インタビュー
“気持ちの良い嘘”が生み出す独特の浮遊感に注目。「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」インタビュー
気持ちのいい嘘を付けば
プレイヤーも気持ちよく騙されてくれる
4Gamer:
ふと思ったんですが,先ほどの「独特の浮遊感」の理由の一つは,有機EL液晶とジャイロセンサーにあるんじゃないでしょうか。GRAVITY DAZEをプレイしてまず驚いたのは,有機EL液晶の残像感のなさ,視野角の広さと,ジャイロセンサーの感度の良さだったんです。とくにジャイロセンサーなんか,個人的にはアナログスティックよりも細かい操作ができるなと思ったくらいで。
あれは本当に驚きますよね。おっしゃるようにジャイロセンサーの感度がいいので,PS Vitaを傾けてしまいがちなんですけど,視野角が広いからそんな状態でも画面がハッキリ見えるんですよ。
4Gamer:
そうそう,結果的に,昔マリオカートを遊んでいたときみたいに,キャラクターの動きと自分の動きがシンクロしてしまうという(笑)。GRAVITY DAZEの場合,ジャイロセンサーでの操作にストレスがないし,操作性とキャラクターのアクションがかみ合っているから,無意識のうちに没入してしまって,自然と体が動いてしまうんですよね。ゲームを遊んでいて体が自然に動くっていう感覚をここ最近味わっていなかったので,そういう意味でも驚かされました。
外山氏:
重力から解放される自由,みたいなものを味わってしまうと,地面に降りたくなくなりますね。あと,これも有機EL液晶のおかげなのかもしれませんが,GRAVITY DAZEは意外と3D酔いしないんですよ。
五十峯氏:
僕も結構酔うほうなんですけど,GRAVITY DAZEでは酔いませんね。ゲームの終盤では結構激しいプレイをする必要があるんですけど,それでも酔わなかったです。
4Gamer:
もちろん人それぞれでしょうけど,確かに酔いませんでしたね。そのあたりは,何か工夫をされているんですか?
外山氏:
酔わないための特別な工夫といったものはしていないんですけど,残像感のなさや,キャラクターが「イメージどおりに動く」ことが関係しているのかもしれません。アクションのプログラムは,専属のスタッフがいまだにチクチクと修正してますよ。ふわっと気持ちよく浮く感じとかを再現するために。
4Gamer:
なるほど。
外山氏:
プレイヤーがイメージした動きを,画面の中のキャラクターが再現してくれる。物理的には嘘があっても,それが気持ちのいい嘘なら,プレイヤーも気持ちよく騙されてくれるんじゃないですかね。
4Gamer:
上手い嘘のつき方って,ゲームの表現においてはかなり重要ですよね。
外山氏:
そうですね。マリオのジャンプも,空中で軌道を変えられるのはおかしいけれど,プレイヤーとしては気持ちいいですし。
4Gamer:
でもその辺って,ゲームを作るうえで,どういう具合に仕様書に落とし込むんでしょうか。ちょっと気になってしまったんですけれども。
外山氏:
GRAVITY DAZEは新チームで作っていることもあって,最初は事細かな仕様書を用意していたんですけど,途中プログラマーのほうから「もっとレスポンスよくやろう」と提案がありました。プランナーサイドも,いちいち仕様書に落とし込むよりは,そっちのほうが手っ取り早いということで,作って触って意見交換……というイテレーションで作業を進めるようになりました。
4Gamer:
外山さんの感覚が伝わっていないと感じた場合,たとえばどういう説明をプログラマーにするんですか?
外山氏:
「こうしてください」っていうのは不毛なことがあるので,「私は今回のバージョンのプレイで,こういう気持ちになりました」というのを,できるだけ率直に書くようにしています。具体的にどうすれば解決されるかは,いろんなアプローチがあるじゃないですか。ただ,最終的には一緒に考えることになりますね。
4Gamer:
なるほど。海外の開発者だと,物理演算は現実に近ければ近いほどいいみたいなところがありますよね。「この落ち方は気持ち悪いから,もっとふわっと」みたいな考え方って,やっぱり日本特有のものなんでしょうか。私達自身,海外のクリエイターにインタビューする機会も多いので,以前から気になっていたんですよね。
外山氏:
どうなんでしょう,僕はあまり海外のクリエイターと接点がないので,いまいちピンとこないんですが。
4Gamer:
例えば,海外のデベロッパがこのGRAVITY DAZEを作ったとしたら,「気持ちいい浮遊感」を追求するのではなく,「リアルな無重力状態の浮遊感を楽しんでください」というゲームになるんじゃないかと思います。落下中に軌道を変えたりもできず,素直にストンと落ちるような感じというか。
ああ,分かりますね,それ。海外のマーケ担当と話していても,「この世界は未来なのか。どこの星なのか」みたいなことを言われます。こちらとしては,「えっ,ガチガチに設定しないといけないの?」という(笑)。物理演算を見ていても,確かにそういうところがありますね。
日本の場合は,アニメや漫画の表現が共通認識としてあるから,それで「ふわっとした感じ」とか「気合で軌道を変える」といったことが,理解しやすいのかもしれないですね。
4Gamer:
それをプログラマーに伝えると,「はいはい,もうちょっとふわっとね」みたいな(笑)。ゲーム表現における嘘,みたいな話だと,格闘ゲームでも似たような話を聞きますね。格闘家のモーションをそのままキャプチャーしても格好悪いから,せっかくの正しいモーションをあえて編集して,格好良く見せるための嘘を混ぜ込むという。
外山氏:
そう考えると,確かに日本と海外では考え方が違うんでしょうねぇ。GRAVITY DAZEは嘘つきまくりですから(笑)。
4Gamer:
ちょっと話が脱線してしまいましたが,先ほどちらっと出たので世界観周りの話を聞かせてください。GRAVITY DAZEは,フレンチコミック風のタッチが非常に印象的ですが,この方向性は最初から決めていたんですか?
外山氏:
こういった雰囲気のゲームってあまり見ないですよね。企画を長年温めている間も,コレだっていうゲームが出てこなかったので,じゃあこの方向で作ろうと。最近になって「El Shaddai」が出てきたので,竹安さん(El Shaddaiでディレクター&キャラクターデザインを務めた竹安佐和記氏のこと)も同じような作品群から影響を受けているのかなと思って聞いてみたんですが,「フレンチコミックは見たことがない」って言っていて,逆にびっくりしました。
4Gamer:
そういえば,以前インタビュー(関連記事)で,影響を受けた作品をお聞きしたときも,とくにそっち系の作家の名前は出てこなかったですね。それであの世界観が生み出せるというのもすごい……。
ちなみに,主人公を女の子にしようと思った理由はありますか?
それは構想段階から思い描いていました。格好良く重力を操るスーパーヒーローものではなく,重力に翻弄され,じたばたもがく主人公を考えていたので,おっさんだと見苦しくて(笑)。
それと,失敗をコミカルに見せたいという考えもありました。プレイの失敗で格好悪くなってしまうと遊んでいて気分悪いので,かわいくコミカルに見えるように,男の子ではなく女の子になりました。
4Gamer:
最初から,敵との戦闘要素があるアクションゲームを想定していたんですか?
外山氏:
そうですね。ゲーム性の部分で影響を受けているのは,「ライオットアクト」というゲームです。とんでもないジャンプ力でビルを飛び越したりできるゲームなんですが,とにかく爽快感があって,衝撃的でした。絵柄もコミック調だったりして,「こういうやり方があるのか……」と感心させられました。
4Gamer:
まさかライオットアクトの名前が飛び出すとは……。意外なタイトルでした。
外山氏:
GRAVITY DAZEに限らなければ,「アウターワールド」の独特な世界観や,グラフィカルなレイアウトにもずっと影響を受けています。「SILENT HILL」を作っていた頃は,体力ゲージを表示しないところや,説明不足な世界観を構築するところなんかに,影響を受けていますね。
重力操作が生む新しいプレイフィールと
安心して楽しめるオーソドックスなゲーム性
4Gamer:
GRAVITY DAZEの企画の立ち上がりは,SIREN:NTの終了直後ということなので,大体2007年末くらいのことになりますよね。当初はPlayStation 3で試作していたそうですが,そのバージョンは,現在のデモバージョンと比べるとまったくの別物ですか?
重力操作のコアは固まっていたのですが,遊びの方向性の部分ではまったくの別物ですね。独特の浮遊感や没入感を追求する以前に,もっとパズル性を重視したゲームを考えていました。能力の低い序盤は,目的地は目の前にあるけどすぐにはたどり着けない。マップの仕掛けをといて重力方向を変化させたらクリア。後半,重力操作能力がアップしてようやく開放感を味わえる……みたいな感じでした。
PS Vitaでも開発初期は,その方向性で進むことを考えていたんですけど,開発メンバーの意見を聞くと,理詰めの謎解きよりも,感覚的な浮遊感やスピード感みたいな部分に評価が集まって,結果的に“気持ちよさ”に振り切る形で開発を進めることになりました。
4Gamer:
すべてのオブジェクトに当たり判定がある(足場になる)ということで,マップの密度は相当濃いように思えるんですけど,広さについてはいかがですか?
五十峯氏:
純粋な面積でいうと,それほどでもないかもしれませんが,やはりどこでも立てるということで,表面積がとにかく広いですね。
外山氏:
ゲームの性質上,広さだけでなく縦の厚みがある世界なので,“デカい”という表現が適切かもしれません。
五十峯氏:
確かにデカいですね。重力をコントロールして飛んでしまえば近く感じるところでも,徒歩でマップを一周するとなると,相当な時間がかかりそうです。
外山氏:
マップはただデカいだけではなくて,わりとアチコチにパワーアップアイテムが隠されていたり,謎の人物が隠れていたりと,冒険する楽しさを盛り込んだものになっています。
五十峯氏:
そこかしこに隠し部屋が存在するようなワクワク感がありますね。
外山氏:
重力操作という要素は目新しいかもしれませんが,ゲームの流れの中で,比較的オーソドックスな楽しみが味わえるように設計しています。
4Gamer:
ゲームの面白さについて語るとき,“ゲームバランス”という言葉が頻出しますが,個人的にはゲームバランスをあまり重視してないんですよね。例えば格闘ゲームだって,キャラ性能の差は明らかにありますけど,根源的な面白さで言うと,技を出したときの打撃感や爽快感みたいな部分が非常に大きいと思うんです。
GRAVITY DAZEのゲームバランスについては,プレイ時間が足りないので今は何とも言えませんが,一つ確かなのは,あちこち飛んだり歩いたりしているだけでも面白いというですね。外山さんが,冒険する楽しさについて言及してくれたことで,個人的には期待感が高まりました。
ちなみに,マップの構成はエリア制ではなく,いわゆるオープンワールドタイプなんですか?
外山氏:
構造的にはそうですけど,すべてのマップを最初から解放してしまうと,プレイヤーも戸惑ってしまうと思うので,ストーリー進行にともなって動ける範囲が徐々に広がるようにしています。ゲーム中盤以降は,ほぼオープンワールドで,世界中を自由に冒険できますよ。
4Gamer:
PS Vitaはマルチプレイに適した携帯ゲーム機だと思いますが,本作にマルチプレイモードは搭載されているんですか?
外山氏:
いわゆるマルチプレイはないです。しかし,例えばゲーム内のストーリーとは別のチャレンジミッションなどを用意して,成績をフレンドと競い合うといったことを計画しています。
4Gamer:
逆にマルチプレイが存在しても,移動が自由すぎてゲームになりませんかね(笑)。
外山氏:
それもありますし,今回はまずシングルモードをしっかりと作り込まないといけないので。
4Gamer:
ちなみに,いわゆるダウンロードコンテンツの配信予定はありますか?
外山氏:
はい,詳細は未定ですが,シナリオやコスチュームなどを配信する予定です。
4Gamer:
ところでGRAVITY DAZEは,どらくらいの規模の開発チームで制作しているんですか?
ピーク時に70人程度という体制で開発していました。ハードの基礎研究なども行っていた序盤は15人程度,その後は30人程度に絞って開発をしていたんですが,2010年の冬頃に,ピーク時の体制までガッと引き上げて,イベントの量産を始めた感じですね。
4Gamer:
ここ最近,小さなバジェットで手早く開発し,手堅く回収するタイプのプロジェクトが増えてきていますが,そういった業界の流れの速さについて,思うところはありますか?
外山氏:
手応えのあるゲームらしいタイトルを作るとなると,数年の開発期間はしょうがないかなぁと思います。かかるものはかかっちゃいますし(笑)。
4Gamer:
ゲーマー的な見地からいうと,本格的なゲームにはしっかりと時間をかけて作ってもらいたいし,そういうゲームを楽しみたいという気持ちはありますよね。開発期間が一年以上かかるようなゲームは今後一切なくなります。みたいな時代には,一ゲーマーとしてなってほしくない。
外山氏:
時代の流れと共に,ゲームのあり方が少しずつ変わってきているのは仕方ないところもあると思います。でも,そんな中でも,システムとかグラフィックスとか,そういった作りこんだ面を評価してくれるゲーマーさんもまだまだいますからね。
ただ,先ほども言ったように,PS Vitaの登場によって,時代の流れに乗りつつも,本格的なゲームをユーザーに届ける導線ができると思います。ゲームのあり方や売り方に関しては,自由度が増してきているので,今後が楽しみです。
E3バージョンからさらにパワーアップ
より完成形に近づいたTGS 2011バージョンに期待大
4Gamer:
あれこれとお話しをうかがってきましたが,独特の浮遊感からくる不思議な魅力については,言葉で説明するのが本当に難しいですねぇ。
五十峯氏:
そこが問題なんですよね。少しでも本作の魅力を理解してもらうために,体験会なども多めに開催したいとは思っているんですが,なにぶんPS Vita発売前なので,試遊機の数を揃えるのも難しいわけで。
外山氏:
そういう意味では,TGS 2011は絶好の機会になりますね。
4Gamer:
そういえば,先日Twitterで,E3 2011でのフィードバックを得て,ゲームを相当チューニングしたとつぶやかれていましたが。
外山氏:
はい。E3バージョンには,本当にチュートリアル的なところしか入れていないんですが,それでもたくさんのご意見をいただきました。具体的にはバトルのテンポアップですね。E3バージョンとはまったくの別物といえるゲームになっていますよ。
4Gamer:
それは楽しみですね。E3バージョンの,ふわふわした感じのバトルも個人的に楽しめましたが,さらに良くなっていますか。
外山氏:
とにかく展開がスピーディになっているので,プレイしていてほとんどストレスを感じないんじゃないでしょうか。そのほか,処理負荷の軽減やキャラクターの挙動周りの調整なども行っています。フレームレートもE3バージョンより安定しています。
そのほかにも,若干淡泊だったNPCが,プレイヤーキャラクターを避けたりといったリアクションをとるようになったり,破壊できるオブジェクトが大幅に増えたり……。
4Gamer:
ずいぶんとパワーアップしていますね(笑)。TGS 2011で実際に試遊できる日を楽しみにしております。
それでは最後に,GRAVITY DAZEに注目している読者に向けて,メッセージをお願いします。
外山氏:
E3 2011で実際にプレイしてくれた人達の意見を取り入れて,GRAVITY DAZEはどんどんブラッシュアップされています。皆さんが実際にプレイできるのは,TGS 2011ということになりますが,「もっとこうだったらいいのに」「こうしてほしい」という意見には,絶対に目を通しますので,ぜひ遊んでいただいてご意見をいただければと思います。GRAVITY DAZEにご期待ください。
五十峯氏:
“重力操作”ができるゲームはそれなりに存在しますが,3Dアクションジャンルでは,個人的にあまり遊んだことがありませんでした。いつかそんなゲームで遊んでみたいなとずっと思っていたんですが,GRAVITY DAZEは3Dでの重力操作がしっかりと体現できています。過去一度でも,そういうゲームで遊んでみたいと考えたことがある人は,ぜひ楽しみにしていてください。きっと満足していただけると思います。
それと,本作は3D酔いしにくくなっていますので,その点はご安心を。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」公式サイト
インタビューでも語られているように,GRAVITY DAZEはE3 2011(およびメディア向けの内覧会)に出展され,世界中のメディアから好評を博した。かつて,ゲーマーを恐怖のどん底へ叩き込んだ外山氏が,PS Vitaという最新ハードの力を得て,今度は“重力的眩暈”でプレイヤーの心を震わせてくれるのだ。
フレンチコミック調のグラフィックスと,何とも言えない独特の浮遊感が魅力的なGRAVITY DAZEは,E3バージョンから大幅にブラッシュアップされ,9月15〜18日(一般公開日は17/18日)に開催されるTGS 2011に出展される予定だ。世界中のメディアから好評を博したゲーム内容と,各国のクリエイターの意見を反映して作られたPS Vitaの実力を,ぜひ自分の手で確かめてもらいたい。
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GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動
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