インタビュー
ギャルゲーと格ゲーの意外な共通点とは――ついに稼働を開始したアクアプラス格闘「AQUAPAZZA」,その魅力をディレクター陣に聞いてみた
今回4Gamerは,本作のディレクターを務めるアクアプラスの鷲見 努氏とエクサムの林 和磨氏にインタビューする機会を得た。「AQUAPAZZA」の制作秘話から,両氏の格闘ゲーム観,そしてアーケードへの想いについてまで,濃い話をたっぷり聞くことができたので,その内容をお届けしていこう。
「AQUAPAZZA」公式サイト
アクアプラス×エクサムの強力タッグが生まれた経緯
4Gamer:
まずは「AQUAPAZZA」の企画が発案された経緯について,伺っていきたいと思います。まさに夢の共演といった本作ですが,最初の企画はどちらから持ちかけたものだったんでしょうか。
これは我々アクアプラスからの発案ですね。最初から格闘ゲームを作ろう,という点は決まっていまして,うちの作品をよくご存じでご縁もあったエクサムさんにお願いした形です。
エクサム 林 和磨氏(以下,林氏):
そうですね。うちは今まで自社のオリジナル作品しか作ってこなかったので,共同での制作は初めての経験でした。しかし社内にアクアプラスさんのゲームを好きなスタッフが多かったこともあって,ぜひ一緒にやりましょうとお返事させていただきました。
4Gamer:
なるほど。ちなみにそれはいつ頃だったんでしょうか。
林氏:
今から2年くらい前,2009年の初夏頃でしたね。
鷲見氏:
お話のあとすぐに制作に取りかかっていただけて。実は本作の開発について発表したのは,2009年12月27日に開催したファンイベント“アクアプラスフェスタ 2009”が初なんです。その時はエクサムさんに制作していただいたサンプルのスクリーンショット数点と,「格闘ゲームを作っています」というアナウンスのみの公開でしたが。
4Gamer:
つまり最初のお話があった半年後には,もう画面ができていたと。
鷲見氏:
はい。あくまでサンプルではありましたが,ちゃんと動くバージョンでしたよ。
4Gamer:
そのときのお客さんの反響はいかがでしたか?
鷲見氏:
場所がライブ会場だったこともあって,お客さんはかなり沸いてくれました。とはいえ,その時はそれこそタイトルもまだ未定でしたし……。
どういう形で出すのかという話すら,しませんでしたしね(笑)。
鷲見氏:
本当に「格闘ゲームを作ってます」というだけでしたね。そのあと色々なことが具体的になり,正式にタイトルを発表できるようになったのが今年1月末。その1か月後には,AOU2011にプレイアブル出展して,やっと反響が実感できました(笑)。中には“アクアプラスフェスタ 2009”での発表をちゃんと覚えてらっしゃる方もいて。「ようやくか」って言われました(笑)。
4Gamer:
制作中は,どういった形で作業を分担をされていたんですか?
林氏:
エクサムはキャラクターのドット絵からゲームシステムまで,格闘ゲームの根幹部分の制作を担当しました。
鷲見氏:
アクアプラスは,演出として使われるアニメーションやゲーム中に流れるサウンド部分,ストーリーモードのシナリオやキャラクターの台詞あたりを担当しています。
林氏:
あのアニメーション演出はインパクトがありますね。超必殺技やスプラッシュアーツ発動時のほかにも,キャラクターセレクト画面もよく動きますよ。
4Gamer:
ああ,確かに。AOU2011では,4Gamerでも直撮りムービーを掲載させていただきましたが,あのアニメーションはかなり評判でした(笑)。
鷲見氏:
キャラクターセレクト画面であれだけ動くというのは,もしかしたら業界初かもしれません(笑)
社内ですら意見がまとまらなかったキャラクター選び
4Gamer:
次はキャラクターについて伺っていきます。本作にはメインキャラクター10人,パートナーキャラクター9人の,合計19人のアクアプラスキャラが登場しています。このキャラクターの人選についてお聞かせください。
鷲見氏:
まずできるだけ沢山の人に喜んでいただけるキャラクターであること。そしてキャラクターの動きに個性があること。主にこの2つが基準ですね。
林氏:
同じような動きをするキャラクターが多いと,やはり格闘ゲームとしては辛いところがあります。武器の形であるとか,戦闘スタイルとか,そのあたりは差別化できるよう考慮しました。
4Gamer:
「ToHeart」シリーズのキャラクターとか,みんな同じ制服ですものね。
林氏:
「ToHeart」シリーズのキャラクターはとくに苦労しましたね。元々が闘うようなキャラクターではないので。キャラクターの性格や特徴を踏まえたうえで,例えばマルチにはモップ,このみだったらカバン,愛佳なら本を持たせて見た目に変化を付けつつ,格闘ゲームとしてのキャラクター特性にも,それらを盛り込んでいくという。原作のイメージを損ねないように闘わせる,という落とし込みが非常に難しかったです。
4Gamer:
しかしエクサムさんの「アルカナハート」シリーズは,女の子キャラクターばかりのゲームですよね。そのあたりはお手の物なのでは……。
林氏:
ええまぁ(笑)。「戦いそうにない女の子を,そのイメージを崩さずに戦わせる」というところに,そのあたりのノウハウが上手く活かせたかな,と思います。
鷲見氏:
こちらとしても,うちの作品を本当に良く読み込んでくれていて,感心することしきりでした。各原作のシーンやネタがちゃんと活かされていて,しかも格闘ゲームとしても無理なく落とし込まれているんです。
4Gamer:
AOU2011で触らせてもらったときは,タマ姉が投げキャラってところにかなり驚きましたが……。
林氏:
環は原作のワンシーンである“アイアンクロー”の印象が強かったので,やはり投げキャラかなと(笑)。
4Gamer:
まぁ,この中で誰が投げキャラかといったら,そりゃタマ姉ですよね(笑)。格闘ゲームには必須なポジションなわけですし。ちなみに最初に決まったキャラクターは誰なんですか?
鷲見氏:
先ほど話したイベントでの初出時は,マルチと環,ハクオロ,リアンノンがすでにいましたね。人気から見て,この4人はまず間違いないかな,と。
4Gamer:
では逆に,惜しくも登場できなかったキャラクターなんかも……。
林氏:
そこはあんまりいうと,“次はこのキャラクターが!”っていわれちゃいそうですよね(笑)。
鷲見氏:
やっぱりどのキャラクターにもファンがいるので,なかなか円満な解決は難しいですよね。そもそもキャラクターのチョイス自体,社内的にも判断がとくに難しかったところで……。事実,いくら話し合っても統一見解が一向に見えてこないという(笑)。
林氏:
うちも同じく,スタッフに意見を聞いてもまとまらなくて(笑)。最終的には鷲見さんと一緒に今のキャラクター達に決めた形ですね。
4Gamer:
そういえば,先日公開されたムービーには謎のキャラクター(?)が1人登場していましたよね。
鷲見氏:
まーりゃん先輩のことですね(笑)。稼働後はバレバレなので(※インタビューの収録は稼働前)話してしまいますが,1人用のストーリーモードで,最後に立ちはだかるのが彼女なんです。ボスキャラクターとしては,それぞれの作品に関連したキャラクターが“黒バージョン”で登場するのですが,それを操る黒幕がまーりゃん先輩。ゲームとしてはボスのパートナーキャラとして登場します。
4Gamer:
なるほど,現状ではCPU専用のキャラクターなんですね。……そのうち使えるようになる?
林氏:
そこは今後のお楽しみ,ということで(笑)。
原作の再現とハードルの引き下げにこだわったゲームシステム
4Gamer:
それではちょっとゲームの内容について踏み込んでみようと思います。AOU2011の時に伺ったお話では,“格闘ゲームは最近ご無沙汰”という人に向けたタイトルとのことでしたが,これが本作のコンセプトということでいいのでしょうか。
林氏:
そうですね。まず何よりも,年齢層の広いアクアプラスさんの作品のファンが楽しめるゲームにしたいと考えたんです。その中には“昔は格闘ゲームをプレイしていたけど,今はシステムが難しくて手が出せない”という層もいると思うんですよ。なので基本はシンプルにして,複雑な操作を覚えなくてもある程度キャラクターを動かせてしまうようなハードルの低さを目指しました。なので,曖昧な表現ではありますが,今風の2D格闘ゲームとはちょっと違う路線かもしれません。
今風の2D格闘ゲームというと,低空ダッシュを絡めた固めや,複数回のジャンプを使った空中コンボ……みたいな?
林氏:
そんな感じです(笑)。ただあまりにもシンプルにし過ぎてしまうと,いわゆる格闘ゲームファンにとっては物足りなくなってしまいますよね。そうなってしまわないように,研究次第でコンボを伸ばしたり,攻めを継続したりできるパートーナーシステムを用意してあります。
4Gamer:
なるほど,メインキャラ同士の攻防は,差し合いがメインになるようなトラディショナルな作りで,ゲームの深みの部分や,いわゆるやり込み要素の部分をパートナーが担っていると。
林氏:
ええ。パートナーを意識しなければ,昔懐かしい感じの格闘ゲームとして遊ぶこともできますよ。
4Gamer:
しかし実際にゲーセンの対戦台で闘おうと思ったら,そうも言ってられませんよね。今作のパートナーシステムって,「ザ・キング・オブ・ファイターズ'99」などでいうところの“ストライカー”に近いシステムだと思うんですが,あれって慣れないとかなり難しいと思うんです。
林氏:
いや,その心配は分かります。なのでパートナーを戦術に組み込むうえでも,ハードルをなるべく下げる工夫をしています。まず「ニュートラル+パートナーボタン」による「パートナーアシスト」は,再使用が可能になるまでの時間が短く設定されているので,どんどん使っていけますし,そもそもパートナーの攻撃は強めに作ってあるので,始めたての頃は適当にボタンを押すだけでもお得感があるんですよ。
4Gamer:
コンボに組み込まなくても,単発で使っていけるわけですか。
林氏:
はい。それで慣れてきたら,例えばメインキャラクターが飛び道具を持っていないから,パートナーに攻撃してもらいつつ接近するとか,攻撃中にパートナーを呼んで連続技にするとか,次の活用法にステップアップしてもらえればと。
4Gamer:
初心者にお勧めのパートナーキャラクターはいますか?
林氏:
うーん,湯浅皐月ですかね。皐月はプレイヤーの位置に追従して動く「追従タイプ」なので,常に画面内に居るんです。だから攻撃がどこから発生するのか分かりやすい。さらに攻撃が銃ということもあって発生が早いので,戦術に組み込みやすいんです。ほかのパートナーキャラクターだと,ボタンを押してから攻撃が届くまでに時間がかかることもあるので,タイミングに慣れが必要かもしれません。
4Gamer:
ちなみにメインキャラクターのオススメは?
林氏:
オーソドックスなのはアロウンかな。いわゆる波動拳的な飛び道具と,昇竜拳的な対空技を持っていて,ダッシュも走るタイプなので使いやすいと思います。格闘ゲームのキャラクターとしてみれば,一番クセの少ないキャラですね。
あとは柚原このみも使いやすい対空技がありますし,操作のしやすいキャラクターです。ただアロウンより動きは速いので,慣れないと振り回されてしまうかもしれません。
4Gamer:
では最初はそのあたりの組み合わせで触っていくのが良さそうですね。
林氏:
はい。トレーニングモードも用意しているので,そこで動かしてみてください。そうそう,トレーニングモードでは,各キャラクターの組み合わせごとに,サンプルコンボを見ることもできますよ。
4Gamer:
え! それは組み合わせごと,すべてに用意されているんですか?
林氏:
全キャラクターと全パートナーのパターンが入っています。
4Gamer:
それはすごいですね。いわゆる基礎コンボみたいなものが見られると?
林氏:
いえ,“ハードルを下げる”ことを目的としたものなので,いわゆる基礎コンボでも,ましてや上級者向けコンボでもないです。“基本となるパートナーの活用法”とでもいいますか。パートナーキャラの使い方が学べるような内容です。
鷲見氏:
単純にパートナーの使い所が分かるだけでなく,“こういう繋ぎができるなら,これもできそうだ”というヒントになっています。試しにパートナーを変更してみたい,というときにもオススメですね。
林氏:
パートナーはキャラによって攻撃が発生するまでの速度が大きく違うので,コンボに組み込む際はどのタイミングでボタンを押すかが重要なんですよ。そのあたり,実際に見てもらえば理解しやすいんじゃないかと。
4Gamer:
なるほど……ちなみに,今お話にあがったパートナーシステムは,制作のどの段階で採用が決まったものなのでしょうか?
林氏:
これはキャラクターをチョイスする段階,つまりほとんど最初に採用を決めました。やり込み要素としてももちろんなんですが,単純に登場キャラクターを増やせるというのが何より大きかったんですよ。こういう作品ですから,なるべく沢山のキャラクターを出してあげたかったんです。
4Gamer:
パートナーやタッグシステムを採用している対戦格闘ゲームはほかにもありますが,例えば「鉄拳タッグトーナメント」のような,2人のキャラクターで戦えるシステムという案はなかったのですか?
林氏:
メインキャラ2人で,両方とも動かせるようにしてしまうと,2人分の技やコンボを覚えなければならないですよね。これは先ほどのコンセプトの話にも繋がるんですが,それではハードルが高くなってしまうと思ったんです。
4Gamer:
確かに。
林氏:
まあ,新作の格闘ゲームとして,きちんとしたキャラクターを沢山作るというのは,制作上どうしてもしんどい,という理由もなくはないんですけれど(笑)。
4Gamer:
(笑)。では本作のゲームシステムで大きな特徴といえる,「アクティブエモーション」についてお聞きしたいと思います。プレイヤーへの好感度によって,キャラクターの能力が上下するというシステムですが,これは“ギャルゲーのシステムを格闘ゲームに落とし込んだもの”,というイメージでいいんでしょうか。
林氏:
一点はまさにそのとおりです。もう1つは,お互いに守りに入った対戦風景は,見ていてあまり面白いものではないので,なるべくアクティブに戦ってもらいたいという願いがありました。なので“積極的に攻めるとボーナスを受けられる”という仕組みが,ゲームデザインにマッチしていたというのも採用の理由です。
4Gamer:
システムがシンプルで地上戦がメインだと,展開が膠着しがちというのは確かにありそうです。プレイしているほうは,ジリジリした戦いも楽しいものですが,見ているほうは分かりにくいかもしれません。
林氏:
そうなんですよ。なるべくお互いに攻め合って,パートナーの攻撃が何度も飛び交う状況になるよう,デザインしたつもりです。
4Gamer:
このシステムは,実際の対戦ではどのように働くのでしょうか。
林氏:
まず基本として,積極的に攻めていくと好感度が上がり,動かないでいると下がっていく仕組みになっています。好感度にはノリノリ,普通,ご機嫌ナナメの3段階があって,ノリノリになるとキャラクターの顔アイコンが機嫌の良いものに変化します。周囲のリングも赤くなって,攻撃力や防御力がアップするほか,中には性能が変化する超必殺技もありますね。
4Gamer:
逆に守勢に回るとどうなるんですか。
林氏:
ご機嫌ナナメになると逆に攻撃力や防御力が減少するうえ,この状態でガードし続けるとガードクラッシュしてしまうので,非常に危険な状態といえます。片方が好感度高,片方が低い状況では,高い側が圧倒的に有利な状況になりますね。
鷲見氏:
キャラクターによって,好感度の上下のしやすさにも違いがあるんですよね。
林氏:
はい。そのあたりはキャラクターの性格に合わせて細かく調整してあります。
4Gamer:
なるほど,原作ファンであればニヤリとしてしまうフィーチャーですね。
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