インタビュー
クラウド型ゲームサービスはゲームのパラダイムチェンジになるのか。 「ジークラウド」の技術を提供するUbitusに聞く
正直なところ,この名称そのものがゲーマーに広く認知されているかというと疑問も残るのだが,NTTドコモのLTE通信サービス「Xi」(クロッシィ)や無線LANを利用し,NHN JapanとUbitusが展開する「クラウド型ゲームサービス」といえば,「ああ,あれのことか」と思う読者も多いのではないかと思う。
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ゲームクライアントそのものはクラウドサーバー上で動作しており,手元の端末側で対応プレイヤーソフトを起動し,操作すると,その内容がクラウドサーバーへ送られ,操作した結果ともどもムービーにトランスコードされて端末へ送られる。端末側では,操作情報をクラウドサーバーへ送信でき,かつ,ムービーを再生できるだけの性能があればいいので,ハードウェアスペックが極めて低くても,リッチなグラフィックスのゲームをプレイできてしまうのである。
ジークラウドのサービス第1弾タイトルとしては,NHN Japanが運営するPC用オンラインゲーム「ドラゴンネスト」が選ばれているので,ドラゴンネストのプレイヤーにとって,これがすでに現実の話というのも見逃せないところだ。今後,ゲームタイトルの拡充が進めば,多くのゲームでプレイスタイルが大きく変わる可能性を秘めている。
一方,さまざまな疑問もあるだろう。2011年内に2〜3タイトルが追加される予定になっているが,いまのところはドラゴンネストと「ソニックアドベンチャー ディレクターズカット」のみ。本当に今後,さまざまなタイトルをプレイできるようになるのかは不透明な状況だ。
そしてそもそも,「ゲーム用のクラウドサーバー」とは何なのか。3Dゲームをクラウドサーバー上で動作させる以上,サーバー側のコストは相応に高くなるはずで,それが大きなコストにはならないのか。不安定なモバイル回線にどう対応させているのかなどなど,技術的な部分にも疑問は多く残る。
というわけで今回,4Gamerでは,ジークラウドを「GameCloud」という技術で支えるUbitusに,その技術周りの疑問をぶつけてみることにした。対応してくれたのは,同社の春日伸弥氏と,Karim Hamzaoui(カリーム・ハムザウィ)氏だ。まずはジークラウドの技術面を中心に聞いていくことにしたい。
クラウドのミドルウェアから
ハードウェアまで自社開発
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは技術的なところからお聞きしたいのですが,ジークラウドはクラウドサーバー上の仮想化システムを使ってゲームを動作させていますよね。クラウドシステムにはMicrosoftの「Windows Azure」や,仮想化システムには同じく「Hyper-V」といった汎用のものがありますが,どのようなシステムをお使いなのでしょう。
すべてのシステムを弊社で作っています。完全に自社技術です。ジークラウド向けにチューニングしたクラウドサーバーをデータセンターの中に設置して,そこからクライアントへストリーミングで配信するという形です。
4Gamer:
すべて自社製でしたか。自社でクラウドシステムを開発されたのはなぜですか?
春日氏:
まず,既製品(の仮想化ソフトウェア)を使った場合,性能的に,ゲームのストリーミングが厳しいという点が挙げられます。そのため,ミドルウェアも自社で開発したという経緯があったりしますね。
もう1つの理由はGPUですね。こちらも既製品(の仮想化ソフトウェア)だとGPUが利用できないため,きちんとGPUを扱えるクラウド技術が必要でした。
4Gamer:
確かに,既存の仮想化ソフトウェアでは,まともにGPUをサポートしている製品がないですね。
正直,まだジークラウドのサーバー像はイメージしづらいのですが,仮想化システム上で,プレイヤーの数だけのWindowsが動作しているというわけではないですよね。
春日氏:
はい,自社開発した仮想化レイヤーがあって,その中でゲーム自体を仮想化しています。
4Gamer:
つまり,プレイヤーがアクセスするたびにレイヤーとゲームが動作する仕組みですか。アクセスごとにゲームを起動するとなると,起動時間がかかりそうですが……。
春日氏:
我々が開発した仮想化レイヤーは,オーバーヘッドが非常に少なくなるように作っているため,高速性を保てています。
4Gamer:
ひょっとして,クラウドサーバー側で画面を見ると,プレイヤーの数だけゲーム画面が映っていたりするのでしょうか。
春日氏:
ゲーム画面が表示される前にフッキング(横取り)しているので,クラウドサーバーの画面には何も映っていません。
4Gamer:
GPUでオフスクリーンレンダリングして,仮想化レイヤーの画面をインターセプトしつつ,クライアントへ送信しているということですね。1台のクラウドサーバーでいくつくらいの仮想化レイヤーを同時起動できるのでしょう。
春日氏:
同時起動数は,ゲームタイトルや,配信する端末の種類によって変わるのですが,ドラゴンネストの場合で十から数十といったところですね。
4Gamer:
端末の種類でも変わりますか。
春日氏:
ええ,端末によって画面のサイズや解像度が異なるため,ストリーミングサイズが異なってくるのです。サイズが小さければたくさん起動できますし,サイズが大きくなればなるほど少なくなる,というわけですね。
ただ,クラウドサーバーにおける計算リソースのほとんどは,ストリーミング処理ではなく,ゲームそのものに割かれていますが。
4Gamer:
法律うんぬんの話はさておきますが,海外のSIMロックフリー端末を個人で輸入して,そこにXi対応SIMを差して,無線LAN接続からジークラウドを利用しようとするケースというのは物理的に生じ得ますよね。そういった場合,解像度やらなにやらのスペックがジークラウドの想定外になることもあると思いますが,その場合はどうなるのでしょう。
春日氏:
ジークラウドでは,クライアントソフトが端末の解像度を自動判定して,「プロファイル」としてクラウドサーバーに送信しています。そのプロファイルに合わせた動画をクラウドサーバーから配信するので,対応可能です。
4Gamer:
サーバーハードウェア側の話も聞かせてください。先ほどGPUの話が出てきましたが,クラウドサーバーで利用しているGPUはどういったものになりますか。
春日氏:
一般向けのGPUですね。ワークステーション用だと,DirectXのアクセラレーションが満足に行えない場合がありますので。
4Gamer:
細かい話ですが,GPUはNVIDIA製ですか。それともAMD製?
春日氏:
NVIDIAですね。NVIDIAさんと協力してクラウドサーバーを構築しています。ただ,たまたまNVIDIAさんと縁があったというだけで,他社製GPUではダメということではありません。
4Gamer:
となると,そのほかのサーバー用ハードウェアも,コンシューマ市場というか,自作PC市場で販売されているものを使っている感じでしょうか。
春日氏:
クラウドサーバーで使用しているハードウェアは,我々が設計したものを使ってます。市販のモジュールを利用している場合もあれば,カスタム品を利用していることもあります。サーバーメーカーに我々のパートナーがいまして,そこと協力しながら専用のクラウドサーバーを作っている,と。
4Gamer:
ゲーム向けクラウド専用サーバーで,なおかつ自社設計だと,かなりのコストがかかりそうですが,そのあたりはいかがでしょう。
そもそも通常の商用サーバー機には,我々の用途に合うものがなかったので,自社で用意せざるを得なかったのです。
ただ,結果的には安く上げられたという実感があります。一般的なサーバーとジークラウドのサーバーとでは,チューニングする部分が異なっていまして,強化すべき部分にだけコストを投入できたからです。
4Gamer:
ジークラウドのサービスは始まったばかりですが,今後プレイヤーが増えればクラウドサーバーの負荷も増大すると予想できますよね。何か対策はありますか。
春日氏:
プレイヤー数に応じてスケールするようなサーバー設計をしているので,基本的にはプレイヤー数に応じてクラウドサーバーを追加していけばOKです。規模の制約もありません。追加にあたって,サーバーへの投資はもちろん必要になりますが。
4Gamer:
プレイヤーが増加すると,クラウドサーバーの運営コストが問題になりそうですね。
春日氏:
対応端末である「GALAXY Tab 10.1 LTE SC-01D」と「ARROWS Tab LTE F-01D」の目標販売台数がNTTドコモさんから伝えられていまして,その数をさばける規模のサーバーを用意しています。
ゲームタイトルを“クラウド対応”させるときの
キーポイントは3つ
4Gamer:
クラウドサーバー側はなんとなくイメージできてきました。
次はプレイする立場から気になる部分をお聞きしたいのですが,ジークラウドはモバイル向けのサービスですよね。モバイル回線は帯域幅が大きく変動するかと思うのですが,何か対策をされてますか?
春日氏:
通信状況によってビットレートを自動的に変える仕組みを採用しています。ゲームにおいては,画質よりもラグのほうが大きなポイントになるので,ラグ(≒表示遅延)が発生しないように画質を調節してビットレートを落とすというイメージですね。
4Gamer:
帯域幅を確保しづらくなると,画質が落ちるわけですね。
春日氏:
とはいえ,最近の動画圧縮技術は優れているので,画質の低下は気づきにくいと思います。
4Gamer:
実際,どの程度の帯域幅が必要なんでしょうか? 具体的な数字があればお聞きしたいのですが。
春日氏:
ゲームタイトルによるというのが正直なところです。カジュアルゲームなら3G回線でも遊べますし,アクション性が高いゲームだともう少し大きな帯域幅が必要になります。
ドラゴンネストは解像度が非常に高く,かつアクション性も高いゲームなので,ある意味限界への挑戦といったようなところがありました。
では,ドラゴンネストなら具体的にどれくらいの帯域幅が必要になりますか。
春日氏:
具体的な数字は公表できないのですが,「無線LANやLTEを使った通信なら問題なく遊べる」というメッセージを我々は出しています。いわゆるブロードバンドの回線帯域幅があれば十分プレイできます。自宅ならADSL以上あれば大丈夫で,上り帯域幅はほとんど関係ありません。プレイヤーの操作データを少し送っているだけですからね。
4Gamer:
「ジークラウド,というかUbitusのシステムでは技術的に対応できないゲーム」というのはあるのでしょうか。
春日氏:
ムーアの法則があるので,ハードウェア的には青天井だと思います。「技術的にできない」というより,許諾の問題であるとか,ビジネス的な制限のほうが大きいと思います。
4Gamer:
クライアント側でプレイヤーの操作をキャプチャしてクラウドサーバーに送信しているわけですが,キャプチャできない操作などはありませんか? たとえばモーションキャプチャとか……。
春日氏:
実験室レベルでは,Kinectのようなモーションキャプチャデバイスによる操作も実現できています。ユーザーの操作をどうマッピングしてクライアントからサーバーへと送るかだけなので,理論的にはどんなデバイスでも対応可能とお考えください。
4Gamer:
立体視はどうでしょう?
春日氏:
技術的には立体視にも対応していますから,対応するコンテンツさえあれば,いつでも提供できます。左右の視点に向けた画像を横方向に圧縮し,1画面で同時に表示させて立体視表示をさせる,サイドバイサイドという規格をご存じだと思いますが,これを使えば立体視表示用のストリーミングが可能です。
4Gamer:
音声のチャットも問題なさそうですね。
春日氏:
はい。
4Gamer:
ゲームベンダーがジークラウドにタイトルを提供しようとする場合,ゲーム側ではどういった対応が必要になりますか。
ゲームタイトルを提供していただくときには,ポイントが3つあります。
1点めは,フルタッチデバイスでの仮想ゲームパッドをどのようにデザインするかです。ゲームパッドでプレイしたときと,タッチスクリーンの仮想ゲームパッドでプレイしたときとでは,遊び心地がかなり変わってくるため,仮想ゲームパッドでもプレイしやすいデザインにすることが,最も重要なポイントになるわけです。
もちろん我々で仮想ゲームパッドの雛形を提供しますが,カスタマイズしたい場合は,デベロッパさんのほうで,XMLの設定ファイルをチューンしていただくことになります。
「特定のシーンではこのボタンを連打するので,指が届く位置に配置したい」といったようなリクエストを受けて,我々のほうからデベロッパさんにデザインを提案することもあります。仮想ゲームパッドをシーンごとに切り替えるたりすることもできるので,街のシーンと戦闘シーンとで自動的に切り替えたり,なんてことにも対応可能です。
4Gamer:
仮想ゲームパッドではなく,実際のゲームパッドへの対応を予定してますか?
春日氏:
ゲームパッドへの対応は現在進めているところです。まだ提供時期は調整段階ですが,AndroidがサポートするBluetooth接続のゲームパッドへ対応させるように開発を進めています。ちょうど開発の最終段階ですね。
4Gamer:
……と,話を戻させてください。ゲームを対応させるにあたって,残りのポイントは何でしょうか。
春日氏:
残り2点は,ゲーム本体に関するものになります。クライアントの多重起動と,画面のフッキングを可能にしてもらうという点です。
多重起動は,クラウドサーバー上で同時に多数のインスタンスを並列起動する必要があるためですね。画面のフッキングは,ゲームのアンチチートツールによって許可されない場合があるので,例外リストにクラウドサーバーの仮想システムを追加する必要がある,といったところです。
この3つさえクリアできれば,ほとんどのゲームタイトルはジークラウドに対応できます。
4Gamer:
構造的に多重起動できないゲームもあったりするのでしょうか。
春日氏:
非常な特殊な作りのゲームタイトルでは難しい可能性もあるとは思いますが,見かけないですね。ほとんどの場合,多重起動は意図的にブロックされているので,それを外せばいいだけです。少なくとも我々がテストしてきた限り,多重起動できないケースはいままでありませんでした。
「ストリーミングという,新しい
ゲームの愉しみ方を提案していきたい」
4Gamer:
ちょうど同じようなタイミングで,欧州において「OnLive」というクラウドゲームサービスが始まりました。だいたい同じようなサービス,という認識を多くの人が持っていますし,私達もそう考えているのですが,具体的に「ここが違う」というポイントを教えていただけますか。
春日氏:
いや,もうそれは,技術面,ビジネス面の両方で多々あります(笑)。
おそらく決定的な違いは,OnLiveが,ゲーム機のリプレースを目指したサービスである点です。OnLiveの場合,ハイスペックなクライアントと広い帯域幅を使って,高品質なゲームを提供する方向に向かっていますよね。専用のクライアントを購入して,常時広帯域のネットワークと接続する必要があるわけです。
その点,我々のジークラウドは,まず,ゲーム機と共存するサービスを志向しています。また,モバイル端末がターゲットではありますが,それだけでなく,ケーブルテレビのセットトップボックスなど,従来はゲームプレイなど考えられもしなかったような機器もターゲットにしています。クライアントと帯域幅のハードルを下げているのがポイントですね。
4Gamer:
しかし,ハードルを下げるといっても限度があると思います。下限はどのくらいを想定していますか。
春日氏:
たとえば,セットトップボックスなら,MIPS Technologies製プロセッサで,動作クロック200MHz程度のものを搭載して,デコーダとしてDSP(Digital Signal Processor)を組み合わせたものなら,普通に動作することを確認済みです。ビデオのデコードとネットワークさえなんとかなれば,かなり昔のセットトップボックスのような製品にも対応できます。
4Gamer:
コンシューマゲーム機でいうとPlayStation 2程度のスペックがあれば問題ない,といったところでしょうか。PlayStation 2向けにPCゲームを配信することすら可能ですね。
春日氏:
それはソニー・コンピュータエンタテインメントがどう考えるかによりますね(笑)。技術面での準備はできているので,ゲームをサービスしようとするプラットフォームプロバイダが出てきたら提供する,というのが我々の考え方です。
4Gamer:
スペックが低いNetbookなどといったWindows採用PCでも,クラウド型ゲームサービスを利用したいと考えているユーザーは多そうですが。
春日氏:
TGS 2011でNetbookを使った技術デモを実施しましたが,反響は大きかったですね。「こういうのがあったら嬉しいね」という声をたくさんいただきました。
4Gamer:
PC向けにサービスするということを考えると,サービス主体はどういった企業が考えられるでしょうか。
春日氏:
サービスの提供にはさまざまな方法があると思います。たとえば,PCメーカーがPCにジークラウドをバンドルして,我々といっしょにプロモーションを行うというようなやり方もあるでしょう。協業できるPCメーカーがあれば,ぜひやりたいと思っています。
4Gamer:
いまのところ対応しているクライアントはAndroidとWindowsということですが,ほかに予定はありますか?
春日氏:
現時点で技術的に対応しているのは,Windows Mobile 6/7,iOS,そしてセットトップボックスで3,4種類のチップセットです。あとはSymbian OSにも対応していますが(笑),さすがに古いので,今後の需要はないでしょう。
4Gamer:
いずれにせよ,これまでのモバイル機器において,クライアントの3D性能を伸ばす方向に突っ走っていましたが,ジークラウドが普及すると3D性能がいらなくなくなりますよね。そういった意味で非常に大きなパラダイム転換だと思います。
「いらない」ということにはならないと思います。音楽だと,パッケージがあって,ダウンロードがあって。ストリーミングがありますよね。ゲームにおいても,その3つが共存し続けると我々は考えています。
パッケージにはパッケージの楽しみかたがあり,ダウンロードタイトルも,それはそれで需要があるでしょう。モバイル端末の3D性能は今後も必要になり続けるはずです。そのほかにストリーミングもあるというのが,ジークラウドのメッセージなんですね。
ストリーミングを含めた3パターンで,ゲームの楽しみ方が発展していく。これが,ゲームのパラダイムチェンジではないかと考えています。これまでゲームにはストリーミングという概念がなかったので,欠けていた3つめのピースを,ようやく,我々が用意できたのではないかと。
4Gamer:
「全部ひっくり返してやるぜ!」というわけではなく,選択肢を増やしていくというわけですね。
春日氏:
そうですね。なので,「ストリーミングに向いたタイトル」というものを作っていただけるよう,我々からデベロッパに働きかけていきたいとも考えています。どういったゲームがストリーミングに向いているのかまだ分かりませんが,ゲームクリエイターが自由に発想してもらうことが大事ではないかと。
「モバイルやモバイル回線の進歩と
ともに発展していきたい」
4Gamer:
UbitusさんはB2B(※Business to Business。一般消費者ではなく,企業に製品やサービスを提供する事業形態)ですから,自社でタイトルを手掛けたりはしないと思いますが,自分達でやってみよう,という思いに駆られることはありませんか。
春日氏:
クラウド型ゲームサービスのポテンシャルは大きいですが,しかし,エコシステム(※ecosystem。ここでは「業界全体の収益構造」の意)が重要だと考えています。我々だけでサービスの提供から技術開発までのすべてを行うという道もないわけではありませんが,業界全体の英知を結集して,それぞれの価値感や得意分野を持ち寄り,クラウド型ゲームサービスを育てていけたらいいと思っています。
4Gamer:
ただ,「こんなゲームを提供したい」と思っても,思いどおりにならないということはありますよね。
春日氏:
そこはいろいろな考え方があると思います。我々が展開していきたいところでパートナーを探すというのも手段の1つでしょう。幸いにして,パートナーのオファーはたくさんいただいているので,どのような展開で進めていくか,クラウド型ゲームサービスをどう進めていくか検討しているところです。
4Gamer:
なるほど,ジークラウドとの枠内だけでなく,その枠を超えたところでも,いろいろと動いているわけですね。ところで,クラウド型ゲームサービスは,Ubitusさんの本拠地である台湾では始まっているのでしょうか。
春日氏:
いえ,日本のジークラウドが世界初です。
4Gamer:
では,世界展開という意味でも,Ubitusさんにとってジークラウドの成否はかなり重要になってきますね。
春日氏:
もちろん重要ですし,各国からも注目をいただいてます。
たとえば,欧州のキャリアからも問い合わせがありました。タブレットやスマートフォンは,確かに従来のモバイルデバイスからグラフィックスが大きく進化していますが,それでも,PCやゲーム機はレベルが違います。それをモバイル端末でプレイできるということが,大きな意味を持っているわけです。
4Gamer:
エンドユーザーとして気になるのは,本当にこれからゲームタイトルが増えていくのかというところですが,このあたりはいかがでしょうか。
キャリアにとってのクラウド型ゲームサービスは,遊び心地はどうなのか,儲かるのか,などを確認している段階だと思います。そのあたりを1つずつ確実に実証していけば,ゲームタイトルも次第に増えていくでしょう。
そのために我々は,「クラウド型ゲームサービスでこういう遊び方ができる」というのをマーケットに発信していく必要がありますね。そして,「なるほど,タブレットやスマートフォンではとうてい無理だと思っていたようなゲームもストリーミングでプレイできるんだ」と思われるよう,ゲームタイトルを充実させていきたいと考えています。
4Gamer:
どのようなジャンルのゲームタイトルがクラウド型ゲームサービスに適していますか?
春日氏:
実は我々にとっても,まだ試行錯誤をしている部分が多いですが,重要なことは,「こんなゲームタイトルならこういう方向がいいんだな」と我々が判断するのではなく,プレイヤーに判断してもらうことですね。実際にプレイしてもらって,これはいいねとか,これはダメだねとか判断してほしいと考えています。
4Gamer:
ところで,将来の話になると思いますが,たとえば購入したゲームをクラウドに置いて,場所を問わずプレイできるようにする,といったことはできませんか。
春日氏:
セーブデータという観点であれば,ドラゴンネストではすでにできていると思います。
一歩踏み込んで,プログラムの共有ということであれば,Samsung Electronicsが展開している「Pocket Media」というサービスがあります。これは音楽や動画を共有できるサービスで,Ubitusの技術が採用されています。
ですから,「家の中にサーバーを置いて,そのサーバー上で動作しているゲームを配信する」ということは技術的には可能だと思います。公衆送信にならなければ,私的利用の範囲に含まれると考えていますから,総合的にも不可能ではないと思います。バックボーンや上り方向の帯域幅を考えると,光回線が望ましいとは思いますが。
4Gamer:
そういったサービスを展開する予定や計画のようなものはありませんか。
春日氏:
優先順位としては,何よりもまず,クラウド型ゲームサービスがどんなものなのかを広めるのが先決だと考えています。楽しみ方のバリエーションは,次の段階で提案すべきでしょう。
4Gamer:
そろそろお時間のようです。最後に,今後ジークラウドをどのように展開していくのか,ロードマップをぜひ聞かせてください。何か具体的に決まっていることはありますか。
春日氏:
2モデルのXiタブレットでの対応からスタートしたジークラウドですが,どの程度の期間で拡大していくかはマーケットのニーズによる部分が大きいと考えているので,我々でも予想し切れていません。
ただ,スマートフォンやセットトップボックス,スマートテレビなどは,2011年から2012年にかけて盛り上がってくるジャンルだと考えていますので,それに歩調を合わせていきたい,とは考えています。ゲームそのものの盛り上がりというのはもちろんですが,来年はKDDIがLTEに参入しますし,ソフトバンクモバイルも高速通信規格を発表しています。これらのブロードバンドモバイルの流れ,テレビのインターネット接続,そしてセットトップボックスやIPテレビの新しい動きに,我々もスピードを合わせていきたいと思います。
“インターネットOS”的なものも,これから新しい製品が出てくるでしょう。そうした新しいデバイスと常にシナジー効果をもたらせる形で,クラウドゲームというものを広げていきたいですね。
……というわけで,ジークラウド,というかUbitusの持つクラウド型ゲームサービスについて,技術面から今後の話まで,さまざまに語ってもらった。
どうもOnLiveのイメージが強すぎたためか,直接話を聞くまで,筆者はUbitusが「モバイル端末のGPUを不要にしてやろう」的な,大胆なことを考えているのではないかと想像していたのだが,実際には,既存のプラットフォームと共存共栄を図る,穏やかな方向を模索しており,これはこれで素直に驚いたというのが正直なところである。
懸念はなんといっても,ジークラウドがまだ始まったばかりのサービスであるということと,対応タブレットが2製品,対応ゲームタイトルも2本と,非常にこぢんまりとしたスタートを切っていることだ。技術的には非常に面白く,インタビュー中にもあったとおり,さまざまな可能性を持つクラウド型ゲームサービスだが,市場が広がらなければ対応ゲームタイトルが増えず,対応ゲームタイトルが増えなければ市場も広がらないという,悪いサイクルに入りかねない。
春日氏は,クラウドゲームサービスの実用性を実証していけば必ず花開くと考えているようで,Xiタブレットへの独占提供が終わる2012年3月末以降,より多くの端末に対応していく可能性も臭わせていたが,それは,Ubitusだけではどうにもならないところ。サービスをユーザーに提供するNHN Japanがどれくらい力を入れてくれるかが,行く末を大きく左右しそうな気配だ。もちろん,独占提供の期間内は,共同プロモーションを行っているNTTドコモの力も借りなければならないと思う。
技術的にはとにかく魅力を感じられるサービスだけに,早急に,キラータイトルを用意する必要があるのではなかろうか。一度火が付けば,口コミで広がっていきそうなほどには可能性があると思われるだけに,二の矢,三の矢が矢継ぎ早に放たれることを強く期待したい。
ハンゲーム(NHN Japan)のジークラウド紹介ページ
Ubitus日本語公式Webサイト
- 関連タイトル:
ドラゴンネストR
- 関連タイトル:
GameNow(旧称:ジークラウド)
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