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[CEDEC 2011]エイベックスの異業種コラボ技術をゲーム業界に。「これからはコラボレーション・プロデュース」をレポート
CEDEC 2011の2日目(2011年9月7日)に行われたセッション「これからはコラボレーション・プロデュース 〜1つのコンテンツを異業種へ拡散させるプロデュース論〜」では,そうした異業種コラボによって,一つのコンテンツをさまざまな方位に拡散させ,“トータルビジネス”を成立させる手法と具体的な事例などが紹介された。
講師を務めたのは,エイベックス・エンタテインメント 映像事業本部 映像制作部 企画制作ルーム 課長 穀田正仁氏だ。
穀田氏はまず,従来型のコンテンツのプロデュース例から紹介を始める。1つめは,コンテンツをファンに向けてプロデュースするシンプルな手法で,前作が売れたから続編を出す,あるいはファンベースが形成されているところに望まれるコンテンツを投下するといった,非常に分かりやすいビジネスモデルである。
しかしこの手法は,繰り返すうちに次第に求められる内容が濃くなっていき,コアユーザー向けの間口の狭いものとなり,多くの人にアピールする機会を失ってしまう可能性が高い。
続いて穀田氏が挙げた2つめの例は,「ワンソース・マルチユース」だ。これは一つのコンテンツを書籍化したり,グッズ化したりと異なる種類のプラットフォームで展開し,ビジネスを拡大していく手法だ。この手法では,メインとなるのはあくまでも“中心のコンテンツ”であり,それ以外はメインビジネスを拡大するためのサブ的な位置づけとなる。
穀田氏は「そうした従来のやり方を否定はしないが」と前置きしたうえで,よりコンテンツ同士を繋げて発展させる手法として,セッションの本題となる「コラボレーション・プロデュース」を紹介する。
これは,例えばゲームの企画が一つあれば,そのキャラや設定,世界観などを使った映像コンテンツやグッズを並行して制作したり,あるいは海外同時展開したりと,どれがメインでどれがサブかを区別しないやり方である。穀田氏は,この手法は企画さえあればどこからでもビジネスが切り出せると説明する。
一方で,穀田氏は,1社だけでコラボレーション・プロデュースを展開するのは難しいとも話す。実際,アイデアはいろいろ思いついても,実行するとなると一つの企画を仕上げるのに手一杯となってしまい,ほかの企画や海外展開にまで手が回らなくなってしまうからだ。
そこで穀田氏はコラボレーション・プロデュースを進めるために,自分の企業だけではできない企画を異業種に拡散する必要があると述べる。具体的には,さまざまな異業種のブレーン達とのチームを編成し,それぞれの企画を進めていくわけだ。
なぜ異業種への拡散を行うべきなのかについて,穀田氏は3つのポイント(課題)を挙げる。
・“免疫感”の打破
免疫感とは,エンターテイメントコンテンツに発生しがちな“もっともっと”という期待感だ。つまり前作が面白ければ,その続編はそれ以上に面白くならないと満足できないという人間の心理であり,ゲームに限らずエンターテイメント全般が抱える課題である。
・ライトユーザーの無意識に訴えかける手法
例えば,ユニクロのTシャツにゲームのロゴやキャラがあしらってあれば,「何か格好いい」と感じてゲームを始めるきっかけになるかもしれない。こうしたアプローチはTシャツなどのデザインだけでなく,キャッチコピーやタレントを使うこともできるが,それぞれに接する範囲が異なるので,ターゲットに最も刺さりやすい形式で提供することを考えなければならない。
・商品セールスにつながらないケース
ユーザーとの接触の機会が増えても,お金にはならないというケース。例えば動画配信では,その動画へのアクセスは多くとも,肝心の商品セールスに繋がらないということも考えられる。またDVDなどの100円レンタルキャンペーンにしても,ユーザーの満足度は上がるが儲けには直結しない。そういったゼロの部分を,いかにしてビジネスチャンスに結びつけるかというのも大きな課題だ。
これらの課題をクリアするために,よりユーザーに近い業種の企業に課金モデルを構築してもらうのが一番早いと穀田氏は述べる。つまり,異なる業種同士で協業し,それぞれの得意分野を活かし,さまざまな発想を持って共同でコンテンツを作り上げていくことが,最も効果的というわけである。
ここで穀田氏は,自身がコラボレーション・プロデュースの手法を使って手がけた2つのプロジェクトの事例を紹介。
「スキージャンプ・ペア DVD」では,スキーのジャンプを2人ペアで行う架空の競技の動画をDVDパッケージで販売した。動画自体はネットを介して無料で視聴できるので,いかにしてパッケージに商品価値を持たせるかが重要となる。
そこで異業種とのコラボレーションの出番というわけだ。最初のパッケージの「Vol.1」では,誰も知らない競技ということで,発祥やルールを記した150ページ近くの「教本」,日常生活ではまず入手することのない「金メダル」を同梱。さらに,雪に関連する競技の商品ということで,それらを「防水バッグ」に収めた。もちろん,架空の競技なので実際のスキー場にDVDを持ち込むユーザーはいないのだが,そのふざけているともこだわっているとも取れる構成により,最終的に21万枚のセールスを記録したとのことだ。
続く「Vol.2」では,スキーに見立てた「歯ブラシ」を同梱。加えて「続編だから」ではなく「何か面白そうだから」という理由で買ってもらうために,価格を2800円と低めに設定した。さらに,その続編は数字を飛ばしていきなり「Vol.8」にした。その間の「Vol.3〜7」に関しては5枚組ボックスセットとしてパッケージ販売したが,中身は5枚の「空DVD-R」だった(ただし事前の告知とパッケージの表記で,空のDVD-Rであることをきちんとアピールし,相応の価格で提供している)。
穀田氏は,これらのシリーズ展開において,さまざまな業種の発想と手法を取り入れることにより,“DVDを買う概念と楽しさ”を変えたと説明する。
もう一つの事例は,タレントや評論家として活動するテリー伊藤さんが監督を務めた映画「10億円稼ぐ」。これは,テリー伊藤さんが新しいキャラクターを使ってビジネスを展開していくドキュメント映画で,プロジェクトの活動開始は映画公開の3年前に遡る。
まず新しいキャラクターを創り出し,国内外へのライセンスビジネスを試みるわけだが,その中でも穀田氏が挙げたのが「ファッションセンターしまむら」「ドン・キホーテ」といった量販店への商品展開だ。
通常こうした,キャラクターを使うライセンスビジネスでは,IPホルダーが商品デザインを指定したり,作られた商品を厳格にチェックしたりすることが多いのだが,このプロジェクトの場合は,量販店側に大きな裁量を持たせ,それぞれが売りやすい商品に加工することを許可していたという。
穀田氏は,一連のプロジェクトの流れを,ライセンスビジネスを創出してから,映画ビジネスで補完した例と説明。また,このライセンスビジネスを「有名IPでは実現できないチャンス」と表現した。その結果として,映画公開後も,同プロジェクトの商品は量販店にて継続して販売されているそうである。
続けて穀田氏は,こうしたコラボレーション・プロデュースのプロデューサーに求められる資質として,以下の8項目を挙げる。
1. 志高いカメレオン的柔軟さ
2. 基本力(応用力)
3. さまざまなジャンルに対し明るい「プロ」の存在
4. コンテンツ営業力(説得力→仕切り力)
5. 人間関係(結局は信頼ある人同士で決める)
6. 突き詰めて,最後に見直し,捨てる美学
7. コスト意識(かけすぎない)
8. 俯瞰で判断
いくつか必要な部分を補っておこう。
“カメレオン”という言葉には,善悪さまざまなイメージがあるが,本項目の場合は目的を明確にし,その遂行のために相手に応じてコーディネートを柔軟に変えることを指すと,穀田氏は説明していた。また具体的な作業は相手に任せるにしても,共通言語を持つために,相手が「何をする人なのか」という基本的な部分は学んでおくべきであるとも述べる。
相手から十分な協力を得るためには,きちんと説得したり,その場を仕切ったりする能力が必要になる。穀田氏いわく,打ち合わせが実のあるものになるときは必ずその場を仕切る人物がいるとのこと。逆に誰も仕切らないケースでは,無駄足になってしまうことが多いそうだ。またどんなケースでも,最後は腹を割って話ができる信頼が重要とのことで,人間力も磨いておくべきと穀田氏は話す。
“捨てる美学”は,それまでどんなに磨き上げてきた過程であっても,最終的に商品として成立しないのであれば躊躇なく切る覚悟である。捨てるのとはちょっと違うが,穀田氏はデザイナーが突き詰めて実現した格好良さであっても,商品として情報不足であれば,プロデューサー判断でパッケージに説明テキストを加えるといった例を挙げた。
またコスト意識については,必ずしも削減することだけが良いというわけではないという。コンテンツの意図をきちんと読み取り,コストをかける部分と,そうでない部分をきちんと分けるという意味である。
最後に,それらすべてを俯瞰し,関わった人達全員のトータルの達成度として商品に仕上げるのがプロデューサーの仕事だと,穀田氏は述べる。
なお,創り上げたコンテンツの守り方については,“ガード/独占すべきもの”と,そうでないものを分ける必要があると穀田氏は説明する。先ほどの量販店の事例のように,あえて“守らなくてもよいもの”を提供することで,大きな成果を上げる例もあるからだ。
そのほか穀田氏は,前例/スタンダードの有無にしても,“だから採用するのか”“だから新しい方法論を考えるのか”という2つのアプローチが存在することを示唆した。
最後に穀田氏は,「ゲームは凝縮されたクリエイティブの宝庫」であり,これまで氏が手がけてきた映像制作に通ずる部分があると述べる。そしてセッションの聴講者であるゲーム開発者に向け,開発中のゲームの“情報の一部”を上記の“守らなくてもよいもの”とすることで,さまざまなプロモーション展開ができるのではないかと提案。
せっかく作り上げたゲームをただリリースして終わり,ではもったいない,ぜひ一緒にさまざまな形でサプライズを創出していきましょうと呼びかけ,セッションを締めくくった。
ゲーム業界でも,他業種とのコラボレーションは積極的に行われている分野だ。なかには,すでにゲーム業界で実践されていそうな事例も見られたが,ともあれ今後さらに発展していくであろう,コラボレーション・プロデュースに注目したい。
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