インタビュー
「逆転裁判5」は新規層が安心して入り込め,コアなファンでも満足できる内容に――意欲的な施策の数々を,プロデューサーの江城元秀氏とシナリオディレクターの山﨑 剛氏に聞いてきた
逆転裁判シリーズといえば,個性的な登場人物達やパラドキシカルな発想による“逆転”の法廷バトルが特徴だ。「逆転裁判5」では,成歩堂龍一が主人公に返り咲き,暗黒の時代が訪れた法曹界で“真実”を見つけていくことになる。
また,プラットフォームが3DSになったこともあり,3DCGのポリゴンモデル,声優によるボイス,そしてアニメーションパートなど,ビジュアル/サウンド面がこれまでのシリーズ作品から大幅に進化しているのもポイントだ。
今回4Gamerでは,「逆転裁判5」のプロデューサーである江城元秀氏と,シナリオディレクターの山﨑 剛氏にインタビューを実施した。企画の発端からゲームに導入された新要素を完成させるまでの経緯,そしてファンの期待に応えるための施策など,さまざまな話を聞いてきたので,ぜひ最後まで読み進めてほしい。
なお,極力ネタバレには配慮しているが,記事の性質上,ゲームの内容に触れざるを得ない部分もあるので,その点はあらかじめご了承を。ゲームを完全に前情報なしで楽しみたいという人は,第3話程度まで進めてから読むことをお勧めする。
「逆転裁判5」公式サイト
4Gamer:
本日は,よろしくお願いします。
「逆転裁判5」は,前作となる「逆転裁判4」からだと実に6年ぶりのリリースになります。ナンバリングの続編が発売されるまでに,これだけの期間が空くケースは珍しいと思いますが,どういった経緯で実現したのでしょうか。
まず「逆転」シリーズでは,弊社の巧※が「逆転裁判」シリーズを,その世界観を使った「逆転検事」シリーズを私と山﨑のチームが作ってきました。「逆転」シリーズ全体として見ると,「逆転裁判4」以後の6年間にも,シリーズとして何かしらのタイトルを提供してはいるんですね。
2012年にはレベルファイブさんとの共同制作で「レイトン教授VS逆転裁判」というタイトルが発売されましたが,このプロジェクトには巧が参加していますから,こちらも紛れもなく,シリーズ作品の一つとして数えられます。
※「逆転裁判」シリーズの生みの親であるカプコンの巧 舟(たくみ しゅう)氏
4Gamer:
確かにそういう意味では,ナンバリングタイトルが出なかったというだけで,「逆転検事」が2009年5月,「逆転検事2」が2011年2月,「レイトン教授VS逆転裁判」が2012年11月の発売と,2年以内の周期でしたね。
江城氏:
その背景には,「逆転」ファンの皆さんに喜んでもらえる状況を,なるべく期間を空けずに作り出したい,という思いがあったからです。
そして,「逆転検事2」が発売されて,2011年の夏頃にプロモーションがひと通り終わったタイミングで,“次”をどうするかという話題が社内で上がったんです。「逆転検事3」を作るか,それとも本家の続編をそろそろ作ろうかという話だったので,「『逆転裁判5』をやりましょう」と,私から提案しました。
4Gamer:
どちらを選んでも期待されるタイトルになったとは思いますが,「逆転検事3」ではなく「逆転裁判5」を選んだ決め手は何だったのでしょうか。
江城氏:
やはり,「逆転検事」シリーズのときから,多くのファンの皆さんが「逆転裁判5」を待ち望んでいるという声を,アンケートなどを通じていただいていたことですね。
また,「逆転検事」シリーズ2作がユーザーの皆さんに受け入れられて,一定の実績を作れたことで,ナンバリングタイトルでも作れるという確信につながったのも大きいです。「逆転検事」シリーズの経験がなければ,「5」を作ろうとは思わなかったでしょう。
4Gamer:
その経験というのを,もう少し具体的に教えてもらえますか?
江城氏:
まず「逆転」シリーズは,カプコンの中でもとくに独特の世界観を持っている作品です。言葉にはできない特別なセンスのようなものがあって,それをつかんで初めて“分かっている”ものが作れるんです。上っ面を真似しただけでは,絶対に作れません。
「逆転裁判5」のスタッフは,「逆転検事」シリーズの開発経験者を中心に構成しましたが,オリジナルの「逆転裁判」シリーズの開発には携わっていたのは,シナリオディレクターの山﨑とサウンドを担当したスタッフくらいです。
プロデューサーとしては,ファンの方々に「これは『逆転裁判』じゃない」と言われないためにも,現場のスタッフが「逆転裁判とはなんぞや」という認識を共有できていることが必須条件だと考えていたんです。
4Gamer:
それが,「逆転検事」シリーズの開発経験で培われたと。
江城氏:
ええ。そうでなければ,踏ん切りはつかなかったと思います。
山﨑にしても,「逆転裁判4」のあとにいきなり「逆転裁判5」をやれと言われても,できなかったでしょう。「逆転検事」で生みの苦しみを味わい,その続編である「逆転検事2」で,前作を上回るためのドラマやキャラ作りという試練を経験し,そのハードルを越えたからこそ,今回「逆転裁判5」が作れたんだと思います。
現場のスタッフも,「逆転検事」「逆転検事2」の開発を経験したことで,「逆転裁判とはなんぞや」という意識を明確に持てるようになりました。
4Gamer:
シナリオは,最初から山﨑さんで行こうと決めていたのでしょうか?
江城氏:
そうですね。当時,巧はすでに「レイトン教授VS逆転裁判」のプロジェクトに参加していましたし,「逆転検事」シリーズのシナリオは,山﨑が中心になって動かしていましたから。「逆転検事2」が終わったところだったので,山﨑をほかのタイトルに取られる前に,さっさと捕まえてしまおうと(笑)。
4Gamer:
山﨑さんは,「逆転裁判5」のシナリオを打診されたとき,どう感じましたか?
実は,「逆転検事2」の開発休暇明けから,社内に「次は『逆転裁判5』だ」という空気が漂っていたんですよ。ですから,江城に打診される前から,なんとなく覚悟はしていました(笑)。
僕自身,「逆転裁判 蘇る逆転」以降ずっと「逆転」シリーズの開発に携わってきた中で,長らく「逆転裁判」のナンバリングタイトルが作られていない状況は,悲しいと感じていました。
「逆転」ファンの期待に応えたいとずっと思っていて,「誰かが続編を作らなければいけない」と考えていたんです。その誰かというのが僕に回ってきたわけです。これはやるしかないだろうと思って,すぐに「やります」と返事をしました。
4Gamer:
山﨑さんは「逆転検事2」のインタビューのときに,開発中にネタを出し尽くすから,次の作品でまた一からネタを考えるのが大変だと話していましたが,今回もそうだったんですか?
山﨑氏:
今回は,「逆転裁判」シリーズのナンバリングタイトルということで,江城からいくつかのお題を最初に提示されていたんです。それらを聞いて,どうやってクリアするか武者震いしたというか,意欲がわきましたね。逆に,好きなように作っていいと言われたら,迷ってもっと時間がかかっていたかもしれません。
4Gamer:
そのお題とは,どういうものだったのでしょうか。
私がオーダーしたのは,「逆転裁判5」の主人公は成歩堂龍一にすること,王泥喜法介をキーパーソンとして出すけどダブル主人公にはしないこと,そして新しいパートナーを出すことです。やはり「逆転裁判5」では,なるほどくんが法廷に立つ姿を描きたかったんです。
「逆転裁判4」で弁護士ではなくなってしまったということがありましたが,エンディングで「もう一度弁護士になってもいいかな」という発言をしていたので,本人が言っているんだからそこは大丈夫だろうと(笑)。
4Gamer:
そのオーダーを山﨑さんはどう受け止めたのでしょうか。
王泥喜法介 |
希月心音 |
僕自身,なるほどくんを復活させたいという思いがありましたし,オドロキくんも「逆転裁判5」で活躍させたいという気持ちも強かったので,その点では,江城と意見は合致していました。それをどう実現するのか,考えるのはけっこう大変でしたけど(笑)。
また,新パートナーの希月心音は,“一緒に戦うヒロイン”にしようということで,弁護士という設定にしました。
ただ,結果として,なるほどくん,オドロキくん,心音と弁護士が3人登場することになったので,それぞれの立ち位置を整理して活躍の場を作るのに,相当頭を悩ませることになってしまったのですが……。
江城氏:
キャッチコピーの「法廷崩壊」も,「逆転裁判」のナンバリングを企画するにあたって,「まずはインパクトのあるキャッチコピーがほしい」と,私が山﨑にオーダーしたんです。
でき上がった企画書を見たら「法廷崩壊」とあって,「何これ,法廷が爆発すんの?」と聞いたら,山﨑が「そうです」と。「えー,話はどうなんの?」「これから考えます」みたいな感じで(笑)。
4Gamer:
けっこう勢い重視なんですね(笑)。
山﨑氏:
ほかにもいくつかアイデアはあったのですが,江城に見てもらって,一番インパクトがあったのが「法廷崩壊」だったんです。言葉の響きが良かったという理由もありました。
やはり6年ぶりのナンバリングタイトルですから,インパクトを持たせないと,なかなか注目してもらえませんからね。
これまで僕が書いてきた「逆転検事」シリーズのシナリオでは,描きたいストーリーが先にあったのですが,「逆転裁判5」ではキャッチーさや切り口から考えた,というのが,一番違っていた部分かもしれません。
江城氏:
「逆転裁判3」のキャッチコピーが「法廷、震撼」,「逆転裁判4」のときが「新章開廷!!」だったので,「逆転裁判5」でも,漢字4文字の言葉を使いたかったんです。なので,「法廷崩壊」がキャッチーでうまくハマったんですよね。
山﨑氏:
もう一つのキーとなるのが,なるほどくんが「逆転裁判4」で口にした「法の暗黒時代」という言葉です。これまでは,その言葉が何を意味しているのか分からないままでしたが,「逆転裁判5」のストーリーでは,それをきちんと描いています。
4Gamer:
ストーリーと言えば,「逆転裁判5」では事件のバリエーションがかなり豊かですよね。
山﨑氏:
第1話は爆弾で法廷が爆破され,第2話では妖怪が出てきて騒ぎを起こす,第3話は学園を舞台に事件が起きるというように,題材は一つ一つ厳選しました。各話とも,インパクトのあるネタを最初に考えています。
トリックから先に考えることもありますけど,話自体が面白くなければ意味がないですからね。パズルのように,お題に合わせて話を作り,話に合うトリックを入れるというように作っていきました。
4Gamer:
ちなみに,題材はどのようにして決めていったのでしょうか。
山﨑氏:
まずはスタッフと一緒にブレインストーミングをします。枷を作らず自由に考えることが大事なので,とにかく最初は否定をしないでアイデアをバンバン出して,その中から面白くなりそうなものを選んでいくという形ですね。……だから,あとでトリックや話を考えるとき,大変になるんですが(笑)。
もちろん,各話の要素にもきちんとストーリー全体としてのつながりを持たせていますし,どの話を取っても面白いと思いますので,ぜひ注目してください。
「逆転裁判5」は,初めてシリーズに触れる人にも優しいアドベンチャーゲームに
4Gamer:
「逆転裁判5」が発表されたのは,2012年1月29日に開催された10周年記念イベントの「逆転裁判10周年 特別法廷」でしたが,そのときの反響はどうでしたか?
江城氏:
イベントでは,制作の告知とロゴを発表するだけだったので,事前は「反応があったら嬉しいな」くらいで考えていたんです。でも,発表したら地響きのような大歓声が上がって,「これはまずいな」と思いました。
当時は,最初のプロットが上がって,「こういう風にやればいけるんじゃないか」という感じで,構成とビジュアルの方向性が何となく見えてきた段階だったんですけど,これだけ期待されているなら,それこそ死ぬ気でやらないとダメだと。
その日以降「ふんどしを締め直した」と言いますか,現場の空気は一変しましたね。
4Gamer:
何とかなりそうだと思えるようになったのは,いつ頃でしたか?
江城氏:
「この構成なら問題ないだろう」という形が見えたのは,東京ゲームショウ 2012の直前くらいでしたね。
山﨑氏:
とは言っても,そこから実際にゲームに落とし込んでみて,「やっぱりダメだ,最後の盛り上げをもう一度考えよう」となったんです。本当に「これで行ける!」と思ったのは,何だかんだで2013年に入ってからです。一言で言えば,ずっと大変でした(笑)。
4Gamer:
「逆転裁判5」は,ナンバリングタイトルの5作目ということで,多くのファンが期待している作品だと思います。一方で,メーカーとしては新規層の獲得も命題の一つだと思うのですが,新規層に向けて,どのような配慮をしたのでしょうか。
江城氏:
「逆転」シリーズも,第1作の「逆転裁判」から数えると10年以上経過しています。今では,映画になり,宝塚歌劇になり,そして舞台になりと,ゲームをやったことがなくても,「逆転裁判」の名前を知っている人は増えてきました。
しかし,いざゲームを遊んでみようとすると,もう「5」なんですよ。私もそうですが,シリーズものでいきなり「5」から始めるなんて,相当ハードルが高いですよね。
そのハードルを越えて最新作を手に取ってくださった皆さんに余計なストレスをかけないよう,シリーズ初見のプレイヤーにはとくに優しい作りにしています。
4Gamer:
具体的には,どのようなところが例として挙げられますか?
江城氏:
たとえば,これまでのシリーズを知らないと分からないような内輪ネタは,「だからナンバリングはイヤだ」と思われてしまう原因になりかねませんから,排除しています。
現場には,「逆転裁判5」のあとに過去作品をプレイしたら2倍面白くなるような内容にしよう,というオーダーをしました。
山﨑氏:
初見の方が楽しめる内容をベースにして,過去作品を知っている人ならニヤリとできる小ネタを入れるといったバランスを心がけました。その小ネタも,琴線に触れた人があとで過去作品をプレイしたら,ニヤリとできるようなものになるように配慮しています。
また,新ヒロインの希月心音を入れたのも,初見の方に向けた配慮の一環です。「逆転裁判5」の世界に初めて踏み込む心音の視点は,新規プレイヤーの方とリンクする部分がありますから,自然な形で案内役になるように物語を構築しています。
4Gamer:
確かに,なるほどくんやオドロキくんのように,過去作品に登場したキャラクターでそういうことをやろうとすると,どうしても説明口調になりそうですね。
山﨑氏:
チュートリアルも,今回は相当こだわって設計しています。社内で「逆転」シリーズをプレイしたことのない人にプレイしてもらって,その動向を一つ一つデータでチェックしながら,分からなくなったり詰まってしまったりするような部分を改善していきました。
また,10年以上の年月の中で,ゲームの楽しみ方やプレイスタイル自体が大きく変わっています。そこを考慮せずに,開発側が「こう遊んでほしい」という部分を押し付けてしまうと,プレイするうえでの無用なストレスを与えかねません。
たとえば,過去の「逆転」シリーズでは,やり直しの利かないギリギリのストイックさを楽しんでほしいという気持ちの表れから,セーブデータが一つしか保存できませんでしたが,プレイする側からすると,二つあったほうが単純に便利ですよね。
プレイ中にストーリーを読み返せるバックログを付けなかったのも,書き手が魅力的かつ一気に読める分かりやすい話を書かなければならない,という意思の表れですが,プレイする側からすると関係ないこだわりです。
ストーリー上,きちんと考えないと先に進めないというようなストレスならまだしも,ユーザーインタフェースが不親切だったり,無駄に迷わせたりすることは,ユーザーさんにとって大きなストレスになります。それであれば,ユーザーフレンドリーな機能を持たせて,無用なストレスは避けましょうということです。
4Gamer:
確かにそうですね。ただ,シリーズのコアなファンからすると,ストイックさあってこその「逆転裁判」だ,という意見も出てきそうですが。
江城氏:
もちろん,ユーザーフレンドリーな機能を持たせたというだけで,ゲームを簡単にしたという意味とは異なります。
歯ごたえのある本格的なミステリーとして,「逆転裁判」シリーズを求めるファンの皆さんもたくさんいらっしゃいますから,そういったガチなファンの方々がストイックに楽しめるよう,ユーザーフレンドリーな機能の入れ方には気を使いました。
そういった機能は前面に押し出さず,間違い続けると「何々を確認してみよう」みたいなメッセージが表示されるようなこともありません。
プレイヤーが自分から使おうとしない限り,まったく使わずに最後まで進めることもできますし,使いたければいつでも使えます。いわば,自然とかゆいところに手が届くようなものにしたかったんです。
- 関連タイトル:
逆転裁判5
- この記事のURL:
(C)CAPCOM CO., LTD. 2013 ALL RIGHTS RESERVED.