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ドミニオンから振り返るアナログゲームの歴史。連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」,第3回は「東方祀爭録」開発陣へのインタビューを掲載
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印刷2011/08/03 00:00

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ドミニオンから振り返るアナログゲームの歴史。連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」,第3回は「東方祀爭録」開発陣へのインタビューを掲載

画像集#013のサムネイル/ドミニオンから振り返るアナログゲームの歴史。連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」,第3回は「東方祀爭録」開発陣へのインタビューを掲載
 これまで2回にわたり紹介してきた,ホビージャパンのカードゲーム「東方祀爭録 〜東方紅魔郷編〜」。そのゲームシステムが「ドミニオン」というカードゲームのシステムを元にしていることは,これまでにもお伝えしてきたとおりだ。
 「ドミニオン」は2009年にアメリカで発売されて以来,その画期的なゲームシステムで世界中で大ヒットを記録し,ごく狭い市場といわれる日本のボードゲーム市場でも異例の売れ行きとなった名作ゲームである。

 全3回の連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」の締めとなる今回は,この「ドミニオン」から「東方祀爭録」が生まれるに至った経緯について,ホビージャパンの開発陣に聞いてみた。「東方祀爭録」はもちろんのこと,「ドミニオン」が誕生した背景やシリーズの今後の展開,そしてボードゲームの現状まで,さまざまな話題が飛び出したインタビューをお届けしていこう。

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「東方祀爭録 〜東方紅魔郷編〜」公式サイト

「ドミニオン」公式サイト



東方Projectとドミニオンの幸福な出会い


ホビージャパン商品企画課 難波 尊氏(「東方祀爭録」担当)
画像集#008のサムネイル/ドミニオンから振り返るアナログゲームの歴史。連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」,第3回は「東方祀爭録」開発陣へのインタビューを掲載
4Gamer:
 それでは,本作「東方祀爭録」が生まれるに至った経緯からお聞きしていきたいと思います。まず名作カードゲームである「ドミニオン」に,「東方Project」を組み合わせよう,というアイデアはどこから生まれてきたのでしょうか。

ホビージャパン商品企画課 難波 尊氏(以下,難波氏):
 ホビージャパンは,本家「ドミニオン」の日本語版も発売しているのですが,商品企画課で「ドミニオン」にキャラクターコンテンツを載せようという企画が元々あったんです。
 そんな折に私が商品企画課に異動になり,最初に取り組むことになったミッションがこれだったんです。まず載せるコンテンツの案をいくつか考えたのですが,その中の1つに東方Projectがありました。私自身,東方Projectが大好きだったこともあって,ぜひ東方Projectでやりたいと。そこから版権元さんにコンタクトを取りはじめたのが,本作のスタートですね。

ホビージャパンゲーム事業課 会田 孝氏(以下,会田氏):
 商品企画課で元々「ドミニオン」が流行っていて,これをうまく商材として扱えないかという話があったんです。ただ弊社では正規の商品として「ドミニオン」を扱っているので,単なるクローンではなく,ちゃんとロイヤリティを払った上でやりたいと考えました。そこで「ドミニオン」の発売元であるリオ・グランデに話を持って行ったのが,去年の今頃(2010年6月)だったかな。

4Gamer:
 リオ・グランデの反応はいかがでしたか?

会田氏:
 「おもしろいね」って反応でしたよ。さすがに東方Projectは知らなかったですが(笑)。ただ1つだけ条件があって,「本体のゲーム(ドミニオン)と混ぜて遊べないようにしてね」と言われました。そこはやっぱり別物なので。

4Gamer:
 逆に,東方Project側――この場合は開発者のZUN氏だと思いますが,そちら側の反応はいかがでしたか。

「クイーンズブレイド」シリーズ最新刊「神罰の執行者ライラ」 →Amazon
画像集#019のサムネイル/ドミニオンから振り返るアナログゲームの歴史。連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」,第3回は「東方祀爭録」開発陣へのインタビューを掲載
難波氏:
 幸運なことに,ZUNさんご自身が「ドミニオン」をご存じで,かなりお好きだったんですよね。それで企画書をお渡ししたら,「ああ,ドミニオンですか!」という感じで,すごく話が早かったですね。最初はホビージャパンからの打診ということで,「クイーンズブレイド」の企画だと思われていたらしく,どうやって断ろうか考えていたそうですが(笑)。

※「クイーンズブレイド」:ホビージャパンから発売されている対戦型ゲームブックシリーズ。ダメージを受けると服が破れるなど,お色気たっぷりのイラストが特徴。

4Gamer:
 ああ,東方Projectは商業作品でエッチなのは駄目らしいですね(笑)。それで「なんだ,ドミニオンか」と安心されたわけですか。

難波氏:
 はい。ZUNさんご自身が「ドミニオン」を遊ばれていたこともあって,組み合わせること自体には,非常に乗り気でしたね。おかげで助かりました。

4Gamer:
 なるほど。ちなみに本作には「東方紅魔郷編」とサブタイトルが付いていますが,「東方紅魔郷」にキャラクターを絞ったのはなぜですか。

難波氏:
 最初は東方Projectの全キャラクターが登場する形を考えていたんです。でも東方Projectはキャラの数がとにかく多いので,全種類のアクションカードに1人ずつ描くとしても,どうしても25名を選抜しなきゃいけなくて,非常に悩みました。それぞれのキャラにコアなファンがついているので,誰を選ぶかだけでも難しいんですよね。

4Gamer:
 確かにそうですね。

難波氏:
 そこでエキスパンションごとに分ける形にしたんです。元の「ドミニオン」はエキスパンションがかなり出ていますので,本作に関しても,後々エキスパンションは出していきたい。それならワンパッケージですべてを網羅するよりも,1つのタイトルに絞って,その作品の登場キャラクターをフォローしたいなと。第1弾が紅魔郷編で,エキスパンションが増える度に,幻想郷の世界が広がっていく形です。

4Gamer:
 紅魔郷編が最初なのは,やはり原作のWindows版第1弾だからですか?

難波氏:
 そうですね。主要キャラクターがひととおり出てきますし,人気の高いキャラがいっぱいいますので,掴みにもっともふさわしいかなと。


カードゲームの開発って何をするの?


4Gamer:
画像集#022のサムネイル/ドミニオンから振り返るアナログゲームの歴史。連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」,第3回は「東方祀爭録」開発陣へのインタビューを掲載
 では次に,実際の開発作業についてお聞きしたいと思うのですが,4Gamerの読者には,カードゲームの開発っていまいちピンと来ない人もいると思うんですよ。テレビゲームだったら,グラフィッカーがいてプログラマーがいて,とイメージが湧きやすいんですが,カードゲームの場合はどうやるのでしょうか。

難波氏:
 本作の場合は,元にドミニオンがありますので,開発と言うよりはローカライズに近いと思いますが。まず最初は,「東方祀爭録」の第1弾に収録すべきサプライカードの選定からスタートしました。ここについては,今回同席している浅原を中心とした,ゲーム開発課のスタッフに手伝ってもらっています。私自身は「ドミニオン」のゲームバランスに関してはまだまだ素人なので。

4Gamer:
 確かに「ドミニオン」の基本セットと「東方祀爭録」の基本セットでは,選ばれている25種類のサプライに違いがありますね。これはどうしてですか? 例えば「ドミニオン」基本セットに含まれる「礼拝堂」(手札を一気に廃棄できる超圧縮カード)は,「東方祀爭録」には含まれていません。

ホビージャパンゲーム開発課 浅原 晃氏(以下,浅原氏):
 まったく一緒じゃ面白くないので少し変えよう,というのは最初から考えていました。ただ基本セットのカードは,基本セットだけあって,それがないとゲームバランスが成り立たないようなものが多いんです。最終的には基本セットを中心に,今まで出ているエキスパンションの中から何種類かを拾ってくる形に落ち着きました。「礼拝堂」は……まだちょっと早いかな,と。

4Gamer:
 お前達にはまだ早いぞ,と(笑)。

浅原氏:
 「礼拝堂」は容赦なくすべてのカードを廃棄してしまうので,キャラクターゲームに載せるにはちょっと,ね。とくに1点の勝利点カードが「博麗神社」になってるじゃないですか。3ターン目から「神社いらねー」ってどんどん廃棄してしまうっていうのは……。

4Gamer:
 その割に,「博麗神社」は「ミニ八卦炉」でどんどん燃やされてしまいますけど(笑)。

ホビージャパンゲーム開発課 浅原 晃氏(「東方祀爭録」サポート)
画像集#010のサムネイル/ドミニオンから振り返るアナログゲームの歴史。連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」,第3回は「東方祀爭録」開発陣へのインタビューを掲載
浅原氏:
 まあ,結局は燃やしてしまうんですけどね(笑)。ただ,いかにもゴミ的な扱いはしてほしくなくて,せめて「ミニ八卦炉」とかで資源として再利用してほしいと。あと「礼拝堂」は,今後登場するキャラクターに当てはめたいという要望もあって……。

難波氏:
 紅魔郷に出てこないキャラクターがまだまだいっぱいいるので,「礼拝堂」にはもっとふさわしいキャラクターがいると考えたんです。それは僕からの強い要望で,今回はあえて抜いてもらいました。

4Gamer:
 なるほど。後の拡張やゲームバランスの観点からサプライが選ばれているわけですね。ではサプライカードが決まった後は?

難波氏:
 25種類のサプライが決定した後は,東方紅魔郷のキャラクターやスペルカードのイメージを,それぞれのカードに当てはめていく作業になります。

4Gamer:
 「泥棒」には魔理沙がぴったり,とか?

難波氏:
 本家のカードを初めて見たときから「泥棒」が魔理沙というのは決まってましたね(笑)。ただ東方Projectのキャラクターって,受け手の解釈によってキャラクターの性格などにはかなりばらつきがあるんです。それが面白い部分ではあるんですが,公式設定の段階で,顕著な性格付がされていないキャラクターというのは,難しかったです。

4Gamer:
 個人的には,チルノが「宰相」というのがちょっと気になっているんです。チルノはそういう役付けなんですか?

難波氏:
 「宰相」は,山札を全部捨て札にしちゃうっていう効果が……なんていうかチルノっぽくないですか? きちんと構築したデッキを,チルノが「うわー!」ってうっちゃってしまうという。……いやまあ,苦しいところではあるんですけど(笑)

浅原氏:
 苦しいところをつかれましたね(笑)。でもそこは解釈次第というか。

難波氏:
 まず公式設定でキャラクターがかなり固まっているものから優先して割り振っていったので,後から当てはめたカードには,かなり僕の解釈が入っていますね。

画像集#016のサムネイル/ドミニオンから振り返るアナログゲームの歴史。連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」,第3回は「東方祀爭録」開発陣へのインタビューを掲載 画像集#014のサムネイル/ドミニオンから振り返るアナログゲームの歴史。連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」,第3回は「東方祀爭録」開発陣へのインタビューを掲載 画像集#015のサムネイル/ドミニオンから振り返るアナログゲームの歴史。連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」,第3回は「東方祀爭録」開発陣へのインタビューを掲載

4Gamer:
 分かりました(笑)。本作では多くのイラストレーターさんが参加していますが,この選定はどうされたんですか?

難波氏:
 これはもう,完全に僕の趣味です(笑)。このキャラクターを描くならこの作家さんだろう,というのが自分の中にありまして。課の中にほかに東方Projectに詳しい人間がいなかったこともあって,自由にやらせてもらいました。

4Gamer:
 東方Projectって,二次創作によって広がっていった面があるので,その辺りのバランス感覚は大事ですね。コアなファンにとっても納得のいくチョイスというか。

難波氏:
 ほとんど僕の独断専行ですけどね(笑)。でもそのお陰でイメージしていたとおりのものになったと思います。30名近くの作家さんに描き下ろしのイラストをお願いしたので,管理は大変でしたけど。カードのイメージを伝えるために,ギリギリまでやり取りをしていましたね。

4Gamer:
 発売後の反応はいかがでしたか?

難波氏:
 思った以上に好評で……実は発売前はドミニオンファンからの反応が多かったんですよ。それはそれで嬉しかったんですが,本作の場合は,コアなボードゲーマーよりも,キャラクターのファンなどライトな層にアプローチする狙いがありました。だから正直なところ,少し不安だったんです。でも発売してみると,今度はうってかわって東方ファンが反応してくれて。

4Gamer:
 では狙った層にきちんと届いたと。

難波氏:
 そうですね。先日,東方Projectのオンリーイベントである「第八回博麗神社例大祭」で本作の講習会を実施したんですが,想像以上に賑わってくれて,それが一番実感できましたね。開幕から閉幕までずっと人がいるような状態で,参加いただいた方に話を聞いてみると,「ドミニオン」はおろかTCGもプレイしたことがない人がほとんどでした。ただ,商品名はいまだにちゃんと読んでもらえないことが多くて……。

4Gamer:
 「東方祀爭録」って,普通初見では読めませんよね。まあ原作である東方Projectのタイトルもなかなか難読ではありますが……。

難波氏:
 これは紆余曲折ありまして……企画段階では「東方ドミニオン」と呼んでいたんですが,さすがにそのままでは発売できないと。それでタイトルを考えはじめたんですが,これがなかなかいいのが思い浮かばなくて。

箱やカードの規格,タイトル案が書かれた秘密の企画ノート
画像集#012のサムネイル/ドミニオンから振り返るアナログゲームの歴史。連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」,第3回は「東方祀爭録」開発陣へのインタビューを掲載

4Gamer:
 「祀爭録」というのは,どういう意味なんですか?

難波氏:
 祭祀場を争うゲーム,という意味ですね。コンセプトそのままで,ある意味分かりやすい。でも最初は原作のテーマ曲の「少女綺想曲」をもじって,「綺爭録」って名前だったんです。勝利点の6点を争うから「競う6」なんていって(笑)。

4Gamer:
 えっ……ああ,なるほど(笑)。コンセプトというのは本作の設定の部分ですね。「博麗神社」や「霧の湖」「紅魔館」といった土地を,祭祀場として取り合うという。

難波氏:
 はい。「ドミニオン」は,元々プレイヤーが領主となって,領土を広げていくというのが根底にあるゲームです。なので東方Projectの世界観の中に,そのシステムをどう落とし込むか,というのはかなり悩みましたね。最初は霊夢など,東方Projectの主役達をプレイヤーの立ち位置に設定してみたんですけど,あっという間に立ちゆかなくなってしまって。

4Gamer:
 リリースされた製品の設定では,プレイヤーは信仰を失い,幻想郷に流れ着いた神様,という形になっています。

難波氏:
 そうです。やはり霊夢や魔理沙といったキャラクターは,サプライカードの中に含まれてしまうので,ゲームを離れた視点としてあるのはおかしいと。いろいろ考えた結果,プレイヤーは東方Projectのキャラクターの力を借りながら,己のご神徳を高めていくという,今の形に落ち着きました。

4Gamer:
 「ドミニオン」の財宝は信仰に,勝利点が祭祀場に置き換えられていますね。

難波氏:
 そこも悩んだのですが,とくに勝利点については,(「ドミニオン」と同様に)土地の概念を使いたいなというのがありまして。東方Projectには舞台となる世界がたくさんあるので,この形なら幻想郷の世界が広がっていく感覚を味わえるんじゃないかと。



アナログゲームの世界史


4Gamer:
 ではここからは,「東方祀爭録」の元になったゲームである「ドミニオン」について伺っていきたいと思います。ただその前に,カードゲームにあまり馴染みのない読者のために,カードゲームの歴史についてざっくり説明していただきたいです。

ホビージャパンゲーム事業課 会田 孝氏(「ドミニオン」担当)
画像集#009のサムネイル/ドミニオンから振り返るアナログゲームの歴史。連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」,第3回は「東方祀爭録」開発陣へのインタビューを掲載
会田氏:
 まず1993年の「マジック:ザ・ギャザリング」(以下,「Mt:G」)以前と以後,という分け方が分かりやすいと思います。トレーディングカード文化というのは,アメリカではそれ以前の1940年代くらいから根強かったんですが,それをゲームと融合させた「Mt:G」というのは,やはり革新的でした。

4Gamer:
 ここでいうトレーディングカードというとのは,ゲーム要素のない,純粋なコレクションカードということですね。

会田氏:
 ええ,プロ野球カードとか,つまり買った時には何が入っているか分からなくて,知り合いと交換したり,カードショップで高値が付いたりする,コレクション主体のものですね。

4Gamer:
 「Mt:G」以前のカードゲームというのは,どんなものがあったんですか?

会田氏:
 トランプを初め,皆さん良くご存じの「UNO」など,買ったらそれだけで完結するカードゲームというのは昔からありましたね。「Mt:G」以前は,そういうものが主流でした。

4Gamer:
 「Mt:G」の登場によって,その主流が一気に変わってしまったと。

会田氏:
 そうです。「Mt:G」以後は,まさにトレーディングカードゲーム(以下,TCG)が一時代を築いていきました。中でも日本は,今や世界でもトップクラスのTCG生産国になりましたね。「遊戯王」「デュエルマスターズ」などを世界に輸出していますし。

4Gamer:
 「ドミニオン」はいわゆるTCGとは違う,「買ったらそれだけで完結するカードゲーム」ですよね。ということは,ある意味原点回帰した,ということなのでしょうか。

会田氏:
 「ドミニオン」は2009年に,ボードゲームジャンルの中の一商品としてデビューしました。ただゲームデザイナーが元々「Mt:G」のプレイヤーだったこともあって,TCGのシステムを色濃く引き継いでいます。なので単純な原点回帰かというと,そういうわけではないんです。

4Gamer:
 TCGのシステム,というと?

会田氏:
 TCGの遊び方,ですね。TCGは,たくさんのカードプールの中から自分でカードを選び,自分のデッキを構築するというコンセプトのゲームです。「ドミニオン」は,それを1つのセットの中でやってしまう――自分で選択しながらデッキを作っていく過程をゲームにしたんです。

4Gamer:
 なるほど,それは確かにTCG的です。ということは,発売当初はTCGプレイヤーを中心に受け入れられた形ですか。

会田氏:
 広がり方を見ていると,日本に関してはその傾向はあると思います。あとは,繰り返しやりたくなるという中毒性ですかね。方向性としては,ヨーロッパのボードゲームとはちょっと違うと思うので……。

浅原氏:
 ヨーロッパのボードゲームって,1ゲーム2時間くらいかけてがっつりやる感じのものが多いんですよ。でも「ドミニオン」は30分くらいで軽く,何度もプレイできますから。

「アグリコラ」 →HJOSAmazon
画像集#020のサムネイル/ドミニオンから振り返るアナログゲームの歴史。連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」,第3回は「東方祀爭録」開発陣へのインタビューを掲載
会田氏:
 1回で終わらず続けて何度もプレイできるので,ハマりやすい。たとえば「アグリコラ」とかも面白いボードゲームですけど,1プレイに何時間もかかるので,1日2回やろうとは思わない。「ドミニオン」のプレイフィールの軽さは,日本市場で例外的に受けいれられた理由の1つだと思います。

※「アグリコラ」:「ドミニオン」同様,ドイツゲーム大賞を受賞している農場運営ボードゲーム。ボードゲーム界での人気は高いが,プレイにかかる時間がプレイヤー数×30分以上と長い。

4Gamer:
 海外ではどういった受け止められ方だったんですか?

会田氏:
 海外ではボードゲームのプレイヤーと,TCGのプレイヤーは被っている部分があるので,両方ですね。とくにヨーロッパはボードゲームの市場が大きいですから。日本の市場は世界的に見るとちょっと変わっていて,この2つの層があまりリンクしていないんですよ。アメリカにもその傾向はあるんですが,日本はより顕著です。

4Gamer:
 世界的な大ヒット,と言って過言ではないんですよね。

会田氏:
 そうです。2009年に「ドイツゲーム大賞」という世界で一番権威のある賞をとったのが大きかったですね。しかもカードゲームでの受賞はドミニオンが初で,大きな話題になりました。

4Gamer:
 ドイツはすごくボードゲームが盛んだと聞いています。

浅原氏:
 歴史もありますし,いわゆるボードゲームのことを「ドイツゲーム」と称することもあるほどです。

会田氏:
 ドイツでは,賞をとったゲームは本屋やスーパーに並ぶようになって,一気に流通が30倍になるといわれます。先日リオ・グランデの社長とお会いした時に聞いた話では,今では15〜16か国語に翻訳され,拡張版を含めて全世界トータルで100万セットを超える出荷があるそうです。ボードゲーム市場的には,一番とはいわないまでも歴史に残るヒット作になっていて,日本国内でもボードゲームとしては破格の数字が出ています。


[コラム]ドイツボードゲーム大賞


 2009年にアメリカで発売され,世界的な権威を持つ3つのアナログゲゲーム大賞をトリプル受賞した記録を持つ「ドミニオン」。その受賞歴は以下の通り。

  • ドイツゲーム賞2009(Deutsche Spiele Preis 2009) 大賞
  • ドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres 2009)大賞
  • アラカルト・カードゲーム賞(Fairplay:A la carte Preis 2009)1位

 この3つの賞は,いずれも毎年ドイツで開かれていて,アナログゲームの世界ではかなり重要度が高いものとして知られている。本文中にも登場したように,ドイツはボードゲームの長い歴史と広い土壌を持つ,アナログゲーム大国なのだ。
 また「ドミニオン」はこのほかにも,世界各地のゲーム賞を総なめにしている。以下はその一例。

  • ダイアナ・ジョーンズ賞2009(Diana Jones Award)受賞
  • J.U.G賞(JogoEu User's Game/ポルトガル)受賞
  • オーストリアゲーム賞2009(Spiel der Spiele)フレンドゲーム部門賞
  • 第35回オリジンズ・ゲームフェア(Origins Game Fair)年間最優秀カードゲーム賞
  • ミープルチョイス賞(Meeples' Choice Award)大賞
  • メンサ・セレクト(the Mensa Select winners for 2009)選出

日本では,ファン投票によって決まる「日本ボードゲーム大賞」を受賞している。



世界三大ゲーム大賞 過去受賞作リスト


●ドイツゲーム賞
2010年 フレスコ(Fresko)
2009年 ドミニオン(Dominion)
2008年 アグリコラ(Agricola)
2007年 大聖堂(Die Säulen der Erde)
2006年 ケイラス(Caylus)
2005年 ルイ14世(Louis XIV)
2004年 サンクトペテルブルク(Sankt Petersburg)
2003年 アメン・ラー(Amun-Re)
2002年 プエルトリコ(Puerto Rico)
2001年 カルカソンヌ(Carcassonne)
2000年 タージマハル(Tadsch Mahal)
1999年 ティカル(Tikal)
1998年 チグリス・ユーフラテス(Euphrat & Tigris)
1997年 レーベンヘルツ(Löwenherz)
1996年 エルグランデ(El Grande)
1995年 カタンの開拓者たち(Siedler von Catan)
1994年 6ニムト!(6 Nimmt!)
1993年 モダンアート(Modern Art)
1992年 さまよえるオランダ人(Der Fliegende Hollander)
1991年 マスターラビリンス(Das Labyrinth der Meister)
1990年 貴族の務め(Adel verpflichtet)

「ディクシット」→HJOSAmazon
画像集#021のサムネイル/ドミニオンから振り返るアナログゲームの歴史。連載「徹底解説:ドミニオンのひみつ」,第3回は「東方祀爭録」開発陣へのインタビューを掲載
●ドイツ年間ゲーム大賞
2010年 ディクシット(DiXit)
2009年 ドミニオン(Dominion)
2008年 ケルト(Keltis)
2007年 ズーロレット(Zooloretto)
2006年 郵便馬車(Thurn und Taxis)
2005年 ナイアガラ(Niagara)
2004年 乗車券(Ticket to Ride)
2003年 アルハンブラ(Alhambra)
2002年 ヴィラ・パレッティ(Villa Paletti)
2001年 カルカソンヌ(Carcassonne)
2000年 トーレス(Torress)
1999年 ティカル(Tikal)
1998年 エルフェンランド(Elfenland)
1997年 ミシシッピクイーン(Mississippi Queen)
1996年 エルグランデ(El Grande)
1995年 カタンの開拓者たち(Siedler von Catan)
1994年 マンハッタン(Manhattan)
1993年 ブラフ(Bluff)
1992年 ホーマスツアー(Um Reifenbreite)
1991年 ドルンター&ドルーバー(Drunter & Druber)
1990年 貴族の務め(Adel verpflichtet)
1989年 カフェインターナショナル(Cafe International)
1988年 バルバロッサ(Barbarossa)
1987年 アウフアクセ(Auf Achse)
1986年 アンダーカバー(Heimlich & Co.)
1985年 シャーロック・ホームズの犯罪事件簿(Sherlock Holmes)
1984年 ダンプフロス(Dampfross)
1983年 スコットランドヤード(Scotland Yard)
1982年 ザーガランド(Sagaland)
1981年 フォーカス(Focus)
1980年 ラミーキューブ(Rummikub)
1979年 ウサギとハリネズミ(Hase und Igel)

●アラカルト・カードゲーム賞
2010年 ジャイプル(Jaipur)
2009年 ドミニオン(Dominion)
2008年 レース・フォー・ギャラクシー(Race for the Galaxy)
2007年 ケイラス・マグナカルタ(Caylus Magna Carta)
2006年 がめついブクステフーデ(Ausgerechnet Buxtehude)
2005年 ジャンボ(Jambo)
2004年 サンファン(San Juan)
2003年 コロレット(Coloretto)
2002年 ケープからカイロへ(Vom Kap bis Kairo)
2001年 ミューテラー(Meuterer)
2000年 あやつり人形(Ohne Furcht und Adel)
1999年 フェレータ(Verräter)
1998年 カエサルとクレオパトラ(Caesar & Cleopatra)
1997年 ボーナンザ(Bohnanza)
1996年 ミュー&モア(Mü & More)
1995年 マジック:ザ・ギャザリング(Magic: The Gathering)
1994年 6ニムト(6 Nimmt)
1993年 スティッヒルン(Sticheln)
1992年 Pirat
1991年 レス・パブリカ(Res Publica)


  • 関連タイトル:

    東方祀爭録 〜東方紅魔郷編〜

  • 関連タイトル:

    ドミニオン

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