プレイレポート
「アーシャのアトリエ」を先行プレイ。システムの簡易化と世界観の強化によって,より間口の広い“RPG”へと成長したシリーズ最新作
アトリエシリーズとしてのナンバリングは14番目となる本作は,ロロナやトトリ,メルルといったキャラクターが活躍し,近年人気を博した“アーランド”シリーズの流れを一度リセットし,新たな世界での物語を描く。また,伝統だった納期を撤廃し,戦闘には距離や位置の概念を取り入れるなど,これまでのシリーズにはなかった変化も多数見られる。果たしてそのプレイフィールは,どう変わっているのだろう。
ひとりぼっちから始まる,ちょっと儚い物語
アーシャのアトリエは,人類がゆるやかに“滅び”へと向かっていく「黄昏の時代」を舞台とする。枯れていく土地,育たなくなる食べ物,人々はたまに得られる前時代の遺跡からの恩恵を受けつつ慎ましい生活を続けているが,それすらも徐々に枯渇し始めている。
時代背景からはもの悲しさを感じるが,意外にも人々は穏やかに暮らしており,プレイしていて悲壮感にかられることはない。世界の行く先は,崩壊というよりも安息といった印象で,街ゆく人々の会話からは,諦めにも似た余裕が感じられる。
主人公アーシャは,人里離れた平原にぽつんと建ったアトリエに一人で暮らす薬士の少女だ。元々は祖父と妹の2人と一緒に暮らしていたが,祖父は数年前に他界,妹のニオも近くの遺跡で行方不明になってしばらくが経つ。
薬売りを生業にして日々まったりと生きていたアーシャだったが,ひょんなことからその生活に変化が訪れる。アトリエ近くの遺跡で見たニオの幻影,そこに咲いていたガラスでできた花,加えて,のちに錬金術の師とも呼ぶべき存在となる妙齢の男性キースグリフ・ヘーゼルダインとの出会いが,アーシャを妹探しの旅へと駆り立てた。「ニオが,どこかで生きている」。
手がかりのほとんどない状態からニオを探すために旅に出たアーシャをサポートするのは,炭鉱の街で出会う腕っ節の強い女性発掘屋レジナ・カティス,流浪の狩人ユーリス・グルンデン,行商が盛んな都市の駐在員として働くマリオン・クィン,そして,魔法修行の旅を続ける未来の大魔法使いウィルベル・フォル=エルスリート……。
ところで,ウィルベルは素晴らしいと思う。彼女は本当にかわいいのだ。とんがり帽子の下はおだんご頭で,長いピンクの髪をぐるっとまとめている。あまり見られるものではないが,戦闘中に技を使ったときはチャンスだ。穴が空くまで見つめよう。
戦闘といえば,戦闘開始時にウィルベルがとる挑発ポーズもいい。カメラ目線で左手を突き出し,掌を上にして手首を2回クイックイッ……最高だ。「パンプキンボム」という技をつかったときにほうきをヒップで叩く動作……天使だ。叩かれたい。「エレメントコール」で精霊を召喚したときのドヤ顔なんて見た日には,どちらが召喚された精霊か分からないくらいじゃないか。
一体どうしてこんなにも愛らしいキャラクターが生まれたのかと,その理由を冷静になって考えてみると,世界観の構築もさることながら,3Dモデルに大きな要因があるように思う。
ガストがPS3向けにタイトルを出し始めてからここまで,3Dモデルのパートナーとして大きく貢献しているのがFlightUNIT(フライトユニット)という企業だ。アーシャのアトリエでも,もちろん同社がモデル制作を担当しており,2Dのイラストに限りなく近いカートゥーン調のモデリングと,それをアニメ・漫画チックに動かす技術に磨きがかけられている。立ち画とモデルが乖離しているような印象はほぼなく,スッと受け入れられるのが素晴らしい。
ちなみに,ゲーム内のキャラクターは3Dポリゴンで,2Dイラストが使われるのは特別なイベント時のみ。2Dイラストは近年の鮮やかなものよりは,ややセピアがかった,どこか昔のアトリエを彷彿とさせるデザインになっている。
物語の進行は,採取ポイントや各街をめぐり,錬金術を学びながらニオの手がかりを探すというもので,行動自体はこれまでのアトリエシリーズとほとんど変わらない。ただ,「この日までに何かをしなくてはならない」という目標はなく,アトリエの伝統であった“納期”は事実上撤廃されている。1年ごとの査定などもなくなったことで,短期的な目標となるのは,街の人から受けたクエストと,ニオに関する手がかり探しくらいだ。
ともあれ,アトリエの経営や街の復興といった明確な納期的目標にとらわれなくなった本作は,これまでのシリーズにあったシミュレーション風の要素をそぎ落として,より本格的なRPGへとシフトしていると言っていいだろう。このため,移動や調合の日数を計算し,計画を立てて行動する必要があった“アーランド”シリーズ以前のアトリエシリーズとは大分毛色が変わっており,これまでシリーズに触れたことのない人や,RPGが苦手だという人でもとっつきやすい仕組みになった。
新システムに加えて演出も強化された戦闘
納期をなくすことでプレイする際のハードルを下げてきたアーシャのアトリエ。では,戦闘の感触はどうなのかというと,意外にも簡単ではない。正確に言えば,プレイスタイルによって体感する難度に差が出てきそうな仕様だ。
戦闘はコストターン制で,キャラクターの行動に応じて,次の行動順が決まる。これは近年のアトリエシリーズではおなじみの戦闘方式だが,本作ではさらにキャラクターの位置と距離が重要になっている。敵の背面に移動して攻撃すれば,必ずクリティカルになる「Back Attack」が発動するし,味方が近くにいれば専用ゲージを利用し,移動動作を省いてBack Attackを放ったり,追撃を行ったりといった連携も可能だ。
防御面でも,前作まではサブキャラクターが主人公に対してしかできなかった「かばう」といったアシストが,すべてのキャラクターを対象とするようになったり,敵の範囲攻撃の対象となったキャラクターの近くにいる味方に,回避行動をとらせる「散開」という動作ができるようになったりと,行動の幅が広がっている。
こういったシステムを理解するのにさほど時間はかからないが,プレイスタイルによっては単純に敵が強くて苦労する可能性がある。というのも,アーシャのアトリエは短期的に見ると,キャラクターのレベルを上げた恩恵に比べて,装備を整えたときのステータス上昇効果のほうが大きく感じられるのだ。序盤は当然何も装備していない状態から始まるので,むしろ,装備の効果をより強く実感することになるだろう。
敵が強いのでレベルを上げるというのはRPGの鉄則なのだが,本作の場合はある程度先に錬金を進めて装備を調えるほうがいいかもしれない。最初は能力値の低い装備でも,あとから良い素材を使って作り直すこともできる。
戦闘中にアイテムをけちらないことも大切だ。下手に出し惜しみをしてパーティに広がった被害をあとで埋めるより,強力な戦闘用アイテムをぽんっと投げてしまうほうが1回の戦闘に時間をとられず,サクサクと進める。そしてこの事実に気づき,アイテムを消費することに抵抗がなくなると,派手な演出による爽快感のある戦闘を,存分に楽しめるようになるはずだ。
序盤はやっぱりおなじみの爆弾「フラム」,少し進んだら雷属性の広範囲攻撃アイテム「ドナーシュテルン」あたりがオススメ。アイテムを使えるのは基本的にアーシャのみ,というか,こういったアイテムを使わないと,ぶっちゃけアーシャは“お荷物”になる可能性が高い。要するに,アイテムありきの戦闘バランスになっていることは,意識しておこう。
最大2人まで連れて行けるパーティメンバーは,アイテムの代わりに固有スキルを使用できる。中には回復系のスキルを持っているキャラクターもいるので,パーティのバランスも考えたい。
戦闘そのものの爽快感やリズムの良さはシリーズの中でもトップクラスと言っても過言ではないので,ある程度戦い方のポイントを押さえておけば,楽しみながら物語を進められる。思うに,最近のアトリエは物語や戦闘といったRPGとしての面白さを追求する方向に,力を注いでいるのだろう。
余談だが,オススメのパーティメンバーはアーシャ(固定)とウィルベル,あとの一人は誰でもOKだ。
調合はより分かりやすく,採取にも追加要素あり
アトリエシリーズ最大の特徴ともいえる採取と調合は,かつてのシリーズに比べると非常に簡単で分かりやすいものになった。
まずは採取について。
マップ内の採取ポイントで採取を行うというのはシリーズとおして変わらないが,今作では採取の際にアイテムボックスを開いて「拾う/拾わない」の選択をする必要がなくなり,採取ポイントでボタンを押し続ければ,勝手に採取してくれるようになっている。
面白いのは,パーティメンバーが採取に協力してくれるという点だ。キャラクターごとに採取地の得意不得意があり,得意な場所のときはレアな素材を拾ってくれることもある。採取地とキャラクターの相性は,採取時のコメントですぐに分かるだろう。なんとなくキャラクターの性格や職業からも想像がつく。たとえば,発掘屋のレジナなら,鉱石の採取が得意といった具合に。
これまでのアトリエでは,自分の気に入ったキャラクター以外を使う積極的な理由がなかったが,本作では採取地によって連れていくキャラクターを変えるといった楽しみもある。採取地で見られるコメントもなかなか面白い。
ちなみに,“アーランド”シリーズ以前にアトリエをプレイしたことのある人は“鮮度”というシステムを知っているかもしれない。採取してから時間が経つにつれて,だんだんと素材が腐っていくというものだが,これは本作でも採用されていないので,長期間の遠征も楽々こなせるようになっている。
調合にも触れておこう。
素材ごとに付与されている特性を組み合わせて強力なアイテムを生み出していたこれまでのシリーズと違い,本作の調合はパラメータでどんなものができるか目視しやすくなっているのが特徴だ。
パラメータは「品質」と,属性「火」「水」「風」「土」の全5種類。調合後のアイテムはこのどれか,または複数項目に規定値が設定されており,素材を組み合わせてその規定値を超えられると,新たな効果が発現したアイテムを生み出せるという仕組みになっている。
規定値を超えるかどうかは調合する前に分かるうえ,一度見たことのある効果であれば,それが何かも一目で分かる。以前作ったアイテムと同じ効果のアイテムが欲しいというとき,比較的簡単に調合できるのが嬉しい。
アイテムの特性そのものは失われておらず,調合後のアイテムにはある程度素材の特性が受け継がれるようになっている。それを使って,より優れたアイテムを生み出すこともできるというわけだ。
また,消費アイテムを中心に,一対の調合素材で複数個のアイテムを生み出せるようになっているのが非常にありがたい。たとえば「燃料」「火薬」「中和剤」をそれぞれ1個ずつ投入して「フラム」を調合すると,完成するフラムの個数は大体3個くらいといったように,かつてのシリーズに比べると,圧倒的にコストパフォーマンスが良くなった。
調合したアイテムは,各アイテムショップに登録して生産してもらうこともできるため,消費アイテムの確保は格段に楽になっている。結果として戦闘で気軽にアイテムを使えるようになり,それが爽快感や快適さの向上に役立っているのである。
シリーズ初体験の人にもオススメしたい1本
今作では上記のほかにも新要素として,出会いや出来事を日記に書いてボーナスを得る「想い出を紡ぐ」というシステムがある。クエストや会話をとおして入手できる「想い出ポイント」を消費し,日記を付けることで,新たなアイテムを調合可能になったり,ステータスが上昇したりする。キャラクターの強化にも役立つが,気に入ったキャラクターとの出会いを振り返る日記としての本来の役割も果たしてくれる。
本作はマルチエンディングなので,どのキャラクターと共に旅を続けるのかも重要になってくる。日記を付けて紡いだ,主にウィルベルとの想い出を振り返りつつ,ニオの手がかりを探していきたい。
アトリエシリーズは,可愛い見た目にニッチなゲーム性というギャップでコアなファンを獲得している作品だったが,近年,とくにPS3の“アーランド”シリーズからは,誰でも楽しめるような方向へとマイナーチェンジを続けている。
アーシャのアトリエは,その流れを受け継いでシステムをさらに分かりやすくし,世界観やイラストレーターを一新して,より多くのプレイヤーにアプローチする。では,歯ごたえがないのかといえばそんなことはなく,RPG色を強くしたことで,物語そのものやキャラクターの成長を深く味わえるようになっている。プレイするまでのハードルは低く,かつ長く楽しめるという作りは,このタイプの作品としては1つの理想型と言えるだろう。
アトリエに興味はあったが触れたことがない,あるいは,ロロナやトトリからシリーズに入ったという人にとっては買いの1本だ。
「アーシャのアトリエ〜黄昏の大地の錬金術士〜」公式サイト
- 関連タイトル:
アーシャのアトリエ〜黄昏の大地の錬金術士〜
- この記事のURL:
(C)GUST CO., LTD. 2012