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AMD,次世代モバイル向けAPU「Mullins」と「Beema」の概要を公開。Bay Trailを追撃する切り札となるか?
この2製品は,2013年11月にその存在と位置づけが公表されたもので,2014年1月の2014 International CES(以下,CES 2014)では,これらを使ったPCのプロトタイプが披露されている。
今回の発表では,MullinsとBeemaの製品ラインナップが公開されたほか,ベンチマークテストでの性能や注目すべき機能も明らかにされた。AMDが公開したスライドをもとに,登場が間近に迫った両製品の特徴をざっくりとまとめてみたい。
競合に対して消費電力あたりの性能は2倍を謳うMullinsとBeema
現在AMDは,タブレット端末向けに「Temash」コア版のAMD A-Series APUを,2-in-1デバイスを含む薄型ノートPC向けに「Kabini」コア版のAMD A-Series APUやAMD E-Series APUをそれぞれ提供している。開発中のMullinsは,Temashコア版APUの後継製品に位置付けられており,同様にBeemaはKabiniコアAPUの後継となる製品だ。
どちらのCPUも28nmプロセス技術で製造され,CPUコアに「Jaguar」(ジャガーもしくはジャギュア)マイクロアーキテクチャを改良した「Puma+」(プーマプラス)を2〜4基,GPUコアは「Graphics Core Next」(以下,GCN)世代を採用することが明らかになっている。
そのラインナップは以下のとおりだ。
●Mullins
A10 Micro-6700T | A4 Micro-6400T | E1 Micro-6200T | |
---|---|---|---|
TDP | 4.5W | 3.95W | |
CPUコア数 | 4基 | 2基 | |
CPUコア 最大クロック |
2.2GHz | 1.6GHz | 1.4GHz |
L2キャッシュ容量 | 2MB | 1MB | |
GPUブランド | Radeon R6 | Radeon R3 | Radeon R2 |
Compute Unit数 | 128基 | ||
GPUコア 最大クロック |
500MHz | 350MHz | 300MHz |
対応メモリ | DDR3L-1333 | DDR3L-1066 |
●Beema
A6-6310 | A4-6210 | E2-6110 | E2-6010 | |
---|---|---|---|---|
TDP | 15W | 10W | ||
CPUコア数 | 4基 | 2基 | ||
CPUコア 最大クロック |
2.4GHz | 1.8GHz | 1.5GHz | 1.35GHz |
L2キャッシュ容量 | 2MB | 1MB | ||
GPUブランド | Radeon R4 | Radeon R3 | Radeon R2 | |
Compute Unit数 | 128基 | |||
GPUコア 最大クロック |
800MHz | 600MHz | 500MHz | 350MHz |
対応メモリ | DDR3L-1866 | DDR3L-1600 | DDR3L-1333 |
Mullins(左)およびBeema(右)のラインナップ |
MullinsとBeemaで最も重要な特徴は,競合他社の製品に対して,消費電力あたりの演算性能――GPUとCPUを合わせた演算性能――が2倍に達するという点にある。
Temashのスペックを振り返ると,CPUコア4基搭載の「AMD A6-1450」が,最大1.4GHz駆動でTDPは8W,CPUコア2基搭載の「AMD A4-1200」が,最大1GHz駆動でTDPは3.9Wだった(関連記事)。これに比べてMullinsは,CPUコア4基の製品では最大動作クロックを2.2GHzへと大幅に引き上げながら,TDPはほぼ半減。2コア製品でも動作クロックを引き上げながら,TDPはほぼ横ばいを維持していることがわかる。
この性能向上にAMDは大きな自信があるようだ。なにしろ,今回の説明を担当したモビリティ製品部門シニアディレクターを務めるKevin Lensing氏が,「競合は後を追うことすらできない」と豪語したほどである。
AMDが想定するMullinsの競合CPUは,Windows 8.1搭載タブレットで採用されている「Atom Z3770」や,2-in-1デバイスに採用される「Core i5-4200Y」「Core i3-4010Y」だという。Lensing氏は,「Core i5/i3とAtom Z3770の間には,価格と性能の大きなギャップが存在しており,その隙間を埋められるMullinsと戦える製品は,競合には見当たらない」と主張していた。
一方,薄型ノートPC向けに投入されるBeemaを,現行のKabiniと比較してみると,Kabiniの上位モデルである「A6-5200」がTDP 25Wだったのに対して,Beemaの上位モデル「A6-6310」は15Wと,6割程度までの省電力化を実現しているという。
また,両製品のベンチマークスコアを比較してみると,3DMark 11のスコアに顕著な向上が見られる。内蔵GPUはどちらもGCN世代であり,シェーダプロセッサ数も同じ128基だ。ただし,内蔵GPUの最大動作クロックは,A6-5200が600Hzだったのに対してA6-6310は800MHzとなっているので,GPUの規模は同程度に止めながらも,最大動作クロックの向上により性能向上を達成したと見ていいだろう。
なお,メモリインタフェースはKabiniから引き続いてシングルチャネルのままであるが,A6-6310はDDR3L-1866をサポートしており「メモリ帯域も大幅に拡大している」(Lensing氏)とのことだ。
Intel CPUに対するBeemaの優位点として,AMDは,GCN世代のGPUを統合することによるグラフィックス性能の高さを強調している。ただし,Beemaの比較対象は,Haswell世代のCPUでも下位モデルに当たる「Pentium 3556U」や,Bay Trail-MベースのCeleronシリーズである点には注意が必要だろう。
MullinsとBeemaは賢い電力と動作クロック制御で性能を上げる
MullinsとBeemaを語るうえで非常に重要な点は,いかにして消費電力当たりの性能を向上させたのかだ。その鍵の1つは,CPUコアの改良にあるという。
冒頭でも触れたが,MullinsとBeemaのCPUコアには,現行の「Jaguar」マイクロアーキテクチャを改良した「Puma+」と呼ばれるコアが採用されている。AMDでチーフアーキテクトを務めるBen Bates氏によれば,このPuma+は,動作クロックの向上と消費電力の抑制を両立させることを目標に設計されたという。
このPuma+は,Kabiniに採用されたJaguarと比べて,CPUコアのリーク電流が19%も低減されているという。どのようにしてリーク電流を低減させたのかについて,Bates氏は説明を避けたが,CPUコアが改良されていることと,製造プロセス自体は変更されていないことから推測すると,CPUアーキテクチャの最適化によって低減を実現したと考えるのが妥当だろうと思う。
GPUコアの消費電力は,CPU以上に大きく改善されたという。先述のとおり,
こうした大きな改良だけでなく,「爪に火をともす」ような改良も行われている。たとえば,消費電力が馬鹿にならないメモリインタフェースやディスプレイのインタフェースなどで消費電力を下げる改良が行われ、メモリインタフェースでは500mW,ディスプレイ側では200mWの省電力化に成功したそうだ。
アーキテクチャの改良による消費電力低減に加えて,MullinsとBeemaでは電力制御機能に,APU全体の処理能力を上げるための大きな改良が2つ導入されたという。
1つめは「Skin Temperature Aware Power Management」,略して「ST
タブレット端末では,筐体表面の温度管理が重要だ。表面が手で持てないほど発熱したり,低音やけどを誘発しかねない温度まで上がったりしては商品にならない。一方,半導体そのものは,チップ内部の温度である「ジャンクション温度」(Tj)が動作の基準となっている。これは,「それを超えると半導体は正常に動作しませんよ」という物理的な上限であり,ユーザーが筐体の表面で感じる温度とは当然異なるものだ。
半導体の内部温度と機器表面の温度(Tskin)には関係があるのだが,半導体内の温度変化が機器表面まで伝わるには,それなりの時間差が生じる。この時間差を利用して,設定された表面温度に達するまではCPUやGPUの動作クロックを上げて駆動することで性能を向上させようというのが,STAPMの考え方であるわけだ。
AMDではSTAPMを導入することにより,重い処理に対して最大63%もの性能向上が得られるとアピールしている。
2つめの仕組みは,「Energy Aware Boost」と呼ばれる機能だ。
こちらも発想としてはシンプルで,動作クロックを抑えて処理時間を長くするよりも,動作クロックを上げて処理時間を短くするほうが,トータルでの消費電力を抑えられる場合があるという考えに基づいた機能である。
要は,自動車で目的地に向かう場合に,速度を上げて短時間で到着するほうが,時間をかけてゆっくり走るよりも燃費がいい場合があるのと似たようなもの,と考えてもらえれば分かりやすいかもしれない。
AMDのコーポレートフェローを務めるSam Naffziger氏によると,MullinsとBeemaに搭載された電力制御システムは非常に賢く,動作クロックを上げたほうが消費電力が抑えられるのかそうでないのかを処理に応じて適切に判断し,総合的な電力消費が抑えられるように動作クロックを変える仕組みになっているのだという。
こうした高度な電力と動作クロックの制御によって,MullinsとBeemaは従来よりも高いベンチマークスコアを発揮できるという。実アプリケーションでも性能向上やバッテリー駆動時間の延長に効果がありそうに思えるが,実機で検証してみなければ確実なことはいえない。
セキュリティ用コプロセッサとしてCortex-A5を内蔵
Cortex-A5は,極めて小規模ながら,ほかのCortex-Aシリーズと共通の命令セットに対応するプロセッサだ。先に掲載したブロック図でも分かるように,PSPが占める面積はごく小さいサイズに留まっている。
実のところ,x86 CPUにCortex-A5を組み合わせてセキュリティ機能を処理させるというプランは,2012年6月に発表されていた(関連記事)。それが2年越しでようやく日の目を見たわけだ。
さて,そのPSPは,ARMが開発したセキュリティ技術「TrustZone」によって,2つの機能を提供するという。1つは重要なデータやファームウェアを保護する機能で,TrustZoneの用意するAPIである「Trusted Execution Environment」(TEE)によって実現されるとのことだ。もう1つは暗号化処理のアクセラレーションである。
x86 CPU搭載の2-in-1デバイスやタブレット端末といえば,Intel製CPUの独壇場である。しかし,3Dグラフィックスのゲームを動かせる性能のGPUコアを内蔵しながら,タブレット端末や2-in-1デバイスに搭載できる消費電力を実現したMullinsとBeemaは,ゲーマーにとって魅力的な製品を実現可能なAPUだろう。日本のゲーマーでも気軽に購入できる製品の登場を期待したい。
AMD 日本語公式Webページ
- 関連タイトル:
Beema,Mullins(開発コードネーム)
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