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[GDC 2012]日本のアニメのようで,さらにアメコミのヒーローのようで,エキゾチックであり,ニンジャのようでもある国籍不明のキャラクターを――山口氏が語る「GRAVITY DAZE」のアートデザイン
GDC 2012の最終日となる3月9日,そんな同作のアートディレクターを務めた山口由晃氏が,「Bringing the Visuals of Gravity Rush to PlayStation Vita」というセッションを行った。その内容は,「GRAVITY DAZE」のアートデザインがどのように作られていったかについてだ。
ちなみに山口氏は,ソニー・コンピュータエンタテインメントに所属するクリエイターで,「GRAVITY DAZE」の制作には上記のとおりアートディレクターとして参加。本作のアートデザイン/グラフィックス周りを一手に受け持った人物である。
講演は,作品の簡単な紹介からスタートした。
海外ではまだ発売されていない「GRAVITY DAZE」だが,先行発売された日本での反響や,徐々に掲載されはじめた海外メディアのレビュー記事について触れ,「想像を超える反響をいただいて,我々開発陣も驚いている。とくに日本のプレイヤーからの反響には,最近,低迷していると思われている日本のゲームに対する叱咤激励といったニュアンスも含まれていると感じた」と報告。
続いて本作のデザインコンセプトについて話を移し,「企画の段階で,重力とバンドデシネというコンセプトは出ており,開発はそこからスタートしました」と語りはじめた。
実際,山口氏もそうした部分を懸念していたようで,日本,そして全世界的に受け入れてもらうために,バンドデシネと日本のアニメのエッセンスを融合させる方向へと話が進んでいったのだという。
山口氏は,「リアルさと記号性を併せ持つバンドデシネの魅力的な世界観に,アニメ表現を掛け合わせることで,日本だけではなく,世界でも受け入れられるキャラクター性を構築できるのではないか。ゲームグラフィックスにおける新しい価値を模索する狙いがありました」と説明し,その意図を補足する。
さらに「そもそも本作は,ゲームグラフィックスの分類でいうとセルシェーディングに該当する作品です。昨今のゲームグラフィックスの潮流は,フォトリアリスティックやセルシェーディングなどといった手法に傾いていますが,バンドデシネは,ちょうどその中間に当たる表現だと感じました」と山口氏。
山口氏が言うには,“リアルな絵”と“リアルに感じる絵”は異なっており,例えば,目が大きい,手が大きいなどといったアニメの誇張された表現で人間が違和感を感じないのは,それが“リアルに感じる絵”になっているからだという。そして,ゲームに適している表現は何かと考えたとき,山口氏は後者のほうだと思ったそうだ。
「状態を誇張することで,本物よりもリアルに感じる。これは,絵にさらに“感覚的にリアル”と感じる要素を入れることで,よりリアルな情報となるということです。“忠実に再現された絵よりも感覚的にリアルに感じる絵”という考え方は,インタラクション要素を持つゲームとの相性が良いのではないかと思いました」
絵だけ突き詰めても人は感動しない
また本作のデザインを考えていくうえで,山口氏は「CGとの親和性」をかなり意識したようだ。昨今はゲーム機のスペックが上がり,ゲームのグラフィックス環境も自由にできる幅が大きくなってきているわけだが,山口氏は「とはいえ,なんでもかんでもできるというわけではありません。やりたいことを盛り込むというのは,常に何かとのトレードオフになるわけです」と説明する。
ちなみに「GRAVITY DAZE」には,以下のようなコンセプトがあり,これらをのバランスをどう取っていくかで,かなり苦労していたという。
- 絵画的特徴を持ち,知覚的にリアルにする
- 物量感や圧倒感はほしい
- オープンワールド
- 日本と海外でも通用するデザインワーク
山口氏は,「すごい絵が作れても,オープンワールドの世界を実現できなければ意味がない。おもしろい絵が作れても,物量感や圧倒感がなければインパクトに欠ける。そんななかでさまざまな決定を,最終的なイメージに向かって取捨選択していきました」という。
さらに氏は,アートディレクターという肩書きでありながらも「絵だけを求めても人は感動しないのではないか」と考え,ゲームデザインをはじめとして,ゲームのあらゆる部分に口を出していったらしい。
ゲームデザインを生かし,キャラクターを生かし,それでいてインパクトもある。一見矛盾するような各要素を組み合わせ,あるいは分解し,チーム内でかなりの試行錯誤を重ねたようだ。
「絵だけを求めても人は感動しません。細い糸をたぐるようにして,いろいろなもののバランスを取って,すべてが繋がっているようなものを見つけることで,最終的に人を感動させるようなものを作れるのではないか」
分かるようで分からない絶妙な指示
キャラクターデザインのコンセプト自体は,「忍者」「強い女性」などといったものがあったそうだが,ここも,キャラクターデザイナーとディレクターの外山圭一郎氏を交えて,徹底的に打ち合わせを重ねた部分だという。
ちなみに,本講演からは少し話が離れるのだが,本作のアートブック(限定版に付いてくるオマケ)に書いてある外山氏からの指示もとても興味深いので,あわせて紹介してみたい。曰く
「日本のアニメのようで,さらにアメコミのヒーローのようで,エキゾチックであり,ニンジャのようでもある。それでいて国籍も不明なキャラクター」
とのことで,なんだか分かるようで分からない絶妙な指示が面白い,と思うのは筆者だけではないはずだ。そして,これに見事応えたデザイナー陣の頑張りも大したものである。
“生きた背景”を目指せ
重力を操作して自由に飛び回り,マップのあらゆる場所に行くことができる「GRAVITY DAZE」だが,あの独特の感覚を生み出される仕組みはどこにあるのだろうか。
つまり,オープンワールドでありながらも実在感が感じられるレベルデザインや,あらゆるものに干渉できるというインタラクション性を確保するためには,ゲームの背景を単なる絵として捉えさせるのではなく,“そこに場所が存在する”という感覚(実在感)を持たせる必要があったというのだ。
「ゲームのアートを単なる絵として捉えるのではなく,実在するという感覚をアートに盛り込んでいく考え方です。よって,ゲームの背景をプレイヤーに絵として認識させるのではなくて,あくまで“実在する世界”と感じさせなければなりません」
「背景を実在するものとして感じさせるには,プレイヤーにたくさんの情報を与える必要があります。そもそも人間は,背景の情報量が足りないと,だんだん簡略化して見るという傾向があります。そして背景を“単なる絵”と判断した瞬間に,完全に認識から外れてしまいます」
「ですから,背景と感覚的リアルをリンクさせることで,プレイヤーは,はじめてゲームの世界に没入できるのではないかと考えたのです」
「これは,アートを単に“絵を付ける仕事”とするのではなく,人間の感受性までをもフォローしていこうという考え方です。そして,これらを実現するためにはゲームデザイナー側との密なコミュケーションが欠かせませんでした」
「ゲームの特徴は世界に干渉できること。あくまでインタラクション性です」という山口氏。そう考えるからこそ,アートディレクターでありながら,ゲームデザインの議論にも積極的に参加し,“生きている背景”の構築に心血を注いだのだろう。
ゲームデザイナーやプログラマーと連携し,アートデザインを“感じさせる”ところまで持っていく。そうしたこだわりがあったからこそ,「GRAVITY DAZE」のあの没入感が生み出されたのかもしれない。
講演の最後に,山口氏は「今回集まった開発スタッフのチームワークにとても感謝しています。全員が引くことなく提案も出来る,前向きで建設的な議論の現場を作れたことが,このゲームの魅力を存分に引き出せたんだと思います」とコメント。さらに「自由な制作の場を与えてくれた,ディレクターの外山氏やマネジメントをしてくれた方々にも感謝したいと思います」として,今回のセッションを締めくくった。
これは以前のインタビューでも感じたことではあるが,「GRAVITY DAZE」の魅力は,重力操作という分かりやすい特徴だけによるものではなく,それを生かすための細かい工夫の数々の中にこそあると筆者は感じている。
そして,それを実現するためには,それぞれの担当者が自律的に行動し,取り組む環境がもっとも大事だった――今回の取材を通じて,あらためてそれを実感させられた次第だ。
関連記事:「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー
「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」公式サイト
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GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動
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