インタビュー
「HIT」新プレイアブルキャラ「レナ」の“アイドル設定”も実は日本発のコンテンツ。開発と運営それぞれのキーマンに深掘り気味で話を聞いてみた
今回4Gamerは,このアップデートに先駆けて本作の開発元であるNAT GamesのCEO パク・ヨンヒョン氏とGrobal Studio PD ホン・スンミョン氏,そしてプロモーションを担当しているネクソンのモバイル事業本部 本部長 キム・キハン氏にインタビューする機会を得た。「レナ」の実装に至る経緯だけでなく,日本や韓国におけるHITの現状についても聞けたので,その内容を掲載しよう。
パク・ヨンヒョン氏 |
ホン・スンミョン氏 |
キム・キハン氏 |
5人めの新キャラ「レナ」は戦場のアイドル?
日本は女性プレイヤー最多という事実も明らかに
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは弓使いの「レナ」が実装に至った経緯からおきかせください。
パク・ヨンヒョン氏(以下,パク氏):
「ルーカス」「アニカ」「ヒューゴ」に続くプレイアブルキャラは,遠隔攻撃を繰り出すタイプにしようと決めて,2つの候補がありました。それが,ファンタジーの世界に魔法は不可欠ということで先に実装した魔法使い系の「キキ」と,今回実装したアーチャー系の「レナ」です。
4Gamer:
「キキ」と「レナ」はどちらも遠距離タイプという点で共通していますが,どういった形で差別化を図っているんですか?
ホン・スンミョン氏(以下,ホン氏):
「レナ」はアイドル的なキャラ付けをし,美しい身のこなしを成立させるために近接アクションも盛り込みました。
パク氏:
弓を射るだけではインパクトに欠けるので,クローズアップできる要素として近接アクションをデザインしていきました。
4Gamer:
運営側から見たレナの魅力も教えてください。
キム・キハン氏(以下,キム氏):
操作面で「キキ」と明確に異なるのは,スピード感がある点ですね。ストーリーパートでは天然な性格が垣間見えるので,そこでも「キキ」とは一味違う部分を楽しんでもらいたいです。
4Gamer:
ところで「レナ」という名前は日本版固有のものなんでしょうか。
ホン氏:
プレイアブルキャラの名前はドイツ系で統一しており,全世界で共通の発音です。名前の候補には「ミア」や「エナ」などが挙がり,最終的には会議をとおして「レナ」に決まりました。
4Gamer:
今挙がった候補はすべて女性名ですが,女性キャラにすることは当初から決めていたんですね。
昔の韓国では男性なら男性キャラ,女性なら女性キャラを使っていましたが,最近は男女共に女性キャラを使う傾向にあります。個人的に男性キャラは2人もいれば十分だと考えていますけど(笑)。
ちなみに,今のところ女性プレイヤーがもっとも多い国は日本なんです。日本で男性キャラのニーズが高まれば,新たな男性キャラを日本で最初に実装するかもしれません。
4Gamer:
NAT Gamesさんはこうおっしゃってますが,ネクソンさんとしてはいかがですか?
キム氏:
現実的にはさまざまな課題がありますが,もちろんそのときは前向きに検討いたします(笑)。
韓国の「レナ」使用率は全体で40%
しかし対戦ガチ勢は「ヒューゴ」を使う傾向にアリ
4Gamer:
韓国での「レナ」使用率はどのくらいなんでしょうか。
ホン氏:
「レナ」をメインに使っているプレイヤーは全体の40%です。
4Gamer:
そんなに!?
パク氏:
日本では「キキ」使用率がほかの国よりも高く,全体で50%を超えています。これを超えられるのは「レナ」だけかもしれません。
ホン氏:
韓国で「キキ」を選ぶプレイヤーの年齢層は高めで,アプリ内課金を良く利用してプレイ時間も長い人は「ヒューゴ」を選ぶ傾向にありますね。
4Gamer:
それぞれ,どういった理由で選ばれているんでしょうか。
パク氏:
マルチプレイに強いキャラとしては「キキ」,対戦に強いキャラとしては「ヒューゴ」が選ばれていると思います。「ヒューゴ」は操作難度の高いキャラですが,韓国では対戦が人気コンテンツなので,好んで使う人が多いですね。
4Gamer:
「レナ」はどのあたりに位置していますか?
パク氏:
シングルプレイやマルチプレイ,レイドで強く,対戦でも中間以上をキープしていてバランスが良いという万能型に仕上がっていると思います。
HITが“ヒット”した要因を探る
韓国で「レナ」が実装されたとき,HITのセールスランキングが急上昇していましたね。配信開始から約3か月が経過した日本でも今なおセールスランキングの常連となっていますが,そうした“ヒット”の要因ってどこにあるとお考えですか。
キム氏:
HITほどの高いクオリティとゲーム性を備えたタイトルが日本にはまだなかったのが第一の要因だと思います。中世風のファンタジーという世界観も,相性が良かったんでしょう。
4Gamer:
NAT Gamesさん的にはいかがでしょうか。この手のタイトルって日本でもいくつか配信されているにも関わらず,どうしてHITだけが頭1つ2つ抜けているんでしょう。
パク氏:
去年の2月頃,韓国版の言語のみを英語にしたバージョンを使って,日本でフォーカスグループテスト(FGT)を実施したとき,「クオリティはとてもいいけど,何かハマれない」という声をいただきました。それから何が物足りないのか,何が不自然なのかを検討し,ネクソンさんとの地道なやりとりを通じて改善していったのが響いたのではないかと思います。
4Gamer:
HITは世界共通のバージョンというわけではないんですか?
ホン氏:
顕著な例を挙げると,韓国版のプレイアブルキャラ達はストーリーに参加しません。すべてのキャラが同じストーリーを追いかけ,プレイヤーはNPCの会話を見ているだけです。
FGTを実施したとき,日本のプレイヤーはキャラへの愛着があり,キャラの性格やキャラ同士の関係性が見えなければ物足りないという声が多かったんです。それでキャラごとにシナリオを新たに用意しようということになりました。
しかし,韓国版でそれを用意して日本語化したところで,文化などの違いからどうしても不自然な部分が残ってしまい,日本の人達には響かないだろうと考えました。そこで日本人のシナリオライターをネクソンさんに起用してもらい,すべて制作していただきました。キャラの設定から性格まで,場合によってはストーリーに絡む新キャラの考案も全部お任せし,現在,日本版に実装されているストーリーはすべて日本のオリジナルとなっています。
パク氏:
イラストも全部描きなおしています。
ホン氏:
翻訳するだけでは声優さんに演技をしてもらうときに不自然さが出るだろうと考えたのも理由の1つです。結果的に,韓国版に比べて日本版のストーリーは4倍のボリュームとなりました。イラストの差分も韓国より日本のほうが50%多いです。
4Gamer:
ゲーム内には何か手を加えていますか。
パク氏:
ドロップ確率などは国によって,あるいは法律によって決めていますし,アップデートの時期に関しては,プレイヤー全体の何%が最後のコンテンツにたどり着いたら,そろそろ導入しようといった具合に決めています。
4Gamer:
バージョン管理が大変ではないでしょうか。
パク氏:
大変です。
ホン氏:
たとえば「キキ」は可愛いだけではなく,少し腹黒い性格というのも日本のシナリオライターさんに考えていただき,それが逆に良いと思って,そういう設定は韓国版でも公式になりつつあります。「レナ」のアイドル気質も韓国版の公式ではありませんが,今後,それも韓国版の公式にしようと考えています。
4Gamer:
ある意味,日本発のコンテンツになっているわけですね。
パク氏:
キャラクターに関してはそんな感じです。
4Gamer:
先ほどのバージョン管理が大変だという話もそうですけど,普通の大きい会社さんがやるように,統一したバージョンで管理されればいいじゃないですか。なのにそこまでするモチベーションってどこからくるんですか。
パク氏:
誰もが知っているIPでゲームを作っていたら,統一したバージョンで管理していたかもしれません。しかしスマートフォン向けのゲームは,プレイヤーの反応がとても早いし,完成された製品というよりは中身のサービスを提供する立場だと考えています。
たとえば,世界中に展開しているスターバックスも,国によって店内の雰囲気やメニューが異なるように,スマホゲームもそういうものだと思います。
ホン氏:
もちろん国ごとに独立したビルドを用意するには,それなりの市場とプレイヤー数が必要ですが,韓国と中国,日本に関してはそれをやる価値があると考えています。
パク氏:
アメリカやヨーロッパは統一したビルドです。そこまでフィードバックを得られず,現地の事情を良く把握していませんので,まだ独立したビルドは用意できません。
4Gamer:
シナリオをゼロから作ったり,イラストを新たに描き起こしたりと,コストも時間もかかる話をネクソンさんは軽く呑んだのですか?
タイトルにもよりますが,すでにHITは韓国を含めてグローバルで成功した事例もありましたし,弊社としても日本でなんとかヒットさせたい気持ちが強かったので,NAT Gamesさんとの意見は合致していましたね。
4Gamer:
遠い昔のPCゲーム時代からある会社で,スマートフォン向けのゲームでも一定の成果を出しているのは,おそらくネクソンさんだけだと思うんです。そういう姿勢の表れが出るんですかね。
キム氏:
ほかの会社に比べてグローバル体制が整っているので,そこも強みだと思います。
4Gamer:
ネクソンさんからすれば日本の売上って10%じゃないですか。10%でそこまでやってくれるんだと思うと,日本人としてはちょっと嬉しいというか。
キム氏:
こういうやり方も通用するかどうかってところも,実は今回のミッションだったので。
NAT Gamesってどんな会社なの?
HITの設計思想って?
4Gamer:
HITのリリース前後で会社にはどういった変化がありましたか。
パク氏:
最初の開発人数は60人くらいでした。韓国でHITをリリースし,セールス上位に長くランクインしていたので,当時,その人数では海外バージョンを展開するのにも限界がありました。今では120人くらいに増えて,4つのバージョンを管理しています。
4Gamer:
120人で4バージョンを管理しているって,意外とハードワークですよね。
パク氏:
これでもスマホゲームの開発規模としては大きいほうです。
ホン氏:
当時はリリース直後からグローバルも担当することになって,いろんな部署に「手の空いた人を分けてくれ」と声をかけましたけど,誰も彼もが手一杯で断られ,新しく人を採用しました。
4Gamer:
採用するときは何を重視するんですか。
パク氏:
プログラミングは実力優先で面接だけではなく試験を実施し,経歴も見ています。グラフィックに関しても同様でポートフォリオをチェックしていますね。
企画に関してはベテランから新人さんまで採用しています。企画を長くやっていた人はそれなりのこだわりを持っていますし,新人は始めから弊社に合うやり方を覚えてもらったほうが一緒に仕事がしやすいんです。
ホン氏:
日本版の企画担当を決めるときは日本のスマホゲームをたくさん遊んだことがあり,かつ自分でゲームにお金を払っている人を選んでいます。でないと,プレイヤーがどういったところにお金を使いたいのかという気持ちが分からないので,そういったところを見ていますね。今の企画リーダーは月に20万円ほど使っていたそうです。
4Gamer:
でもHITはお金を払わなくてもガツガツと先に進めますよね。遊びながら「どこでお金を払わせるつもりだろう」と思ったんですが,そのあたりのデザインはどのように決めているんですか。
キム氏:
両社ともそこの意見は割れていなくて,対戦でトップになりたかったり,見た目にこだわりたかったりするならお金が必要になると思います。
4Gamer:
もちろんトップを目指す人は別の世界に生きているので,それはそれでいいんですが,カジュアルなプレイヤーなら,実はお金を払わなくてもいいのかなと思うんです。
パク氏:
はい。ウチのゲームはそのあたりがゆるいですよね。
4Gamer:
え,それはパクさんの方針なんですか?
パク氏:
いえいえ,そうではありませんよ(笑)。
ホン氏:
そもそも海外では,HITはパッケージ商品を主に販売するというマネタイズなので,ガチャに重みがないんです。日本ではガチャが大事な要素なので少し重みを置きましたが,開発の段階からガチャを前提としていないので,装備は揃えやすいかもしれません。
4Gamer:
ガチャが前提になっていないので,そもそもの設計が違うんですね。
キム氏:
弊社としても,HITはガチャをきつめにして売れるゲームではないことは理解していましたね。
ホン氏:
韓国のHITはもっと時間をかけて遊んでいただくゲームで,HITをやり込んでいる人はほかのゲームに集中できません。日本のプレイヤーはどちらかというと,複数のタイトルを同時に遊んでいるので,あまり時間をかけるバランスだと逆にプレイしてもらえなくなる恐れがありました。そのため1日にできるコンテンツをライトに設定したりして,長く遊んでもらえるような設計にしています。
4Gamer:
そんなところも日本独自のシステムなんですね。
プラットフォームの変遷によって
“ゲーム”はどのように変わったのか
4Gamer:
ゲームの主戦場がPCやコンシューマからスマートフォンになって,そんなプラットフォームの変遷で「ゲームは面白さでプレイヤーを楽しませる」という部分はまったく変わっていないと思いますが,「ここはずいぶん変化したな」と感じるのはどんなところでしょうか。
パク氏:
すべてのプラットフォームに言えることですが,重いゲームはどんどん重くなり,軽いゲームはどんどん軽くなっていて,極端化が進んでいると感じます。中間に位置するゲームがなくなりつつあり,重いゲームを遊んでいる人と軽いゲームを遊んでいる人の交わる機会がないので,ちょっと心配しています。
開発としても極端化が進むと,できることが限られてしまいます。
4Gamer:
アメーバ経営がやりにくくなっていくんですよね。
パク氏:
スマホゲームはプレイヤーからのフィードバックがとても早いので,PCの時代に比べると,意見を気にしすぎたり,左右されたりしてしまうところがあるみたいです。
4Gamer:
あれ,昔は左右されなかったんですか?
パク氏:
人よりは気にしていたほうです(笑)。
4Gamer:
パブリッシャ側から見てどうですか。
昔のゲームはゲーム好きが遊んでいるイメージで,そういった方々はすごい熱量を持っていたんですけど,ほかの人から見ると「やりすぎじゃないか」と見られていた時代もあったと思います。
時代と共にデバイスは誰もが持っているスマートフォンに変わって,いわゆるゲーマーも存在するんですけど,最近では一般的な人も当たり前のように遊んでいて,ゲーム好きの観点だけではなく,誰でも楽しめるところを取り込んでいかなければならなくなったのが変わったところだと感じますね。
いつでもどこでも遊べるようになったので,昔のように座って2〜3時間じっくりとやる人は少なくなりました。プレイ時間は減ったけど,プレイ回数は増えたという話を良く聞くようになりましたね。
パク氏:
昔からPCゲームを遊んでいた人には伝わると思うんですけど,マクロや自動狩りBOTはチート扱いで禁止の対象でしたが,スマホゲームでは自動戦闘などが取り入れられていて,開発側としては当初,とても心配していました。しかしプレイヤーは当たり前のように使いこなしてくれるし,逆にそういった機能を喜んでくれます。なんだかこの時代の流れに開発のほうが追いつけていないのではと,考えることもありますね。
4Gamer:
最初は自動戦闘にびっくりしましたよね。今では実装されているのが当然ですけど。
パク氏:
韓国では会社でも端末を隅っこに置いて自動で進めておいて,楽しいところはマニュアル操作で遊ぶというプレイスタイルが定着しています。
ホン氏:
日本でこのプレイスタイルは会社的に厳しいのではないか,という意見がネクソンさんからあって,パスチケットを多く配布していますが,みんな使わずに溜め込むんです。
4Gamer:
その気持ちはすごく良く分かります。あれは「ここぞ」というときに使いたいから溜め込んでいるわけで,裏を返せば真剣にそのゲームを遊んでいる証拠ですよね。むしろ喜ばしいこと(?)なのかもしれません。
使ってもらいたくて配布していますが,メーカーがプレイヤーのスタイルを変えることはできませんし,必要も感じませんので,使っていただく機会を用意していく方向で検討しています。
パク氏:
嬉しい半面,会社でプレイできない人への配慮として配っているパスチケットなので,そういう使い方をされないので何か対策を打つ必要があるのかと考えてしまいます。
ホン氏:
FGTのとき,昼間はどうやってゲームをしているかと聞いたところ,お昼休みか休憩時間にしか遊べないという答えが多かったので用意した施策なんですが,いざ実施してみたら大多数の人が溜め込んでいました……。
パク氏:
タンスにしまったアバターを韓国のプレイヤーは不要になったら処分するんですけど,日本のプレイヤーはなかなか捨てないという違いもあります。
4Gamer:
パスチケットを全然使ってくれないから開発の人が困っていると書いておきます(笑)。
「レナ」実装に合わせた各種イベントを予定
“ペットシステム”も今後実装
4Gamer:
そろそろお時間なので,最後に,待望の「レナ」実装を楽しみにしている人にコメントをいただきたいです。
キム氏:
もちろん,アップデートに合わせたイベントを実施して,オンライン大会も計画中です。「レナ」の実装によって対戦環境も変わると思いますので,ぜひ楽しんでいただきたいです。
4Gamer:
NAT Gamesさんはいかがでしょうか。
ホン氏:
海外では実装されているペットシステムを日本にも導入する予定です。ハスキー犬やパンダといった約20種類のペットだけでなく,日本のニーズに合わせた追加も検討中なので,楽しみにお待ちください。
パク氏:
長くサービスしていると,既存プレイヤーばかりとなって新規の人がプレイしづらくなり,ゲームはどんどん衰えていくと思うので,既存の人が飽きずに,新規の人でも遊びやすいバランスのとれたタイトルにするべく,がんばります。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
──2017年3月7日収録
「HIT 〜Heroes of Incredible Tales〜」公式サイト
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