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西川善司の3DGE:AMDの次世代CPU,製品名は「Ryzen」に決定! 性能向上を支える5つの要素も明らかに
その発表に先立ち,AMDはカリフォルニア州ソノマ市でAMD製品の事前技術説明会「AMD TECH SUMMIT」を開催している。今回はそこで得られた情報をまとめてお伝えしてみたい。
製品概要がほんの少しだけ明らかに
いきなり余談で恐縮だが,発表会場に居合わせたデベロッパ関係者は「我々がエンジニアリングサンプルとして入手した個体は3.1GHz動作だった」と語っていたので,製品版ではクロックチューニングが入ると見てまず間違いないだろう。
なお,今回のAMD TECH SUMMITでは,実動デモこそあったものの,プロセッサパッケージそのもののお披露目はなかった。
AMDの社長兼CEOであるLisa Su(リサ・スー)博士も,「今後,AM4は数年にわたってAMD向けプラットフォームの主役として訴求されることになるだろう」と述べており,期待度は大きいようである。
AMDはソケットプラットフォームの寿命が長いのだが,CPU周りやI/O周りではIntelプラットフォームと比べて古さが否めなくなっていた。それだけにAMDとしても「やっと刷新できる」という思いがあるに違いない。
Ryzenの高性能を支える,5つの要素技術
- Pure Power
- Precision Boost
- Extended Frequency Range
- Neural Net Prediction
- Smart Prefetch
が重要なキーになっているとして,これらをまとめ,「SenseMI Technology」――もしくは「SenseMI Technologies」,AMD TECH SUMMITの時点では表記にブレがある――と呼んでいる。
順番に見ていこう。
SenseMI Technology(以下,SenseMI)の基本方針は,「合計数百個とも言われる電圧や電流,温度の各種センサーをプロセッサ内に配置し,そのデータを参照しながら,リアルタイムかつ適応型の内部操作処理を行う」というもので,1.のPurePowerはそのうち,電力制御に関わるものとなる。もう少し具体的に言えば,より低電圧で最大性能が得られるよう制御を行うものだ。
以上の2つは,これまでもあったものの拡張的な技術だが,3.のExtended Frequency Range(以下,XFR)は少し面白い。
最近のCPUでは,定格動作クロックとは別に,最大性能を発揮するためのブーストクロックが設定されているケースが多いわけだが,ブーストクロック以上の動作クロックを実現したい場合は,BIOSから設定を弄ったり,いわゆるオーバークロックツールなどを駆使する必要があった。
それに対してXFRは,プロセッサの冷却条件が良好であれば,ブースト動作クロックを上回る動作クロックへ自動的に入る機能なのである。Anderson氏も「XFRはオーバークロッカー達を熱くさせる機能となるだろう」と興奮気味で説明していた。
4.のNeural Net Predicionは,分岐予測に関連した新技術だ。
一般に,CPUの命令実行系統は多段パイプラインになっており,条件分岐命令に遭遇した場合は,「実際に条件命令の判断を行って分岐先が確定する」のを待たず,分岐先を予測して,その分岐先の命令実行に取りかかるようになる。そのとき,予測が当たっていれば,パイプライン動作を崩すことなく命令の実行を続けられて「めでたしめでたし」なのだが,予測が外れていると命令実行のやり直しになるため,パイプライン動作が崩れ,結果的に命令の実行に余計な時間が掛かってしまうことになる。
Zenマイクロアーキテクチャでは,この分岐予測にあたって,ニューラルネット技術を活用する新技術を採用したのだ。
なんだか「分岐予測に人工知能(AI)が採用された」みたいな字面でスゴイ感じがするものの,実際にはテキサス大学のDaniel A. Jiménez氏らが発表した「Dynamic Branch Prediction with Perceptrons」(パーセプトロンを応用した動的な分岐予測技術,リンクをクリックするとpdfファイルのダウンロードが始まります)という論文がベースになっていると推察される。
簡単に言えば,従来からある分岐履歴ベースの分岐予測技術に,予測結果の合否をフィードバックさせて次回以降の分岐予測精度を上げていくような仕組みである。
5.のSmart Prefetchも,その名のとおり,予測関連だが,こちらはメモリの先読み技術となる。
CPU命令の実行において,条件分岐と同等か,それ以上に厄介なのが,メモリアクセスに伴うパイプライン崩れだ。メモリアクセスはCPUの動作サイクルの時間感覚からするととてつもなく時間の掛かる作業であり,ここを短縮することでCPUの実行効率は相応に引き上がる。
そこでSmart Prefetchは,前述したような予測結果合否フィードバック技術――AMDはこれを「自己学習機能」と呼んでいるが――を用い,「これから実行される命令」に必要なデータを先読みしてキャッシュメモリにセットしておく。プログラムコードの実行によって生じるメモリアクセスパターンを学習し,その結果からデータの先読みを行うとのことだ。
「あと知りたいのは性能と価格,発売日」というところまできたZen
AMDは2016年を通じて,Zenマイクロアーキテクチャ,そしてSummit Ridgeの技術概要を小出しにしてきた。そしてついに今回,Summit Ridgeの製品名を明らかにして,さらに新要素となるSenseMIの存在も公表した,ということになる。あと知りたいのは,性能と価格,そして発売日というところまで辿り着いた,とも言えるだろう。
いずれにせよAMDは,次世代CPUの性能面に相当な自信を見せている。2017年1月の市場投入が見込まれているIntelの4コア版「KabyLake」に,直接,ぶつけてくることになるのだろう。
最終製品の性能が明らかになるタイミングは,何年ぶりかの盛り上がりを見せそうである。今から楽しみだ。
AMD公式Webサイト
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