インタビュー
「ドラゴンクエストX」は,「バージョン1.3」でどう変わる? アップデートの見どころとWii U版のサービスインについて,齊藤陽介氏と藤澤 仁氏に聞いてみた
「神話の王に震える花」というサブタイトルの付けられたこのアップデートでは,新たに2つの職業が追加されるだけでなく,今後の同タイトルの方向性を明確に打ち出したコンテンツ/システムの追加と調整が行われる。またWii U版のベータテスト/サービスインに合わせた,初心者向けコンテンツも登場する予定だ。
今回4Gamerでは,「ドラゴンクエストX」のプロデューサーを務めるスクウェア・エニックスの齊藤陽介氏と,ディレクターの藤澤 仁氏に,バージョン1.2の実施によってゲーム内がどう変化したのか,それを受けてバージョン1.3以降は具体的にどうなっていくのかなど,詳しく話を聞いてみた。
「大型アップデート情報 バージョン1.3」の詳細はこちら
「ドラゴンクエストX」には正統派ヒロインが少ない?
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。今回は,主にバージョン1.3のお話をお聞きしたいのですが,その前にバージョン1.2を振り返って,思うところなどがあれば教えてください。
いきなり話が脱線気味になりますが,先日行われた「バレンタインイベント」(関連記事)の感触はどうだったんですか?
藤澤 仁氏(以下,藤澤氏):
マイユの人気がすごくてビックリしました。
というか,個人的には「なぜマイユがそこまで?」と思ったのですが(笑)。
齊藤陽介氏(以下,齊藤氏):
会場マップの入り口近くに立ってたからじゃないの?(笑)
藤澤氏:
同じく入り口近くにいたプレシアンナが2位だったらそうかもしれませんが,そうじゃないんで,それはハズレです!(笑)
齊藤氏:
えええ……(苦笑)。
藤澤氏:
そもそも,マイユのほかに正統派と見られるヒロインがいなかったからかもしれませんね。だから,割と素で人気が高かったんだと思います。マイユは女性プレイヤーの支持も高いですし,僕としては納得の結果でしたよ。
齊藤氏:
確かにルナナとかは,ちょっとひねくれてますしね。私は好きなんですが。
藤澤氏:
マイユの人気が高いのは予想できたんですが,あれほどの大差で1位になるとは……という感じではありましたね。フウラとソーミャが同じ系統で,そこで票が割れたというのもマイユが勝った要因の一つでしょうか。
4Gamer:
オーガの最初のストーリーに登場するというのも大きいかもしれませんね。
藤澤氏:
確かに,オーガはゲーム中でも多い種族ですし,最初に自分を助けてくれるキャラクターということで,愛着があるのかもしれませんね。雛の刷り込みじゃないですけれど(笑)。
4Gamer:
一方で,一番チョコをぶつけられたモンスターが,スライムベスだったというのはどうでしょう? こちらは,ある意味で“オンラインゲームらしい結果(※)”なのかな,とも思いましたけれど。
※投票会場から近い場所に出現するので,投票がしやすかった
齊藤氏:
こちらも予想はしていたんですよね。
藤澤氏:
でも「ドラゴンクエストX」で,もともとスライムベスの人気は高いんです。とくに眠っているスライムベスを「可愛い」と言ってくださる方は多くて。初めて中レベル帯の町に着いたとき,その入り口付近にいるというインパクトもありますしね。
4Gamer:
確かに,普通にスライム系は可愛いですよね。
藤澤氏:
だから今回,「クエスト受託地点から近いから勝った」と言われてしまうのは,スライムベスとしてもきっと不本意だろうと思います(笑)。
あとは指摘されて気づいたのですが,今「ドラゴンクエストX」を遊んでいる人は,サブキャラを育てている人もけっこう多いんですよね。そういう人は,一つのクエストにあまり時間をかけられないというのもあって,投票を近場のモンスターで済ませることが多かったようです。
齊藤氏:
私もアズランから出てすぐの,どんぐりベビーにぶつけてましたね!(笑)
藤澤氏:
まあ,そういう理由でもなければ,“ドラクエ”の人気モンスターランキング上位に,「どくろあらい」が登場することも,きっとなかったでしょう。
齊藤氏:
「どくろあらい」がこれだけ脚光を浴びることは,ドラクエの歴史上,もうないかもしれませんね(笑)。
「ふくびきけん」が毎日ログインするきっかけに
4Gamer:
それでは改めて,もう少し大枠の話を聞かせてください。バージョン1.2で,最も顕著だったプレイヤーの傾向/動向って,具体的にはどんなものだったんでしょうか。
齊藤氏:
一番大きい変化は,多くの方に,毎日,短い時間でもログインしていただけるようになったことです。その直接的な理由は「魔法の迷宮」実装によるところが大きいと感じていますが,さらには迷宮のクリア報酬となる「ふくびきけん」の存在が,毎日ログインするモチベーションになっていると分析しています。データ的なお話をすると,同時接続者数や毎週のユニークユーザー数が非常に安定しました。
4Gamer:
と言うことは,以前はイベントの内容などで,けっこう変動があったんですか?
多少ムラがありましたね。もともと土日にログイン数が増えるという傾向がありましたが,今では平日も高い数値で安定しています。以前ほど,土日と平日の開きはなくなった感があります。
藤澤氏:
あとは,魔法の迷宮の導入によって,それまで「ほかの人と遊ぶのは不安」と言っていたプレイヤーさんから,「やってみたら面白かった」という反響があったんです。そういう意味では,バージョン1.2では,オンラインゲームとしての「ほかの人と遊ぶ」きっかけ作りができたんじゃないでしょうか。
4Gamer:
実際,プレイヤーのフレンド数や,フレンドを作る率は上がっているんですか?
藤澤氏:
今のところ,そうしたデータは取っていないのですが,まだ,僕達が期待するほどフレンドが増えている状態にはなっていないと感じています。そこで,今後,さらに「フレンドを作ると楽しい」と思っていただけるコンテンツを提供していければと思っています。
実のところ,魔法の迷宮では,一緒に遊ぶことで,もっと積極的にフレンドになってもらえることを期待していたのですが,実際には,思っていたほどまではうまくいきませんでした。もう少しシステム的にフォローする必要があると捉えています。
4Gamer:
ゲーム中で,一緒に遊んだプレイヤーの履歴を参照できるといいかもしれませんね。
藤澤氏:
それも考えたのですが,プレイヤーさんには「情報を知りたい」というのと,「情報を知られたくない」という双方の思いがあります。なので,あまり簡単にコンタクトできてしまうのもどうだろうということで,ゲーム内には入れていないんです。その一方で,公式サイト「目覚めし冒険者の広場」には一緒に遊んだ履歴が残っていますから,そこからコンタクトを取ることができるようにしています。
齊藤氏:
無理に「フレンドを作れ」と強いるつもりはないんです。「フレンドを増やしたい」と思っている人が,それを表現できるようにしようと。
藤澤氏:
その一環で,バージョン1.3では,「いまどんな設定」に「フレンド募集中」のアイコンを用意しました。それなら,迷宮で一緒になった人がその設定をしていれば,声をかけやすくなりますよね。
4Gamer:
そういえば,現状の迷宮だと,ボスを倒したり,ふくびきけんを手に入れたりしたら,一度迷宮の外に出るプレイヤーが多いように感じます。
藤澤氏:
そうですね。ただ,自分が「続けて遊びたい」と思っても,現状では仕組み的に,ほかの人がどう考えているのか分からないので,とりあえず一旦迷宮から出て,もう一度入り直そうとする人が多いんじゃないでしょうか。
そこでバージョン1.3では,ボスを倒したあとで「続ける」を選択すると,ほかの人にそれが見える仕様にしました。それなら,「あの人が続けるなら,自分も」という流れが生まれて,ひいてはフレンドになるきっかけが生まれるんじゃないかと期待しています。
4Gamer:
おっしゃったように,システム的にフォローするわけですね。
藤澤氏:
ええ,そうやって人と人とのつながりを作る仕組みを少しずつ増やしていきます。もっとも,やり過ぎると余計なお世話になりかねませんから,そこはシステム側もお見合いの仲人のように一歩引いて,「あとは若い人達同士で」と促す感じで(笑)。
4Gamer:
そのあたりのさじ加減は,本当に難しいですよね。
藤澤氏:
実は,迷宮のオートマッチングや継続プレイの仕組みは,僕が昔よく遊んでいたオンライン麻雀「東風荘」のマッチングシステムを参考にしているんですよ。
4Gamer:
「東風荘」とは,また懐かしいですね(笑)。
あれの4人揃ったらすぐ始められる気軽さも素晴らしいのですが,一度勝負がついて,すぐにまた一戦やろうと思ったら,まったく同じメンツが揃った,みたいなことが起きるんですよね。「ドラゴンクエストX」でも,それと同じような偶然が起こったら面白いんじゃないかとは考えていました。
4Gamer:
国内の例だと,オートマッチングが適切に機能しているオンラインゲームは,以外と少ないんですよね。その点,魔法の迷宮はよくできていると感じました。
藤澤氏:
オートマッチングについては,開発内でもいろいろ議論がありました。
4Gamer:
それは具体的にどういったことで?
藤澤氏:
たとえば,メンバーが揃うまでの待機時間です。最近では,エントリーしておけばメンバーが揃うまで自由に行動できるシステムを採用しているタイトルも多いですよね。
齊藤氏:
そういう意味では,待機時間が2分も3分もあるようでは,ちょっと……という議論がありましたね。
4Gamer:
マッチングの精度と待ち時間のバランスは,凄く難しい部分ですよね。
藤澤氏:
「ドラゴンクエストX」にはサポート仲間というシステムがありますから,最大30秒待って,メンバーが揃わなければNPCを補充してスタートすることができます。それに本作は,プレイヤー数が現状でかなり多いので,30秒あれば,結構メンバーが揃うんですね。
将来的に,エントリー後に自由に移動できる機能を実装する可能性もなくはないですが,色々と考えていくと,動作はロックされるけど30秒で必ず始まるシステムは,「ドラゴンクエストX」というゲームにとっては合理性が高いと判断しています。
齊藤氏:
それから,自宅(ゲーム内の)から直接迷宮に行けるように,という案もあるんですけれど,けっこう,皆さんが今の仕様に馴染んでいるので,そこは優先度を下げています。
4Gamer:
実際,ルーラストーンを使うときみたいな感覚に近い感じで,迷宮に行くときは外に出てから,みたいなアクションに違和感はないですしね。
齊藤氏:
はい。ちょっとしたところですが,「まほうのかぎ」を使う時に出てくる「空の見える場所」という,説明テキストがよかったのかもとは感じています(笑)
使い捨ての常識を覆した「汗と涙の結晶」
4Gamer:
ゲーム内経済についても教えてください。バージョン1.2では「汗と涙の結晶」を導入(※)しましたよね。あれで経済に変動はどの程度あったのでしょうか?
※装備品に「使い込み度」という概念が導入され,これが100になると,生産用の素材に変換(結晶化)できるようになるというシステム
藤澤氏:
ずいぶん変わりましたね。錬金を失敗した装備でも,結晶化すれば元が取れること,そして使い込み度が100に達したら買い換えるようになったことから,かなりアイテムの流通量が増えました。
4Gamer:
以前は,悪い錬金効果が付いたアイテムは,捨て値で売られている状況で,実際に使うこともなかったんですが,バージョン1.2からは,悪い効果のものでも,使い込んで結晶を取り出すと儲かったりして。
齊藤氏:
私も相場を見ながら,「この値段なら,結晶化すると元が取れるな」とか考えて装備を買うようになりましたね(笑)。盾が意外と安く売られていて,結晶化も早いので,狙い目なんですよ。自分で錬金できる人なら,もっとお得です。
4Gamer:
プレイヤーからすると,いろいろな意味で装備の選択の幅が広がりましたよね。
藤澤氏:
結晶は,店売りで500ゴールドに設定しているので,相場がそれ以下になることはないのですが,予想していたよりも高い水準で留まっています。それを見ると,需要と供給がいいバランスを保てているんじゃないでしょうか。
4Gamer:
装備を生産する職人も恩恵を受けていますよね。
齊藤氏:
ええ。結晶化すれば,いくらくらいになるかを見越した価格設定ができますから,不必要に安売りをしなくても済むわけです。
藤澤氏:
オンラインRPGは,プレイしていくうえで,どうしても「戦闘」をする時間の比重が高くなりますよね。だから,そこにさまざまな“意味”を持たせて,プレイヤーさんにモチベーションを持って戦闘を楽しんで頂けるようにすることが,僕はとても大切だと思うんです。
4Gamer:
そこは,よく分かります。
藤澤氏:
「ドラゴンクエストX」でも戦闘で勝つと,まず基本として,経験値とゴールドが獲得できるわけですけれど,それだけでは単調になってしまいます。
ですから,たまにレアドロップがあったり,レアなモンスターに出会えたり,100匹討伐すると「ちいさなメダル」がもらえたり,装備品の使い込み度があがったり……と,一回戦闘をするだけで,「いろいろなものが進む/起こる」と感じられることを重要視しているんです。
4Gamer:
確かに本作では,戦闘に「いろいろな意味付け」がされてますね。
藤澤氏:
ええ。そうなっていれば,プレイヤーさん各自での工夫のしがいがあると思うんです。たとえば,「汗と涙の結晶」を導入してからは,遠征するときには武器を3本くらい用意していったり,弱いけど安い武器を使い込んでお金に換えたり,みたいな行動が取られるようになってきたのではないかと。
そうですね。経験値稼ぎに出かける前にバザーで結晶化目的の武器や防具を買ったりして。オンラインRPGではそういう,戦闘をするまでの“準備してる感”みたいなものも大切ですよね。
4Gamer:
そうですよね。ちなみに「汗と涙の結晶」は企画の段階から,ゲーム内経済への影響なども見越していたんですか?
藤澤氏:
それはもちろんそうです。ゲーム内の経済/流通を回すためには,正しい形で装備品などを“消費”してもらう必要がありますからね。
4Gamer:
ほかのオンラインRPGでは,耐久度や消耗度を設定して装備の消費を促したりするものもありますよね。
藤澤氏:
そうですね。しかし,耐久度が限度に達したら,それ以上使えなくなってしまうといったものは,僕は“それは違うんじゃないかな”と思えるんですよ。
4Gamer:
違う,ですか。
藤澤氏:
そういう要素は,プレイヤーさんにとってネガティブなもの」にしか見えないと思うので。作り手側が「アイテムを消費してもらいたい」と考えたとしても,それをネガティブな要素でプレイヤーさんに強いるのは,僕は違うと思うんですね。“ドラゴンクエスト的ではない”と感じたんです。
4Gamer:
なるほど……。
藤澤氏:
そこで,使い込み度が100になってもそのまま使えて,お金に換えたい場合などは能動的に結晶化してもらうという,今の仕様が生まれたわけです。
4Gamer:
やっぱり,そういうところの考え方は「ドラクエ」なんですねぇ……。
藤澤氏:
オンラインゲームでは,往々にして,プレイヤーさんにとってマイナスな要素を強いるケースが生じますが,「ドラゴンクエストX」では,それを何とかプラスに転じさせようと,いろいろ試行錯誤しています。「元気玉」もそうですよね。プレイ時間抑制のために経験値を上げなくするのではなく,休んだ分を後から経験値に還元できるようにしたりして。
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