レビュー
200W級のハイエンドGPU「Tahiti PRO」をチェックする
Radeon HD 7950
(SAPPHIRE HD7950 3G GDDR5 PCI-E HDMI/DVI-I/DUAL MINI DP OC VERSION,Radeon HD 7950リファレンスカード)
Southern Islands(サザンアイランド)世代の最上位ラインナップとなるRadeon HD 7900シリーズは,「Radeon HD 6970」(以下,HD 6970)以上の性能を持つとされ,実際に「Radeon HD 7970」(以下,HD 7970)は2012年1月時点のシングルの世界最速GPUとして君臨しているわけだが,「Tahiti PRO」という開発コードネームでも知られるHD 7950はどう位置づけられるべきだろうか。
今回4Gamerでは,Sapphire Technologyの販売代理店であるアスクの協力により,HD 7950を搭載する「SAPPHIRE HD7950 3G GDDR5 PCI-E HDMI/DVI-I/DUAL MINI DP OC VERSION」(以下,SAPPHIRE HD7950)を入手できた。また,AMDの日本法人である日本AMDからHD 7950リファレンスカードの貸し出しも受けられたので,2枚を使って,HD 7950というGPUが持つそのポテンシャルに迫ってみたい。
HD 7970からGCN CUを4基削り
消費電力を200W級に引き下げ
ただ,このスペック情報からも,ある程度のことは判断できる。28nmプロセス技術を用いて製造され,43.1億トランジスタを統合するところまではHD 7970と同じながら,Radeon Core(Stream Processor,以下 SP)の数は1792基と,HD 7970の2048基から256基少ないからである。
もっとも,GCN CUは4基1セットで容量16KBの命令キャッシュと同32KBのデータキャッシュを共有するので,このブロックが1つ削減されたという見方のほうがより正確だろう。
なお,GPUクロックは定格800MHzだが,スライドに「800 MHz and higher」と書かれているので,メーカーレベルのクロックアップや,ユーザーレベルのオーバークロックがある程度想定されていると思われる。
カードレベルの最大消費電力が200Wと,HD 7970の250Wから大きく低下したことからすると,このあたりは200Wの枠内に収めるために調整されたと見るのが適当ではなかろうか。
表1は,そんなHD 7950のスペックを,HD 7970やHD 6970,GTX 580と比較したものになる。
SAPPHIRE HD7950は独自設計基板を採用
リファレンスカードはHD 7970にそっくり
というか,HD 7950リファレンスカードのデザインは,80mm角のファンを搭載したGPUクーラーも含めて,HD 7970のリファレンスカードと瓜二つ。違いは,PCI Express補助電源コネクタの仕様が6ピン×2か8ピン×1+6ピン×1かだけである。
SAPPHIRE HD7950の場合,基板デザインが異なる一方で,カードとしての基本仕様はリファレンスカードを踏襲。外部出力がDual-Link DVI-I×1,Mini DisplayPort×2,HDMI×1になっている点や,デュアルVBIOS仕様で,「Dual BIOS Toggle Switch」と呼ばれるスイッチにより切り替えられるようになっている点,PCI Express補助電源が6ピン×2になっている点で,SAPPHIRE HD 7970とHD 7950リファレンスカードの間に違いはない。
SAPPHIRE HD7950のGPUクーラーは,5本のヒートパイプによって熱を放熱フィンへ運び,95mm角相当のファン2基で冷却するアクティブクーラーユニットと,メモリチップや電源部を覆う金属板による2ピース構成となっており,順番に外していくことで基板へアクセスできるようになっている。
メインの電源部は,見る限り6+1フェーズ。CrossFireXインタフェース部近くにもう2フェーズあるようにも見える。
12枚でGPUパッケージを囲むように配置されるグラフィックスメモリチップはHynix Semiconductor製の「H5GQ2H24MFR-T2C」(5Gbps品)なので,メモリチップの仕様はリファレンスどおりといったいったところか。
なお,SAPPHIRE HD7950は,メーカーレベルのクロックアップが施されているのだが,その動作クロックはコア900MHz,メモリ5000MHz相当(実クロック1250MHz)。メモリのクロックアップがなされていないのは,搭載するチップを考えれば妥当なところだろう。
ツインファンのSAPPHIRE HD7950で
1GHzでのオーバークロック動作を確認
さて,今回のテスト環境は表2のとおりだ。比較対象として用意したGPUは,表1でその名を挙げた製品になる。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション11.2準拠。ハイエンドモデルのテストということで解像度は1920×1080&2560×1600ドットを選択した。ただし,HD 7970のレビューで正常なスコアが得られなかった「Battlefield: Bad Company 2」のテストは省略し,代わりに,2011年11月5日のテストレポートに準拠する形で,「Battlefield 3」(以下,BF3)における「THUNDER RUN」シークエンスのテストを行う。
BF3のテストにあたっては,ゲーム内のグラフィックスオプション設定メニューから「最高」プリセットを選択した状態と,同プリセットをベースに,アンチエイリアシング関連の2項目と異方性フィルタリングの1項目とを無効化し,レギュレーションの「標準設定」に近づけた「カスタム」プリセットを選択している。
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HD 7970とHD 7950のグラフィックスドライバとして用いたのは,AMDから全世界のレビュワーに「HD 7950用ドライバ」として配布された「8.921.2-120119a-132101E-ATI」だが,実はこれ,北米時間1月20日にRadeon HD 7900シリーズ用として公開されたものとバージョンがまったく同じ。つまり,「Catalyst 11.12」ベースというわけだ。
一方のHD 6970では,1月31日時点での公式最新版となる「Catalyst 12.1」を,GTX 580では「GeForce 290.53 Driver Beta」をそれぞれ利用することとした。GTX 580のテスト環境はHD 7970のレビュー時からテスト環境が一切変わっていないため,スコアを流用している。
なお,これはいつもどおりだが,組み合わせるCPUの「Core i7-3960X Extreme Edition/3.3GHz」では,負荷状況に応じたクロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」の効き具合がテストタイミングによって異なる可能性を考慮して,同機能をUEFIから無効化した。
なぜこんなことになっているのか。その大きな理由は,まず,AMDがHD 7950で1GHz超のオーバークロックマージンがあると謳っており,さらに,独自クーラーを搭載するSAPPHIRE HD7950では,デュアルVBIOSの片方に,コアクロック1200MHz,メモリクロック6400MHzまで設定できるものが用意されている点にある。また,テストスケジュールが極めてタイトで,「何をテストするか」選択しなければならなかったというのも大きい。
今回のテストにあたって,HD 7950にかけられる時間は限られている。そこで,まずはリファレンスカードを使ってリファレンスのスコアを取得。独自クーラーを搭載するSAPPHIRE HD7950では,オーバークロック検証を行ったため,結果として両製品を用いることになった,というわけだ。
SAPPHIRE HD7950の定格クロックであるコア900MHz時のスコアは取れなくなるが,これは,「オーバークロックでHD 7970に迫るのかどうか」を知りたい読者のほうが多いだろうと判断したがためとなる。
HD 7970のリファレンスカードを用いたオーバークロックテストでは,コア1100MHz,メモリ6300MHz相当で動作していたので,同じTahitiコアを採用するHD 7950のオーバークロック耐性は,HD 7970の傾向を踏襲しているといえるかもしれない。また,先ほども述べたとおり,今回はコア電圧の変更を行っていないので,そこまで踏み込めば,もう少し高いクロックを設定できる可能性はある。
ともあれ,以下,コア1000MHz,メモリ6300MHz相当で動作するSAPPHIRE HD7950は,本文,グラフ中とも,「HD 7950@1GHz」と表記して区別したい。
※注意
GPUのオーバークロックは,GPUやグラフィックスカードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,グラフィックスカードの“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロックを試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者および4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の個体で得られた動作クロックがすべての個体で有効だと保証するものでもありません。
GTX 580と一進一退の攻防を繰り広げるHD 7950
HD 7950@1GHzはHD 7970にほぼ並ぶ
テスト結果の考察に入ろう。
グラフ1は,「3DMark 11」(Version 1.0.3)の「Performance」と「Extreme」の両プリセットにおけるスコアをまとめたものとなる。SP数がHD 7970比で約88%,コアクロックがHD 7970比で約86%という事実を踏まえるに,HD 7950のスコアがHD 7970の84〜86%に留まっているのは「まったくもって妥当」と言えそうだ。
HD 7950とGTX 580では,前者がやや優勢。HD 7950@1GHzのスコアがHD 7970のそれを若干上回っているのも目を引く。
DirectX 11世代のFPS「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)の公式ベンチマークテストから,最も描画負荷の低い「Day」と逆に最も高い「SunShafts」,両シークエンスのテスト結果を並べたものがグラフ2〜5となる。
まずはグラフ2,3でDayの結果を見てみると,HD 7950は,描画負荷が高くなるにつれて,対GTX 580のスコアが優勢になっていく。HD 7970とのスコア差は11〜18%で,HD 7950@1GHzだとほぼ同じスコアに並ぶあたり,傾向自体は3DMark 11とほぼ同じか。
描画負荷が大きく高まるSunShaftsシークエンスだと,HD 7950は,GTX 580に対して安定的に高いスコアを示すようになった(グラフ4,5)。
一方,同じDirectX 11のタイトルでも,グラフ6,7に示したBF3だと,HD 7950のスコアは伸びきらない。最適化の進んでいるGTX 580のスコアが高く,HD 7970といい勝負に持ち込んでいるのはさておき,HD 7950でHD 6970からの上積みが少ないのは気になるところである。このあたりはドライバの最適化を待つことになりそうだ。
なお,HD 7950@1GHzがHD 7970と同程度のスコアを示すという構図自体はここでも変わっていない。
グラフ8,9はDirectX 9.0c世代のFPS「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)におけるテスト結果となる。
シンプルにシェーダコア数,ひいてはテクスチャユニット性能が反映されやすい本タイトルだと,HD 7950とGTX 580はほぼ互角。描画負荷が高まるとGTX 580がやや優勢か。HD 7970との間にある格の違いは明らかだが,オーバークロックによってギャップは埋められることも,HD 7950@1GHzのスコアからは分かる。
DirectX 10世代の三人称アクション,「Just Cause 2」におけるスコアがグラフ10,11となる。
Just Cause 2では,1920×1080ドットでHD 7950がGTX 580を上回っているのに対して,2560×1600ドットでは立場が逆転しており,一進一退の攻防を演じている印象を受ける。HD 7950@1GHzが,HD 7970を安定して上回っている点にも注目しておきたい。
グラフ12,13はDirectX 11世代となる「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)のテスト結果だ。Civ 5ではHD 7950がGTX 580を安定して上回っており,スコア差は描画負荷が高まるほど広がっていく。HD 7950@1GHzのスコアがHD 7970と肩を並べているのは,3DMark 11などと同じ傾向だ。
性能検証では最後となるのがグラフ14,15の「DiRT 3」。ここだと,HD 7950はGTX 580と互角か,若干劣勢といったところになる。
消費電力はHD 7970から53〜76W低下
SAPPHIRE HD7950のクーラーは優秀
カードの公称最大消費電力はHD 7970から50W低いHD 7950だが,公称値どおりの傾向は見られるのか。いつものように,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を計測した。
計測にあたっては,ディスプレイの電源がオフになったときに待機電力を大幅に低減する「AMD ZeroCore Power Technology」(以下,ZeroCore)が有効になるのを避けるため,ディスプレイの電源が切れないように設定しつつ,OSの起動後,30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点をタイトルごとの実行時として,スコアを取得している。
ちなみに,アイドル時にWindowsのディスプレイ電源をオフにするよう設定してみると,HD 7950は88W,HD 7950@1GHzは89WまでそれぞれZeroCoreによって消費電力が下がった。SAPPHIRE HD7950では,2基のファンがいずれも停止するのも確認済みである。
各アプリケーション実行時だと,HD 7950の消費電力値は274〜294Wで,置き換え対象となるHD 6970から50〜71W,HD 7970から53〜76Wと,大きく下がっているのが分かる。AMDの公称値に誇張はなかったわけだ。GTX 580との違いも歴然といえるだろう。
また,GPUコア電圧を引き上げていないため,ある程度は予想の範疇ながら,HD 7950@1GHzの消費電力がHD 7950からさほど増えていない点もトピックといえそうである。
3DMark 11の30分間連続実行時点を「高負荷時」として,アイドル時ともども,GPU-ZからGPUの温度を取得した結果がグラフ17だ。
テスト時の室温は24℃。テストシステムは,PCケースに組み込まず,いわゆるバラックの状態に置いてあるが,HD 7950のスコアは,GPUクーラーが同等ということもあり,HD 7970に近い傾向を示している。
対するHD 7950@1GHzは,ツインファン仕様のSapphire Technology独自クーラーが功を奏し,高負荷時のGPU温度が60℃と低い。しかも,筆者の主観であることを断ったうえで続けさせてもらうと,動作音もさほど大きくない印象だ。それでいてこのスコアなのだから,SAPPHIRE HD7950が搭載するクーラーは優秀ということになる。
総合的なバランスはGTX 580以上
唯一最大のネックはHD 7970との価格差か
実際,HD 7950はGTX 580とほぼ互角の性能を示し,消費電力も低いため,総合的なバランスで両者を比較すると,HD 7950に軍配が上がる。自己責任でオーバークロックする覚悟を決めれば,HD 7970並みの性能を狙えるのも魅力だ。
そんなHD 7950の魅力を削ぎかねないのが,発売当初の価格設定である。北米市場における搭載グラフィックスカードの価格は449ドルなのに対し,流通筋の情報によれば,国内価格は4万円台後半〜5万円台中盤。現状では,HD 7970の安価なモデルと,価格がカブってしまうのである。真の意味でバランスのよいハイエンドカードとして支持を集めるには,最安値で4万円強くらいにまで実勢価格が下がってくる必要があるだろう。
その意味で,急いで飛びつく必要はあまり感じないが,価格がこなれてくれば面白い存在だとも言える。そのとき,定格でもリファレンスよりコアクロックが100MHz高く,さらに1GHz超えも狙えるSAPPHIRE HD7950は,有力な選択肢の1つになるはずだ。
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