon HD 5000シリーズで唯一,SIMD Engineを構成する「Streaming Processing Unit」(以下,SP)の数が40基と,上位モデルの半分になっていた。そのため,HD 5450が登場したとき筆者は「ATI Radeon HD 4000シリーズの下位モデルと同じ構成を採用した特殊な製品」と評したが,HD 6450にはそういった特殊なところがない。HD 6570やHD 6670とまったく同じVLIW5コアアーキテクチャを採用しているのだ。
SIMD Engine 1基あたり,4基のテクスチャユニットが組み合わされる点や,SIMD Engineの総数が2基である点は,HD 6450とHD 5450で共通。そのため,HD 6450ではHD 5450比でSP数が倍増した計算になる。
開発コードネームは「GF119」で,イメージとしては,同「GF108」こと「GeForce GT 430」(以下,GT 430)をちょうど半分にして,GF110コア世代へ移行させたものといったところ。Fermiアーキテクチャの場合,48基の「CUDA Core」と8基のテクスチャユニット,それに1基のジオメトリエンジン「PolyMorph Engine」などがセットになって「Streaming Multi-processor」(以下,SM)を構成するが,GT 520ではそのSMを1基のみ搭載するため,48 CUDA Core,8テクスチャユニットという構成になっている。
メモリ周りのスペックもGT 430比で半分になっており,ROPパーティションが1基なのは変わりない一方,パーティションを構成するROPユニットの数は4基から2基へと半減している。GT 430だと2基用意される64bitメモリコントローラも,GT 520では1基となった。
以上,HD 6450とGT 520のスペックをそれぞれの上位モデルや従来モデルなどと比較したものが表1だ。HD 6450が,HD 5450からスペックアップしたものであるのに対し,GT 520の場合,DirectX 11対応部分を除けば,2世代前のエントリー市場向けモデルだった「GeForce GT 220」(以下,GT 220)より,さらにスペックが低くなっているのもポイントである(※2世代前のローエンド市場向けモデルである「GeForce 210」と比べるなら,CUDA Core数が3倍になっているという表現も可能だが)。
HD 6450&GT 520のカード長は168mm
ともにLow Profile対応
実際のカードをチェックしてみよう。まずはHD 6450リファレンスカードからだが,カード長は実測168mm(※突起部含まず)で,Low Profile対応だ。50mm角相当のファンを備えた1スロット仕様のクーラーを搭載した外観は,先にレビュー記事を掲載したHD 6570のリファレンスカードと似通ったものになっている。
ただ,GPUクーラーを取り外してみると,VRM周りの空きスペースが目立つなど,基板はかなり簡素化されているのが分かる。また,グラフィックスメモリ容量はHD 6570リファレンスカードと同じ512MBながら,HD 6570だと基板の片面にしか実装されていなかったメモリチップが,HD 6450では両面に合計4枚搭載されているのも見て取れよう。
カード長が実測168mm(※突起部含まず)で,50mm相当の角ファンを備えた1スロット仕様のGPUクーラーが搭載されるのは,HD 6450のリファレンスカードと同じ。見る限り,VRMは1フェーズ構成のようだ。
GPUクーラーの取り外しはメーカー保証外の行為となるが,今回はレビューということで外してみると,搭載するメモリチップがHynix Semiconductor製の DDR3「H5TQ2G63BFR-11C」(1.8Gbps品)だと分かる。2GbitのDDR3を4枚搭載するため,グラフィックスメモリ容量は合計1GBだ。
Sandy Bridge統合型グラフィックス機能との比較を実施
IE9を用いたGPUアクセラレーション性能もチェック
テストのセットアップに入ろう。
今回,両GPUの比較対象としては,上位モデルと,置き換え対象となる従来モデルを用意している。具体的には,HD 6450の上位モデルであるHD 6570と置き換え対象のHD 5450,その上位モデルである「Radeon HD 5550」(以下,HD 5550)を用意。また,同じGeForce 500シリーズに直接の上位モデルと呼べるものがないGT 520の比較用には,GT 430とGT 220を用意している。
さらに,このクラスではIntelのCPU統合型グラフィックス機能との比較も必要になると思われるため,「Core i7-2600K/3.40GHz」(以下,i7-2600K)に統合された「Intel HD Graphics 3000」でもテストを行うことにした。
そのため,今回用いるマザーボードは「Intel H67 Express」搭載のIntel製「DH67BL」になっており,HD 6570などのレビューとはプラットフォームが異なる。また,GPUレビューにおいては,通常,CPU側の「Intel Turbo Boost Technology」を無効化しているが,今回はi7-2600K側のGPUコアクロック自動制御機能である「Dynamic Frequency」を活かすため,全テストにおいてIntel Turbo Boost Technologyを有効化してあることもあらかじめお断りしておきたい。
このほかテスト環境は表2のとおりだ。グラフィックスドライバはRadeon勢が「Catalyst 11.4」,GeForce勢が「GeForce Driver 270.61」で,いずれもテスト開始時の公式最新版である。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション10.2準拠となるが,ローエンドやエントリークラスのGPUにとって負荷が高すぎる「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」と,このクラスのGPUではCPUの影響が濃く出過ぎる「バイオハザード5」は省略した。同じ理由により,アンチエイリアシングおよびテクスチャフィルタリングを適用する「高負荷設定」は省き,「標準設定」および「低負荷設定」のみでテストを行う。
解像度は1024×768ドットと1280×1024ドットの2パターンだ。
テストに用いるのは,Microsoftが用意しているIE9のデモサイト「Internet Explorer Test Drive」から,「FishBowl Benchmark」というベンチマークだ。これは,HTML 5ベースのデモにおける性能を見るもので,「金魚鉢の中の動き回る金魚の数を選ぶと,そのときのフレームレートが最大60fpsで表示される」のが特徴。デフォルトだと10匹だが,これだと60fpsで頭打ちになってしまうため,今回は1000匹とした。
テストにあたっては,デスクトップ解像度を800×600あるいは1024×768ドットにしたうえで,[F11]キーからIE9を全画面表示にして実行。「Fraps」から1分間の平均フレームレートを計測し,それをスコアとしている。
SP倍増効果でHD 5450から大きく伸びたHD 6450
一方,GT 520はi7-2600Kを若干上回る程度に留まる
グラフは,HD 6450とGT 520を中心に,スコアが比較的近いものをまとめ,その下に上位モデルを並べることにした。ただ,「3DMark06」(Build 1.2.0)の「Feature Test」以外は,グラフ画像をクリックすると,1280×1024ドット解像度のスコアを基準に並べ替えたものを別ウインドウで表示するようにもしてあるので,見やすいほうでチェックしてもらえればと思う。
まずは3DMark06の総合スコアからだ(グラフ1)。HD 6450はHD 5450から54〜60%のスコア向上を果たしており,SP数の倍増のメリットが色濃く表れている。ただし,エントリー市場向けGPUであるHD 6570とのスコア差は大きく,HD 5550からも16%ほどの差をつけられたままである。
もう1つの主役であるGT 520は,GT 430比61%のスコアに留まるだけでなく,GT 220比でも71〜73%のスコアしか示せていない。テクスチャユニットやROPユニットの少なさが,相当な足枷になっている印象だ。i7-2600Kより8〜9%高いスコアを示しているのを救いとみるかどうかは,意見が分かれるところだろう。
グラフ2〜6は,3DMark06のデフォルト設定である1280×1024ドット・標準設定でFeature Testを実行した結果となる。
グラフ2はFill Rate(フィルレート)のテスト結果だが,ここで,メモリ周りの性能差がスコアを左右しやすいMulti-Texturingに着目すると,おおむね総合スコアどおりの結果にまとまっている印象。HD 6450とHD 5450のスコア差は18%ほどなので,総合スコアほど大きくないものの,GDDR5とDDR3のレイテンシなどを加味した実効性能を考えるに,妥当なところではなかろうか。
なおここでもGT 520はHD 6450より一段低いところに収まっている。
グラフ3,4は順に,Pixel Shader(ピクセルシェーダ)とVertex Shader(頂点シェーダ)のスコアである。
ここでは,総合スコアと似た傾向となった前者ではなく,後者のComplexに注目してみたいが,HD 6450とHD 5450の差は109%。SP数の差が,ほぼそのままスコア差になっているのが分かる。また,HD 6450は動作クロックでHD 5550を上回るため,HD 5550との差がかなり縮まっている点にも注目しておきたいところだ。
一方,GT 520はi7-2600Kにさえ逆転を許してしまっており,いいところがない。
DirectX 9世代における汎用演算性能を見るShader Particle(シェーダパーティクル)と,長いシェーダプログラムの実行性能を見るPerlin Noise(パーリンノイズ)の結果がグラフ5,6だ。
SP数が倍増し,動作クロックも向上したことを受け,HD 6450はHD 5450から順当にスコアを伸ばしている。一方,GT 520はi7-2600Kに勝つのがやっとといったところだ。
実際のゲームタイトルから,グラフ7は,低負荷設定で実行した「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)のテスト結果だ。GT 220とi7-2600KがDirectX 10.1までのサポートとなるため,強制的にDirectX 10モードでゲームを起動し,テストを行っているので,その点は注意してほしい。
さてその結果だが,総じて,3DMark06の総合スコアとよく似ている。HD 6450はHD 5450から80〜85%高いスコアを示す一方,HD 6570との差は大きく,HD 5550にも届かない。GT 520はGT 220比で62〜66%程度に留まり,i7-2600Kを若干上回る程度に落ち着いている。
グラフ8の「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)でもその傾向は変わらない。もっとも,HD 6450が1024×768ドットで60fpsを超えるスコアを発揮している点は注目すべきだろう。DirectX 9世代の3Dゲームタイトルでも,グラフィックス設定さえ下げれば,十分にプレイアブルなフレームレートが得られるようになっているわけで,ローエンドGPUにとっては大きな出来事だ。
これまでとは若干異なるスコアになったのがグラフ9の「Just Cause 2」だ。ここではGT 520のスコアが良好で,GT 220と同等かそれ以上のパフォーマンスを発揮しているのだ。HD 6450も上回っており,これはGT 520の動作クロック,とくにシェーダクロックの高さが奏功したと考えるのが妥当だろう。場合によっては,GT 520が良好なスコアを示す例の1つといえる。
グラフ10の「Colin McRae: DiRT 2」(以下,DiRT 2)では,GeForce勢が良好なスコアを示す傾向があるのだが,実際,ここではGT 520がHD 6450との差を詰めている。
なお,i7-2600KとGT 220のスコアがN/Aなのは,DirectX 11対応GPUとそれ以外で描画オプションの設定を統一できないためだ。ここではDirectX 11モードでの比較となっている。
パフォーマンステストの最後となるのがHTML 5.0ベースのFishBowl Becnhmarkで,ここではHD 6450のスコアが良好(グラフ11)。HD 5450を大きく引き離し,HD 5550をも上回った。また,i7-2600KのスコアがHD 5550に迫り,GT 520とHD 5450が置いて行かれているのも目を引くところだが,全体としては,GPU性能が一定レベルを下回るところで,メモリ周りの性能がスコアを左右している印象を受ける。HD 6450ではGDDR5メモリ,i7-2600KではLast Level Cacheの性能が,それぞれ高めのスコアにつながっているのではなかろうか。
HD 6450とHD 5450の消費電力はほぼ同じ
GT 520の消費電力も相応に高い
現世代の最下位モデルという位置づけだけあって,消費電力はかなり抑えられているとは思うが,実際にはどの程度なのか。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を計測し,比較してみた。
テストはOSの起動後,30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果をまとめたのがグラフ12だ。まず,アイドル時にi7-2600Kが一段低い消費電力値になっているのは,単体グラフィックスカードを差していない以上,当然の結果である。
アプリケーション実行時には,BFBC2時のみ10W以上の差がつくので,「まったく同じ」とまでは言えないものの,HD 6450の消費電力がHD 5450と同等の水準をほぼほぼ維持できているのが分かる。一方,GT 520はGT 430とほぼ同じレベルで,少なくともGT 220やHD 5550よりは確実に高い。Fermiアーキテクチャの弱点がローエンドGPUでも出てしまっている,といったところか。
続いて,室温20℃の環境にテストシステムをいわゆるバラックで置き,その状態でGPU温度を測定した結果を示してみたい。
ここでは,3DMark06の30分間連続実行時点を「高負荷時」として,アイドル時ともどもTechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU- Z」(Version 0.5.3)からGPU温度を計測している。その結果がグラフ13だ。
搭載するGPUクーラーが異なるため,横並びの評価には向いていないが,それでも,おそらく同じGPUクーラーを採用しているHD 6450とHD 6570では,スペックが抑えられている分,HD 6450のほうが無理のない温度にまとまっていると見て取れる。また,回転数を絞れているためか,筆者の主観であることを断ったうえで述べると,HD 6450リファレンスカードの静音性はなかなかに良好である。
また,ZOTAC製GT 520カードが搭載してきているGPUクーラーも,それに負けず劣らず静か。消費電力が高いこともあって,HD 6450と比べるとGPU温度は多少高めだが,この程度なら許容範囲だろう。
あくまでもローエンドGPUである点は注意が必要だが
底上げを実現したHD 6450は評価できる
テストを通じて分かるのは,HD 6450,GT 520とも,エントリークラスのGPUとは歴然とした性能差があるということだ。少しでも高い3D性能を得たいのであれば,そもそも3Dゲーム用途が強くは訴求されていないこれらローエンドGPUではなく,4桁円台後半から入手できるエントリークラスのGPUを選ぶべきである。
一方のGT 520には,ゲーム用途におけるこれといった訴求ポイントがない。GT型番なので,一応は「3Dゲームの実行やビデオ再生,画像処理に適したGPU」ということになるが,現実的には,数世代前の統合型グラフィックス機能搭載環境に差して,PureVideo HDによるビデオ再生や,CUDAアクセラレーションに使うGPUということになるのではなかろうか。少なくとも,3Dゲーム用途において,HD 6450に対して厳しい立ち位置となるのは避けられそうにない。
AMDのHD 6450製品情報ページ(英語)
NVIDIAのGT 520製品情報ページ
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