インタビュー
日本から世界で活躍するプロゲームチームを生み出したい――AimingがDeToNatorのメインスポンサーに就任した経緯を両者の代表に聞いた
選手引退後のセカンドキャリアまでケアして
初めてプロゲームチームを名乗れる
4Gamer:
それではDeToNatorの現状についても教えてください。選手は10代から20代中盤くらいが中心ですよね。
江尻氏:
そうですね。下は18歳の高校生から,上は24歳くらいです。その中間層にあたる20代が一番多いですね。
4Gamer:
DeToNatorが取り組んでいるタイトルだと,世界的には20代後半になると選手が引退するケースも多いです。そうなると,引退したDeToNatorの選手のキャリアはどうなるのでしょう。
その点に関しては,DeToNatorでは以前から,リアルの社会生活と並行して選手活動に取り組む形式を採用しています。選手活動と社会生活を両立させてこそ,プロゲーマーたり得ると。その根底には僕自身が持つ「今の日本ではフルタイムのプロゲーマーは成立しにくい」という考えがあります。
4Gamer:
つまり,選手引退後もきちんと社会生活を営めるよう指導していると。
江尻氏:
またゲームで学んだことがリアルにも活きてくる側面があります。とくにDeToNatorが取り組んでいるゲームは団体戦ばかりですから,そこにはチームというコミュニティが生まれます。このチームという小さなコミュニティで上手に対人関係を築けない人は,どこに行ってもすぐ挫折を味わうことになるのではないでしょうか。逆に言うと,チームというコミュニティを通じて社会を学ぶことで,引退後のセカンドキャリアでもきちんとリアルの社会生活を営んでいくことができると考えています。
4Gamer:
おっしゃっていた世界に通用する人材を目指す社会教育も,セカンドキャリアに役立ちそうですね。
江尻氏:
そうですね。僕としては,そういった引退した選手のセカンドキャリアの用意までできて初めてプロゲームチームとして成立できるという考えをずっと持っていました。そこで今回のAimingとの取り組みでは,選手のセカンドキャリアに関しても支援をいただいていますし,僕自身の会社で受け入れ体制を整えています。それに加えて,ほかのゲーム関連企業に就職したという事例もいくつかあります。さらには,そうやってDeToNatorで育成した人材が社会に出て行くことで,ゲームやプロゲームチームに対する理解が深まることも期待できます。
そうなると,市場や業界もよりよい方向に変化していくのではないでしょうか。かなり壮大な構想ではありますが,最初にきちんと種を蒔いておかないと,この先の僕達自身の活動が危うくなってしまいますからね。
4Gamer:
Aimingには,引退したDeToNatorの選手を受け入れる仕組みがあるんですか。
そこは,さっき言っていたゲーオタ採用のことですね。上場企業が“ゲーオタ”という言葉を使うのもどうかと思うのですが(笑)。
あらためて説明すると,以前からAimingでは,人間としてまともということを大前提に,ゲームが好きで得意な人材を積極的に採用しています。それこそMaster TierになるほどLoLをやり込んで大学を留年し,就職活動もままならなくてネットカフェで働いていたという人間が去年入社したのですが,まだ1年も経っていないのに社内で「可能性がある」と評価されています。
4Gamer:
それは心強い話です。
椎葉氏:
私が考えるに,ゲームはほかに例がないほど,短い時間で何度も試行錯誤ができるものです。そして江尻さんが言うように,社会的にまともでないとチーム戦では勝てません。さらには謙虚で素直でないと,成長できない。……まあ,世の中には例外的な天才もいますけど,それはあくまで例外ですから。
4Gamer:
Aimingが採用するゲーオタには,成功する人間の要素がそろっていると。
椎葉氏:
ですからDeToNatorの選手で,引退後にAimingで働きたいという意向があるなら,きちんと面接します,ということです。
4Gamer:
とくにDeToNator優先枠のようなものがあるわけではないんですか。
椎葉氏:
枠を設けるといったことはしません。たぶん。ただ私達は非常に人間性を重視します。その点,江尻さんは以前から社会教育に熱心に取り組んでおられますから。
4Gamer:
結果として,DeToNatorの選手であれば採用される可能性も高まると。
当然ですが,DeToNatorに入ったからといってゲームがうまくなったり,セカンドキャリアが約束されたりするという意味ではありません。重要なのは,DeToNatorに入って何をするか,何をしたかという行動力です。これは会社でも同じですよね。言葉はよくないかもしれませんが,用意された環境をうまく利用して,自分が望む次のステージを勝ち取っていかなければなりません。何をすればいいのか,何がダメなのかを自分で考えれば,人間はどんどん成長していくものです。
逆に,そうしないと環境に甘えて,周囲のせいにして愚痴ばかりいう人間になってしまいかねません。僕はそういう人間を育てる気はありませんと,最初に椎葉さんにお伝えしました。
椎葉氏:
江尻さんは,人間としてきちんとしていないと,尊敬されたり憧れられたりする存在にはなれず,ひいてはファンが付かずチームの価値を上げることもできないということをすごくおっしゃっていまして。
江尻氏:
僕はDeToNatorに入りたいという子達に対して,最初から厳しいことを言います。それは年齢も関係ないし,DeToNatorに入ってからの年月も関係ありません。たとえばTwitterなどで非常識な発言をすれば,誰であっても即クビにすると伝えています。
その一方で,それはDeToNatorの選手が背負うものだからと,意味をきちんと説明します。そしてだいたいトップになる選手は,きちんと理由を説明すればスイッチが入って理解してくれるんです。ファンになってもらうには尊敬される人物にならなければいけない。イベントでさまざまな人と会うわけですからきちんと挨拶できなければならない。そういうことが分からないまま社会に出る子は,逆にかわいそうです。僕は,そういった社会的に必要なことをきちんと教えたい。だから同じ言葉を何度も繰り返すと,最初の面接のときから言っています。
4Gamer:
相手の反応はどうですか。
江尻氏:
だいたいの子はポカンとしてしまいます。「もう一度よく考えて,また来なさい」と私はいいますが,それでまた来る子もいれば,来ない子も当然います。ただ,ゲーム内のコミュニティをきちんと経験している子は,何かを伝えようと再び来る傾向が強いです。
4Gamer:
なるほど。ゲーム内である程度の社会性を学んでいる人が,再びやって来るわけですか。
DeToNatorでは,そういった社会性を,チームというコミュニティでプレイすることや,スポンサー様の力を借りること,ファンの皆さんに応援していただくことにつなげて活動しています。これは僕の美容師時代に,アーティストさんがコンサートで裏方のスタッフに対してものすごく気を遣っているのを目の当たりにした経験から学んだものです。
DeToNatorがイベントに参加する場合には,選手に必ずスタッフさん全員に挨拶をさせています。そうすることで,たとえゲームを知らないスタッフさんでも,プロゲームチームとはどういうものなのか理解してくださるのです。とくに大会運営は大変な仕事ですから,選手とスタッフが一丸になって取り組まないと成功しません。「オレらは選手だから」みたいな態度では,絶対に無理です。そうやって選手にきちんと社会を教えていくのは時間の掛かることですけれども,それこそが僕の役目だと考えています。
椎葉氏:
Aimingとしても,DeToNatorの選手の活躍によって,自社のゲームに直接的にも間接的にも変化が表れることに期待しています。それに皆ゲーム好きですから,DeToNatorが大会で勝つと社内が盛り上がるのです。そういう意味では,DeToNatorが世界大会に行ってもらわないと困るんですよ。もう皆,オリンピックやワールドカップで日本代表を応援するような気持ちでDeToNatorの試合を観ますから。大きなモニターの前でDeToNatorを応援したい(笑)。それが目下の最大の望みですね。
江尻氏:
頑張ります! 僕としては,さまざまな大会に参加することで選手に経験を積ませたいですし,またDeToNatorが参加することで少しでも大会が盛り上がるようなら,ぜひ貢献したいと考えています。最終的には実力を付けて,グローバルな舞台で活躍できるようなチームになることが目標ですが,今はまさにAimingの力をお借りして,スタート地点に立ったというところです。
しかしどんなに環境が整ったとしても,主役は選手達です。選手が宝ということを念頭に,彼らの成長を楽しみに待ちつつ,育てていきたいです。
DeToNatorは「日本から世界へ」
Aimingは「ゲーマーを認めさせたい」
4Gamer:
それでは将来の展望についても,いろいろうかがってきましたが,あらためて教えてください。今後,新たに競技ゲームで盛り上がるタイトルがあれば,DeToNatorとして取り組んでいくのでしょうか。
江尻氏:
もちろん検討します。とはいっても,人気があるからと安易に飛びつくのではなく,まず選手ありきですね。逆にDeToNatorが参戦することで,もしそのタイトルが盛り上がるようであれば――そのタイトルのコミュニティが「DeToNatorが来る。じゃあオレ達もきちんとやろう」とまで考えてくださるのなら,盛り上げる受け皿になることも積極的に考えています。
4Gamer:
それではAimingのビジョンはいかがでしょう。
会社としては「いいゲームを作り続けるには,どうすればいいだろう」と言うことしかないのです。いいゲームを作り続ける会社というのは,本当に実現が難しいのですが,それをやりきれる会社にしたい。上場もしましたので,何か戦略があるのではないかと思う方もいらっしゃるでしょうが,本当にそれだけです。
ハードもプラットフォームもどんどん変わっていく世の中でゲーム会社として成功するためには,本当にいいゲームを作るほかない。ゲーオタを採用しているのもそれが理由です。今はゲームが世の中にあふれるほどありますから,新しいゲームにはほかとは違う面白さが必要です。そうなると,ゲームを知らない人には新しいゲームは作れません。そこを踏まえて,今風のいいゲームを作るにはどうすればいいのかということばかり考えています。
逆に言えば,それさえ実現できればどんな時代でも成功できるのではないでしょうか。
もう一つは,ゲーム業界自体が大きくなることですね。こちらは私達の力とは関係ない部分も大きいのですが,この二つがあればいいのではないかと。そういう意味では,結構柔軟に考えています。
4Gamer:
なるほど。
椎葉氏:
世界的にはこれからもゲーム人口は増えていくでしょう。日本のゲーム人口が,急激に減ることもありません。総論としては,端末が便利になるほどゲーム人口は増えていきます。その中で私達は,いろんなジャンルのいいゲームを作り,さらには業界発展と自社を盛り上げるためにDeToNatorへの支援のようなこともやります。
ゲーオタ採用に関して興味を持った「我こそは」と思う人はぜひ名乗りを上げてください。「ゲームにすごく打ち込んだ結果,人生がちょっとズレてしまった」という方は結構いらっしゃると思います。私としては,一つの物事に打ち込んでトップクラスまで上り詰めることは並大抵のことじゃないと捉えています。Aimingでは「ゲーム偏差値」と呼んでいるのですが,それを高めることは東大に入るより難しいかもしれない。
世の中,ゲームばかりしていると怒られますけれど,何とかそういう人達を認めたいのです。Aiming自体もゲームばかりやっている人達の集まりで,あまり価値のない会社と見なされがちですから,何とか世の中に認めさせたいのですよ。
4Gamer:
ちなみにAimingでゲーム偏差値の高い人というと,どれくらいの数値なんですか。
椎葉氏:
偏差値というと,普通は70代が最高ですよね。でもAimingだと90を超えるような社員が2人いるんです。彼らはもう,寝ているとき以外はずっとゲームをプレイしています。一人は,欧米のプロゲームチームが1日12時間ゲームをプレイしていると聞いて「たいしたことないな。オレ,だいたい1日18時間プレイしてる」って言ってました。それ,社会人としてどうなんだよと(笑)。
もう一人は女性で,どんなゲームをやらせてもうまいんです。それ以外にも,深夜11時過ぎまでゲーム開発して,12時に帰宅してそれから3時間ゲームをプレイしてる人間もいますよ。でも午前10時には出社しないと怒られますから,「眠い」と言いながら来て,また夜は3時までゲームをプレイするんです。この2人は抜けていますが,ほかにもそんな社員がいっぱいいます。ここまで皆がゲームをプレイしている会社は,なかなかないですよ。
僕も初めてAimingにうかがったとき,広報担当の女性の方とFPSの話ができてホッとしましたからね。まだまだ世間一般には競技ゲームやe-Sportsというと知名度が低いですし,ましてAimingはFPSを扱っているわけではないですから心強かったですよ。今後はDeTonNatorとしてもっと活躍することで知名度を上げて,e-Sportsみたいな単語が普通の会話に出てくるような状況にしたいですね。
椎葉氏:
繰り返しですが,Aimingが支援することでDeToNatorが世界で活躍できるようになり,さらなる私達の支援が可能になるというようないいループを早く作りたいですよね。そうなると海外合宿や海外遠征で,さらなる力を得られるようになります。
江尻氏:
そうなると,世間の親御さんにDeToNatorを人材育成の場として認識していただく機会も増えるかと思います。ゲームだけど社会教育もきちんとする,したがってその後もきちんと社会生活ができると理解していただけるようになれば,選手達も家族から応援されて気兼ねなくプレイができます。今回の取り組みでは,そういった選手個人レベルのループがよくなることにも期待しています。
4Gamer:
それでは最後に,今後の展開について,あらためてお二人の意気込みなどをお願いします。
江尻氏:
2015年のDeToNatorのキーワードは,「日本から世界へ」です。世界に挑戦できる組織と人材を,チームとして一致団結して進んでいきます。
椎葉氏:
ゲームが大好きでゲームばかりプレイしている人は,自信を持ってください。ただそれは社会性や人間性をないがしろにしていいという意味ではありません。社会性と人間性を大事にできるのであれば,一つの物事に打ち込むことはスポーツだろうがゲームだろうが等しい価値を持ちます。ぜひ自信を持って,邁進してください。
4Gamer:
ありがとうございました。
Aiming(エイミング)公式サイト
DeToNator Pro Gaming Team公式サイト
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