インタビュー
L.E.D.×DJ YOSHITAKA×DJ Genki対談企画。BEMANIシリーズが今,若手を求める理由とは。キーマンの三人に話を聞いてみた
もちろん,ジャンルが持つ普遍的な楽しさはあるにせよ,リズムゲームの中でも,とくに同シリーズが支持を受け続けるのには理由がある。その大きなものの一つに,時代時代に合わせ,プレイヤーの求める音楽を提供してきたことが挙げられるだろう。
そんなBEMANIシリーズが,いま新たな試みとして,積極的な楽曲公募をとおし,新人コンポーザーを多く起用する施策で注目を集めている。その狙いとは,一体何なのか。本稿ではそんな疑問に答えてもらうべく,「beatmania IIDX」シリーズサウンドディレクター・L.E.D.氏と,「SOUND VOLTEX」シリーズプロデューサー・DJ YOSHITAKA氏にお話をうかがった。さらに新人コンポーザーを代表し,昨年稼働を開始した最新作「beatmania IIDX 20 tricoro」でデビューを飾った新人コンポーザー・DJ Genki氏にも同席いただき,楽曲採用に至るまでの経緯などを聞いている。
今のBEMANIシリーズを代表するタイトルで活躍する3者が何を考え,そして何処に向かおうとしているのか。BEMANIシリーズファンには,ぜひ注目してもらいたい対談だ。
「SOUND VOLTEX BOOTH」公式サイト
「beatmania IIDX 20 tricoro」公式サイト
転機を迎えたBEMANIシリーズ
4Gamer:
まず「SOUND VOLTEX BOOTH」のコンセプトについて,改めてDJ YOSHITAKAさんにうかがわせてください。DTMマガジンでの公募企画や,東方Projectのアレンジ曲,またVOCALOIDとのコラボなど,BEMANIシリーズとしては新しい試みの多いSOUND VOLTEXですが,これらの狙いはどこにあるのでしょうか。
BEMANIシリーズって,ご存じのとおり,今ではかなりの機種が稼働しているわけですが,音楽的にもそれぞれに個性を持っているんです。なので,SOUND VOLTEXの企画が立ち上がったときにも,まず新しい音楽を模索するところからスタートしたんですね。
4Gamer:
インタフェースが違っているだけでなく,楽曲そのものについても差別化が図られているわけですね。
DJ YOSHITAKA氏:
そう。じゃあ,これまでのBEMANIシリーズにはない,新しい音楽ってなんだろう,と考えたときに思い浮かんだのが,いわゆるネットミュージックだったんです。
4Gamer:
なるほど。
DJ YOSHITAKA氏:
今はDTMのハードルがかなり下がってきて,クオリティの高いものが作れるようになり,人口も爆発的に増えています。その受け皿をBEMANIシリーズの中にも用意できないかと思ったんです。
4Gamer:
それが一連の公募企画――SOUND VOLTEX FLOORだと。
DJ YOSHITAKA氏:
ええ。公募企画自体は,「beatmania IIDX」シリーズ(以下,IIDX)でも以前にやったことがあって,そこからkors kくんやRyu☆くんといったコンポーザーが出てきたわけですが,今はあの当時よりも,機材やツールの環境がはるかに進化しています。当然,それを使いこなしている若い子達もいっぱいいるわけで,彼らに活躍の場を与えたい,と考えたのが,SOUND VOLTEXの始まりですね。
4Gamer:
すでに楽曲・イラストの双方で多くの採用者が出ていますし,そういった人たちを軸としたコミュニティができあがっているように思います。
DJ YOSHITAKA氏:
そうです。採用者同士でグループが生まれたりして,ゲームの話題を拡散してくれています。オピニオンリーダーの育成もSOUND VOLTEX FLOORの狙いの一つなんです。
4Gamer:
プレイヤー自身がオピニオンリーダーになって,話題が拡散していくみたいな。こういうコミュニティの広がり方は,確かにこれまでのBEMANIシリーズにはなかったですね。
DJ YOSHITAKA氏:
はい,その拡散を夢見て超頑張りました(笑)。
4Gamer:
今のお話にあったネットミュージックについて,もう少し聞かせてください。今日お集まりいただいたお三方は,これらに対してどんなイメージをお持ちでしょうか。
DJ YOSHITAKA氏:
出始めたときは,僕はあまり気にとめなかったのですが,自分の立場がコンポーザーからディレクターに変わり,音楽の捉え方がさらに広がったところで,実際に聞いてみると……「キテるなこれ」って。
自分が興味を持ち始めたのも,実は遅くて。「beatmania IIDX 19 Lincle」(以下,Lincle)が開発中のことだから……3〜4年前ですね。今では,もっと早く興味を持っていれば良かったと思ってます。
4Gamer:
どんなところが?
L.E.D.氏:
なんというか……「メジャーではないニーズ」に応えた楽曲がいっぱいあるんですよ。そこからいい曲を探すのが面白い。
DJ YOSHITAKA氏:
感性や楽曲を作るにあたってのテーマが斬新ですね。それでいて,いい音を出す人達がたくさんいる。
DJ Genki氏:
僕の中では,ネットの音楽って凄い小さい文化だと思ってたんですよ。だけど,ここ数年でどんどん大きくなりましたね。初音ミクだって,最初ネタのようなものだと思ってたんですよ。それが数年経ったら,ものすごくクオリティが上がってました。
4Gamer:
DJ Genkiさんは,ご自身が同人音楽の出身ですよね。メジャーシーンと比べて,同人音楽の環境って,何が違いますか。
DJ Genki氏:
同人のほうが,好きなことができるんだと思いますよ。のびのびと自由に制作できるというか。
4Gamer:
音楽を作る場としては,メジャーより居心地がいいんでしょうか。
DJ Genki氏:
自分はそこで育ってきたようなものですから。同人があったから,自分は今もこうやって曲を作れているんだと思います。でも,自分はもっと外の世界に興味があったのかな。
4Gamer:
なるほど。では,L.E.D.さんにIIDXについて,聞かせてください。SOUND VOLTEXが新しい取り組みをおこなう一方で,BEMANIシリーズの旗艦タイトルでもあるIIDXシリーズでも,新人を多く起用する流れがあります。なぜでしょうか。
L.E.D.氏:
自分がサウンドディレクターとしてIIDXに関わり始めたのは「beatmania IIDX 18 Resort Anthem」(以下,Resort Anthem)からですが,その当時は「こういう曲がプレイヤーにウケてほしい」という願いを込めたラインナップを考えていたように思います。ですがLincle以降は,プレイヤーが求めているものを自分なりに考え,あるいはリサーチして用意する方向に変わってきた。
4Gamer:
新人を起用する流れも,その延長線上にあると?
L.E.D.氏:
もちろん,所属のBEMANIアーティストが主軸になって頑張るべき,というのは,今でも変わりません。でも,プレイヤーがIIDXが変わったな,という部分を,分かりやすく提示する必要がありました。
DJ YOSHITAKA氏:
そこで登場したのが,「突撃!ガラスのニーソ姫!」ってことね。
(一同笑)
L.E.D.氏:
あれは物凄く振り切れたところを示す意味では,インパクト抜群だったね(笑)。
DJ YOSHITAKA氏:
やっぱりアクセル全開じゃないと! Lincleのとき,僕は外から制作を見ている立場でしたけど,Resort Anthemよりもコンセプトが明確で,「来るなっ! これ」って思いました。
L.E.D.氏:
そうだね。あとはREDALiCEさんだったり,Masayoshi Minoshimaさんだったりという,同人シーンで活躍している人を採用するのも,変化を明確に出したかったから。「beatmania IIDX 20 tricoro」(以下,tricoro)のインタビュー(関連記事)でも話しましたが,彼らはコンポーザーでありながら,BEMANIシリーズのプレイヤーでもあるんです。ゲームのことを理解しているから,何が面白いか分かっている。だから発注もしやすかったですね。
DJ YOSHITAKA氏:
SOUND VOLTEXもそうですが,作曲をやってる人の中に,BEMANIシリーズで育ちましたって人が,結構います。BEMANIシリーズを知らないコンポーザーだと,例えば音の数を多くしたり,楽曲の尺を2分前後に収めるようにしたりとか,リズムゲームとして楽しむためのディレクションが必要になるんだけど,彼らにはそれが必要ないのもすごく助かります。
L.E.D.氏:
うん。Lincleの彼らを起用してみて,すごく手ごたえを感じたんです。なので,tricoroではその方向性をより推し進めるべく,「HARDCORE TANO*C」※の3人――USAOくん,DJ Norikenくん,そしてDJ Genkiくんの3人にオファーしました。
※「HARDCORE TANO*C」……文中にも登場したREDALiCE氏が立ち上げた同人音楽レーベル。ハードコアテクノによるコンピレーションアルバムや,クラブイベントを定期的に行っている。USAO氏,DJ Noriken氏,DJ Genki氏などもイベント出演をはじめ,楽曲を多数提供している。(公式サイト)
4Gamer:
では,そのDJ Genkiさんの楽曲「Shining World」について聞かせてください。まず,L.E.D.さんが最初に楽曲のデモを聴いたとき,どんな感想を持たれましたか。
L.E.D.氏:
kors kくん経由でデモを聞いたんですけど,クオリティは十分でしたね。DJ Genkiくんの楽曲については,実はもっと前,ちょうど同人シーンに興味を持った頃に,耳にしたことがあるんですよ。それはBEMANIシリーズを意識したわけでもない,普通のトラックだったんですけど,その時点ですでに融和性が高かった。自分にとっては,そこが第一関門……というか,それをクリアしていないと,起用はなかったと思います。
4Gamer:
楽曲のクオリティはさておくとして,リズムゲームの楽曲としてどうか,ということですよね。
L.E.D.氏:
そうですね。とくに最近は,この融和性という部分と,トラックとしての完成度のバランスに長けた人を探していたので。その点,今回起用した3人は,条件にバッチリ当てはまります。
4Gamer:
DJ Genkiさんは,「Shining World」の制作時,どんなことを考えていましたか。
やっぱり,自分がプレイするとしたらどういう曲がいいだろう? という点を意識して制作しましたね。具体的に言うと,目指したのは1曲目に選曲される曲なんです。オファーの話があったとき,自分に求められているのは,恐らくプレイ難度の高い曲ではないだろうと思ったので,それならとことんキャッチーなものが良いかなって。
4Gamer:
いわゆる“指慣らし”に向いた曲ってことですね。そう言われてみると,確かに「Shining World」は,ゲームセンターでも1曲目に選曲される率が高い気がします。
L.E.D.氏:
実際「Shining World」の選曲率はかなりいい数字です。IIDXシリーズって,長く続いてるだけあって,基本的にはレギュラー陣の楽曲が選曲されやすいわけです。それだけに,新規のアーティストさんは苦戦することが多いんですが……。
4Gamer:
馴染みのあるコンポーザーの曲なら,安心して選曲できるのは確かでしょうね。
L.E.D.氏:
とくに高難度曲というわけでもないのに,この選曲率はなかなかのものです。やっぱり,プレイヤーの視点をちゃんと持ってるDJ Genkiくんだからこそだと思います。
DJ Genki氏:
IIDXの高難度曲って,基本的に2種類に分けられるんですよ。ノーツが物凄い量で降ってくる曲か,曲調がズレてたりハネたりしていてリズムが取りにくい曲。1曲目に選曲される曲を目指すなら,まずこの2つの要素を排除して,さらにBPMを150に。それからドラムやシンセの音鳴りを,叩きやすい配置にするんです。
4Gamer:
ああ。IIDXシリーズは,BPM150の曲が多いですよね。
DJ Genki氏:
自分がプレイヤーとして遊んでいたときに,曲はすごくいいけど,譜面で損をしてるな,って感じるものがあったんです。だから,自分の楽曲はそうならないようにしたかった。リズムが取りやすくて,譜面が作りやすい曲を目指したつもりです。
4Gamer:
譜面もDJ Genkiさんが制作したんですか?
DJ Genki氏:
いえ,そこはお任せしました。でも,あがってきた譜面は,自分が思ったとおりの仕上がりでした。自分でプレイしていても「そうそう,これこれ」って感じで。次の機会があれば,譜面もやってみたいですけど(笑)。
L.E.D.氏:
プレイヤーとしても名高いDJ Genkiくんなら,注目もされそうだし,ありかもしれないですね。
DJ Genki氏:
本当ですか!? ぜひお願いします!
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SOUND VOLTEX BOOTH
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beatmania IIDX
- 関連タイトル:
SOUND VOLTEX II -infinite infection-
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(C)Konami Digital Entertainment
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