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[GDC 2013]新しいものを生み出すのは「違和感」から。「善人シボウデス」の打越鋼太郎氏がビジュアルノベルを語る
打越氏が考えるビジュアルノベルの定義や,作話術までが紹介された興味深い内容をじっくり確認してほしい。
セッションに登壇した打越氏はまず,前夜に行われた「Game Developers Choice Awards」(以下,GDC Award)の結果に触れた。打越氏の手がけた「極限脱出ADV 善人シボウデス(Virtue's Last Reward)」(ニンテンドー3DS / PlayStation Vita)が「Best Narrative」にノミネートされていたのだが,残念ながら受賞を逃している(「The Walking Dead」が受賞 / 関連記事)。
打越氏は「おかしいなぁ」と首をひねって会場の笑いを誘いながらも,「The Walking Deadなら賞にふさわしい。悔いはない」と受賞作を称えた。
実際のところ,打越氏が今回のGDC Awardで注目していたのは,Game of the Yearを含む6冠に輝いた「風ノ旅ビト(Journey)」と,「Best Handheld/Mobile Game」を受賞した「The Room」,そしてThe Walking Deadだったとのこと。
氏はこの3作がいずれもアドベンチャーゲームであることに触れて,「アドベンチャーゲームの勢いを再認識した」と語った。
そんな前置きがあって,いよいよセッション本編へ。打越氏は「ビジュアルノベルの定義」について話し始めた。ビジュアルノベルはアドベンチャーゲームの一種だが,実は明確な定義がないジャンルだという。
打越氏は「スーパーマリオにだって物語はあるぞ。ないのはテトリスぐらいじゃないの?」と自分に突っ込みを入れてから,「ビジュアルノベルの本質は,物語性の比重の高さにある」と言い換えた。
ややこしい問題に解答が出たところで,打越氏は突然「ところで皆さん,アメリカンフットボールや野球はスポーツだと思いますか?」と畑違いの質問を投げかけ,「ほとんどの皆さんはスポーツだと思うでしょう。ではダーツは? ビリヤードは? 釣りは?」と続けた。
戸惑う会場に向かって,打越氏は「私はすべてスポーツだと思います。なぜなら運動神経を必要とするから。でも,スポーツと思わない人もいるようですね」と語り,「これと同じことがビジュアルノベルに対してもあるんです。『ビジュアルノベルはゲームではない』という主張です」と,質問の意図を明らかにした。
もちろん打越氏は「ビジュアルノベルはゲーム」と断言し,それを証明するために「ゲーム」の定義を説明した。
その定義とは「選択性があるもの」,細かく言うと「誰かの意思による選択が,あるルールにのっとって展開される事象に対して,影響を及ぼすもの」になるのだという。
チェスも「プレイヤーがルールにのっとって駒をどのように動かすかを選択することで,盤面の状況が変わる」からゲームというわけだ。
「そうなると,人生もゲームかもしれませんね」と話す打越氏が次に紹介したのが,日本のビジュアルノベルの独自性だ。
ゲームの選択性が,選択肢という一般的な方法でなく「携帯メールを送るか送らないか」で提供される「STEINS;GATE」,アクションとビジュアルノベルを融合させた「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」といった作品が挙げられたあと,打越氏が「日本に多彩なビジュアルノベルが生まれるきっかけになった作品」として紹介したのが「かまいたちの夜」だ。
かまいたちの夜は1994年に発売されたスーパーファミコン用ソフトだが,この作品には「フラグをほとんど使っていない」という特徴があるのだという。
“フラグ”の意味が分からない人のために,打越氏は以下のような例で説明してくれた。
(1)「直美を口説きますか?」という選択肢で「はい」を選べば変数の値がTrue,「いいえ」を選べばFalseに変わる
(2)その後,直美が上司の愛人であることが判明。ここでさっきの値がFalseなら無事に昇進,Trueなら上司の怒りを買って解雇される
ビジュアルノベルには必須とも思えるフラグなのだが,かまいたちの夜はフラグなしで,どうやってゲームを成立させていたのだろうか。
打越氏は「プレイヤーの脳にフラグを立てる」という方法があると語り,下の図でその詳細を説明した。
バッドエンドには犯人を推測できるヒントがあり,プレイヤーがバッドエンドを繰り返すことで断片的なヒントが徐々に集まり,真犯人に近づけるという仕組みだ。
この仕組みが特徴的なのは,Yでフラグを使っていない点だ。フラグに頼った手法なら,Bのフラグ,Cのフラグ,Dのフラグ……と,数あるバッドエンドを実際に見て,フラグを一通り立てることでYのフラグが立ち,ようやくハッピーエンドへと進める……という作りになる。だが,いわゆる「かまいたちの夜方式」なら,バッドエンドを経験せずともいきなりハッピーエンドへ進むことが可能だ。
ここで,打越氏は「こう説明すると,古参のプレイヤーの方から,そんなことは初期のアドベンチャーゲームがやっていた,と怒られるかもしれません」と語り,「昔は手がかりをメモして,自分でマップを書いていましたから」とその理由を明かした。コンピュータが進化し,記憶媒体の容量が増えるにしたがって,コンピュータに記憶させる方法が主流になっていたというわけだ。
打越氏によれば,最近のビジュアルノベルも同様に,フラグを使う方法が主流になっているのだという。だからこそ,かまいたちの夜が異質で,ときに新しく見えるのだそうだ。氏はかまいたちの夜を「温故知新」の大切さを教えてくれるタイトルだと語った。
右の画像は善人シボウデスのルートを簡略化した図だ。ここに記されているように,Bルートで見つけたパスワードをYで入力,Cルートで見つけたパスワードをZ1で入力,といった具合にルートを進んでいく。
ここでは,かまいたちの夜と同様にフラグが使われておらず,プレイヤーは自身の記憶を使う必要があるという。パスワードさえ知っていれば,ほかのルートに回ることなく先へ進むことも可能となっているのだ。
ここでセッションのテーマは,打越氏の作話術に移った。氏が新しいシステムやシナリオを発想するきっかけになるのは「違和感」だと話し,「かまいたちの夜」の図を再度スクリーンに表示させた。
B,C,Dといったバッドエンドで得た手がかりをもとに,Yで真犯人の名前を入力するというシステムだが,打越氏は,ここにおかしな点があると話す。Yはバッドエンドより過去に当たるわけだから,Yの時点でバッドエンドの手がかりを知っているのはおかしい,というのだ。
同作にはほかにも,氏の違和感から生まれた仕組みが取り入れられているという。「ネタバレになるからはっきりとは言わないけれど」と前置きしつつ,「三人称視点のゲームをプレイしているとき,なぜ自分の姿が見えているのか,違和感があった」と思わせぶりに語った。すでに同作をクリアした人なら,ピンとくるかもしれない。
打越氏は,こういった「お約束」に疑問を持つことが大切だと話す。RPGで,キャラクターが膨大な数のアイテムを持ち運べたり,敵を倒すとお金や回復アイテムを落としたりといったところにヒントがあるかもしれない,と会場にいる開発者へのメッセージを送った。
そして「本当にリアリティを追求したら,行き着くところは現実世界しかない。そこはレベルデザインがめちゃくちゃなうえ,バグだらけじゃないですか」と続けて,会場の笑いを誘った。
セッションの最後で打越氏は,アドベンチャーゲームはスマートフォンとの親和性が非常に高いジャンルだとして,いずれは映画やコミックアニメなどと並ぶ存在になるだろうと予想。
そして,「会場にいる開発者が,その中の1作品を作ってくれれば,これ以上のことはない」いう言葉でセッションをまとめた。
「極限脱出ADV 善人シボウデス」公式サイト
Game Developers Conference公式サイト
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極限脱出ADV 善人シボウデス
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