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[CEDEC 2015]プレイヤーの記憶に残る印象的なキャラクターはこう作れ。「D4」における実例を開発者自らがレクチャー
D4は,2014年にXbox One版が,2015年にPC版が発売されたアドベンチャーゲーム。私立探偵のデイビッド・ヤングが,物体の記憶を頼りに過去へ飛ぶ特殊能力を使い,事件の謎を追うという物語だ。主人公のヤングを始め,個性豊かな登場人物が登場することで好評を博した。
印象的なキャラクターを作るために岡本氏が挙げたトピックは「設定」「外見/造形や体型」「外見/ファッション」「ポーズ/しぐさ」「セリフ/口調」の5つだ。
「設定」
設定とは,そのキャラクターを定義するための詳細な情報である。
D4の主人公・ヤングという人物を作るに当たっては,「名前」「年齢」「性別」「誕生日」といった基本的なところから「ヒゲは週一回剃るかどうか」「食べ物で遊ぶ癖がある」「サスペンダーを愛用しておりベルトは持っていない」といった詳細な部分まで,大量の項目を決めていったという。
こうした設定を元に,あらかじめイメージ共有を行っておけば,実際にモデリングやモーションを作る場合にも目指すべきキャラクター性からブレにくくなるそうだ。
制作のうえでは,できるだけ詳細に,誰にでもイメージできる設定を心がけつつも,あえて空白を残したり,一般的に好ましくないとされる部分を残したりすることも重要だという。
例えば,ヤングの子供時代はほぼ語られていないが,こうした空白があれば後々の展開で話をふくらませることができる。また,彼は「噛んでいるガムをどこにでも捨てたり貼り付けたりする」という悪癖を持っているが,こうした部分を残すことでキャラクターの人間味が増していくのではないかと岡本氏は語った。
「外見/造形や体型」
キャラクターを作るうえで,外見が大切になることは言うまでもない。
例として挙げられたのは,D4に登場するフォレスト・ケイスン。ヤングの相棒といえる人物だ。もともとは固太りだったが現在は肥満体型で,髪の毛は薄くなりつつあり,生え際も後退。怪我の後遺症で左足に障害が残っており,歩行を補助する機具を装着している。こうした設定は,リアルな人間味を出したいという意図によるものだという。
ゲーム内で障害が描かれる機会はあまりないが,映画や小説,そして現実の世界でも障害を持つ人が活躍するケースが多いため,思い切って障害を設定に取り入れたのだそうだ。
ここで岡本氏が指摘したのがチャレンジすることの大切さだ。一般的に,これはまずいかも……と思われる設定であっても,初期段階で安全策を採ってしまうとその先が見えてこないので,思い切って挑戦してみることが大切なのだと語った。
「外見/ファッション」
ファッションは,キャラクターのファーストインプレッションを決める要素なので,とにかくたくさんの案を出すことが重要であるという。D4では現実感を重視するため,本物の衣類の詳細な資料を集め,これを参考にしてモデル制作が行われたそうだ。
ヤングのファッションについては「サスペンダー」「左右でまくり方が違うシャツの袖」「ヒゲ」といった部分にこだわったという。
彼のトレードマークの一つとなっているサスペンダーだが,最初は普通に革ベルトを付けた状態で開発が進行していた
ある時,服装にサスペンダーを取り入れてみたところ,これがヤングという人物のキャラクター性にうまくはまり込んだ。ゲーム中ではヤングの背中が映ることが多いが,ここでもサスペンダーが画面に変化を与えたという。
彼のファッションでは,袖のまくり方が左右で違うこともポイントだ。当初はどちらの袖も同じようにまくっているという状態だったが,製品版では右袖は折り込み,左袖はただまくっているだけというリアルな着こなしになっている。細かい部分までの徹底的なこだわりが,ヤングという人物にリアルさや実在感を与えているのだ。
トレードマークであるヒゲについても試行錯誤があったようだ。当初はヒゲがやや濃かったため「好感度が低い」「ヤサグレ感がある」という印象になってしまったそうだ。そこで,ヒゲの量をあまり変えず,やや薄めにする……という細かい調整が行われたという。
岡本氏は,「とにかく多くのアイデアを出すことで,イメージに合うデザインを見つけ出す」「細かいデザインは本物の衣類を参考にし,説得力を出す」「印象に残りやすい特徴を入れるが,やり過ぎないようにする」とポイントをまとめた。
「ポーズ/しぐさ」
D4では,ヤングが過去に飛ぶ際に「顔の前に手をかざす」というポーズを取る。Xbox One版はKinectに対応しており,画面の前のプレイヤーにヤングと同じポーズをしてもらうのだが,こうすることで「このポーズを取ると過去へ飛ぶ」というお約束が記憶に残りやすくなるのだという。
また,ヤングには独り言をつぶやいて考え込む際,額に指を当てるという癖が設定されており,こちらも繰り返すことでプレイヤーに強い印象を与えている。
「印象的なポーズを考えてゲーム内に散りばめ,ユーザーに真似してもらえるくらいになれば大成功といえるのではないでしょうか」と岡本氏は語った。
「セリフ/口調」
キャラクター造形において,決めセリフも重要だ。有名キャラクターには決めセリフが付きものであり,決めセリフを聞けばそのキャラクターを思い出すことができる。こうした点はゲームでも同じで,決めセリフによってキャラクターを印象付けることができると岡本氏は指摘する。
D4においては,ヤングに「パズルのピースが全て揃った……」「この過去はもう――解決済みだ!」というセリフが用意されている。謎解きシーンではこうしたセリフが繰り返し使われており,ユーザーへの印象付けが行われているのだという。
キャラクターを特徴付けるうえでは,口調も大きな要素である。D4では,不気味な人物であることを表現する場合は極端にゆっくりとしゃべらせているほか,嫌味だったり,威圧的だったりといった口調の違いでもキャラクター性を表現。中には謎の居候アマンダのように「しゃべらない」ことでプレイヤーに深い印象を与えているキャラクターもいるのだから奥深い。
氏がゲーム業界入りしたのは2D格闘ゲームの全盛期。2D格闘ゲームのキャラクター作りにおいては,見た目のカッコ良さや繰り出す技のインパクト,セリフやポーズといった部分が重要で,「いかに目立てるかが勝負」であったという。現在のように分業体制が進んでいなかったため,キャラクターの詳細を考え,ドット絵を打ち,モーションパターンも起こすというように,一人でいろいろな部分を手がけていたそうだ。
その後,分業化が行われ,それぞれの工程を専門家が手がけるようになったが,できるだけ記憶に残してもらえるキャラクターを作るためには,デザイナーとしてもいろいろとできることがあるのではないか……と考えたという。
岡本氏は「今回紹介した事例はすべてが正しいというわけではなく,プロジェクトの事情によっても変わることがあると思いますが,単にキャラクターデータを作るのではなく,生きたキャラクターを創造するに当たって,どう形にしていくのかの参考になればと思います」と語り,セッションを締めくくった。
「D4: Dark Dreams Don’t Die」公式サイト
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