レビュー
とにかく小さくて使えるのが欲しい人に。これは“危険な”キーボードだ
ビットフェローズ BFKB88PC
(BFKB88PCBK,BFKB88PCWH)
今回取り上げる「BFKB88PC」は,そんなBFKB113PBKの10キーレス版にして機能強化版というべき存在だ。機能強化版ゆえに実勢価格は5700〜6200円程度(※2016年1月16日現在)と,フルキー版より少し高いが,果たしてこちらも「買い」といえるのか。黒い「BFKB88PCBK」と白い「BFKB88PCWH」の2色展開となるBFKB88PCをじっくりテストする機会があったので,結果をお伝えしたい。
小さくて薄いがしっかりした作り。安心して打鍵できる
その意味において,今回のBFKB88PCは,旧シグマA・P・Oシステム販売でSCK88の開発に携わり,DHARMAPOINTの製品開発担当でもあった梅村匡明氏が,ビットフェローズブランドでゲーマー向けにSCK88を復活させたものという理解でいいかもしれない。
下に示したのはBFKB88PCBKとBFKB88PCWHを正面から捉えたカットだが,「光沢のある筐体を採用し,日本語88キー仕様に準拠しつつ,左右[Fn]キーが追加された配列でキーが並ぶ」仕様は,完全に同じだ。
BFKB88PCの2モデルについて細かいことを言えば,黒モデルであるBFKB88PCBKのほうが光沢感はより強いので,光沢感の好き嫌いで選ぶと色が決まりそうであるとか,キートップの印字がBFKB88PCBKは白なのに対して白モデルであるBFKB88PCWHは青であるとか,本体向かって右奥にあるインジケータLEDの見え方はBFKB88PCBKのほうが良好で,BFKB88PCWHだと文字が潰れ気味だとかいった違いはある。その点では異なるといえるかもしれないが,キーボードとしての根幹は共通と理解してほしい。
以下本稿では,BFKB88PCの2モデルを区別せずに扱う。
一方,左手側には気になるところはない。「FPSやMOBAのような忙しいタイトルをプレイするときに違和感を覚えることはない配列」と言い切っていいように思う。
気になる上面のサイズは実測約325(W)×135(D)mm。手前側,最も薄い部分の高さは机上から同6mm,1列目のキーがある部分の高さは同8mmである。キートップの高さはキーボード面から同2.2mmなので,もっとも手前側のキートップの高さは机上から約10.2mmのところになる。
また,先ほど「立てかけて保管するときにも使える」と紹介したスタンドは,畳んだ状態で本体奥側の高さが実測約18mm,立てた状態で同25mmとなる。
BFKB88を手前から。メカニカルキーボードの場合,構造的にキートップが高くなってしまうわけだが,パンタグラフ式メンブレンならご覧のとおりだ |
本体は非常に軽い |
これだけ薄いと,机上に手首を置いた状態でも,やすやすとすべてのキーに指が届く。パームレスト的なものを用意して手の高さを調整する必要は,BFKB88に限ればまずない。
また,見た目のとおり,本体重量は非常に軽い。ケーブル込みの実測値は約490gで,参考までにケーブルを重量計からどかした状態だと約400gだった。
この軽さと薄さから,ゲームプレイ時のガタツキやキシミを懸念する人が多いと思うのだが,結論から先に述べるならと,外見から想像される以上に,BFKB88PCはしっかりしたキーボードだ。「本体の脆弱さからくるキシミ」のようなものは,少なくとも筆者がテストした限り,まったく発生しなかった。キーを叩いたときにわたんだりすることもなく,キーの返りも一定。チルトスタンドを立てると,当然のことながら机上との設置面積が減るので,その分だけ不安定になるが,そんな状態でも指の動きをしっかり受け止めてくれる安心感がある。
滑り止めのゴムがあるのは本体手前側だけだが,平滑な板面にはしっかり貼り付いてくれる |
ケーブル長は実測約1.6m。なんてことはない,ビニール皮膜のものだが,色は本体と揃っていた |
重箱の隅を突くような話ではあるが,場合によっては市販の滑り止めシートを用意したりする必要が生じるかもしれないので,この点は念のため指摘しておきたい。
なお,接続インタフェースはUSB 2.0だが,コンパクトなキーボードということで,USBハブ機能のような付加要素は一切ない。USBケーブルの長さは実測約1.6mだった。
ゲームに必要な機能をシンプルに実装。ソフトなしで設定できるのはグッドだ
見た目はどこからどう見てもコンパクトな薄型キーボードだが,実のところ,BFKB88PCには,ゲーム用途で便利な機能が一通り揃っている。しかも,それら機能はすべてキーボード上で,ゲーム中であろうといつでも設定変更できるため,追加ソフトウェアの導入などは必要なく,そもそも,そんなソフトウェアは用意されていない。
[Windows]キー関連ではもう1つ,[Fn]+[F8]キーで,[Windows]キーを左[Ctrl]キーにしてしまう機能もある。[Fn]+[F8]キーを押しても左[Ctrl]キーの機能は変わらないので,事実上,[Windows]キーを無効化して,左手前側の2キーどちらを押しても左[Ctrl]キーとして使えるようになるというわけである。
ただ,「[Windows]キー無効化機能」ではないので,[コンテキストメニュー]キーは無効にならない。
[Fn]+[F8]キーによるキー入れ替え機能は,どちらかといえば,ゲーム用というより,キータイプ用と考えたほうがいいかもしれない。
もう1つ,[Fn]+[F7]キーの同時押し(※長押しではない)で,[Caps Lock]キーと左[Ctrl]キーを入れ替えることもできるが,これもキータイプ用の機能ということになるだろう。左[Ctrl]キーが手前にあることを前提としてキーアサインを行っているゲーマーが普通だと思うので,ゲーム用途でこの機能を使うことはないはずだ。
それを承知で,左[Ctrl]キーを多用するLinux系OSも使っているユーザーとして少しコメントしておくと,[Caps Lock]キーと左[Ctrl]キーを入れ替えるのではなく,「[Caps Lock]キーに左[Ctrl]キーを割り当てたうえで,もとの左[Ctrl]キーは無効化する」ほうがありがたかった。というのも,BFKB88PCは極めて薄いキーボードであるがゆえに,左[Ctrl]キーに手のひらが当たりやすく,入れ替えた場合,頻繁にCaps Lockの有効/無効が切り替わるという事態に陥ったからだ。
なお,ここまであえて触れてこなかったが,BFKB88PCはNキーロールオーバー仕様と謳われている。今回は,Windows 10環境でロールオーバー数のテストを行えるMicrosoft製Webアプリ「Keyboard Ghosting Demonstration」でテストを行ってみた。その結果が下のスクリーンショットだ。
片手でキーを押しながら片手でスクリーンショットを撮っているため,押しているキーが集中した感じになっているが,10キー以上の同時押しを認識できているのが分かるだろう。
正直に述べると,11キー以上を同時に押した場合,組み合わせによってはゴースト(=入力されないキーや,入力していないのに入力されたことになっているキー)が生じた。ただこれは,これは梅村氏の作るキーボードにおける共通の仕様だ。
氏は,人間の手は10本指であることから,10キーの同時押しができることをもってNキーロールオーバーと呼んでいる(関連記事)。そこで確認した限り,10キーまでであれば確かにゴーストは一切生じていない。
BFKB88PCは,メーカーの仕様どおり,実用上,何の問題もないロールオーバー仕様を実現できているということになるわけだ。
なお,念のため書いておくと,ここまで紹介した機能群のうち,フルキー仕様の従来製品であるBFKB113PBKは[Windows]キーの無効/有効切り替え機能とNキーロールオーバーのみをサポートする。そう説明すると,BFKB88PCが多機能版だというのも納得できるのではなかろうか。
ゲームプレイではフラットなキートップ面とショートストロークの利点を実感
釈迦に説法だとは思うが,「パンタグラフ」というのはあくまでもキートップ支持構造を指す言葉であり,キースイッチではない。冒頭で触れたとおり,スイッチ自体は一般ユーザー向けキーボードでお馴染みのメンブレンである。
英語で「Scissor」(はさみ)とも言われるパンタグラフ式の利点は,キートップのどこを押しても均等な沈み込みが得られるところだ。幅広の[Enter]キーや[Backspace]キーを押してみると,その効果はすぐに分かる。どこを押しても引っかかりなく沈んでくれるのは,さすがパンタグラフ式と感心させられる。
少なくとも,筆者が入手した2台に関していえば,メインキー部でバネ荷重のバラツキはほとんどないので,その点の心配は無用だと思われる。
本稿の序盤で,キートップは筐体面から約2.2mm高いところにあると述べたが,ストロークも実測約2.2mmだった。なので,キートップは,ほぼキーボード面とフラットになる程度まで押し込めることになる。
キースイッチが反応する距離,いわゆるアクチュエーションポイント(Actuation Point,作動点)はそれよりわずかに短く,2mmくらい押し込んだところで反応するようになっていた。
2mmというアクチュエーションポイントはいまや珍しくなく,メカニカルキースイッチ採用モデルだと1.5mmというものも出てきているわけだが,BFK88PCの場合,ストローク自体が浅く,ストロークとアクチュエーションポイントの違いも小さいため,「キーボードを押し込みすぎて操作速度をロスする」という問題が構造的に生じない。
メカニカルキースイッチ搭載モデルだと,キーを浅く押すよう習慣づけない限り高速な操作は行えないのに対し,BFKB88PCではそもそもフルストロークで2.2mmしか押し込めないので,「キーに慣れる」必要がないのだ。
しかも,スイッチ自体はメンブレンなので,底当たりはソフト。ゆえに,キーを力いっぱい叩いてしまうタイプであっても,指を痛める心配はまずない。
ただ,キーに慣れる必要はなくとも,キーボードに慣れる必要があったことは,公正を期すため書いておくべきだと感じている。何しろ,一般的なキーボードと比べると,圧倒的に背が低いので,その点での違和感はかなりある。何気なく手のひらを置いたら,キーが反応してしまうというようなミスが,最初は頻発した。
ただこれは,「キーを浅く押す」系の,ユーザーの努力が必要なタイプのハードルではない。なにせ,高さが違うだけなので,とくに意識しなくても打鍵していればそのうち慣れ,低背ゆえに指が届きやすいというメリットが勝ってくるはずだ。
また,Fallout 4のようなタイトルでこそ,パンタグラフ式は非常に効果的だとも感じた。やや危険な局面で,焦ってキーを少しずれた位置で押したりしても,キーはしっかり沈み,反応してくれるので,そういう点での安心感が大きい。キートップの安定性は,一般的なメカニカルキースイッチ採用のゲーマー向けキーボードと比較しても非常に高いレベルにあるといえる。
この小ささと背の低さ,必要な機能がまとまった感じはやみつきになるかも
しかし,ゲームプレイにあたって本当に必要な要素,すなわち邪魔なキーの無効化機能とNキーロールオーバー仕様はしっかり実装している。しかも,高速性の謳われるメカニカルキースイッチ搭載モデルと比べても,この低背キーボードは,アクションにあたって指を動かす量が明らかに少なくて済む。
さらに,10キーレスでこのサイズである。使ってみると分かるのだが,マウス用のスペースは,非常に広く取れる。ほかのどんなゲーマー向けキーボードよりも広く取れると確認せずに言い切ってしまっても,おそらく間違いではないはずだ。
実勢価格は5700〜6200円程度(※2016年1月16日現在)と,手を出しやすいものの,実際に使って「これはいい」と思った時点で,店頭在庫を買い占め,生涯添い遂げる覚悟が必要かもしれない。BFKB88PCは,それくらい危険なキーボードである。
BFKB88PCBKをAmazon.co.jpで購入する(Amazonアソシエイト)
BFKB88PCWHをAmazon.co.jpで購入する(Amazonアソシエイト)
ビット・トレード・ワンのBFKB88PC製品情報ページ
- 関連タイトル:
ビットフェローズ
- この記事のURL: