インタビュー
PS Vita用アプリ「ニコニコ」が目指すゲームプレイ動画の新しいスタイル。ドワンゴ開発チームインタビュー
投稿への制限が良い意味でのハードルに
4Gamer:
そういえば,本アプリの可能性みたいな話をすると,僕はPS Vitaから直接ゲームの生放送が配信できるようになると,「ゲームプレイ動画の配信のハードルが劇的に下がる」って部分にとても注目しているんですけど,そのあたりについてはどうお考えなのでしょう。
鈴木氏:
どういう意味ですか?
4Gamer:
というのは,一般的にゲームプレイ動画というと,キャプチャーカードが必要だったり,ちょっとした知識が必要だったり,なんだかんだでハードルが高いと思うんですよ。機材の調達だとか,もろもろ考慮すると,現在の配信者の多くが20代以上の“大人”だろうなと。
でも,例えばPS Vitaから直接配信が可能になると,その辺の垣根が取り払われる。中学生が入ってきたり,彼らが生放送というツールをどう使うのかっていうのはかなり興味深い。
そのあたりの議論で言うと,配信のためのハードルが低くなることによって,玉石混淆の,質の低い動画が多くなってしまうんじゃないか? という意見は必ず出てくるんです。
それに対しては,例えばゲーム内アイテムでカメラやフィルムなどを売って,それを買わなきゃ実況できないようにするとか,ゲーム内ジョブで“カメラマン”や“報道記者”じゃないと実況できないようにするとか。ある程度そういった制限をかけることによって,コンテンツの量を制限して質の維持をしようという話ですね。
4Gamer:
なるほど。逆に制限する方向を検討されているんですね。
これは,以前のインタビューで川上さんに伺った話なのですが,ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ(UGC)について議論すると,普通はいかに「簡単にして,数多く作ってもらうか」かという方向を考えがちなんですけど,ドワンゴの場合は,逆に「制限する」方を考えるじゃないですか。生放送でも「放送する(コンテンツを作る)方が500円払う」みたいに。そういった考え方は,ドワンゴ社内では一般的なんですか?
鈴木氏:
それはわりとシンプルな話で,ニコニコ動画に関して言うと「コンテンツのクオリティの高いものが集まっている」「面白いものが集まっている)という認識を,ユーザーの人に持ってもらうことが一番大事だよねって意識からなんですよ。
むやみにハードルを下げてしまうと,高橋が言ったように,言い方は悪いですけどつまらない動画がどんどんアップされちゃって,ノイズが出てしまう。
4Gamer:
そのあたりの考え方は,やっぱり“ドワンゴらしい”と感じるんですけどね。
鈴木氏:
例えば,ニコニコ生放送の「30分縛り」(ニコニコ生放送は30分ごとに放送時間の枠が区切られている)にしているのも,クオリティの向上に一役買っているんですよね。
ちゃんと30分という時間を区切ると,ユーザーさんは「30分以内の面白い番組をちゃんと作ろう」という意識をもって放送するので,面白いものができるんですね。だから,あまりノイズを増やさない,「良い意味でのハードル」を作る。そしてそれが,結果としてユーザー全体の利益に繋がるという考え方はあります。
高橋氏:
誰でも自由に配信できる世界というのは,たぶん視聴者側も配信者側も得しないですね。視聴者側はノイズを多く見せられて,良いコンテンツに辿りつきにくいですし,配信者側も人がいろいろなところに分散してしまって,自分のところに人が集まりにくいでしょうから。
4Gamer:
ゲームでも,動画の録画機能を搭載したタイトルが増えていますよね。プレイ動画を生成して自動的にYouTubeにアップロードしたりとか。ただその一方で,(その機能を)作っている側の思惑に比べると,動画が盛り上がっていないことの方が圧倒的に多いと思うんです。
鈴木氏:
それは,ただそのままの状態でアップしているだけだからじゃないですか?
高橋氏:
動画を無編集でアップされても,観るのはけっこう辛いんですよね。
鈴木氏:
逆に短時間の動画でも,切り口がある(一発ネタでも)動画は面白いんですけどね。
リーガルの問題に取り組みつつ,海外への展開も視野に
4Gamer:
しかし,ゲームのプレイ動画ってなんであんなに需要があるんでしょうね。ニコニコ動画……いや,YouTubeも含めて,世界中でも本当に一大ジャンルじゃないですか。
溝口氏:
ニコニコ動画に関して言うと,現在投稿されている動画の40%以上がゲームカテゴリですね。
高橋氏:
若い人の受け取り方を見ていると,昔の深夜ラジオとかの代替として受け入れられているのかなあという感じはしますね。
鈴木氏:
コンテンツに人が付くケースと,配信者に人が付くケースがあるんですよね。
4Gamer:
でも一方で,著作権の問題であったり,難しい課題もたくさんありますよね。今回の取り組みを進めていくなかで,そのあたりについては,何かメーカーさんからご意見なり問題提起なりはなかったんですか?
そこは本当に難しい部分だと思います。でも,最近はゲームメーカーさんもニコニコ動画内に公式チャンネルを作ってくださっていて,企業の活動の場として認めてくださっているという状況はあると思いますし,数年前と比べると,動画サイトというものへの世間のイメージも,大分変化しているとは思うんですよ。
4Gamer:
それは確かに。そういえば,これは動画の話からはちょっと離れるのですが,4Gamerでも,よく読者さんから「スクリーンショットをBlog(日記)に掲載していいですか?」というお問い合わせがあるんです。本当はそういうものを気にせず,ゲームライフを楽しんではほしいんだけど,これはリーガル的な観点からいえば,絶対に「駄目です」と言わざるを得ないんですよね。そもそも僕らは権利者じゃないですし。
鈴木氏:
そうですね。
4Gamer:
でも,メーカーさんの側からすれば,ユーザーさんの間で自社のタイトルが話題になってほしいし,盛り上がってほしいという気持ちもあるわけじゃないですか。今は,その板挟みというか,法整備や業界ルールが追いついていないので,どうしても“もやもや”した状態になってしまっているんですね。もちろん,ネタバレになるようなものや悪意のあるものなど,作品自体の価値を損なうようなものはどんな形でも駄目だと思いますけど,そのあたりの線引きがタイトルやメーカーによって全然違うのも難しいところで。
鈴木氏:
そういうところも,ちょっとずつ変えていければいいんですけどね。何となくグレーになっているというのは,ユーザーさんから見ると一番不健全だと思いますし。
4Gamer:
今回の取り組みというのは,例えば,ゲームメーカー公認の対応タイトルがあったとして,PS Vitaから直接配信されている動画には「公認」マークが付いたりする……みたいなことですよね?
鈴木氏:
そうですね。何かしらわかりやすいように「PS Vitaからアップされましたよ」といったマークは付けたいと考えています。
4Gamer:
先ほどの「生放送をする場合にゲーム内アイテムを買う」みたいな話も,例えばですけど,ゲームは5000円で売り切りだけど,その後,プレイ動画の配信が盛り上がって,そっちの収益でメーカーが潤う――そこでレベニューシェアをするのかどうかなどは分かりませんが――だとか,そういう可能性もあるのかなとちょっと思ったんです。
鈴木氏:
その意味でいうと,今回の取り組みというのは,ゲームメーカーさんと我々で一緒に面白いものを作っていきましょうという,枠組み作りの取っかかりにできれば,という思いもあるんですよね。
4Gamer:
こと動画に関していうと,日本でそういう取り組みができるのは,今やニコニコ動画だけだと思うんです。ゲーム産業は,世界的に見てもまだまだ日本が強い分野ですから,ニコニコ動画という珍しいスタイルのサービスと組み合わさることで,新しいゲームプレイのあり方というか,遊ばれ方が出来上がっていくのが理想ですよね。
鈴木氏:
それをすごく期待しています。今は日本だけの話なんですけど,やっぱり海外のユーザーにも,ニコニコ動画の面白さを味わってほしくて。「niconico.com」っていう北米向けのサービスはスタートさせて,それを足がかりに海外展開を進めているんですけど,PS Vitaでも,「ニコニコ」の海外展開を考えています。
4Gamer:
ニコニコ動画としては,ゲームというジャンルをこう扱っていきたい,みたいなスタンスはあるんですか?
鈴木氏:
我々は,動画コミュニケーションサイトとして,お預かりしたものはちゃんと面白くみんなで楽しめるように配信したいし,その一方で,著作権を含めたさまざまな課題にも真摯に対応していく――というスタンスで臨んでいます。
繰り返しになりますけど,動画とゲームの面白い連携のあり方というのを,今後メーカーの皆さんと一緒に考えて,業界を盛り上げていきたいという気持ちは強くありますね。
4Gamer:
分かりました。
鈴木氏:
いずれにせよ,メーカーさんやクリエイターの方から「こういうことやりたい」というのを持ってきていただけると,こちらとしても面白いことができると思うし,この記事を読んでいる方で,何かアイデアやご意見をお持ちの方がいらっしゃったら,ぜひドワンゴまでお問い合わせください!
4Gamer:
難しい課題も数多くあるかとは思いますが,ゲーム業界にとって意義のある取り組みに発展していくことを期待しております。本日はありがとうございました。
ゲームのプレイ動画をどう扱うべきか。
この問題については,動画サイトが世間で耳目を集めてから,良くも悪くもゲームメーカー各社の頭を悩ませてきたわけだが,一方で,ゲームのプレイ動画が世界的に見ても人気の高いジャンルなのは確かであり,そこにビジネスチャンスないし何かしらの実効性を伴う効能を見出そうという今回の取り組みは,とても興味深いものである。
もちろん,権利処理などの扱いをどうするのか。そもそも動画が配信されることで,本当にゲームに“良い効果が生まれる”のか。その点については,今の時点ではまだなんとも言えず,今後のやり方次第と言わざるをえない。
しかし昨今,ニコニコ動画に限らず,YouTubeなどの動向を見ていても分かるように,コンテンツホルダーと動画サイトの関係は大きな変革期を迎えており,ゲーム業界に限ってみても,メーカーが公式に動画の配信を許諾する例もあるなど,動画を取り巻く環境が数年前とは激変している状況だ。
ニコニコ動画の運営するドワンゴ率いる川上量生・代表取締役会長の言うところの新しいコンテンツのあり方を模索する意味でも,その動向を注意深く見守って行きたいところであろう。
プラットフォーマーやメーカー各社が動画サイトに向き合うことで,これまでは,いわば「グレーゾーン」だったプレイ動画について,一定のガイドラインが構築されていくなど,より健全かつ面白さを損なわない形(ここが難しいのだが)で,プレイ動画に関する新しい展開が見られるようになることを期待したい。
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