インタビュー
「剣の街の異邦人 〜白の王宮〜」がついに完成。“Team Muramasaの集大成”の仕上がりについて,千頭 元氏と安宅元也氏に聞いた
ここ最近のエクスペリエンスは,「デモンゲイズ」や「東京新世録 オペレーションアビス」に見られるように,ダンジョンRPGの初心者にも親しみやすいタイトルを相次いで手掛けてきたが,なぜ今,コアプレイヤー向けに「剣の街の異邦人」をリリースするのだろうか。その意図するところや見どころなどを,プロデューサーを務めるエクスペリエンスの千頭 元氏と,ディレクターの安宅元也氏に聞いた。
「剣の街の異邦人 〜白の王宮〜」公式サイト
これまでのチャレンジをすべてフィードバックした
集大成としての「剣の街の異邦人」
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。「剣の街の異邦人」がついにマスターアップしたとのことですが,本作が発表されたのは2012年6月でしたよね。発売まで,ほぼ丸2年かかったわけですが,この間,いったい何があったのでしょうか。
実を言うと,「剣の街の異邦人」の企画/開発はさらにその前,2011年頃には始まっていたんです。しかし,2011年3月に東日本大震災が発生し,その後の計画停電などの影響もあって,満足のいく環境で新作タイトルを仕上げられるかどうか分からない状況になってしまいました。
そこで,それまで立てていた社内のスケジュールを変更し,まずは開発期間もそう長くならない「迷宮クロスブラッド リローデッド」を先にリリースすることになったんです。
安宅元也氏(以下,安宅氏):
その一方で,ほぼ同時期にPS Vita向けの完全新作を作ろうという話も挙がっていたんですよ。
4Gamer:
それが,のちの「デモンゲイズ」ですね。
千頭氏:
そうです。もちろん,その間も「剣の街の異邦人」の開発を少しずつ進めていたのですが,そういったさまざまな事情が重なって,完成が遅れてしまったというわけなんです。
4Gamer:
あとから発表された「デモンゲイズ」のほうが先に発売されて,個人的にはかなり驚かされました。
安宅氏:
もともと「剣の街の異邦人」は,Xbox 360版「円卓の生徒」の発売後に行った企画会議で,「円卓の生徒」の次回作として生まれた企画なんです。ですから,本来の順番としては確かにこちらが先に発売されるはずでしたね。
千頭氏:
エクスペリエンスでは毎回,ゲームが完成するとスタッフ全員が前の作品制作の経験を生かして,次の企画を考えるんですよ。ホワイトボードに各自の反省点をずらっと書き出して。
そこでは一人で最低3つの新企画を持ち寄るんです。企画と言っても,3行くらいのものもありますが。
千頭氏:
その企画のいい部分やユーザーの皆様からいただいた声を組み合わせた結果,「剣の街の異邦人」の原型ができたんですが,こうしてマスターアップしてみると,全然別のものになりましたね。
4Gamer:
当初はどんなゲームになる予定だったんですか?
千頭氏:
「剣の街の異邦人」は,初期のアイデアでは今のようなコアプレイヤー向けじゃなかったんです。
安宅氏:
ハクスラ半分,そうでない部分を半分といったバランスの内容にしようと考えていましたね。
4Gamer:
具体的にはどんなアイデアがあったのでしょうか。
千頭氏:
街での生活感とか,横方向に広がる要素を考えていました。オシャレをすると数値が上がるとか。
安宅氏:
お風呂に入らないと街でモテないとか,ちょっとエッチな要素もあったりとか。
千頭氏:
夜の街であんなことやこんなことを……という要素もありましたね。
4Gamer:
それはそれで,ちょっと見てみたかったですね(笑)。なぜコアプレイヤー向けに路線変更したのでしょう。
千頭氏:
開発期間が長引いたことがやはり大きいですね。とくに「デモンゲイズ」を開発するにあたって,ダンジョンRPGについて綿密な市場調査をしたことで,当初の「剣の街の異邦人」の方向性では,現在の市場にマッチしないのではないかと考え直したんです。
安宅氏:
たとえば「デモンゲイズ」は,ダンジョンRPGを知らない人が遊べるような内容を目指したという意味で,尖っていますよね。
4Gamer:
そのおかげもあって,「デモンゲイズ」はこれまでに全世界累計で約18万本という大ヒットになりましたね。
安宅氏:
ええ。しかし,初期の頃の「剣の街の異邦人」はコア向けでも初心者向けでもない,どっちつかずになっていました。そこで中途半端は良くない,やるからにはきちんとコアに向けたほうがいいんじゃないかということで,路線変更を図ったわけです。
4Gamer:
「剣の街の異邦人」は“Team Muramasaの集大成”を謳っていますが,このキャッチフレーズを決めたのも,その頃の話でしょうか。
千頭氏:
そうですね。今でもエクスペリエンスやTeam Muramasaはそれほど認知度が高くありませんが,最初に「Generation XTH」シリーズをリリースした頃はまったく無名でした。このままではダンジョンRPGを世に広めることはできないと,路線を変えたのが「円卓の生徒」です。
安宅氏:
つまりダンジョンRPGでありながらも,ストーリーやキャラクター性を強めるなど一般性を持ち込んだわけです。
千頭氏:
その狙いが当たって,多少認知度は高まりましたが,その一方でもともとのダンジョンRPGファンには受けが良くありませんでした。
安宅氏:
とくに,より自由度の高い「Generation XTH」のゲームシステムで,ファンタジーの世界を舞台にしたダンジョンRPGを遊びたいという声が大きかったですね。
千頭氏:
そうした声にきちんと応えようと考えたのが,今の「剣の街の異邦人」です。その一方では「円卓の生徒」と「デモンゲイズ」によって,ダンジョンRPGの志向性が広がりましたから,それらを全部フィードバックしたという意味で,集大成と銘打っています。
安宅氏:
これまで培ってきたダンジョンRPGのノウハウをいい形で生かしているという意味を込めています。
ハック&スラッシュの魅力を際立たせる
武器のランダムジェネレートと「キャッチ&イート」
4Gamer:
「剣の街の異邦人」の世界観は,「円卓の生徒」の流れを汲んでいるんですよね。
千頭氏:
ええ,時間軸がつながっています。
安宅氏:
同じ世界なんですが,まず「円卓の生徒」があり,次に「剣の街の異邦人」があって,さらにそのあとに「デモンゲイズ」があるんです。とは言え,ストーリー上に大きなつながりがあるというわけではありません。一方で,長生きする種族のNPCなら,タイトルをまたがって登場することもありますね。
千頭氏:
「円卓の生徒」のシナリオに登場したモンスターも再登場しますよ。
4Gamer:
公式サイトでは「カロン」が公開されていますね。しぶとく復讐の機会をうかがっているとか。
安宅氏:
あとはゴブリンの「ムカブ」の子孫が,「ムカブ・ザ・サード」として登場します。
4Gamer:
えっ,あのゴブリンに子孫がいたんですか(笑)。
千頭氏:
そうみたいです(笑)。そのほかに再登場するNPCも,知っている人なら「ああ,そうなったのか」とニヤリとできると思います。もちろん知らないからといって,ゲームが楽しめなくなるようなことはありません。
安宅氏:
「円卓の生徒」の主人公がどうなったか,という話も少しだけあるんですよ。
千頭氏:
少しというか,むしろメインストーリーにも絡んできますけどね(笑)。
安宅氏:
気にしている人には,「えっ」となる展開かもしれません。
4Gamer:
そう言えば「円卓の生徒」の主人公達が装備していた武器や防具は,「剣の街の異邦人」で「レジェンダリー装備」として登場するんですよね。これはイベントを通じて入手するんでしょうか。
いえ,ハクスラで手に入れることになります。その中でも,ユニークアイテムは入手がかなり難しいですね。今回はハクスラをメインに楽しんでいただくために,イベントで入手できるアイテムを極力少なくしたんです。
4Gamer:
なるほど。では,武器の強化や合成の要素はありますか?
安宅氏:
今回は,プレイヤーが自分で武器の強化や合成を行うことはできませんが,入手したアイテムには+1や+2などの強化値や,付与効果がランダムで追加されます。
さらに,同じ武器でも強化値が高くなると,ランクが上がって武器自体の性能が底上げされます。例えば,ゲーム序盤で入手するような低ランク武器を中盤で再入手した場合,その武器の強化値が運良く高いと,中盤の高ランク武器より強かったりする。つまりいい強化値のついた武器が,本来それよりもランクが高い武器を下剋上しちゃうんです。
千頭氏:
もう一つ,ユニークアイテムの強化方法としては「キャッチ&イート」というものがあります。
安宅氏:
例えば「デモンゲイズ」では,ユニークアイテムは一度手に入れてしまうと,同じ周回では二度と入手できませんでしたが,今回はミミックの親玉みたいな「ムミック」というモンスターにユニークアイテムを食わせると,再び入手できるようになるんです。
4Gamer:
気に入らないユニークアイテムは,ムミックに渡せばいいというわけですね。ただ,取り直したユニークアイテムの性能が,さらに低くなってしまうこともありそうですが。
安宅氏:
もちろん,それもあり得ます。しかし「剣の街の異邦人」では,主人公のレベルが高いほど,いい性能のアイテムが出る期待値も大きくなるように設定されているので,基本的には取り直したほうがプラスになります。
千頭氏:
それにムミックは結構よく出てくるんですよ。
安宅氏:
たまに,出てきてほしくないときにも出てきますね(笑)。
3つの勢力のどれに荷担するかによって
取得可能な神気スキルとエンディングが変化
4Gamer:
ちょっと脱線してしまいましたが,もう少し「剣の街の異邦人」の世界観について教えてください。主人公は,現代から“剣の街”と呼ばれる「エスカリオ」へ迷い込んできたという設定ですね。
安宅氏:
ええ。今回は,そのきっかけとして飛行機の消失事件を描いていますが,同様のことは船や電車などでも起こり得ます。
千頭氏:
あるいは,森を歩いている途中で行方不明になったというケースもあるかもしれません。いわゆる“神隠し”にあった人達がどこに行ってしまったのか,というアイデアが下敷きになっているんです。
4Gamer:
と言うことは,「異邦人」と呼ばれる現代人は,ゲームの世界にはたくさんいるんですか。
千頭氏:
ええ,そのとおりです。
安宅氏:
ただ,時空の歪みを超えて異世界にやってきているので,必ずしも人間の姿で迷い込んでいるとは限りません。人間を始めとする人型の種族になれた人達はすごく運のいいケースで,ほとんどは動物になったり,モンスターになったりしています。
ですから登場するモンスターの中には,現代人だった頃の名残を残しているものもいます。基本的には,主人公と一緒にパーティを組むメンバーは,ある種の才能に恵まれて,人型で迷い込んだ異邦人です。
安宅氏:
そこは遊ぶ人それぞれの想像に委ねている部分でもありますね。基本設定は千頭の言ったとおりですが,もちろんエスカリオに元からいる住人が主人公と一緒に戦うということにしても構いません。
4Gamer:
エスカリオには,「異邦人ギルド」「王宮騎士団」「メデル商会」という3つの勢力がありますが,それぞれ敵対しているわけではないんですよね。
千頭氏:
むしろ仲はいいです。どの勢力も,街の平和を考えていますから。
安宅氏:
モンスターもいる特殊な環境なので,皆で力を合わせて平和に生きていきましょうというところで意見は一致していますし,お互いに協力もしています。
千頭氏:
ただ,それぞれのトップが抱いている平和に対しての考え方や,掲げている正義が違うんです。平和のために,トップが非情な決断を下すというようなハードなシーンもあります。
安宅氏:
シナリオでは,そういった勢力同士の相容れない部分も描かれます。それぞれがぶつかったり,協力したりする中で,主人公達の運命がどうなっていくのかが今回のシナリオの醍醐味ですね。
4Gamer:
主人公は,異邦人ギルドに所属するわけですよね。
安宅氏:
そうです。異邦人ギルドは中立の立場なのですが,主人公が3つの内のどの勢力に共感するかによって,獲得できる「神気スキル」や物語の結末が変化します。神気スキルはいわゆる“パーティスキル”のことで,戦闘で最も高い効果を発揮するスキルなので,ゲームの進行にも大きな影響を与えます。
千頭氏:
自分なんかは王宮騎士団にばかり行っているので,異邦人ギルドのリウが怒ってますよ(笑)。
安宅氏:
王宮騎士団のマリリスは,光の精霊神を奉じる神官という設定で,いわゆる“善”のイメージですね。ただ,シリアスなシナリオなので,どの人物にも良い面もあれば悪い面もあるというように,なかなかひと言では善悪を語れません。
4Gamer:
各勢力の神気スキルの効果は,最初から分かるのですか。
千頭氏:
はい。スキルツリーにすべて示されているので,自分のパーティ構成やスキル,装備や転職状況などに合わせて計画的に神気スキルを取得できます。たとえば防具が揃っていないから,防御力をカバーする神気スキルを取得するなんてこともできますよ。
安宅氏:
お気に入りのNPCがいる勢力のスキルに偏らせるのもありですし,プレイの効率を重視して必要なスキルを取っていくのもありです。どちらを選んでも,それなりに攻略できるようなバランスには仕上げています。
千頭氏:
スタッフのプレイを見ていると,1周めはどんなやり方でもクリアできていますね。
安宅氏:
1周めはそうですね。やり方によっては,一部,苦しい局面があるかもしれませんが,クリアできるはずです。2周め以降は,ぜひじっくり考えてプレイしてみてください。これまでのエクスペリエンスのタイトルよりも,グンと難度が上がります。
千頭氏:
今回はマルチエンドなので,2周め以降をプレイする意味もきちんとあります。最終的に,どの勢力を最も支持したか──つまり,どの勢力の神気スキルを多く取ったかでエンディングが変わりますから。逆に言うと,終盤のセーブデータ一つで,3つのエンディングを見ることはできないわけです。
安宅氏:
1周めはこの勢力だけ,2周めはまた別の勢力だけ,という感じで3周めまでやるのもありです。自分のパーティと勢力ごとのスキルの相性が合致しないと,それだけでかなり難度が高くなりますから,そのときにどの勢力を支持するかも重要ですね。
千頭氏:
でも1周めは,やっぱり好きにやりたいですよね。
ユニオンスキル取得に関わる強敵「血統種」の討伐とは
4Gamer:
メインシナリオとは別に,各勢力から受託できるサブクエストのようなものはあるんでしょうか。
いわゆるクエストではなく,各勢力のスキルを取得するためのボス──「血統種」の退治という扱いになっています。血統種ごとにそれを見つけ出すためのヒントがあるのですが,具体的な方法は明示されず,「このダンジョンにいて,こういう習性を持っている」みたいな情報だけが与えられるので,プレイヤーはそれをもとに自分で血統種を探し出して討伐しなければなりません。
千頭氏:
血統種を完全に倒すには,体内から「純血晶」を取り出す必要があります。これは異邦人の中でも,主人公のような「選ばれし者」にしかできません。
また純血晶は力の源で,「器を持つ者」と呼ばれる3勢力のリーダーの能力を高めることができます。システムとしては,純血晶を3勢力のリーダーの誰かに渡すことによって,先ほど説明した神気スキルを取得できるという仕組みになっています。
4Gamer:
言い換えると,神気スキルを取得するためには,血統種を討伐しなければならないわけですね。
安宅氏:
そのとおりです。血統種は50体以上存在して,それぞれのヒントは「手配帳」に記されていきます。だから「コイツとコイツには,まだ出会ってないから探しに行こう」みたいな気持ちになりやすいんですよ。
千頭氏:
実際,シナリオそっちのけで血統種を探しに行くスタッフも多いです。
4Gamer:
血統種の手配書は,どうやって入手するのでしょう。
安宅氏:
その血統種が出現するダンジョンが開放されたタイミングで,手配帳にリストアップされていきます。
千頭氏:
「迷宮クロスブラッド」の「手配異形」に近いですが,今回は,意図せず血統種を呼び出す行動をしていることもあるんですよ。とくに,初めて入ったダンジョンで構造を把握するためにうろうろと歩き回ったり,アイテムの狩り場を探ったりしているときに,うっかり出現させてしまうんです。
そうなったら,やっぱり挑戦したくなるのが人情というものですよね。倒せば,すごい報酬がもらえるんですから。ただし,まず初見では苦戦必至です。
安宅氏:
千頭は大体いつも「何だろう,コイツ?」って叩いちゃって,やられるんですよ。しかも同じ血統種に何度も挑戦して,そのたびにやられてるし(笑)。
1時間プレイしたのに,血統種にやられてパーになるなんてことがよくありますね(笑)。
安宅氏:
もちろん,神気スキルやアイテムを使って撤退するとか,戦う前にいったん戻ってセーブするといった回避手段はあります。ほかにも,2体のボスが近い位置に配置されているようなケースでも,1体倒したらセーブしに戻ればいいのに,すぐ2体めと戦うんです。
千頭氏:
それは意図してやったわけじゃなくて,ボスを倒したあとも,マップの埋まっていない部分を踏破しようとしていたら遭遇したんです。……そんな感じで,かなりやられてますね。
4Gamer:
ドジッ子プレイですね(笑)。そんな血統種の出現条件で,面白いものがあれば教えてください。
千頭氏:
ヒントがヒントになっていないものとかはありますね。作った人なら分かるけど,読んだだけではさっぱりみたいな。
安宅氏:
たとえば特定のモンスターを待ち伏せして,かつその戦闘で苦戦していると出てくる血統種なんてのがいます。
4Gamer:
それは,なかなか分からないかもしれません。
安宅氏:
まあ,多くの血統種は,ヒントを読めばだいたい分かるようにはなっていますけどね。
キャラクターの「才能」と「年齢」によって
攻略難度が大きく変わる
4Gamer:
それではキャラメイクについて教えてください。種族は「デモンゲイズ」と同じく,「ヒューマン」「エルフ」「ドワーフ」「ミグミィ」「ネイ」の5種類ですよね。一方,新しいところでは,今回は「才能」と「年齢」を設定できるようになりました。
安宅氏:
才能は,種族それぞれに合ったものがあらかじめ一つずつ用意されますが,キャラメイク時に,別の種族の才能に付け替えることもできます。それとは別に,主人公は専用の才能を持っています。
千頭氏:
才能はパッシブスキルに近い存在ですね。今回は盗賊系のクラスがないので,それをカバーする意味もあります。
安宅氏:
宝箱の罠を見破ったり,敵を見極めたり,隠し扉に気づいたりといった才能を,それぞれ違う種族に割り振っています。それらをバランスよく入れるか,それとも何かに特化させるのかによって,プレイスタイルが変わってきます。
千頭氏:
とくに敵の見極めは重要ですね。これが生死を分けますから。せっかくランクの高い宝箱を開けたのに,そのあと全滅して「うわあ!」ってなることがよくあります。
安宅氏:
強さの分からない敵に手を出してしまって全滅,というパターンが多いですね。あとは宝箱で罠を間違えて全滅とか。
千頭氏:
全滅まではいかなくても,テレポーターに引っかかるとアイテムが手に入りませんからね。結構苦労して敵を倒して,宝箱を出したのに……。
安宅氏:
今回は,バッタバッタと敵を倒して宝箱をどんどん開けていくという感じではなく,戦闘1回あたりの比重を高めているんですよ。つまり,宝箱を一つ開けるまでのサイクルが長いんです。その代わり,一つの宝箱から出るアイテムの量を多くしています。
千頭氏:
たとえば武器が一気に5本くらい出たりしますよ。
4Gamer:
それでは年齢についても教えてください。これまでの作品だと,年齢はロールプレイ的な要素でしたが,今回は年齢が高いとステータスのボーナスポイントが多くなる反面,「生命点」が低くなり,消滅しやすくなるということですが。
安宅氏:
生命点は,そのキャラクターが1回死ぬごとに,1ポイントずつ減っていきます。生命点がゼロになると,そのキャラはゲームの世界から消滅してしまいます。
4Gamer:
生命点の回復手段はないのでしょうか。
安宅氏:
長時間,ギルドで療養すると回復します。療養している間は,当然パーティから外さなければなりませんから,その穴を埋めるサブメンバーが必要となるわけです。
また,死んだメンバーを生き返らせるのも,同様に時間がかかります。お金を使ってすぐに生き返らせることもできますが,こちらは法外な代金を求められてしまいます。あとはもちろん,蘇生のアイテムもありますね。
4Gamer:
この場合の時間とは,何を指すのでしょう。
安宅氏:
ゲーム内の時間です。基本的には戦闘を重ねると時間が経過しますが,だからといって序盤のダンジョンで戦っていればいいというわけではありません。きちんと,そのときのレベルに見合った場所で戦わなければダメです。
4Gamer:
ちなみに,ゲーム内の時間を進めるとキャラクターは歳を取りますか?
千頭氏:
それはないです。HPやMPは街に戻ると全回復しますから,「Wizardry」の馬小屋のようなシステムもありません。
安宅氏:
そもそもゲーム内のシナリオでは1年も経過しませんからね。ともあれ,年齢の高いキャラクターはボーナスポイントも高いですから,序盤からかなり強くできるんですよ。でも生命点が1しかないので,死なせるわけにはいかない。テストプレイヤーさん達は,死んだら即蘇生できるアイテムや装備をいくつもそのキャラに仕込んでおいて,「おじいちゃんを守れ!」みたいなプレイをしていましたよ。
4Gamer:
それは敬老精神と言えるような,言えないような……。逆に若いキャラでも,最初は弱くてもレベルアップによってステータスを上げられますよね。
千頭氏:
ええ。1レベル上がるごとに,1ポイントを割り振れます。ただ序盤が厳しいので,若いキャラだけを揃えると難しいかもしれません。
安宅氏:
また今回は,レベルアップの方法が特殊なんですよ。必要な経験値が溜まったら自動でレベルアップするのではなく,プレイヤーの任意のタイミングでレベルアップできるんです。
千頭氏:
だから,すぐにレベルを上げないことも重要となってきます。たとえば,次のダンジョンの攻略を始めるときにレベルアップして,自分のパーティの不利なところを補強するようにステータスを振ったりとか。
安宅氏:
また,パーティに入れていないサブメンバーにも経験値が入っていきます。ですから,最初にサブメンバーを作っておいたほうがいいですね。いざ,パーティに欠員が出たときに,ある程度レベルが高い状態から参加させられますし,ステータスもそのときの状況に合わせて割り振れますから。
4Gamer:
なるほど。確かに,公式サイトにも今回はサブメンバーが重要だと書かれていますね。
千頭氏:
ええ。サブメンバーはいなくてもゲームを進められますが,パーティの構成によっては入れ替えがないと厳しい局面があるかもしれません。
4Gamer:
そう言えば,今回はパーティが全滅した場合はどうなるんでしょう。
千頭氏:
ゲームオーバーになります。ですから,別パーティによる回収はありません。
安宅氏:
セーブポイントからやり直しなので,それまでに使った時間がそのままペナルティになります。
転職は最大5回の回数制限と
スキルの引き継ぎを考慮に入れて計画的に
4Gamer:
次に,クラスについて教えてください。先ほどのお話にもあったように,今回は盗賊系のクラスがありませんし,見たところ召喚系もいませんね。
千頭氏:
今回,召喚系はクラスもスキルもないです。盗賊系は,繰り返しですが才能で置き換えています。
安宅氏:
今回は,パーティ全員が宝箱にアプローチできるようにしたんですよ。
4Gamer:
たとえばニンジャやレンジャーに,宝箱を開ける才能を持たせたほうが有利になるといったような相乗効果はありますか。
安宅氏:
今回はクラスではなく,ステータスと才能が関係します。才能があり,知識が高ければ,より識別能力が高くなりますし,敏捷が高ければ解除や回避に長けるといった効果があります。
なるほど。それでは,新しく登場したクラス「ダンサー」について教えてください。
安宅氏:
歌ったり踊ったり……。
千頭氏:
「円卓の生徒」でいう“先生”みたいな感じですね。
安宅氏:
基本的には補助職ですが,アイテムを同一ターン内に連続で使えたりといったようなトリッキーなスキルを持っています。今回は転職後にも,限定的ですが以前のクラスのスキルを使えるので,このダンサーのスキルが大きな意味を持ってきます。
千頭氏:
自分のパーティは,みんな1回はダンサーに転職してますね。今回,敵を「待ち伏せ」するのに「士気ゲージ」を消費するのですが,ダンサーはその士気ゲージを回復するスキルを持っています。つまりダンサーがいれば,同じ場所で延々と狩りができるんです。
4Gamer:
それは確かに大きいですね。
千頭氏:
同じ場所で待ち伏せを繰り返していると,必要となる士気ゲージの量が大きくなっていきますし,士気ゲージは神気スキルを使うときにも必要なので,ダンサーのスキルを持っているキャラクターが少ないと,長い時間は狩れないんです。だからうちのパーティは,戦闘が始まると全員で歌い出します(笑)。
4Gamer:
つまり,ダンジョンに長く滞在するには,ダンサーがいたほうがいいというわけですか。
安宅氏:
そうですね。パーティに一人か二人は,ダンサーのスキルを使えるキャラを入れたほうがいいかもしれません。
千頭氏:
また,これまでどおり水中では魔法が使えませんから,一度に複数のアイテムを使えるダンサーがいると有利になります。後衛職なら,転職でダンサーを経由しておくといいと思いますよ。
4Gamer:
今回は,レベル1からいつでも転職できますよね。
安宅氏:
はい。ただし,お金がかかりますし,5回までという制限もあります。最初のクラスから数えて5回転職できるので,1キャラで最大6クラスのキャリアを持てます。
千頭氏:
なので,周回プレイを前提にしている場合は結構考えなければなりません。
安宅氏:
最終的にどんなキャラにしたいのか,どんなスキルを取得したいのかを考えておいたほうがいいでしょうね。また,以前のクラスのスキルをセットできるスロットは,最初は2つしかありませんが,レベル13以上になってから転職すると一つずつ増えていきます。つまり最大7スロットになるわけです。
4Gamer:
いつでも転職できると言っても,実質レベル13までは転職しないほうが良さそうですね。
安宅氏:
そこは考え方次第だと思います。でもスロットの使い方によって,そのキャラをすごく強くすることができるのは確かです。5周めに入ったスタッフは,7スロットじゃ足りないと言っています。
千頭氏:
いや,1周めでもう足りないから(笑)。
4Gamer:
なるほど。以前のクラスのスキルは,転職後のクラスにどういう形で引き継ぐのでしょう。
千頭氏:
一度取得したスキルは全部覚えたままなので,攻略するダンジョンに応じて,必要なスキルを選んでスロットに入れられます。ですから覚えているスキルが多いほど,組み合わせも増えていきます。
4Gamer:
レベル13と言わず,そのクラスで取得できるスキルを全部覚えてから転職したくなりますね。
安宅氏:
そこは自分の思い描くキャラの完成像によるでしょうね。必要なスキルだけ覚えて,すぐに転職するのもありですよ。
4Gamer:
たとえば,回復職の全体回復を取得した時点で転職してしまう,みたいな感じですか。
安宅氏:
ええ,効率を重視するなら,そのほうがいいかもしれません。
レベル1で覚えられるパッシブスキルも多いので,それだけ覚えてすぐ転職してしまうのも悪くないですよ。
安宅氏:
各武器の装備スキルもレベル1で覚えられますから,レベル1のまま2〜3回転職するだけで,ほとんどの武器を使えるようになります。
4Gamer:
ただ,5回という制限があるから……。
千頭氏:
そうなんです。その職業の強力なスキルを取得できないので,長い目で見ると損な転職かもしれません。
安宅氏:
実際に育てて,どんなキャラになるのかを試してみるという意味でも,サブメンバーの存在は重要になりますね。
ハック&スラッシュの仕組みを
シンプルにまとめた「待ち伏せ」システム
4Gamer:
続いて,すでに何度かお話に出ていた「待ち伏せ」について教えてください。今回,宝箱を持った敵というのは,待ち伏せでしか出てこないんですよね。
安宅氏:
そのとおりです。
4Gamer:
同様のシステムとして,「円卓の生徒」のトラップエンカウントや,「デモンゲイズ」のトレジャーハンティングサークルがありますが,今回,大きく違う点はありますか。
千頭氏:
まず「円卓の生徒」のように合成でエサを作らなくてもよくなっていますし,「デモンゲイズ」のように「ジェム」を集めるための狩りをする必要もなくなりました。
安宅氏:
今回はそういったリソースが,士気ゲージに1本化されたわけです。
千頭氏:
当然,待ち伏せポイントにたどり着くまでに雑魚を倒さなければなりませんから,士気ゲージをマネジメントする必要があります。待ち伏せポイントでは,先ほど説明したようにダンサーのスキルなどを駆使しながらゲージを回復し,宝箱を出すわけです。
安宅氏:
サイクルが単純化されたので,これまであったような煩わしさが軽減されているんじゃないかと思います。
千頭氏:
宝箱のランクを上げる方法もシンプルになっています。同じ場所で繰り返し敵を倒していると敵のレベルが上がり,それに伴って宝箱のランクも上がっていく仕組みです。また,敵が持っているアイテムの系統がモンスター図鑑で分かりますから,狙っているアイテムを持つ敵を待ち伏せできます。
4Gamer:
たとえば刀が欲しいと思っていて,待ち伏せで刀を持っていない敵が出てきたときには,見逃すこともできるわけですよね。
千頭氏:
ええ。見逃すことで危険度が上がり,次を待つことができます。強すぎる敵が出てくることもあるので,泣く泣く見逃すこともよくあります。
4Gamer:
危険度が上がると,強い敵が出てくるんですか?
安宅氏:
危険度は,敵から先制される確率に関係しています。
千頭氏:
敵の強さが上がるのは,敵を倒したあと,同じ場所で待ち伏せを繰り返したタイミングです。ただ,同じタイミングでも,出てくる敵の強さには幅があります。同じ武器を狙うなら,その振れ幅の中で一番弱い敵と戦ったほうが有利ですよね。
4Gamer:
落ち伏せポイントの敵の強さは,リセットできるんでしょうか。
一度ダンジョンから出ればリセットされます。ですから,敵が強くなりすぎて倒せなくなるといったことはありません。
4Gamer:
それを聞いて安心しました。そのほかに,何か新しいシステムはありますか。
千頭氏:
快適さの追求という意味では,超高速戦闘を入れています。これはアニメーションをスキップして,いきなり結果が見られるというものです。
安宅氏:
「デモンゲイズ」では,ボタン押しっぱなしで同じコマンドをリピート入力できましたが,今度はボタンを押す必要すらないという。同じような戦闘を何度も繰り返しながら進まなければならない場面では,すごく便利ですよ。
千頭氏:
1ボタンで結果を見られるのですが,いきなり全滅していることもあるんですよね。「何があったんだ!?」ってなります(笑)。
あと待ち伏せがらみでは,先制攻撃に新しい仕組みを入れました。以前にも先制の概念はありましたが,今回はスキルを使ってこちらから先制を仕掛けたり,敵の先制を回避したりといった駆け引きができます。
安宅氏:
待ち伏せでは,敵から先制を受ける危険性がビジュアル的に把握できるので,今は先制されやすいから無茶はしないでおこうとか,逃げようとかいう判断ができるわけです。
千頭氏:
でも,自分はあえて先制させますけどね。それで,カウンターを狙うんです。ハクスラだと,装備が揃わなくて攻撃が弱くなってしまうケースがありますが,敵の先制に対してカウンターを入れるスキルもあって,それを使うと大きなダメージを与えられるんですよ。
安宅氏:
それを見て「なるほど」と感心しました。でも,それで全体のバランスが崩れるかというと,そんなこともないんです。千頭はそれで何度も全滅していますから(笑)。
ずっとダンジョンRPGを作ってきたからこそ
快適かつ長く楽しめるタイトルに
4Gamer:
「剣の街の異邦人」のこだわりポイントについてお聞きしたいのですが,「デモンゲイズ」で実装されていた自動移動は今回もあるんですよね。
安宅氏:
もちろん,あります。しかも今回は「デモンゲイズ」の倍の速度で移動できるようになりました。
千頭氏:
ハクスラのために何度も移動しなければならないので,快適化のために改良していったらどんどん速くなりました。敵に負けてもすぐ復帰できます。
安宅氏:
攻略上,長い距離を移動するので,これでも速すぎるということはないですよ。
4Gamer:
ただでさえ便利すぎるほどだったのに,ますます手放せなくなりますね……。機能面での変化はありますか?
安宅氏:
フロアをまたいだ移動はできませんが,今回は階段の上り下りができます。ルート検索も条件が洗練されて,より最適なルートを選ぶようになりました。
4Gamer:
また,BGMは今回も神保直明さんの作曲ですが,ボーカル曲でボーカルのオン/オフが選べるようになりましたね。
千頭氏:
「デモンゲイズ」のときにボーカロイドを採用したところ,プレイヤーさんの意見が好き嫌いの真っ二つに分かれたんですよ。そこで今回は,ボーカルが入っているバージョンと,同じメロディをヴァイオリンで演奏しているバージョンを簡単に切り替えられるようにしました。
安宅氏:
オン/オフと言えば,ポートレート表示のシルエット化も選べるようになりました。こちらも,ユーザーさんからのリクエストで導入したシステムですね。
4Gamer:
さらに今回は,ダークゾーンの表現にもこだわったと聞いています。
安宅氏:
これまでのエクスペリエンス作品だと,ダークゾーンはただの真っ暗闇だったんですが,今回は一歩先までは何となく見えるようになっています。その中で戦闘が発生すると,暗闇の背景が表示され,敵が未識別状態で出てくるなど,さまざまなシステムが連動しています。
千頭氏:
どんな敵が出てくるか分からないし,嫌らしい罠も仕掛けられているので結構怖いですよ。
安宅氏:
罠の中には,1歩手前で調べると取り除けるものもあるんです。でもダークゾーンでは1歩前でも分かりにくくて,踏んじゃうんですよ。また今回は,帰還する手段や帰還アイテムの希少性を高めているので,これまでのエクスペリエンス作品よりもダンジョンの難度が全般に上がっていますね。
千頭氏:
ダンジョン内にセーブポイントもないですし。だから,探索中に「蝶の巣」を見つけたら,残しておくといいですよ。
安宅氏:
蝶の巣は,ダンジョン内でランダムに出現するんです。戦って倒せば結構な経験値と報酬を得られますが,戦わずに使うと,ダンジョンから脱出できます。
千頭氏:
でも時間が経つと消えちゃうんです。「さあ,帰るか」と思ったら,なくなっていたりしてショックを受けます(笑)。しかも,戦うと意外と強いんですよ。無難な相手だと思って自動戦闘にしていたら,全滅しかけました。
4Gamer:
なるほど。今回もいろいろと面白い仕掛けを用意しているということですね。
ちなみにPC版は8月22日に発売予定ですが,PS Vita版のリリース予定は,もう決まっていますか。
うーん……今期中,冬の間には出したいですね。理想はなるべく早い時期です。
4Gamer:
冬ですか。「デモンゲイズ」や「東京新世録 オペレーションアビス」の例を見ると,毎年1月くらいに何かありそうですが……。
それでは最後に,「剣の街の異邦人」に期待している人に向けて,メッセージをお願いします。
安宅氏:
ダンジョンRPGの初心者に手放しでオススメはできませんが,内容的には多くの皆さんが楽しめるバランスに仕上げています。このゲームは,やり込み派の人にとっては終わりがないくらいやることがありますので,ぜひ頑張って遊び尽くしてください。
千頭氏:
今回は,ダンジョンRPGに対して一つの回答を出せたかなと思います。ダンジョンRPGのコアプレイヤーに楽しんでいただきたいですね。
4Gamer:
ありがとうございました。
「剣の街の異邦人 〜白の王宮〜」公式サイト
(C)2013-2014 KADOKAWA GAMES / Experience Inc.
- 関連タイトル:
剣の街の異邦人 〜白の王宮〜
- 関連タイトル:
剣の街の異邦人 〜白の王宮〜
- 関連タイトル:
剣の街の異邦人 〜黒の宮殿〜
- この記事のURL:
キーワード
(C) EXPERIENCE All rights reserved.
(C)EXPERIENCE All rights reserved.
(C) EXPERIENCE All rights reserved.