レビュー
築城と城攻めにフォーカスしたRTSのシリーズ最新作
ストロングホールド クルセイダー2 日本語版
ストラテジーにおける,十字軍モノの立ち位置とは?
コアなストラテジーゲームファンにとっては「何をいまさら」という感じだろうが,中世のヨーロッパと中近東を背景にした,いわゆる十字軍モノは,世界史を描くゲームにとっては実においしいテーマだ。十字軍やヨーロッパの騎士に対する関心は欧米を中心に高いし,なんといっても,きらびやかな鎧に身を包んだ彼らの戦闘はビジュアル的によく映える。
マクロな視点から言えば,十字軍活動が頻繁に行われた中世盛期(11〜13世紀)はイスラム教勢力に押さえられてきたキリスト教の諸王国が膨張に向かう時期にあたり,これはしばしば「ヨーロッパ世界対非ヨーロッパ世界」を扱わなければならない歴史ゲームにとって,非常に有利に働く。時代が下って近世や近代になると,非ヨーロッパ世界は西欧諸国のサンドバッグ役に甘んじるか,ゲームそのものからオミットされることが多くなっていくが,両者のパワーバランスがおおむね釣り合っていた十字軍の時代は,「異なる文明間のフェアな戦い」を演出しやすいのだ。
「ストロングホールド クルセイダー2 日本語版」公式サイト
以上のような理由で,十字軍モノのゲームは枚挙にいとまがない。戦略レベルのプレイに特化した「クルセイダーキングスII」や戦術レベルに重心を置いた「キングスクルセイド」,あるいはその中間に位置する「メディーバル2:トータルウォー」などが,十字軍をテーマにした作品の代表といえるだろう。
また,「ANNO1404」や「ライズ オブ ヴェニス」のように,キリスト教国による中東の征服活動そのものではないにせよ,この時代の東西交流を背景にしている作品も少なくない。
ただ,野戦が中心の「キングスクルセイド」「エイジ オブ エンパイア」シリーズと異なり,本作ではタイトルが示すように堅牢な城塞をいかに攻略するか,あるいは逆に,敵の猛攻を跳ね返す防衛線をいかに構築するかに重点が置かれている。
戦術ゲーであると同時に城ゲーでもある本作はいったいどんな作品なのか,昨年12月の発売から少し時間が空いてしまったが,その特徴について紹介してみたい。
歴史ファンや城塞マニアの心をくすぐる各種ゲームモード
まず「クルセイダー2」の各種ゲームモードについて,簡単に説明しよう。
「チュートリアル」は,ゲームの基本的なルールを教えてくれるが,本作のチュートリアルは短いうえに習得できる内容も少ないので,続けて「キャンペーン」モードをきっちりプレイしておこう。用意された「戦支度」「獅子心王」「サラディン」の三本のシナリオは,ストーリーが史実の第3回十字軍に基づいていることに加えて,各シナリオをこなすたびにできることが徐々に広がっていくので,歴史ファンやストロングホールドシリーズ未経験者にオススメだ。
チュートリアルの後にこれらのヒストリカルシナリオをプレイすることで,本作の各種ギミックを無理なく学んでいける。
一般的なRTSの「技術革新と共に選択肢が次第に広がっていく」システムに比べてゲームスタート直後からやれることが多い本作だけに,ゲームのテンポ,とくに敵が軍備を整えるスピードはかなり早いように感じた。「最初はゆっくり城壁でも建てて,相手の出方をうかがうか」という心づもりでいくと,あっという間に敵が遠征軍を派遣してきて住民が全滅,というケースに陥ることになる。
ちなみに,このモードはいろいろとカスタマイズすることが可能で,同じシナリオでも,異なるスタート位置や難度で繰り返し遊べるところが楽しい。
じっくりと自分好みの城を築きたいプレイヤーには「フリープレイモード」を勧めたい。ここでは,敵襲を気にせずに築城に励むことができるので,ぜひ「ぼくのかんがえたさいきょうのおしろ」を目指してほしいと思う。
こうしたシングルプレイに加えて,「クルセイダー2」には最大8人のプレイヤーが参加できるマルチプレイモードも用意されている。対人戦はRTSの醍醐味なので,ゲームに慣れてきたらマルチプレイもぜひプレイしてほしい。さらに「Steam」を通じて配信される本作は,「Steam ワークショップ」にも対応しているため,他のプレイヤーが作ったさまざまなMODを導入することも可能だ。
以上のように,「クルセイダー2」にはさまざまなゲームモードがあり,要求されるテクニックも少しずつ異なっている。だが,根本となる知識や覚えておくと便利なコツなどには共通するものも多い。続いて,それらを見ていこう。
砂漠で資源を手に入れる,だいたい10くらいの方法
「マップ上で資源を採集して,それを建物や軍事ユニットに変換することで自勢力を強化する」というゲームの流れは,ほかのRTSと同じだ。しかし,本作の舞台となるのは史実で十字軍が進攻した中東であり,マップは必然的に砂漠地帯がメインになる。このため,農作物の栽培はオアシスなどのある緑地でしか行えないという特徴がある。
緑地は均等に広がっているわけではないため,見た目を重視してキレイに建物を置こうとすると意外と手間取るはずだ。ゲームに慣れないうちは,むしろあまり見た目にはこだわらず,置ける場所に建物を適当に配置していったほうがいいだろう。
食品を生産する建物には2つのパターンがある。1つは,リンゴ畑,養豚場,酪農場で,それぞれを設置することでリンゴ,食肉,チーズの生産ができる。もう1つは,小麦畑,粉挽き小屋,パン屋で,これらはパンを生産するのに必要だ。リンゴなどに比べてパンの生産には複数の工程が必要になるが,多くの住民を養うのに適している。
不毛な大地の多い本作のマップでは,食糧を生産できるスペースが限られているので,効率の良い食糧供給システムはゲームが進むにつれて重要になってくる。ただし,粉挽き小屋や複数の小麦畑を建てるにはそれなりの木材が必要になるので,序盤は2〜3のリンゴ畑や家畜関連施設を建てて様子を見るのがいいだろう。
食糧を切らさないこと,それも単品ではなく複数種類の食品を住民に供給し続けることは,君主(つまりプレイヤー)に対する住民の支持を集めるうえでも大切になる。「クルセイダー2」には「人望」というステータスがあり,これがマイナスになると住民がどんどん減り,働き手がいなくなってしまうのだ。
人望は,ランダムイベントによっても減少してしまうので,疫病の発生といったバッドイベントが起きた際には,税を免除(あるいは支度金を供給)したり,食糧供給率を上げたりして,住民の機嫌を取ってやる必要がある。中世の封建君主も楽ではない。
また,居酒屋を作って住民にエール(ホップから醸造されるアルコール飲料)を供給したり,教会(あるいはモスク)を建てて彼らの信仰心を満たしてやったりすることでも人望は上昇する。このあたりも,中世を題材にした本作ならではだろう。
余談だが,衛生上の理由で生水を飲めなかった中世ヨーロッパでは,醸造の過程で殺菌処理がされる酒類は水分補給のために必要不可欠だった。この時代を扱ったゲームで醸造所や居酒屋に類した建築物が頻繁に出てくるのは,当時の酒場が数少ない娯楽の場であっただけでなく,もっと切実な理由があったのだ。同様に,中世の「井戸」が,飲料水の確保よりも防火目的の施設であったということを知っていると,ゲームがより興味深いものになるかもしれない。
さて,食糧生産施設や城塞の拡張,あるいは兵士の雇用に必要な木材,石材,そして鉄の各種資源は,それらの資源の生産地に隣接して必要な建物を建てることで採取が可能になる。このうち石材と鉄については,貯蔵場まで運ぶために「牛引場」を併せて建てなければいけない。
鉱山資源に限らず,「クルセイダー2」ではパンやエールのように複数の建物を建てなければ生産できないリソースがいくつかある。「市場」を建てれば緊急時の資源は確保できるとはいえ,製造工程の把握と建築の計画はあらかじめしっかり立てておいたほうが良さそうだ。筆者に限った話かもしれないが,RTSをプレイしていると「建てたいときにかぎって木材がない」という状況に必ず陥るので,木材の生産と消費のペースにも気を配っておきたい。
勝利の秘訣は絶え間ない兵士の供給
言うまでもないが,これら生産施設の整備はすべて,兵士や攻城兵器をコンスタントに供給するために行っている。「クルセイダー2」の醍醐味はなんといっても攻城戦であり,ピッチ油による火炎攻めや,各種攻城兵器の使用,さらには動物の死骸を投げ込んで疫病の誘発を狙ったりなど,あの手この手のさまざまな戦術が選べるので,自分なりの「城攻めの美学」を見つけられるはずだ。
難しい点があるとすれば,ゲーム序盤から生産施設の拡張と同時進行で兵士の生産をかなり積極的に行っていかなければならないことで,すでに述べたが,「まずは資源を十分に確保してから」というゆとりプレイではすぐに行き詰まってしまう。ゲーム開始時点でユニット生産のために比較的豊富な資源が与えられているキャンペーンモードはもちろん,「小戦闘」モードでも,生産施設より先に兵舎,武器庫,傭兵詰所などを建てて戦闘に備えなければならないのだ。兵士の生産自体は短時間で終わるためストレスを感じることはないが,戦闘では概して質よりも量が優先されるため,手が空いたときには常に兵士を生産する必要があり,人によってはちょっとせわしないと感じるかもしれない。
さて,各種戦闘ユニットは労働に従事していない住民を変換することで生産される。働いていない住民は一見すると無駄のように思えるが,兵士をいつでも増員できるように,手ぶらの住民を何人かは常に残しておくようにしたい。上の「人望」はここで重要になってくる。高い「人望」を維持することは,いざというときの住民不足と,そこから派生する兵士不足を回避することにつながるわけだ。
もう1つ,ほかのRTSに比べて,弓の射程距離の長さに筆者がやや戸惑ったことを付け加えたい。味方が弓兵の攻撃を受けているので敵を探したところ見つからず,よく調べてみるとかなり遠くに敵の姿を発見した,ということがしばしばあった。
これは手強い,とは思ったものの,弓の射程距離が長いのは自軍も同じ。長い弓の射程は戦術としても使えるわけで,「大量の弓兵と壁になる歩兵部隊」の組み合わせは,攻城戦に先立つ戦いにおいて,前線を押し上げていくときに非常に便利だ。
RTSの基本を押さえつつ
リアリティと攻城戦の爽快さを追求した作品
以上のように,「クルセイダー2」には「労働力としての住民」「建築物」「戦闘ユニット」「資源」というRTSではおなじみの要素がもれなく用意されており,さらに「人望」というステータスを加味することで,住民数の変動にランダム性を与えつつ,複数種類の食品を生産したり,教会や居酒屋などの建築物を建てたりすることに必要性を持たせている。住民の支持率や幸福度などは必ずしも本作独自のものではないが,「人望」は兵士の雇用スピードとも密接に関わっているため,本作のテンポの良さと相まって,いつものように「住民に不満が溜まっているけど,ちょっとくらい人口が減ってもいいか。すぐに回復するだろう」と笑って済ませられない。この点が巧みだ。
また,十字軍の時代を扱った多数の作品と比べても,「クルセイダー2」はリアリティに富んだゲームだといえる。本作には大将にあたる君主を除いて,過度に強力なユニットは登場しないし,オリエンタルな異国情緒が強調されがちなイスラム勢力の表現も,さほど過度なものは見当たらない。舞台となるマップも,ゲームとしての公平さを期すための配慮を除いて(「ANNO」シリーズの群島マップのような)不自然な地形ではない。登場する城塞も,難攻不落の要塞というよりは,十字軍勢力が中東に実際に建てた,簡素だが実用性に富んだ城郭を再現できる。
惜しむらくは,こうしたリアリティの追求,あるいはストイックさがゲームとしての面白さに必ずしも結びついていない点がいくつかあるところだ。
例えば,軍事ユニットの生産拠点や資源の保管場所は基本的に1つしか作れない。これは拠点としての城塞の重要性を強調するためだろうが,結果としてマップ上で勢力を拡張していく面白さや自由度が減っていると思う。また,建築できる城塞のバリエーションは,戦闘で勝利することを目的にしたRTSとしては十分すぎるが,「フリープレイモード」で城塞建築シミュレーションとして楽しむにはやや物足りない。これは各種の生産施設についても同様だ。
「ストロングホールド クルセイダー2 日本語版」公式サイト
とはいえ,こうした印象は,どちらかというとじっくり腰を据えて都市なり集落なりを発展させるタイプのRTSを好む筆者の嗜好によるところが大きい。本作のセールスポイントは,多数のユニットを動員してのテンポの速い攻城戦であり,実際に多方面からの同時攻撃や一点突破がうまく成功して城を占拠したときの爽快感は,その城の防御が堅ければ堅いほど大きい。その一方では,貧弱な城で敵の大軍を凌ぐという手に汗握るシチュエーションを味わうこともできる。
こうした攻城戦は,「ストロングホールド」シリーズ以前のRTSでは単にシナリオの一部として扱われるだけであり,内容的にもそれほど難しくないものが多かった。それらの城攻めでは物足りないというストラテジーゲーマーの方々に,本作をぜひオススメしたい。
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