プレイレポート
毛糸を駆使して過去を紐解く異色作「UNRAVEL」。見た目のかわいさとは裏腹に,コアゲーマーでもしっかり楽しめる良質なパズル&アクションだ
大作や人気シリーズを数多く抱え,コアゲーマーにおなじみのエレクトロニック・アーツがこうしたタイプのゲームを日本でリリースするのは珍しいという印象もあるが,2015年6月のE3 2015のプレスカンファレンスでは,「Star Wars バトルフロント」などと並んで大々的に発表されており,注目を集めた。
「UNRAVEL」公式サイト
今回,そんなUNRAVELのPlayStation 4版をプレイする機会を得たので,ゲームの世界観やプレイフィールなどをお届けしたい。一見すると「雰囲気ゲー」にも思えるが,ヤーニーの冒険を通じてある家族の歴史を追うというストーリーや,歯ごたえのあるパズルやアクションがしっかり楽しめる作品に仕上がっている。
美しいグラフィックスとともに紐解かれていく,あるおばあさんを中心とした家族のストーリー
本作の主人公ヤーニーは,おばあさんの編み物かごの中から転がり落ちた毛糸の玉から生まれた小さなキャラクターだ。真っ赤な毛糸でできた体に黄色い目がアクセントとなるヤーニーだが,なぜ生まれて,どこに行くのかといった説明はとくにない。それに限らず,本作はゲームの基本的な操作説明などを除いて,テキストやセリフがほとんどないため,詳しいバックグラウンドを知ることはできない。すべてプレイヤーの想像に任せる,という演出になっているのだ。
そんなヤーニーだが,1つ分かるのは「生みの親のおばあさんに恩返しをしたがっている」ことだ。おばあさんは冒頭で懐かしそうに写真やアルバムを眺めているが,長い時間が経っているせいか写真はボロボロ,中の文字も完全にかすれている。ヤーニーは,飾られているそれらの写真の中に入り,おばあさんの人生を追体験することによって,写真やアルバムを色鮮やかに蘇らせようとする。ゲームのステージは,それらの写真を撮影した場所なのだ。
プレイを始めてまず圧倒されるのが,美しいグラフィックスで描かれた大自然の存在感だ。モデルとなったのはColdwoodのあるスウェーデンの風景とのことだが,画面上にスコアやライフ値といったインタフェースが一切存在しないせいもあって,まさに風景写真や写実的な絵画の中でゲームが進んでいくような雰囲気だ。そのステージも,お花畑から山岳地帯や沼地,さらには人工的な駅や工場まで,実にバラエティに富んでいる。そんな中をコミカルに,かつ一生懸命動くヤーニーの愛らしさも,大きな魅力だ。
また,文章でお伝えしづらいのがもどかしいのだが,ゲーム中の音楽はきわめてクオリティが高く,透明感のあるメインテーマはずっと聞いていられるほど心地よい。開放的で平坦なステージでは優しいテーマが,そして厳しくて起伏に富んだステージでは激しかったり陰鬱だったりするメロディが流れ,プレイヤーの気分を高めてくれる。
こう書くとちょっと褒めすぎかもしれないが,音楽を聞くだけでも十分にゲームを手に入れる価値がありそうだ。機会があったらぜひ,それなりのサウンドシステムで,美しい音色を堪能してほしい。
伝統的な横スクロールのワイヤーアクションだが,毛糸ならではのギミックが盛りだくさん
冒頭にも書いたように,本作は横スクロール式のアクションパズルで,もう少し具体的に説明するなら,「海腹川背」に代表される「ワイヤーアクション」だ。ヤーニーが毛糸の体であることを利用し,体の先端を伸ばすようにしてステージ内のフックや釘に毛糸を引っかけ,あるときは振り子のように,そしてあるときは命綱のようにして先へ先へと進んでいく。毛糸を引っかけられる場所には赤い目印がついており,かつその場所が利用できる距離に入るとピカピカと輝くので,考える余裕がないような場面でも直感的に判断できる。
これらを組み合わせ,どうやって先へ進んでいくのかが本作のパズル要素になっており,先へ進めなくなったときは,周囲を見回して,どこに毛糸が引っかけられるのか確認し,さらに利用できるオブジェクトがないかをしっかり確認する必要がある。大きなモノは動かせないが,フタを開けたりスイッチを入れたりはできるし,踏み台になるオブジェクトが少し離れた距離に放置してあることもよくある。
ヤーニーが使えるアクションは単純なのに,ステージによって展開はまったく異なり,よくここまでいろいろなパターンが考えつくものだと,プレイしながら感心してしまった。
本作はパズルとアクション,双方の要素が重要になり,どちらかに偏りすぎていることはない。パズルを解いたあとでワイヤーアクションを連続して行う必要があったり,ダイナミックなアクションをするためのオブジェクトを手に入れるために,複雑なパズルをクリアする必要があったりと,バランスがとれている。また,オブジェクトは物理計算によって動いているため,タイミングさえ合えば別にパズルを解かなくても先へ進めたりなど,自由度は意外なほど高い。
パズルを重視しつつ,決まった「正解」を発見するゲームに終わっていない点は,個人的に好感が持てる。
ヤーニーのかわいい見た目とは裏腹に,ゲーム内容は意外とハード。コアなゲーマーも楽しめるはず
上述のように,本作はパズルとアクションがゲームの両輪として機能しているが,そのどちらもやり応えはかなりあり,見た目の「ゆるい」印象から受ける内容とはだいぶ異なっていた。直感的なひらめきが必要とされる場所がある一方,毛糸の張り方を順序も含めきっちり考えなければいけない場面も多く,アクションでも「死んで覚えろ」的なシチュエーションは少なくない。長時間同じところで詰まったり,同じところで何度もやられたりしても,ヒントや救済措置が提供されるわけではないので,きちんと自分の頭と腕でクリアしなければいけないわけだ。
気になったポイントとしては,コントローラのスティックを上に倒すことでヤーニーが「登れる」場所があるのだが,その場所が結構,というかかなり分かりにくかったことだ。リアルな表現を崩さないためにあえて控えめな表示になっているのだと思うが,それゆえ,プレイ中に背景と一体化して気がつかないことも多く,「どうやっても先に進めず唸っていたら,少し先に登れる場所があった」という場面が何度かあった。演出とゲーム的な分かりやすさがせめぎ合う部分だと思うが,もう少し分かりやすく表示してほしかった気もする。
最後に簡単にまとめてみよう。本作はかわいいヤーニーとリアルなグラフィックス,そして美しいサウンドとビジュアル方面にまず目が行きがちだが,根幹のゲーム部分もしっかりと作り込まれた良作という印象だ。ゲーム画面は単にキレイであるだけでなく,ゲームのステージとしてしっかりと機能し,ヤーニーのアクションも「毛糸ならでは」と,すべてが無駄なくかみ合っている。
また,言葉少なに展開されるストーリーは,印象的なサウンドと相まって,押しつけがましさとは無縁のグッとくるものになっている。厳しい後半をくぐり抜け,印象的な最終ステージをクリアしたときは,少し感動してしまった。
難度こそ後半になるにつれて高くなるが,じっくり考えたり,何度も繰り返すことで十分クリアできるだろう。出てくるテキストは少ないが,すべて日本語化されているので,安心だ。
かわいいヤーニーや北欧の美しい大自然,そしてワイヤーアクションに興味がある人はぜひ手に取ってほしい。価格もお手頃だし。ヤーニーと一緒に,物語をじっくりUNRAVEL(解きほぐす)する楽しみに浸ろう。
「UNRAVEL」公式サイト
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(C)2015 EA International (Studio and Publishing) Ltd.
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